財産開示手続を無視(不出頭)すると刑事罰を受ける?手続きや法改正を解説
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財産開示手続とは?債務者の財産を調査することです!
財産開示手続とは何なのか、そして財産開示手続が”債務者の財産を調査すること”といわれる理由などについて解説します。
財産開示手続とは?
財産開示手続とは、金銭債権について債務名義又は一般の先取特権を有する債権者の申立により、執行裁判所が、財産開示手続を実施する旨の決定をし、財産開示期日に出頭した債務者が、債務者の財産について陳述する手続です。
ただし、財産が開示されたとしても債権を回収するためには、債権者は、陳述によって知り得た債務者の財産に対し、別途強制執行や担保権の実行の申立をする必要があります。
財産開示手続が導入された目的とは
財産開示手続がどういう目的で導入されたのかを見てみましょう。
債権者は債務者の財産に関する情報を知らなければ、強制執行や担保権の実行の申立をすることができません。そこで、勝訴判決等を得た債権者のために債務者の財産に関する情報を開示する制度として、平成15年の民事執行法の改正により財産開示手続が導入されたのです。
財産開示手続は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するために設けられたものです。
財産開示手続の流れ~申立から期日後まで~
財産開示手続について、申立から期日後までの流れを確認しておきましょう。
債務名義に基づいて財産開示手続を行う方法をご紹介します。
①申立
債務名義を有する債権者は、財産開示手続の申立をすることができます。申立は書面でしなければならず、債務者の住所地を管轄する地方裁判所(支部を含む)に申立をする必要があります。
②財産開示手続の実施決定
執行裁判所は、審査の後に財産開示を実施する要件が揃っていれば、財産開示手続の実施決定をします。
③期日指定・呼出し等
財産開示手続実施決定が確定した後、執行裁判所は財産開示の期日や財産目録の提出期限を指定します。その後、申立人と開示義務のある者に対して、告知します。開示義務のある者に対しては、期日呼出状・財産目録提出期限通知書を送達して告知します。
④財産目録の閲覧・謄写
提出された財産目録は、民事執行法201条に掲げられた者に限り、財産開示期日前においても閲覧・謄写することができます。
⑤財産開示期日
❶財産開示期日は非公開で行われ、債務者(開示義務者)は、財産開示期日に出頭して債務者の財産について陳述する必要があります。債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭しないこと・債務者の財産について嘘を述べたりすることは、刑事罰が科されるおそれがあります。
❷申立人は財産開示期日に出頭して、債務者の財産状況を明らかにするために執行裁判所の許可を得て債務者(開示義務者)に質問することも可能です。ただし、根拠のない探索的な質問や債務者(開示義務者)を困惑させる質問は許可されません。
❸債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭せず、執行裁判所が債務者(開示義務者)の財産開示期日への出頭が見込めないと判断した場合、財産開示手続は終了します。
財産開示手続の際に必要な書類・費用や条件を解説!
財産開示手続を申し立てる際に必要な書類は以下の通りです。債権者により必要書類が異なりますので、ご確認ください。
1.執行力のある債務名義の正本を有する債権者
- 財産開示手続申立書の表書き
- 当事者目録
- 請求債権目録
- 財産調査報告書
- 債務名義等還付申請書
2.一般の先取特権を有する債権者
- 財産開示手続申立書
- 当事者目録
- 担保権・被担保債権・請求債務目録
- 財産調査報告書
添付書類は、以下の通りです。こちらも、申立人により異なります。
全ての申立てに共通して必要な添付書類
当事者が法人の場合は、商業登記事項証明書と代表者事項証明書が必要です。代理人による申立ての場合は、委任状、代理人許可申立書、代理人と本人との関係を示す書類です。
また、債務名義上の氏名や住所に変更がある場合は、住民票、戸籍謄本、戸籍の附票、履歴事項証明書、閉鎖商業登記事項証明書が必要となります。
申立人が執行力のある債務名義の正本を有する債権者
- 執行力のある債務名義の正本、送達証明書
- 債務名義が更正されている場合の決定正本、送達証明書
- 債務名義が家事審判の場合は確定証明書
- 執行開始要件を備えたことの証明が必要な場合は、証明文書
- 債務名義等還付証明書
- 上記の写し(原本を提出する場合、各1通ずつ)
申立人が一般の先取特権を有する債権者
- 一般の先取特権を有することの証明文書
必要書類のテンプレートは裁判所のホームページにありますので、作成の際はご覧ください。
財産開示手続を申立てる際の手数料は、2,000円です。申立ての手数料の納付は収入印紙を申立書に貼付します。
また、裁判所が使用するための郵券も納付する必要があります。
財産開示手続を申し立てる際には、以下のどちらかの条件を満たす必要があります。
(1)申立ての日の6カ月以内に実施された強制執行又は担保権の実行における配当・弁済金交付手続きにおいて、申立人が完全な弁済を受けられなかったとき
(2)申立人が債権者として行うべき調査を行い、調査結果より判明した財産に対して強制執行などを実施しても、完全な弁済を得られないことの疎明があったとき
(2)に当てはまる場合は、「財産調査結果報告書」を提出する必要があります。
財産開示手続はなぜ改正された?背景をチェック
財産開示手続はなぜ改正されたのか、その背景をチェックしてみましょう。
財産開示手続はなぜ改正された?
