相続税がかからない場合の手続きを解説!申告が不要なケースや、基礎控除・計算方法・注意点について
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相続税がかからないケースとは?具体的な要件と注意点
相続財産が基礎控除額以下の場合、相続税は発生せず、基本的に申告も不要です。しかし、「税金がかからないから申告も不要」と誤解すると、申告が必要なケースを見逃してしまい、ペナルティを受ける可能性があります。
ここでは、相続税がかからない具体的な条件や注意すべきポイントを解説します。また、税金が発生しない場合でも申告が必要なケースや、申告漏れを防ぐための手続きの流れと必要書類についても説明します。
相続税が免除されるケース
相続税が免除されるのは、主に以下の2つのケースです。
課税価格が基礎控除額以下の場合
相続税は、遺産の総額が基礎控除額を超えない場合には発生しません。ここでいう遺産総額とは、相続した財産(預貯金や不動産、有価証券など)の合計から、亡くなった方が残した借金や、葬儀費用などを差し引いた金額のことです。
基礎控除額は法定相続人の数に応じて決まります。計算式は以下の通りです。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)
例えば、法定相続人が配偶者と子ども3人の合計4人の場合、基礎控除額は以下のように計算します。
3,000万円 +(600万円 × 4人)=5,400万円
この場合、遺産総額が5,400万円以下であれば、相続税はかかりません。
配偶者の税額軽減が適用される場合
配偶者には、相続税の負担を大幅に減らせる「配偶者の税額軽減」という特例があります。この特例が適用されると、配偶者が相続した財産に対して、以下のいずれか大きい方の金額までは相続税がかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分に相当する金額
法定相続分は、他の相続人の状況に応じて決まります。例えば、配偶者と子どもがいる場合、配偶者の法定相続分は遺産の半分(2分の1)です。配偶者だけが相続する場合や、子どもがいない場合には、その割合がさらに大きくなります。
この特例により、配偶者が相続する金額が1億6,000万円以下であれば、相続税は一切かかりません。また、たとえそれ以上の財産を相続しても、法定相続分までの金額であれば税金が免除されます。
相続税がかからない場合でも申告は必要?
相続税がかからない場合、通常は申告の必要はありません。しかし、特例を使って相続税を軽減するケースでは、「特例を適用するための申告」が必要になることがあります。
この場合、申告を忘れると税務署から確認される可能性があるので、注意が必要です。特例を利用する場合でも、必ず申告を行い、後々のトラブルを避けましょう。
相続税がかからない=申告が不要なケース
たとえば、相続財産が現金や預金、そして死亡保険金だけで、その合計額が基礎控除の範囲内に収まる場合は、相続税の心配は不要です。
ただし、遺産の評価や相続財産の内訳によっては基礎控除額を超える可能性があるため、財産の総額をしっかり確認することが重要です。特に不動産や投資商品などが含まれる場合、価値の変動や評価額によって総額が変わることがありますので、慎重に計算しましょう。
相続税がかからなくても申告が必要なケース
下記のケースでは、相続税がかからなくても申告が必要です。
- 公益法人等への寄付による非課税特例
もし期限内に遺産分割がまだ完了していない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を申告書に添付して提出することで、後から特例を適用できる可能性があります。
分割が完了した後、3年以内に改めて申告すれば、配偶者の税額軽減の特例を受けることができますので、この手続きを忘れずに行いましょう。
- 小規模宅地の特例
たとえば、被相続人が住んでいた家の土地については、330㎡までの部分の評価額が80%も減額されます。つまり、実際には評価額の20%だけを遺産総額に含める計算となるため、相続税の負担が大幅に軽減されます。
この特例を使うことで、相続税がかからなくなるケースもありますが、注意が必要です。
特例を適用するには、必ず相続税の申告期限までに申告をしなければなりません。「特例を使えば相続税がゼロだから申告しなくてもいい」と考えていると、特例を受けられず、相続税を支払うことになってしまいます。
