「相続させる」と「遺贈する」の違いとは?意味や言葉の違いを解説!
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「相続」と「遺贈」ってそもそも何?二つの違いをチェック!
相続・遺贈ともに故人(被相続人)の遺産を特定の人が譲り受ける点では同じです。しかし、それぞれ遺産を受け取れる人、課される税金・税額等が異なります。
・相続・・・生前に被相続人が財産を渡す相手を決めていない
・遺贈・・・生前に被相続人が財産を渡す相手を遺言書で指定している
遺産を受け取れる人の違い
相続とは被相続人の財産を、法律の規定に従って法定相続人(民法で定められた相続人)が引き継ぐことです。法律で相続できる人の範囲は定められており、相続できる順位や相続割合が決められています。
一方、遺贈は被相続人が遺言書を作成し、遺言書の中で、遺産を受け取る人(受遺者)を指定し、原則として無償で財産を譲る方法です(負担付遺贈は除く)。受遺者は誰でもよく、個人だけでなく法人でも構いません。
遺産を受け取れる人の範囲
相続は、民法で定められた法定相続人だけが、遺産を受け継ぐ権利を有します。被相続人の配偶者は内縁者(法律婚をしていない人)以外、常に相続人となります。
配偶者以外の人は、次の順序で「配偶者と共に」相続人となります。
・第1順位:被相続人の子(子が亡くなっている場合は孫)
・第2順位:被相続人の直系尊属(親が亡くなっている場合は祖父母)
・第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥姪)
一方、遺贈は誰を受遺者としてもよく、法定相続人として認められない内縁者であっても遺言に記載があれば、財産を受け取ることができます。また、個人ではなく法人を受遺者として指定しても構いません。
遺産の割合について
《法定相続分》
配偶者と共に相続人となる場合、次のような相続分となります。
・配偶者と子供が相続人:配偶者1/2・子全員1/2
・配偶者と直系尊属が相続人:配偶者2/3・直系尊属全員1/3
・配偶者と兄弟姉妹が相続人:配偶者3/4・兄弟姉妹全員1/4
被相続人の子、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるならば、原則として均等に遺産を配分します。
一方、遺贈は遺言者(遺言書を作る人)が、自由に遺産の割合を指定して構いません。つまり、他に相続人となる人がいても、特定の1人だけに全財産を遺贈するような遺言内容も有効です。
ただし、遺贈内容が遺留分(法定相続人が最低限の遺産を受け取る割合)を侵害していた場合は、侵害された法定相続人から、より多く遺産を受け取った受遺者に対して、精算金の支払いが要求される事態(遺留分侵害額請求)も想定されますので注意が必要です。
遺贈の種類とは〜包括遺贈と特定遺贈〜
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
(1)包括遺贈
遺贈者(故人)が遺言書で財産の全部または一定の割合を包括的に、指定した人へ遺贈する方法です。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を負うことになります。
例えば遺贈者に借金等の債務があれば、包括受遺者は遺贈された割合に従い、その債務も引き受けなければいけません。
(2)特定遺贈
遺贈者(故人)が遺言書で財産を具体的に特定し、その特定の財産を指定した人に遺贈する方法です。受遺者は特定された財産のみを取得するにとどまりますが、マイナスの財産(借金等)を指定されない限り、遺言書にない債務を負担することはありません。
「相続」と「遺贈」の税金や諸手続きの違いは?!
