家族信託と成年後見制度どちらを使うべき?ケース別に違いを紹介!
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家族信託とは?財産を託す制度
家族信託とは、信頼できる特定の家族・親戚に財産管理や処分等を行ってもらう制度です。家族信託は基本的に委託者(家族信託を依頼する人)と、受託者(家族信託を実行する人)が契約を締結して成立します。
家族信託の開始時期は委託者が元気なうちから、または判断能力が低下してから等、契約で自由に取り決めすることもできますが、登記手続き等、判断力が定価してからだと実務的に支障がでるため、基本的には開始時期に関しては日付を明記したほうが無難です。
受託者は委託者と合意した契約の範囲内で、委託された財産の管理、運用、処分が可能です。
成年後見制度とは?生活を補助してもらう制度
成年後見制度は成年被後見人(支援を受ける本人)を成年後見人がサポートする制度です。
https://enman-souzoku.co.jp/media/end-of-life/seinenkoukeinin-dairiken/
成年後見人(法定後見人または任意後見人)は、判断能力が低下した成年被後見人に代わりその財産を管理したり、医療機関への入院手続きや介護契約の手続き等の身上監護を行ったりします。
成年後見制度は大きく2種類に分かれます。
- 法定後見:本人の判断能力が著しく低下し、家族等が家庭裁判所に申し立て法定後見人を決める
- 任意後見:本人が判断能力のあるうちに指定した任意後見人と契約し、判断能力の低下後に家庭裁判所に申し立て、後見監督人を選任する
双方とも成年被後見人(支援を受ける本人)の判断能力が低下した後、支援が開始される仕組みです。
家族信託と成年後見制度のメリット・デメリット
家族信託・成年後見はいずれもサポートを目的とした制度ですが、メリット・デメリットはそれぞれ異なります。
家族信託の場合
家族信託は委託者の自由な意思が反映できる一方、身上監護を契約内容に盛り込めない点に注意しましょう。
家族信託のメリット
家族信託は委託者・受託者の契約合意で成立します。契約は財産をどうするか自由に設定でき、委託者が元気なうちから、受託者へ財産の管理・運用・処分を任せても構いません。
また、契約・信託を開始する過程で家庭裁判所は関与しないので、契約後すぐに受託者へ財産を託す旨の内容ならば、迅速な支援が期待できます。
また、金融資産は信託口口座で管理し、不動産資産は信託登記をすれば、委託者・受託者がたとえ破産するような事態になっても、債権者(お金を貸した人)から差し押さえを受けるリスクが回避できます(倒産隔離機能)。
家族信託のデメリット
家族信託が認められるのは財産の管理・運用・処分に限定されます。判断能力が低下した委託者に代わり、医療機関への入院手続き・介護契約の手続き等を行う身上監護は認められません。
また、委託者の判断能力が低下する前に、信託契約を締結しておく必要があります。
その他、受託者は家族や親戚に限られ、法律の専門家である弁護士や司法書士のような方々は就任できない制度です。
成年後見制度の場合
成年後見制度は、成年後見人が被後見人の財産管理・身上監護を行える一方、被後見人の判断能力が低下しなければサポートを開始できず、裁判所での手続きが必要なので手間もかかってしまいます。
成年後見制度のメリット
成年後見人は判断能力が低下した被後見人の財産維持・管理、法律行為の代行、生活支援を幅広く行えます。
そのため、家族信託では認められない被後見人が介護施設へ入所する手続き、医療機関へ入院する手続きも代わりに進められます。
また、任意後見の場合は契約時に任意後見人を弁護士・司法書士のような専門家へ任せられ、法定後見の場合は家族や親戚以外の法律専門家を家庭裁判所から法定後見人として選んでもらうことも可能です。
成年後見制度のデメリット
成年後見制度の場合、財産に関しては、判断能力が低下した被後見人の財産の維持・管理に限定されてしまいます。例えば、預金が減らないように管理できるものの、その預金を投資信託で運用するような方法は認められません。
その他、成年後見制度を利用するには家庭裁判所の関与が必要となります。法定後見の場合は家庭裁判所に成年後見の申立てを行い、成年後見人を選んでもらわなければいけません。
一方、任意後見の場合は任意後見人を指導・監督する任意後見監督人を選んでもらいます。そのため、申立てや審理等に時間と手間がかかるおそれもあります。
家族信託と成年後見制度はどのくらい費用が違う?
