「成年後見人制度」の役割・権利・具体的なケースを解説!同意権は類型により異なる!
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「後見人制度」について簡単に説明!
内閣府「令和3年版高齢社会白書」によると、令和2年10月1日現在、日本の総人口は、1億2571万人であり、65歳以上の人口は、3619万人と総人口に占める割合(高齢化率)は28.8%と『超高齢社会(高齢化率:21%以上)』となりました。
このような状況では、認知症などで日常生活等に支障がある人たちを社会全体で支え合うことが必要となります。これに鑑み、『成年後見制度の利用の促進に関する法律』が平成28年4月15日に公布され、同年5月13日に施行されました。
※参照 内閣府「令和3年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
この法律には、第1条(目的)に以下のよう明記されています。
第1条(目的)
「この法律は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うこと(以下、省略)」
続いて、第3条(基本理念)に以下のよう明記されています。
第3条(基本理念)
成年後見制度の利用の促進は、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと及び成年被後見人等の財産の管理のみならず身上の保護が適切に行われるべきこと等の成年後見制度の理念を踏まえて行われるものとする。
つまり、成年後見制度とは、高齢社会への対応と、知的障がい者・精神障がい者の福祉の充実の観点から、「自己決定の尊重」「残存能力の活用」「ノーマライゼーション」の3つを基本理念として、判断能力が低下した人の人権を尊重し、権利を守ることと、生活を法的に保護し、支援するための制度なのです。
この成年後見制度には「法定後見制度」「任意後見制度」があります。
法定後見制度と任意後見制度の違い
法定後見制度は、判断能力が低下した人、あるいは判断能力がなくなった人のために、その人に代わって契約ごとや財産の管理をしてくれる人を家庭裁判所に選んでもらい、本人の支援をするものです。つまり、本人の判断能力が低下してから、本人または親族等が家庭裁判所へ申し立てることによって始まります。
これに対して任意後見制度は、将来的に判断能力が低下した場合に備え、本人の判断能力が低下する前に、「誰に」「何を」任せるのかを決めておくことができます。任意後見を利用するには、将来後見人となる人と契約(任意後見契約)を結ぶことが必要です。この契約を結んでおくことで、将来判断能力が低下した場合には、契約を結んだ人が後見人となることができるのです。
上記のとおり任意後見制度は、法定後見制度より本人の想いや願いを反映させやすいことが分かります。しかし、任意後見制度には注意しなければならないことがあります。
任意後見制度の注意点①
任意後見制度は、契約に記載した代理権しかありません。例えば、契約時には必要ないと考えていたことや、想定外のことがあった場合、契約に記載がなければ対応ができません。
任意後見制度の注意点②
任意後見制度には、取消権がありません。取消権とは、判断能力が低下した被後見人が誤った契約をした場合、その契約を取り消すことができる権限です。例えば、騙されて高額な商品を購入した場合などでも、任意後見制度では取り消すことができません。
このように任意後見制度には、注意点があります。本人の必要に応じて任意後見契約の締結をしておくか、法定後見制度を利用するかを判断する必要があります。ただし、本人の想いや願いをより尊重できるよう任意後見制度を利用した後、必要に応じて法定後見制度に移行することも可能になっています。
これに対して法定後見制度は、代理できることが法律により定められています。この法定後見制度で定められている権限は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられています。
後見・保佐・補助の対象者は誰?