財産開示手続が改正された理由について見てみましょう。
民事執行法は、勝訴判決等を得た債権者のために債務者財産に関する情報を開示する制度として、平成15年の改正により財産開示手続を導入しました。
しかし、その後の運用状況を見ると、債務者の財産状況を把握するという制度目的の実現に向けた実効性が十分でなく、利用件数もそれほど多いとはいえない実情があることがわかりました。
そのため、財産開示制度の在り方を見直す対応をしています。
具体的には実効性の向上を図る必要があるとの指摘を受け、財産開示手続が改正されたのです。
背景をチェック
財産開示手続が改正された背景について見てみましょう。
財産開示制度が導入された経緯は、上述したとおりです。
具体的な問題点として、3点あります。
①財産開示手続の実施要件が厳しいこと(改正前の民事執行法197条1項~3項)
②財産開示手続の実施決定をしても、開示義務の違反に対する制裁が過料にとどまるために、債務者の財産について陳述すべき財産開示期日に出頭しない開示義務者(債務者、法定代理人、法人の代表者)が多いこと(改正前の民事執行法206条1項。改正前の民事執行法198条2項2号。)
③債務者の財産情報取得は債務者の陳述に限られていたこと
そこで改正後の民事執行法は、後述するように、上記①②について改正し、上記③については「第三者からの情報取得手続」を新設したのです。
財産開示手続はどこが変わった?改正前と改正後の変化
財産開示手続はどこが変わったのでしょうか。改正前と改正後の変化について確認しておきましょう。
財産開示手続はどこが変わった?
財産開示手続で変わったのは、①要件が緩和されたこと、②制裁が強化されたことの2点です。
そして、今回の改正では、既存の財産開示手続を拡充するとともに、債務者以外の者(第三者)から債務者財産に関する情報を取得するための手続を新たに導入し、両者を合わせて「債務者の財産状況の調査」と整理したのです。この「第三者からの情報取得手続」についても、項を分けて取り上げることにします。
まず、要件の緩和と制裁の強化について、改正前と改正後を比較しながら、その変化を見てみましょう。
改正前と改正後の変化
財産開示手続の上記2点についての改正前と改正後の変化は、以下のようになります。
要件の緩和
改正前は、金銭債権についての強制執行の申立に必要とされる債務名義のうち、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、確定した支払督促または執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)については、これに基づいて財産開示手続の実施を申し立てることを認めていませんでした(改正前の民事執行法197条1項柱書)。
しかし、この規律に対しては、等しく強制執行の基礎となる効力を付与されているはずの債務名義を、開示手続との関係においてのみ種類ごとに異なって扱うことは不合理であるとの批判があったことから、改正法ではすべての債務名義につき等しく開示手続の基礎となることを認めました(改正後の民事執行法197条1項)。
債務名義とは、確定判決、確定した支払督促、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)、和解調書など、債権者が債務者に請求できる権利(請求権)があることを認める書類です(民事執行法22条)。
債務名義を得るには、簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、公証人役場で手続をとる必要があります。
とりわけ執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)によって財産開示手続ができるようになったことは、近年社会問題となっている養育費の不払いとの関係で大きな意義をもちます。
制裁の強化
改正前は、正当な理由のない不出頭や虚偽陳述に対しては30万円以下の過料に処すという制裁規定が置かれていましたが、軽微な秩序罰であり開示を強制する効果はほとんどないとの批判がありました。(改正前の民事執行法206条1項)
改正法では、制裁を強化し、開示手続に非協力的な債務者に対しては6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を科すこととしました(改正後の民事執行法213条1項5号・6号)。
第三者からの情報取得手続
新設された「第三者からの情報取得手続」を確認してみましょう。(改正後の民事執行法204条~211条)
債権者は、今回の改正により、債務者以外の第三者からも、債務者の財産に関する情報を得られるようになりました。
つまり債務名義を有する債権者は、執行裁判所に申立をして第三者に対し、債務者の財産に関する情報を書面で提供することを命じてもらうことができるようになったのです。
債権者は、具体的には債務者の財産に関する情報を以下のように取得することができます。
①登記所(法務局)から不動産に関する情報(205条)、
②市町村、日本年金機構等から給料の支給者に関する情報(206条)、
③金融機関(銀行、信用金庫、農業協同組合、証券会社等)から預貯金債権、上場株式、投資信託受益権、社債、国債等に関する情報(207条)
ただし、債務者の不動産と給料の支給者に関する情報取得手続(上記①②)については、債務者の不利益にも配慮し、それに先立って債務者の財産開示手続を実施する必要がありますが(205条2項、206条2項)、預貯金債権等に関する情報取得手続(上記③)についてはその必要はありません。
また、債務者の給料の支給者に関する情報取得手続の申立をすることができるのは、民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権(養育費その他の扶養義務に係る債権)又は人の生命身体の侵害による損害賠償請求権を内容とする債務名義を有している債権者に限られます(206条1項柱書)。
上記①~③により、その後の強制執行の実効性が確保されるようになりました。
財産開示手続を無視すると罰則あり?書類送検になった事例もあるの??