必ず期限内に申告を行い、特例を適用する手続きを忘れないようにしましょう。
申告要否判定ツールの活用
相続税の申告が必要かどうか判断に悩んだ場合は、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」を活用すると便利です。このツールは、国税庁のサイト上で相続財産の情報を入力することで、申告が必要かどうかを簡単に判定できるものです。
ただし、入力は自分で行わなければならないため、入力ミスや勘違いがあると、正確な結果が得られないことがあります。そのため、このツールはあくまで目安として利用し、最終的な確認は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。また、農地や山林など、特定の財産を含む相続では、このツールが対応していない場合もあるため、注意が必要です。
相続財産の計算時に見落としやすい加算対象
相続税の申告が必要かどうかを判断するためには、まず正確な遺産総額を把握することが重要です。もし遺産総額に誤りがあると、申告が必要かどうかを正しく判断できなくなる可能性があります。
相続財産と聞くと、「亡くなった時点で所有していた財産」だけを想像するかもしれませんが、それだけではありません。実際には、生前に贈与された財産など、特定の場合には相続財産として加算しなければならないものもあります。特に、以下の2つの場合には、加算が必要になります。
相続時精算課税制度を利用した場合
相続時精算課税制度とは、簡単に言うと、生前に贈与を受けた財産に対して一度贈与税を納め、その後、相続が発生した際に相続税と調整する仕組みです。
この制度では、まず生前贈与の特別控除額である2,500万円を超えた部分に対して、一律20%の贈与税を支払います。そして、相続が発生したときに、それまでに贈与を受けた財産を相続財産に加えて相続税を計算します。その後、すでに支払った贈与税を差し引き、最終的な相続税を確定させます。
つまり、この制度を利用した場合、贈与を受けた財産を相続財産に含めて計算しないと、正しい相続税が算出されません。
さらに、贈与された財産を加算しても、相続財産が基礎控除額以下であれば相続税はかかりませんが、それでも申告は必要です。
なぜなら、申告することで、すでに支払った贈与税の一部が返金される可能性があるからです。
該当する場合は、忘れずに申告しましょう。
相続発生前の贈与
相続開始前に行われた贈与は、相続税の対象となる場合があります。令和5年までは相続開始前3年以内の贈与が対象ですが、令和6年以降は順次延長され、最終的に7年以内の贈与が相続税の対象となります。相続時精算課税とは別に、被相続人の亡くなる前7年以内の贈与も加算されます。
これは、贈与税がかかっているかどうかに関係なく、たとえ年間110万円以下の非課税贈与であっても、必ず相続財産に含める必要があります。
この加算を忘れてしまうと、正しい相続税額が計算できなくなりますので、相続の際には必ず確認し、該当する贈与があれば相続財産に加えるようにしましょう。
相続税の申告期限と必要な書類
相続税の申告期限と必要な書類について、順を追って説明します。
相続税申告のスケジュール
まずは、相続の開始から相続税の納付までのスケジュールについて解説します。
相続発生から申告までの流れ
相続手続きは、亡くなった方の財産によって異なりますが、一般的な流れを9つのステップで説明します。
3ヵ月以内
1. 遺言書の確認
まずは遺言書の有無を確認します。遺言書があれば、その内容に基づいて財産を分けますが、法定相続人全員が同意すれば、遺言書と異なる分割も可能です。自筆証書遺言がある場合は、家庭裁判所での検認が必要です。
2. 財産と負債の調査
相続には預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。特に会社経営をしていた場合や不動産を所有していた場合は、債務の調査をしっかり行うことが大切です。
3. 法定相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して、誰が法定相続人かを確認します。戸籍の取得に時間がかかることがあるので、早めに手続きを進めましょう。
4. 相続方法の選択
相続には、すべての財産を引き継ぐ「単純承認」、すべての相続を放棄する「相続放棄」、財産を超えない範囲で債務を引き継ぐ「限定承認」の3つがあります。相続放棄や限定承認を希望する場合は、3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てが必要です。