家族信託・成年後見制度いずれも費用がかかります。それぞれの費用の目安について説明しましょう。
家族信託の費用目安
家族信託は専門家への報酬の他、不動産名義を委託者から受託者へ変更する際の登録免許税が重くなる可能性もあります。下表が費用の目安です。
項目 | 費用 |
---|---|
契約書を公正証書で作成する場合の費用 | 3万円~10万円 ※公正証書で作成しない場合は0円 |
登録免許税 ※信託登記のみに課税がかかり、不動産移転登記(名義変更)は非課税です。 | ・土地:固定資産税評価額の0.3%(原則0.4%ですが、特例で令和8年3月31日まで0.3%です) ・建物:固定資産税評価額の0.4% |
専門家への不動産登記依頼費用 | 10万円程度 |
専門家のコンサルティング費用 | 30万円~ |
受託者に支払う報酬 | 契約次第、無報酬も可能 |
建物を委託者から受託者へ名義変更したいとき、建物の固定資産税評価額が3,000万円の場合、12万円が登録免許税として課税されます。
また、専門家の家族信託に関するコンサルティング費用は、最低で30万円からと料金設定をしている事業所が多いです。
成年後見制度の費用目安
成年後見制度は専門家へ申立書作成・手続きを代行してもらった場合の手数料や、後見人に毎月支払う報酬、そして鑑定費用も重くなる可能性があります。下表が費用の目安です。
項目 | 費用 |
---|---|
法定後見の場合 | ・申立・後見登記手数料:3,400円分収入印紙 ・送達・送付費用:3,270円~4,210円分郵便切手 |
任意後見の場合 | ・申立・後見登記手数料:2,200円分収入印紙 ・送達・送付費用:3,518円分郵便切手 |
鑑定費用 | 10万円~20万円程度 |
専門家へ申立書作成・手続き依頼 | 15万円~30万円 |
後見人に支払う報酬 | 月額2万円~6万円 ※ただし、家族・親族の場合は無報酬も可能 |
※ただし、家族・親族の場合は無報酬も可能
成年後見制度の場合、たとえ専門家に手続き等を依頼せず、後見人が無報酬でも、申立・後見登記手数料、送達・送付費用、本当に判断能力が低下したかを確認するための鑑定費用も必要です。
裁判所が医師に依頼する形で行われ、医師の鑑定費用として10万円〜20万円程度かかる点に注意が必要です。
家族信託を使うべき2つのケース
家族信託は委託者が次のような不安を感じている場合、有効な対応策となります。
賃貸マンションを建築中に判断能力の低下へ備えたい
土地所有者である委託者が土地上に賃貸マンション建築を予定していて、完成する間に判断能力が低下しても、支障なく賃貸借契約を行いたい場合に有効です。
(例)
- 委託者:建築主父親A(88歳)
- 受託者:子供B(65歳)
受託者である子供Bはもともと宅地建物取引士の資格を有し、不動産会社を退職したばかりです。建築主である父親Aは子供Bのアドバイスのもとで、賃貸マンション建築を決断しました。
この場合、不動産に関する専門家は子供Bなので、Bを受託者にすれば専門家のコンサルティングは不要です。
受託者として子供Bへ付与できる権限は、主に次の通りです。
- 不動産会社との建築請負契約
- 銀行への借入金申込
- 新築したマンションを信託財産として受託者名義で登記
なお、信託契約で子供Bに家賃収入の何割かを報酬として与える、という内容も有効です。
自分の死後も我が子を扶助してもらいたい
委託者の死後、特定の家族を受益者(信託契約で利益を得る人)としてサポートしてもらうケースも有効です。
(例)
- 委託者:父親A(70歳)…妻とは既に死別
- 受託者:弟B(65歳)
- 受益者:子供C(45歳)…父親Aの子供、知的障害あり
委託者の父親Aは知的障害がある子供Cを養っていました。しかし、高齢のためか体調の悪化が顕著でした。そこで、自分の死後に弟Bが受託者、子供Cを受益者として、信託契約を締結しました。
特定の家族のために財産管理・運用・処分をしてもらえるよう契約すれば、委託者は死後も安心して託せます。
成年後見制度を使うべき2つのケース
成年後見制度は次のような事態が生じた場合、有効な対応策となります。
判断能力のかなり低下した家族がおり支援を検討している
このケースでは法定後見のサポートが考えられます。
(例)
- 申立人:子供A(55歳)…すでに独立し、親と別居
- サポートが必要な人:母親B(85歳)
母親Bは足腰が丈夫なものの、認知症が進行し不要な契約をする、家事がすっかりできない等の状態となりました。
離れて暮らしている子供Aは、母親Bを法律の専門家からサポートしてもらえるよう家庭裁判所へ申立てました。弁護士を法定後見人とする申立てが認められれば、母親Bの財産維持や管理、法律行為の代行、生活支援が行えます。
判断能力が衰えた後の対応も取り決めておきたい
このケースでは任意後見のサポートが有効です。
(例)
- 契約者:父親A(80歳)…妻とは既に死別
- 任意後見受任者:子供B(50歳)…ただし別居中
父親Aは当初、自分の判断能力が衰えてから法定後見を利用し、サポートしてもらいたいと考えていました。
しかし、唯一の相続人である子供Bは既に所帯を持ちマイホームも持っています。自分が認知症となり介護施設へ入所したら、自宅には誰も住まなくなるはずです。
入所後、自宅を直ちに売却してもらいたいAですが、法定後見の場合、法定後見人が父親Aの自宅を処分するのに、家庭裁判所の許可を要します。
そのため、後見人が契約に従い家庭裁判所の許可がなくても、迅速にA宅を売却できる任意後見契約を締結しました。当然ながら子供Bを任意後見人とするため、無報酬でも契約は有効です。
家族信託と成年後見制度は併用可能?
家族信託と成年後見制度の併用はできます。特に判断能力があるうちに、家族信託契約・任意後見契約を締結していれば、次のような活用が期待できます。
- 判断能力あり→家族信託:契約に従った財産の管理・運用・処分を託す
- 判断能力低下→任意後見契約:契約に従った財産管理・身上監護を任せる
いずれの場合も、サポートを希望する人(委託者・被後見人)の意思に従い、希望通りの支援を実施できるはずです。
契約の際には、弁護士や司法書士等のような法律の専門家にも相談し、そのアドバイスを受けつつ、サポートを希望する人が安心できる契約内容となるよう、取り決めを考えていきましょう。
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