ここでは相続または遺贈によって遺産を譲り渡す際に、税金や諸手続きにどのような違いが生じるかを解説します。
相続と遺贈では次のように課される税金・税額が異なります。
税金 | 相続 | 遺贈 |
不動産取得税(都道府県税) | 発生しない | 相続人ではない人への 特定遺贈のみ 発生する |
登録免許税(国税) | 固定資産税評価額×0.4% | 固定資産税評価額×2% ※相続人以外の人に 遺贈する場合 |
相続税(国税) | 通常の相続税額 | 通常の相続税額に2割加算 |
不動産取得税の場合、遺言で「自宅は(相続人ではない)〇〇に遺贈する」という内容であれば、指定された受遺者のみが譲渡された不動産の税金を支払うことになります。
登録免許税は故人の相続人となる人に遺贈された場合、相続時と変わらず「固定資産税評価額×0.4%」ですが、相続人以外の人に遺贈された場合は2%と高くなります。
相続税は被相続人の一親等の血族(子や代襲相続人となった孫、父母)、配偶者以外の人(兄弟姉妹、相続人ではない孫、第三者)に遺贈した場合は、2割加算されます。
例えば遺贈者(故人)が、法定相続人となる自分の子ではなく孫に遺贈した場合、孫は相続税の2割加算の対象になります。
加算額は
「各人の税額控除前の相続税額×0.2」と算定されるので、相続税額が100万円ならば、
100万円×0.2=20万円
100万円+20万円=120万円
相続税額120万円となるので、20万円多く負担する必要があります。
不動産資産等の手続きのケース
相続と遺贈とでは、不動産の手続きに関して次のような違いがあります。
自己の不動産であると主張する場合
被相続人の土地を相続人が相続した場合、法定相続分を超える部分について承継するケースを除き、所有権移転登記をしなくても、第三者に対して権利を主張することができます。(2019年7月1日の民法改正により「不動産を〇〇に相続させる」とした遺言書があっても、法定相続分を超える持分については、登記がなければ第三者に対抗することができない、となりました。)
一方、不動産が特定遺贈された場合は、持分に関わらず、所有権移転登記をしていなければ、第三者に対して権利を主張することはできません。
この登記手続きは相続の場合、当該不動産を引き継ぐ相続人が法務局へ単独で申請できます。しかし、遺贈による登記申請は、原則として受遺者本人と、相続人全員との共同申請または遺言執行者(相続人の代表として遺言に関わる手続きを行う人)と共同で申請する必要があります。このように遺贈の登記手続きは、相続の登記手続きよりも煩雑になります。
農地や借地権を引き継ぐ場合
被相続人の農地を相続人へ相続させた場合、相続人が農地の登記名義を変更後、農地の存在する市区町村役場の農業委員会へ届出書を提出します。
しかし、特定遺贈で農地を取得するのが法定相続人以外の人ならば、農業委員会の許可が必要です。
また、被相続人の借地権(他人の土地に建物を建てて所有するための権利)を引き継ぐ際、相続の場合は地主の承諾が不要です。ただし、法定相続人以外の人へ遺贈する場合は地主の承諾が必要です。
遺贈の放棄はできるの?相続放棄と比較!
遺贈の放棄はできますが、包括遺贈か、特定遺贈なのかにより手続きが異なります。
相続放棄 | 遺贈放棄(包括遺贈) | 遺贈放棄(特定遺贈) | |
放棄する財産 | 財産すべて | 財産すべて | 遺贈された財産 |
放棄の方法 | 3か月以内に家庭裁判所へ申述 | 3か月以内に家庭裁判所へ申述 | 放棄の意思表示期限はない |
相続時に被相続人の遺産を相続人が引き継ぎたくない場合は、相続が開始されたことを知った日から3か月以内に相続放棄を行います。
相続放棄は故人の最後の住所を管轄する地域の家庭裁判所に申述し、手続きを進めます。家庭裁判所から相続放棄を認められれば、申述人は相続権を失います。
一方、遺贈の放棄も可能です。包括遺贈の放棄は相続放棄と同様に家庭裁判所へ申述し、家庭裁判所から放棄を認めてもらいます。また、包括遺贈の申述期限も遺贈があったことを知った日から3か月以内となります。
特定遺贈の受遺者はいつでも遺贈を放棄することができ、放棄に期限はありません。この場合は相続人または遺言執行者へ放棄する旨を伝えます。口頭で伝えるだけでも成立しますが、実際には放棄したという証拠を残すために内容証明郵便等の書面で行います。
遺言書を作成するときに気を付けたいこと
遺言者(被相続人)は自由に遺言書へその内容を記載できます。しかし、遺留分を考えないで遺言内容を決めてしまうと、相続発生の際に遺留分を侵害された法定相続人が、遺留分侵害額請求を行使する可能性も考えられます。
遺留分とは法定相続人が最低限の遺産を受け取る割合です。遺言者の兄弟姉妹にこの権利はありませんが、遺言者の配偶者や子、直系尊属は遺留分を主張できます。
遺留分侵害額請求は遺留分を侵害された法定相続人から、遺留分を侵害して、遺産を得た人に対して行使するものです。そのため、遺産を引き継ぐ人たちの間でトラブルが発生する可能性もあります。
遺言者が遺贈により財産を引き継いでもらいたい場合、相続人の遺留分を侵害する内容となっていないか、よく遺言書の内容を確認しておきましょう。
遺贈と相続のそれぞれのメリット・デメリットをご紹介!