4ヵ月以内
5. 準確定申告
被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの収入に対する確定申告を、4ヵ月以内に相続人が行います。
10ヵ月以内
6. 財産・負債の確定と財産目録の作成
すべての財産と負債を確認し、葬儀費用なども含めて財産目録を作成します。これが相続税の計算基礎になりますので、正確に行うことが重要です。
7.遺産分割協議と協議書の作成
遺言書がない場合は、法定相続人全員で財産の分割方法を話し合い、遺産分割協議書を作成します。全員の署名と押印が必要です。
8. 遺産分割手続き
協議書や遺言書に基づき、不動産の名義変更や預金の解約などの手続きを行います。
9. 相続税の計算・申告・納付
相続税を計算し、10ヵ月以内に申告と納付を済ませます。
この流れに沿って手続きを進めることで、スムーズに相続を完了させることができます。
必要書類の準備
スケジュールが確認出来たら、以下の必要書類を準備しましょう。
共通して必要となる書類
- 相続人全員のマイナンバー
- 被相続人の除籍・改製原戸籍
- 被相続人の住民票除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(遺言書が無い場合、遺言書に書かれていない財産がある場合)
- 被相続人の略歴(学歴・職歴・入院歴や病名等)
預貯金がある場合に必要な書類
- 預貯金の残高証明書
- 通帳のコピーか預金取引履歴
- 手元現金
不動産がある場合に必要な書類
- 名寄帳
- 登記簿謄本
- 公図・測量図
- 住宅地図
- 賃貸借契約書
葬儀費用がある場合に必要な書類
- 葬儀費用の領収書
生命保険、退職金がある場合に必要な書類
- 死亡保険金の支払調書
- 保険証券のコピー
- 解約返戻金のある保険証書のコピー
- 退職金手当支払計算書
有価証券がある場合に必要な書類
- 社債、国債等取引残高報告書
- 株主総会通知書
- 配当金支払通知書
- 顧客口座元帳
- 直近3期分の決算書
債務がある場合に必要な書類
- 借入残高証明書
- 金銭消費貸借契約書
- 未納の租税公課の納税通知書
- 未払金の領収書
配偶者の税額軽減を受ける場合に必要な書類
- 戸籍謄本
- 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 印鑑証明書
- 申告期限3年以内の分割見込書(まだ分割されていない財産がある場合)
小規模宅地の特例を受ける場合に必要な書類
- 印鑑証明書
- 財産を取得した者の住民票の写し
- 申告期限3年以内の分割見込書(まだ分割されていない財産があるとき)
納税資金の準備
相続税の申告と納付期限は、相続が発生したことを知った翌日から10ヵ月以内です。相続財産の多くが不動産など換金しにくい場合は、納税資金の確保に気をつける必要があります。申告の準備だけでなく、納税額の概算もあらかじめ把握しておくと、預貯金を確保したりする対策が立てやすくなります。
不動産を前もって現金化したり、生命保険を活用して現金を用意するなど、納税資金の準備を早めに整えておきましょう。
申告しなかった場合のペナルティ
相続税の申告が必要な方が期限内に申告・納税をしなかった場合、未納の相続税に加えて、延滞税や加算税といったペナルティが課されます。
申告を怠ると、後日突然税務調査が入り、何千万円もの追加徴税を請求されることも少なくありません。
相続税の申告漏れに関して、主なペナルティは以下の4つです。
- 延滞税:期限までに税金を納めなかった場合にかかる税金
- 無申告加算税:申告期限を過ぎても申告しなかった場合に課される税金
- 過少申告加算税:実際の税額より少なく申告した場合にかかる税金
- 重加算税:財産を隠すなど、悪質な場合に特別に課される高額な税金
これらのペナルティを避けるためにも、正確で期限内の申告・納税を心がけましょう。
基礎控除の計算方法と相続税申告の判断基準
ここでは、基礎控除の計算方法と相続税申告の判断基準について解説します。
基礎控除の計算ステップ
まずは、基礎控除の計算方法についてです。以下の4つのステップで計算します。
法定相続人の人数を確定する
最初に、法定相続人の人数を計算します。法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続する権利を有する人のことを指します。