「後見」は、法律で「精神上の障がいにより事理を弁識する能力を欠く常況にある者」と規定されています。つまり、判断能力がほとんどない人を対象としています。
自分の行動の結果を判断できないため、後見人が代わって契約ごとや財産の管理を行い、本人を支援します。例えば、日常的に必要な買い物も誰かにやってもらう必要があるような人です。このような場合、後見人として日常生活に関する行為(簡単な買い物等)を除き、すべての法律行為に関する取消権・代理権を持ちます。
「保佐」は、法律で「精神上の障がいにより事理を弁識する能力が著しく不十分である者」と規定されています。日常的な買い物などは一人でできるが、難しい契約ごとはできないような人を対象としています。
財産管理に関する判断能力が平均より低いため、特定の法律行為については保佐人が同意をすることにより、本人を支援します。例えば、日常的に必要な買い物程度は本人ができるが、重要な財産行為(不動産の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等)などができないような人です。
このような場合、保佐人として重要な取り引きに関する同意見・取消権を持ちます。ただし、後見とは違い、代理権はありません。
「補助」は、法律で「精神上の障がいにより事理を弁識する能力が不十分な者」と規定されています。たいていのことは一人できるが、難しい契約ごとなどはできるかどうか不安があるため、本人のためにだれかに代わってやってもらった方がよい人が対象です。
補助は、保佐と似ていますが、成年後見制度の基本理念である「自己決定権の尊重」「残存能力の活用」をより実現するため、平成12年の改正により新たに創設された制度です。
法定後見制度における「代理権」「同意権」「取消権」
代理権とは、本人に代わって契約などの法律行為をする権限です。
法定後見制度では、後見人に包括的な代理権が与えられています。例えば、預貯金の管理や払い戻し、不動産の売買、賃貸借契約の締結や解除、施設入所契約などです。ただし、身分行為(婚姻、離婚、認知、養子縁組等)、医療行為の同意、その他一身専属的な行為については、代理権を与えられていません。
同意権とは、本人が何かをする際、保佐人・補助人の同意が必要となる権限です。保佐人については、法律で同意を必要とする行為が定められ、補助人については、同意見付与の審判によって定められます。これに該当する行為は、保佐人・補助人の同意がなければ法律行為が成立しません。
例えば、不動産の売却に同意見が必要とされた場合には、保佐人・補助人の同意がないと売却が成立していないこととなります。
取消権とは、本人がした法律行為を取り消すことができる権利です。取り消された法律行為は、初めからなかったことになります。
成年後見の類型によって同意権の有無は違う?
成年後見は後見・補佐・補助の3つの類型に分かれています。この類型によって、同意権の有無は異なるため、その理由について詳しく解説していきます。
まず、後見人は同意権を有していません。後見は、判断能力がほとんどない人を対象としており、後見人の同意では本人を援助することができないため、同意権を有していません。
2つ目の保佐人は、同意権を有しています。保佐人は、金銭を借りたり、遺産分割を行ったりと重要な取り引きを行うため、同意権を持ちます。
もし、保佐人の同意を得ていない場合は、取り消すことができます。
3つ目の補助人は、本人のためにだれかに代わってやってもらった方がよい人を対象としているため、同意権を有しています。
ですが、保佐人とは異なり、本人の同意を得てから家庭裁判所に同意権の付与を申し立てる必要があります。
成年後見制度の3つの類型における権限を以下に表でまとめました。
権限の種類 | |
後見 | 取消権、代理権 |
保佐 | 同意権、取消権、代理権 |
補助 | 同意権(※申立てが必要)、取消権、代理権 |
「後見人制度」の役割と権利について
成年後見制度で代理できる法律行為は財産に関する法律行為で「財産管理」と「身上監護」を目的とするものです。
「財産管理」とは、例えば預貯金の管理・払い戻し、公共料金の支払い、年金の受け取り、不動産の売買・賃貸契約など重要な財産の管理・処分、遺産分割・相続の承認・放棄など相続に関する財産の処分などです。
「身上監護」とは、日常生活や調印などでの療養看護に関わる法律行為です。例えば日用品の買い物、介護サービスの利用契約・要介護認定の申請・福祉施設への入所契約や医療契約・病院への入院契約などです。
また、これらの業務に付随して、収入と支出の管理や帳簿の作成を行います。例えば、年金を生活費に充てている場合には、入金を確認し、定期的に銀行に引き出しに行くことや、現金や預金の出納帳を作成し、領収書の保存なども行います。なお、これらの事務は、1年ごとに後見事務報告書と財産目録を作成し、管理している通帳とともに家庭裁判所に提出しなければなりません。
間違えやすい「身上監護」
「身上監護」と聞くと食事や着替え、入浴などの身の回りのお世話をしてくれるイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。しかし、それらは成年後見制度の役割ではありません。
成年後見制度は、精神上の障がい等(認知症、知的障がい、精神障がい等)によって判断能力が不十分であるために、契約など法律行為の意思決定が困難な人の能力を補う制度で、本人に代わって法律行為を行う事務です。
身の回りの世話をする身体介護などの行為(事実行為)、手術などの医療行為の同意は役割に含まれません。
成年後見制度を利用する実例は?