ここでは相続と遺贈のメリットとデメリットを解説します。なお、相続にすべきか、遺贈を行うべきかご自分でなかなか判断できない場合、弁護士等の法律の専門家へ相談しましょう。
法律の知識はもちろん、中立的な視点から様々なケースを踏まえたアドバイスが期待できます。
相続のメリット
相続の場合は、たとえ被相続人が遺言書を作成していなかったとしても、相続人達は法律に従って話し合い(遺産分割協議)をして、遺産分割をすることができます。
この遺産分割協議では、相続人間で法定相続分に分けることが多いですが、相続人同士での話し合いがまとまれば、法定相続分に関わらず、自由な割合で遺産を分割することも可能です。被相続人に、特定の財産を特定の相続人に引き継がせたいという想いがなく、相続人の人数も少なく、相続人同士も関係性が良好であれば、遺贈で引き継ぐ人を指定するよりも、法定相続人達に分割を任せてもうまくいくケースもあるでしょう。
遺贈のメリット
遺贈の場合は法定相続人ではない親族にも財産を譲渡することができます。また、生前にお世話になった相続人以外の人や団体、法人へも遺贈することができます。
自分の遺産を柔軟に分けたい場合や、法定相続人ではない第三者に財産を引き継いでもらうことを希望するのであれば、遺贈するのが有効な方法と言えます。
相続デメリット
相続の場合は、遺産を引き継ぐ人が法定相続人に限定されます。自分の意思で柔軟に遺産を譲渡したいのであれば遺贈することを検討しましょう。
また、遺産のうち平等に分けにくい不動産資産が多い場合は、遺産分割協議の際に相続人同士で揉めるリスクが高くなります。
遺贈のデメリット
遺贈の場合は、相続人以外に遺産を譲渡すると税金が重く課せられるため、受遺者がやむを得ず遺贈を放棄するおそれがあります。また、相続人以外の人が遺贈で不動産資産等を受け取った場合、その権利移転の手続きも複雑になります。
何より遺産を引き継ぐ人たちの間で、遺留分を理由に揉めてしまうことも、十分念頭に置いておくことが大切です。遺贈の際は、なるべく遺産を受け取る側から不満が出ないように、遺言書の付言部分にしっかりと想いを記す等慎重に遺言書を作成することが求められます。
なお、遺贈は遺言書の形式的な不備(例:日付、氏名、押印のいずれかが欠けている等)で無効になることがあります。無効になることが不安な場合や、必ず財産を特定の人に引き継がせたい場合は「死因贈与」も検討してみましょう。
「死因贈与」とは、死亡を原因として贈与を行うことです。具体的には贈与者(財産を渡す人)が死亡した際、事前に指定した財産を受贈者(財産をもらう人)へ贈与するという契約を、生前に両者で合意の上、贈与契約を締結しておく方法です。贈与契約自体は口約束でも成立しますが、トラブル防止のために「贈与契約書」を作成しておく方が安心です。
まとめ
以上、「相続」と「遺贈」の違いや、メリット、デメリットをお伝えしました。
財産の引継ぎについて、どのような生前対策を行うのかは、ご自身の財産の状況や、相続人の置かれている状況なども加味して慎重に選んでいく必要があります。
どの生前対策を選択するべきなのか判断に困った時は、相続手続きに精通している弁護士等にご相談ください。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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この記事を監修したのは…
なかしま美春行政書士事務所 / 特定行政書士 / 相続診断士
中島 美春(なかしま みはる)
2011年2月の開業から現在まで「書類作りで笑顔をサポート」。とあるお客様の相続手続きをきっかけに相続業務に力をいれていくことを決意。笑顔相続道第7期修了後は、九州・福岡に「笑顔相続」を広めるために活動中。生前の相続対策(遺言書作成サポート等)だけではなく、相続後の死後事務サポート等も行っている。
サイトURL:https://egao-support.com/ https://fukuoka-souzoku-yuigon.com/