法定相続人の順位と、相続人は以下の通りです。
順位 | 相続人 | 代襲相続人 |
---|---|---|
常に相続人 | 被相続人の配偶者 | なし |
第1順位 | 被相続人の子 | 子が死亡している場合は孫 |
第2順位 | 被相続人の親・祖父母 | なし |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 | 兄弟姉妹が死亡している場合は甥・姪 |
基礎控除額を計算する
基礎控除額は、
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)
で計算します。
たとえば法定相続人が1人だと基礎控除額は3,600万円、2人なら4,200万円です。
相続財産の総額を計算する
相続税は、被相続人が亡くなった時点で保有していた財産に課されます。この財産には、土地や現金などのプラスの財産だけでなく、負債も含まれます。相続財産の総額を計算するための基本式は以下の通りです。
相続財産の総額
=(プラスの財産+みなし相続財産+相続開始前3年以内の贈与)-(負債や葬儀費用)
それでは、それぞれの財産について簡単に説明します。
- プラスの相続財産
現金、預貯金、不動産、車、仮想通貨などが該当します。特に土地や建物は評価が難しいため、国税庁の「路線価図」を使って土地の評価額を算出します。
路線価のない田畑などは、「倍率方式」で評価されます。建物の評価額は、固定資産税の納税通知書に記載されている固定資産税評価額をそのまま使用します。なお、墓地や仏具は非課税です。
- みなし相続財産
死亡保険金や死亡退職金など、相続時に取得した財産も含まれます。これには「相続人の人数×500万円」の非課税枠があり、超過分のみが課税対象です。
- 相続開始前3年以内の贈与
被相続人が亡くなる3年前までに受けた贈与も、相続税の対象に含まれます。贈与税がかかっていない場合でも、相続財産として加算が必要です。
- マイナスの相続財産(負債や葬儀費用)
未払いの税金や借入金、葬儀費用などは、相続税の計算で控除が可能です。ただし、香典返しなど一部の費用は控除対象外となります。
基礎控除額と相続財産の比較
遺産総額が算出できたら、そこから「基礎控除額」を差し引いてみましょう。基礎控除額は、前述の通り、「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」です。
「相続財産の総額-基礎控除額」を計算し、結果がマイナスであれば、相続税は発生せず、申告も不要です。しかし、プラスになった場合は、その差額に対して相続税がかかります。この場合、相続税の計算に進み、正確な税額を算出する必要があります。
申告の注意点
確定申告をする際には、見落としやすい相続財産の申告漏れがないように注意が必要です。また、生前贈与がある場合には、持ち戻しを行わなければなりません。
見落としやすい相続財産に注意
見落としやすい相続財産には、現金や名義預金、生命保険権利などがあります。
- 現金
被相続人が亡くなる直前に引き出された現金は、死亡時の預金残高証明書には反映されないため、見落とされやすいです。しかし、通帳を確認して引き出し履歴を集計すれば、この問題は簡単に解決できます。
一方で、タンス預金(現金を自宅に保管している場合)は、相続人がその存在を知らないことが原因で見落とされることがあります。タンス預金を見逃さないためには、被相続人が生前に保管場所や金額を伝えてくれているかどうかが重要です。
もし、その確認ができないまま亡くなった場合は、被相続人が大切なものを保管していた部屋や引き出しを探す必要があります。
また、銀行の貸し金庫についても、必ず相続税申告前に開扉して中身を確認しておくようにしましょう。
- 名義預金
名義預金とは、相続人や親族の名義でありながら、実際には亡くなった人が資金を出して管理していた預金のことです。この預金が見落とされやすいのは、亡くなった人の名義の預金だけが相続税の対象と思い込んでいるためです。
相続税は名義に関係なく、その資金を誰が出し、誰が管理していたかで判断されます。名義預金を避ける最善の方法は、そもそも他人名義の預金を作らないことです。
もし既に名義預金がある場合は、税理士に相続税の申告を依頼するのが安全です。名義預金の評価は複雑で、誤った申告によって過少や過大な税額になる可能性があるため、専門家に任せることをおすすめします。
- 生命保険権利