財産開示手続を無視すると罰則があるのか、そして書類送検になった事例もあるのかについて確認しておきましょう。
財産開示手続を無視すると罰則あり?
財産開示手続を無視した場合の罰則について見てみましょう。
改正によって罰則は厳しいものになり、債務者が財産開示期日に出頭しなかったり、自分の財産について嘘を述べたりした場合は刑事罰が科されることになりました。
つまり「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者」及び「財産開示期日において宣誓をした開示義務者が、正当な理由なく陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をした場合」は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられるのです(改正後の民事執行法213条1項5号・6号)。
このように、財産開示手続を無視すると、刑事罰を受けることになりかねないのです。
そして、財産開示手続の申立がなされ、債務者(開示義務者)に財産開示手続に関する手続違背(不出頭、宣誓拒絶、陳述拒絶、虚偽陳述をいう)の行為があったとしても、禁止される行為は、虚偽の陳述をした場合を除き「正当な理由なく」手続違背の行為をした場合に限られます。
確かに債権者は、債務者に手続違背の行為があればすぐに事件として告発することもあるかも知れませんが、そのような場合でも、告発を受けた捜査機関は、債務者の手続違背の行為が「正当な理由なく」なされたのかどうか、また虚偽陳述なのかどうかの確認が前提として必要になるはずです。
また、今回の改正は、債務者を処罰することが目的ではなく、刑事罰の威嚇のもとに債務者を出頭させ、債務者の財産について情報を提供させることにあるとするのが本来の目的と考えられます。
執行裁判所は、債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭しなかった場合、手続的には財産開示手続を終了することも可能ですが、一度だけの不出頭で財産開示期日を終了させるのは、本来の目的にはそぐわないと考えられます。
執行裁判所は、債務者に対して出頭を促し、出頭の意思が全くないことが確認できた段階で「財産開示期日」を終了し、誰が告発するかはともかく、手続違背として告発されることもあり得ると思われます。
書類送検になった事例もあるの??
書類送検になった事例について見てみましょう。
男性介護士は男性会社員から数万円を借用しましたが、全く返済しなかったため、男性会社員が財産開示手続の申立をしました。執行裁判所は財産開示手続を実施する旨の決定をし、財産開示期日を指定して男性介護士を呼び出しました。
しかし男性介護士が出頭しなかったため、正当な理由なく出頭しなかったとして、令和2年10月20日に男性介護士が民事執行法違反の疑いで書類送検されたと報道されています。
もちろん上述した刑事罰からすれば、違反者は裁判で懲役や罰金に処せられるだけでなく、逮捕の可能性もあるわけです。
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この記事を監修したのは…
北松戸ファミリオ法律事務所 代表弁護士
鈴木 秀一(すずき ひでかず)
相続などの家庭に関わる問題は法律的な問題の複雑さがあることはもちろん、家族関係における感情的な行き違いが問題をさらにこじらせる傾向が特に顕著にみられます。当事務所では心理カウンセラーや、元家庭裁判所調査官などと連携態勢を取り、法律面に加え心理的問題についてもアプローチしながら、トータルとしての問題解決の実現を目指しています。
「家族のお悩みを、まるごと笑顔に」できるよう、親身にご相談者様と向き合い、ご心配やお悩みの解決に向けて全力でお手伝いさせて頂きます。
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