成年後見人の持つ代理権とは?保佐人や補助人との違いも解説!

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終活

成年後見制度とは?代理権、同意権、取消権とは一体何?

判断能力の不十分となった本人をサポートする制度を「成年後見制度」といい、成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

成年後見制度には、次のような権利が認められています。

・代理権:本人に代わり法律行為を行う権利。ただし、身分行為(結婚や離婚、養子縁組等)以外の行為であることが条件。

・同意権:本人の行為に同意する権利。本人が行う行為に対して、同意を与えていない契約には、その法律行為の取り消しが可能な権利

・取消権:本人の行った法律行為が本人にとって不利益となるとき、その法律行為を取り消しできる権利。

成年後見人と保佐人、補助人は何が違う?それぞれの持つ権利の違いとは

判断能力の不十分な人を支援する人達は「成年後見人等」と呼ばれています。つまり、サポートを受ける本人の判断能力によって、3種類のサポート役が選任されます。

成年後見人・保佐人・補助人が選任されるケース

成年後見人・保佐人・補助人を選任するのは、サポートされる本人が次のケースに該当する場合です。

(各類型にあてはまる具体的なイメージ)

・成年後見人:統合失調症等のような判断能力が深刻な常況にある人の支援

・保佐人:物忘れがひどい中程度の認知症等の人の支援

・補助人:家事の失敗が目立つような軽度の認知症等の人の支援

成年後見人、保佐人、補助人は、本人の事理の弁識能力(判断能力)がどの程度あるかによって類型が分かれます。後見制度によって保護されます。

後見精神上の障害により事理弁識能力を欠く
保佐精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分
補助精神上の障害により事理弁識能力が不十分

判断能力が既に低下している方に対してこの法定後見を利用することを「法定後見」といいます。この場合には、家庭裁判所に対して、法定後見等の開始の申立てを行う必要があります。

支援を受ける本人やその配偶者、四親等内の親族(子や孫、おじおばや甥姪、いとこ等)の他、必要に応じて市町村長、検察官等も申立てを行えます。

成年後見人等の権利

成年後見人等は支援する本人に関わる権限を有しています。それぞれ次のような法律行為や手続き等が該当します。

・身上監護:本人の治療や入院の手続き、施設の入退所の諸手続き、介護等に関する契約締結または解除

・財産管理:本人の財産の確認、住居の確保や預貯金の管理、税金・公共料金の支払い等

これらの権限を行うため、代理権・同意権・取消権が認められています。

代理権について

成年後見人等は、いずれも判断能力が不十分な人に代わり法律行為を行えます。しかし、次のように代理権の範囲は異なります。

代理権サポート範囲
成年後見人財産に関するすべての法律行為
※身分行為は除く
保佐人・申立ての範囲内、かつ家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為
・相続に関する決定、借金や訴訟行為、家屋の新築等
補助人・申立ての範囲内、かつ家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為
・相続に関する決定、借金や訴訟行為、家屋の新築等

成年後見人は、サポートする本人の判断能力が非常に乏しいため、結婚や離婚、養子縁組のような身分行為を除き、財産に関する法律行為へ包括的な代理権行使が可能です。

成年後見人が本人の代理としてできる権限の具体例は以下の通りです。

  • 本人名義の預貯金に関する取引
  • 年金や障害手当金などの受領
  • 保険金の請求、受領
  • 保険契約の締結、変更、解除
  • 介護の契約
  • 遺産分割、相続の承認、放棄等

一方、保佐人は認知症等がやや進んだ被保佐人、補助人は認知症でも症状の軽い被補助人をサポートします。

そのため、成年後見人ほど広範囲な代理権が与えられておらず、家庭裁判所の審判で決められる等、制約も多いです。

同意権について

保佐人・補助人へ、被保佐人または被補助人の行為に同意権が与えられています。ただし、いずれも日常生活に関する行為(日用品の購入等)は同意権がありません。

サポート範囲
成年後見人なし
保佐人・原則、借金や訴訟行為、相続に関する決定、家屋の新築等
・ただし、裁判所が認めれば同意権の範囲は拡張できる
補助人・本人の同意を得たうえ、申立ての範囲内で裁判所が定める特定の法律行為