生命保険権利とは、被相続人が保険料を支払っているが、被保険者が他の人である保険契約を指します。このような契約は、名義が異なるため見落とされやすいです。
特に、契約者が被相続人ではないが保険料を負担していた「名義保険」は、死亡保険金が支払われる契約ではないため、相続税の対象になりやすいのに見逃されがちです。
対策として、被相続人が保険料を負担していた契約をすべて整理することが重要です。名義にかかわらず、保険料を支払っていた場合は相続税の対象となります。
そのため、被相続人の通帳を確認し、保険料の支払いがあれば保険証券を探し、税理士に課税関係を相談することをおすすめします。
生前贈与の持ち戻し期間内の確認
相続税の申告をする際には、生前贈与の持ち戻しを行わなければなりません。
相続が発生すると、被相続人が直前に行った贈与は「生前贈与加算」として相続財産に含めて計算する必要があります。これを「生前贈与の持ち戻し」といいます。相続税対策で行った生前贈与が、結局相続税の対象になることもあるのです。
また、2024年から暦年贈与に関する持ち戻し期間が変更されます。従来は死亡前3年以内の贈与が対象でしたが、新ルールでは7年以内の贈与が対象となります。この7年ルールは2024年以降の贈与に適用され、実際に影響を受けるのは2027年以降の相続です。
暦年贈与は年間110万円以下なら贈与税がかからないため、多くの人が利用していますが、この贈与も「相続税逃れ」を防ぐために持ち戻しの対象です。特に、亡くなる直前に行われた駆け込み贈与を防止するためです。
持ち戻しでは、贈与時の時価で財産が加算され、既に支払った贈与税は相続税から控除されます。新ルールでも年間110万円の非課税枠は維持されているため、早めに贈与を開始すれば、7年以前の贈与は持ち戻しの対象になりません。
法改正をきっかけに、家族で贈与について話し合い、制度を上手に活用することが大切です。
基礎控除以外の控除と申告義務
相続税の控除には、基礎控除以外にもいくつか控除の特例があります。申告義務が発生する控除とそれ以外に分けて説明します。
各種控除とその確認
まずは、自分にどのような控除が適用されるのかを確認しましょう。以下で代表的な控除を説明します。
申告義務のない控除
- 障害者控除
相続人に障害者がいる場合、その人が85歳になるまでの年数に応じて、1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が相続税から控除されます。
控除額の計算式は次の通りです。
控除額 = (85歳 - 相続開始時の年齢) × 10万円(または20万円)
たとえば、相続人が50歳の場合、障害者なら350万円(=(85-50)× 10万円)、特別障害者なら700万円(=(85-50)× 20万円)が相続税から控除されます。
※相続開始時の年齢は満年齢で計算し、1年未満の端数は切り捨てます。
- 未成年者控除
相続人が未成年の場合、その年齢に応じて相続税が軽減されます。具体的には、18歳になるまでの年数に対して、1年につき10万円が相続税から控除されます。
控除額の計算は次のようになります。
控除額 = (18歳 - 相続開始時の年齢) × 10万円
たとえば、相続人が15歳の場合、30万円(=(18-15)× 10万円)が相続税から控除されます。
※相続開始時の年齢は満年齢で計算し、1年未満の端数は切り捨てられます。
- 相次相続控除
10年以内に2回以上相続が発生し、相続税が課される場合、前回の相続(第一次相続)で支払った相続税の一部が、次の相続(第二次相続)で控除され、税負担が軽減されます。
この「相次相続控除」の計算式は以下の通りです:
控除額 = A × C ÷ (B − A) × D ÷ C × (10 − E) ÷ 10
A:第二次相続で相続人が第一次相続により取得した財産に対して課せられた相続税額
B:第二次相続で相続人が第一次相続で取得した財産の価格(債務控除後)
C:第二次相続で相続人全員が取得した財産の総額(債務控除後)
D:第二次相続で控除対象者が取得した財産の総額(債務控除後)
E:第一次相続から第二次相続開始までの年数(1年未満は切り捨て)
この計算式に基づいて控除額が決まり、税負担が軽減されます。
- 外国税額控除
相続や遺贈、または相続時精算課税の適用を受けた贈与によって、外国にある財産を取得した場合、日本の相続税に加えて、その国でも相続税に相当する税がかかることがあります。