認知症を発症し、施設の入所が決まり、そのための諸費用を入所する本人の預貯金で支払いをするとします。このとき金融機関は判断能力のない人の預貯金払出には応じてくれません。
家族の誰かが入所費用等を代わりに支払うとなると負担はかなり大きくなります。この例のように本人の預貯金の管理、解約をする方法として金融機関から案内を受け、成年後見制度を知り、利用する方が増えています。
また、同じ施設入所の例として、財産が自宅と預貯金が少額の場合で、施設入所の費用を自宅売却して充てるお考えの場合です。こちらも、判断能力がなくなってからでは、不動産の売却を行うことができません。売却をするために、成年後見制度を利用し施設入所費用を捻出するということで利用を始める方が増えています。
「後見人制度」の申し込み手続きと費用
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所への申し立てが必要です。
申し立ての準備期間から成年後見人として職務を行うことができるまで約3~6か月程度かかります。
・申し立ては本人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
・申し立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人・保佐人・補助人(以下「成年後見人等」という。)任意後見人、任意後見受任者、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。
・申し立てに必要な書類を準備し、家庭裁判所へ面接予約の電話連絡をします。(原則として申立人、成年後見人候補者等から申し立てに至る事情を聴くための面接を行っているため。)
・家庭裁判所は、審査を行い後見開始の審判をするとともに適任と思われる成年後見人等を選任します。
・審判の内容は、申立人、本人、成年後見人等に書面でお知らせがあります。
・後見開始の審判確定後、東京法務局にて審判内容が登記されます。
・成年後見人等は、選任された旨の証明書(登記事項証明書)を取得し職務を行うことになります。
以上がおよその流れになります。
必要書類、費用に関しては下記を参照してください。
裁判所HP より「後見/保佐/補助の開始申立手続に要する書類と費用(チェックリスト) 」
申し立てに関しては、司法書士、弁護士の業務になりますが、その前段階として相続診断士にご相談ください。実際に後見人をされている各種専門家とのつながりがあり、橋渡しをスムーズに行うことができるでしょう。
成年後見人等の選任を申し立てる際には以下の書類が必要となります。
- 後見、補佐、補助開始等申立書:家庭裁判所の窓口で所得可能
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 親族の意見書
- 後見人等候補者事情説明書
- 財産目録
- 収支予定表
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書):本籍地の市町村役場で所得可能
- 本人の住民票
- 成年後見人候補者の住民票
- 本人に関する医師の診断書
- 本人情報シート(任意提出)
- 本人の財産に関する資料:不動産登記事項証明書、通帳の写し、残高証明書等
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
本サイト「円満相続ラボ」では、相続診断士に無料で相談できる窓口を用意しております。お気軽にご相談ください
この記事を書いたのは…
一般社団法人アクセス相続センター
一般社団法人アクセス相続センターは、相続を専門とする税理士・行政書士の士業グループです。理念は「愛する人たちの笑顔を守り100年先へ想いをつなぐ」こと。相続専門の士業たちが専門用語を使わずに"「相続とお金」のはなし”をお届けします。