成年後見人に同意権がないのは、同意したとしても本人が正常に行動できる可能性はとても低く、結局その行為を取り消す結果となるため、そもそも同意権をもつ必要がないためです。

一方、保佐人の同意権は基本的に被保佐人が大きな損害を被ってしまうおそれのある、借金や訴訟行為等に限定されます。ただし、同意権の範囲は家庭裁判所の審判で認められれば拡張が可能です。

補助人の同意権は、補助開始の申立てを行う際に同時に、同意権付与の申立てを行ったうえで家庭裁判所に定めてもらいます。こちらは補助人に同意権を与えなくても、被補助人がまず正常に行動できると考えられるためです。

取消権について

成年後見人が最も広範な取消権を与えられています。ただし、いずれも日常生活に関する行為は取消権がありません。

サポート範囲
成年後見人成年被後見人が結んだ契約等の法律行為すべて
保佐人・原則、相続に関する決定、借金や訴訟行為、家屋の新築等
・ただし、家庭裁判所が認めれば範囲は拡張できる
補助人・原則、相続に関する決定、借金や訴訟行為、家屋の新築等

成年後見人は基本的に、成年被後見人が相手方と結んだ契約等の法律行為はすべて取り消せる権限を有します。判断能力が欠如した本人に不利となる契約内容となっているケースは多く、契約等の法律行為をするならば、成年後見人の関与があれば安全なためです。

保佐人の場合は、家庭裁判所から認められれば取消権の範囲をある程度拡張できます。

成年後見人の代理権が及ぶ範囲はどこまで?

成年後見人の代理権は保佐人・補助人よりも広範な権限となっています。しかし、支援を受ける本人の意思が尊重されなければいけない行為もあり、無条件に代理権が認められるわけではありません。

医療に関する代理権

本人が医療機関で治療・入院のような医療サービスを受ける際、次のように権限が及ぶか否かは分かれます。

  • 医療機関で治療・入院するための手続きの代理→代理権〇
  • 医療行為への同意・承認を本人に代理して行う→代理権・同意権×

本人の治療や入院の手続きの代理は身上監護として認められます。しかし、本人の意思を確認せず勝手に医療行為の同意・承認するのは代理権の範囲外です。

なぜなら、医療サービスを受けるかどうかの判断は本人にのみ許された固有の権利であり、代わって手術に同意する書面へ署名押印しても無効なためです。

ただし、成年後見人が本人の親族の場合には、その医療行為に同意について、署名押印が有効となる可能性もあります。(後見人としてではなく、親族として行った行為として)

介護に関する代理権

成年被後見人が介護施設でリハビリ等のサービスを受けるとき、次のように権限が及ぶか否かは分かれます。

・介護施設に入所する契約や退所する手続きの代理→代理権〇

・独断で施設の入所、退所を決める→代理権×(本人に利益とならない入所や転居)

あくまで成年後見人は法律行為の代理人として、本来なら本人の行うべき契約や手続きをする行為が対象です。

しかし、本人の意思も聞かず勝手に施設の入所・退所を決め、契約等を進めるのは権限を超えた行為です。あくまで本人の保護と利益のために行うことであり、無意味な入所や転居は当然認められません。

成年後見人の代理権が制限される場合について解説!

代理権の制限される行為には、主に「利益相反行為」と「居住用不動産の処分」があげられます。

利益相反行為

利益相反行為とは、ある行為が一方に利益をもたらすものの、もう一方には不利益が生じることです。

例えば、サポートを受ける本人の財産を成年後見人に贈与する場合、本人と成年後見人の間で不動産売買する場合、本人と成年後見人が故人の相続人として遺産分割協議をする場合等があげられます。

本人の財産を減少させるおそれがある以上、成年後見人は本人を代理できません。特別代理人を選任し本人の代理として対応することになります。なお、既に後見監督人(成年後見人が行う事務を監督する人)を選任している場合、この後見監督人が本人の代理人となります。

居住用不動産の処分

成年後見人が代理して不動産売買契約を締結することは可能です。ただし、本人の居住用不動産を売却処分し、生活が脅かされるような事態となっては大変です。

そのため、居住用不動産を処分するには、あらかじめ裁判所の許可を受ける必要があります。まず成年後見人が家庭裁判所へ処分の許可申立てを行い、許可が下りてから売却手続きを進めましょう。