このように、国外財産に対して日本と外国の両方で相続税が課される場合、二重課税を防ぐため、外国で支払った相続税分を日本の相続税から差し引くことができます。この仕組みを「相続税の外国税額控除」といいます。
外国税額控除を適用するための要件は以下の通りです。
- 相続や遺贈により財産を取得していること(相続開始年の被相続人からの贈与を含む)
- 取得した財産が外国にあること
- その財産に対して現地の法律に基づく相続税に相当する税が課されていること
控除額は以下の2つのうち、少ない方の金額が適用されます。
- 外国で課された税額
- 日本の相続税 × 国外財産の価格 ÷ (純資産額+生前贈与加算額)
これにより控除額が決まり、税負担が軽減されます。
申告義務が発生する控除
- 配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者が相続する財産については、1億6,000万円まで、または法定相続分の範囲内であれば相続税が非課税となる制度があります。
通常、相続税は遺産総額から基礎控除を引いた額に対して課税されますが、配偶者が相続する場合は、たとえ基礎控除を超えたとしても、この「配偶者控除」を適用すれば、1億6,000万円までの相続財産には相続税がかかりません。また、1億6,000万円を超える場合でも、法定相続分以内の金額であれば課税されません。
- 贈与税額控除
贈与税額控除とは、贈与税と相続税が二重に課されないように、相続税から贈与税を差し引く仕組みです。贈与税は、個人から財産を贈与されたときにかかる税金ですが、もし亡くなった方から生前に財産を贈与されていた場合、通常は贈与税がかかります。
しかし、相続税の計算では、亡くなる前7年以内に行われた贈与や、相続時精算課税制度を利用した贈与財産は相続財産と合算されます。このままだと、贈与税と相続税が二重に課されてしまうため、その重複を避けるために贈与税額控除があるのです。
- 小規模宅地の特例
土地を相続する際、「小規模宅地等の特例」を利用すると、一定の条件を満たす場合、土地の評価額を最大80%減額できます。この特例は、相続税が高額になり、土地を手放さなければならない事態を防ぐために設けられています。
特例の適用条件は、土地の用途によって以下の3つに分かれます。
- 特定居住用宅地等(住宅の土地)
亡くなった人やその親族が住んでいた土地で、330㎡までの部分が80%減額されます。 - 特定事業用宅地等(事業用の土地)
亡くなった人やその親族が事業をしていた土地で、400㎡までの部分が80%減額されます。 - 貸付事業用宅地等(貸している土地)
亡くなった人やその親族が貸していた土地で、200㎡までの部分が50%減額されます。
相続税がかからない場合でも申告が必要なケース
相続税がかからない場合でも、申告が必要な代表的なケースは以下の3つです。
- 配偶者の税額軽減によって非課税になる場合
- 小規模宅地の特例を適用して非課税になる場合
- 遺産を寄付して非課税になる場合
1と2については前述の通りですが、3について説明します。
もし亡くなった方の遺産を国や公益法人などに寄付した場合、その寄付した金額は相続税がかかりません。
ただし、この控除を受けるためには、相続税の申告期限までに寄付を行い、さらに寄付先が発行した領収書(寄付した日付、金額、寄付の用途が記載されたもの)を用意する必要があります。
寄付する団体に対して、支払い用法や領収書の発行について早めに確認しておきましょう。
注意!相続税の申告が不要でも必要な手続き
相続の際には、相続税の申告が不要でも、やらなければならない手続きがいくつかあります。
銀行口座、不動産、株式などの名義変更
相続税の申告が不要でも、被相続人から相続人へ、銀行口座などの名義変更をしなければなりません。
- 不動産の名義変更
故人の名義になっている不動産について、名義を変更するには、相続人が法務局に不動産登記申請を行う必要があります。
相続人が確定できる戸籍謄本、被相続人の戸籍の附票、実印が押印された遺産分割協議書、印鑑証明書、相続する方の住民票の写しなどの資料を添付して、法務局に所有権移転登記申請書を提出します。
この手続は、本来、相続人本人でできる建前となっていますが、手続が少し複雑で、司法書士もしくは弁護士が代理をして申請をすることが多いです。
- 銀行口座の名義変更
銀行口座については、相続が発生した後、被相続人が死亡したことが分かる戸籍謄本、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本を各金融機関に提出すれば、金融機関が故人名義の銀行口座があるか開示してくれます。
支店ごとに照会をするのではなく、金融機関の本店に対して、全支店の預貯金の照会をすると、手間が省けます。
生命保険の請求手続き、公共料金や携帯電話契約の名義変更
- 生命保険の請求手続き
亡くなった方が生命保険の被保険者である場合、指定された受取人が必要書類を集めて生命保険会社に請求手続きを行います。受取人が複数いる場合は代表者が連絡します。受取人がすでに亡くなっている場合は、法定相続人が手続きをします。
保険金には、未返済の貸付金や生前に受け取った保険金がある場合、それらが差し引かれることがあります。保険金の受け取り方法は、一時金や年金として受け取ることができます。
保険金の請求には時効があり、請求できる権利は3年間で消滅するため、早めの手続きを行うことが必要です。
- 携帯電話の名義変更
携帯電話の解約や名義変更の手続きは通信会社によって多少異なりますが、大手キャリアはほぼ同じ手順です。手続きは最寄りの携帯ショップで行います。
- 契約者が亡くなったことを伝え、解約や名義変更を希望することを伝えます。
- 手続きは原則来店が必要なので、電話やインターネットで予約をします。予約なしでは長時間待たされることもあります。
- 必要書類を準備し、予約日にショップへ行きます。
- 書類を提示し、手続きを完了させます。名義変更は、これで終了です。
※ 端末代金が残っている場合は、分割払いの継続か一括清算を選択します。
- 公共料金の名義変更
亡くなった方が公共料金(電気・ガス・水道)の契約者だった場合、相続に伴い名義変更の手続きが必要になります。手続きは、電気、ガス各社の営業所や市区町村が運営する水道局に電話やインターネット経由で行うことができます。
その際、「お客様番号」を伝えるとスムーズに手続きが進みます。お客様番号は、領収済通知書や料金計算書に記載されています。
遺言書の検認手続きや特別代理人の選任申立て
遺言書を保管している人や発見した相続人は、遺言者の死亡後、速やかに遺言書を家庭裁判所に提出し、「検認」を請求する必要があります。
ただし、公正証書遺言や法務局で保管されている自筆証書遺言(遺言書情報証明書が交付されたもの)は、検認が不要です。
検認とは、相続人に遺言書の存在や内容を知らせ、偽造や改ざんを防ぐ手続きです。この手続きは遺言の有効・無効を判断するものではありません。
未成年者や判断能力が低下している相続人がいる場合、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらったうえで、検認手続きを行う必要があります。
特別代理人は、相続人の利益を守るために家庭裁判所が任命する一時的な代理人です。例えば、未成年者とその親、または成年被後見人と後見人が共同相続人となる場合、利益相反が生じる可能性があるため、特別代理人の選任が必要です。
特別代理人は、家庭裁判所へ申請することによって選任され、相続人に代わって法律行為を行います。
トラブルが発生しやすい!相続税申告が不要な場合
相続税の申告が「不要」と判断しても、実は油断は禁物です。後になって「やっぱり申告が必要だった」と気づき、期限を過ぎてから慌てて申告すると、無申告加算税や延滞税といった罰則が科されることがあります。
「ちゃんと判断できれば大丈夫では?」と思うかもしれませんが、現金以外の財産、特に土地の評価はかなり難しいです。土地は形状や立地によって評価額が大きく変わりますし、計算も複雑です。そのため、何度も確認して、間違いのないようにする必要があります。
「うちは大した財産がないから平気」と思っても、自宅などの不動産が相続財産に含まれる場合があります。都市部でも地方でも、正確な評価は専門家でないと難しいことが多いです。さらに、相続発生直後は、忙しさや焦りで財産を見落とす可能性も。確実に申告をするためには、税理士に相談するのが安心です。
もし税務署から「相続についてのお尋ね」が届いたら
相続が発生したあと、「相続税についてのお尋ね」という書類が届くことがあります。これは、遺産内容を確認し、必要があれば相続税を申告するよう促す通知です。
「相続税のお尋ね」には「申告要否検討表」が同封されています。これに必要事項を記入し、税務署に返送します。自分で記入するか、税理士に依頼することも可能です。遺産の把握が難しい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