無理に家族が成年後見人へ就任する必要はない

本人のため家族の誰かが成年後見人に就任するケースは多いです。しかし、様々な法律行為を行うとともに、気を付けるべき制約もあります。

また、善管注意義務という通常よりも慎重な配慮が求められ、自分に後見人が務まるのか、不安を感じる方々もおられるはずです。

そんな時は、弁護士や司法書士のような専門家に成年後見人を依頼した方が無難です。豊富な法律の知識と経験を持ち、様々な契約等の法律行為に精通した専門資格者なので、本人のサポートを安心して任せられることでしょう。

成年後見制度を利用する際の手続きの流れを解説!

ここでは、成年後見制度を利用する際の手続きの流れを解説していきます。

手続きの相談

家庭裁判所の受付では、成年後見制度の手続き相談を行っています。相談の際に、申し立てに必要な書式を受け取ることができます。

申し立てる場合は、申し立てに必要な書類の取り寄せや作成を行います。

申し立て

必要書類を家庭裁判所の受付に提出し、申し立てを行います。

審理・審判

提出された書類や申立人や後見人の候補者、本人への調査が行われます。調査結果から、成年後見人が選任されます。選任されると、申立人と成年後見人へ審判書謄本(審判を行った内容を記載した書類)が送付されます。

後見監督

成年後見人が定期的に財産管理状況などを家庭裁判所へ報告し、監督します。

代理権の逸脱や濫用とは?

代理権の逸脱や濫用は、代理による法律行為の本人への効果帰属が認められません。ここでは、代理権の逸脱と濫用について解説します。

代理権の逸脱とは、代理人が委任者に与えられた権限や指示を超えて行動することを指します。つまり、代理人が自身の判断や意図に基づいて委任者の利益や指示を逸脱させる行為です。

具体的な例を挙げると以下のようなものが考えられます。

権限の拡大

代理人が与えられた権限を超えて意思決定や契約を行うことです。例えば、代理人が契約締結の権限しか持っていないのに、資産の売却や他の業務を行なった場合などが該当します。

指示の無視または違反

委任者からの具体的な指示や要求に対して、代理人が逸脱して別の行動を取ることです。委任者の意図や利益とは異なる方針や取引を行う場合などが挙げられます。

利益相反事案

代理人が自身の利益を追求するために、委任者の利益を損ねる行動を取ることです。代理人が自分自身や関連する企業と不適切な取引を行ったり、委任者の機密情報を利用して自らの利益を追求することが含まれます。

ここからは、代理権の濫用に関しても説明していきます。代理権の濫用とは、代理人が自己の利益や他の当事者の利益を損なう行為を行うことを指します。

代理人は、委任者(原告)が代理人に与えた権限を利益に基づいて行使する責任を負っています。しかし、代理権の濫用は、その責任を逸脱した行為や権限の乱用を指します。

代理権の濫用の具体的な例には以下のようなものがあります:

金銭の横領

代理人が委任者の資産や資金を自らの利益のために盗み取る行為です。

不適切な契約締結

代理人が委任者の代わりに契約を締結する際、その契約が委任者の利益や意図に反する場合が該当します。

偽証

 代理人が虚偽の陳述を行い、委任者の権利を不当に主張したり、他の当事者に誤った情報を提供する行為が該当します。

非公開情報の悪用

代理人が委任者から与えられた非公開情報を悪用して、利益を得たり他人に損害を与える行為が該当します。

代理権の逸脱や濫用は、法的な責任を引き起こす可能性があります。たとえば、契約の無効化、損害賠償の請求や犯罪行為として処罰される可能性もあります。

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この記事を監修したのは…

鎌田 昂伺

行政書士事務所Terroir 代表行政書士

鎌田 昂伺(かまた こうじ)

シニアのための法務サポートを展開しており、相続・成年後見をメイン業務とし、遺言・家族信託、超高齢化社会における、より手厚い「終活」サービスとして死後事務・身元保証業務も手掛ける。
グループ内の(一社)いきいきライフ協会南青山では、高齢者に対する死後事務・身元保証サービスに中心的に関与している。

サイトURL:https://www.terroir-aoyama.com/ https://ikiiki-life-minamiaoyama.com/

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