「お尋ね」は回答の義務はありませんが、無視すると税務署に不信感を抱かれ、税務調査が行われる可能性があります。すでに相続税がかからないと分かっている場合も、必ず回答しておきましょう。
相続税の申告期限が過ぎた場合のリスク
相続税の申告期限が過ぎているのに、申告が完了していない場合には、大きなリスクを負うことになります。
期限後のペナルティ
相続税の申告を期限内に行わないと、以下のペナルティを課されます。
無申告加算税
相続税の申告が期限に間に合わない場合、期限翌日から「無申告加算税」が課せられます。これは、期限を過ぎてから自主的に申告した場合や、税務調査後に申告した場合に適用されるペナルティです。
ただし、申告期限から1か月以内に自主的に申告し、期限までに納税されている場合や過去に無申告がなければ、無申告加算税は免除されることがあります。
もし税務調査で故意に税を隠していたと認定されると、無申告加算税ではなく「重加算税(税額の40%)」が課せられるリスクもあるので注意が必要です。
延滞税
相続税の申告期限である10か月を過ぎてしまうと、延滞税が発生します。これは、申告が遅れるほど利息のように自動的に加算されていくものです。
つまり、申告が遅れてしまった場合でも、一日でも早く納税することが、延滞税を最小限に抑えるための最善策です。なお、この延滞税は本税に対してのみ発生し、加算税などには適用されませんので注意が必要です。
相続税が発生する基準と計算方法
ここでは、相続税が発生する基準と計算方法について解説します。
相続税の計算手順
相続税の計算手順は、以下の通りです。
法定相続人や受遺者の正味遺産額を計算し、基礎控除額を差し引いて算出
まず、相続財産を全てリストアップし、その価値を計算します。この総額から基礎控除額を引いた金額が「課税遺産総額」となります。
基礎控除額は法定相続人の数に応じて決まります。計算式は以下の通りです。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の人数)
その次に、法定相続人それぞれの相続分に基づいて、取得する財産額を割り出します。
法定相続分に基づき各相続人の税額を計算
それぞれの取得額に相続税率を掛けます。以下の税率表に従って計算し、控除額が適用される場合は差し引きます。
取得金額 | 税率 |
---|---|
1000万円以下 | 10% |
3000万円以下 | 15% |
5000万円以下 | 20% |
1億円以下 | 30% |
2億円以下 | 40% |
3億円以下 | 45% |
6億円以下 | 50% |
6億円超 | 55% |
各相続人ごとの控除
最後に、相続人ごとに控除を行って完了です。控除額は、以下の表のとおりです。
取得金額 | 控除額 |
---|---|
1000万円以下 | なし |
3000万円以下 | 50万円 |
5000万円以下 | 200万円 |
1億円以下 | 700万円 |
2億円以下 | 1700万円 |
3億円以下 | 2700万円 |
6億円以下 | 4200万円 |
6億円超 | 7200万円 |
相続財産の早期リストアップの重要性
相続が発生した場合、相続財産を早期にリストアップすることは非常に重要です。相続税の申告期限は被相続人が亡くなってから10か月以内と決められており、この期間内にすべての財産を正確に把握し、申告しなければなりません。財産には、不動産や預貯金、株式、保険、借入金などが含まれ、それぞれの評価を適切に行う必要があります。
早めに財産をリストアップすることで、正確な相続税の計算や節税対策が可能になります。また、相続人間でのトラブルを未然に防ぐためにも、相続財産の早期確認と適切な管理が欠かせません。
相続税について税理士に相談しよう
相続税の申告は、財産の評価や申告手続きが非常に複雑です。特に、不動産や株式、保険などの評価額は専門的な知識が必要で、個人で正確に対応することは難しい場合があります。万が一、申告漏れや誤りがあると、延滞税や加算税といったペナルティを受けるリスクもあるため、相続税に関しては専門家である税理士に相談するのが安心です。
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この記事を書いたのは…
弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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