遺族厚生年金の受給資格とは?支給額と手続き方法、必要書類や注意点について
遺族厚生年金の基本情報
ここでは、遺族厚生年金の定義、受給条件、支給額の計算方法、そして申請手続きについて、わかりやすく解説していきます。
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、厚生年金保険の被保険者、または老齢厚生年金の受給資格者が亡くなった際に、その家族(配偶者、18歳到達年度の末日までの子供や孫、または20歳未満で障害年金の等級が1級・2級の子供や孫、夫や父母または祖父母)に対して支給される年金のことをいいます。
遺族年金の種類と基本的な仕組み
遺族年金には、遺族厚生年金のほかに、「遺族基礎年金」、「遺族共済年金」があります。
遺族年金は、国民年金や厚生年金に加入している人、または以前に加入していた人が亡くなったときに、遺族に対して支払われる年金です。また、かつて共済組合に加入していた公務員などが亡くなった場合にも遺族年金が支給されますが、2015年10月に「遺族共済年金」は「遺族厚生年金」に統合されたため、現在は公務員の遺族も遺族厚生年金を受け取ることになります。
遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い
遺族基礎年金と遺族厚生年金は、以下の表のとおり、受給者、年金額、独自の制度・加算に違いがあります。
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
支給対象となる遺族の範囲 | 子のある配偶者 子 | 子のある妻または子のある55歳以上の夫 子 子のない妻 子のない55歳以上の夫 55歳以上の父母 孫 55歳以上の祖父母 |
年金額 | 定額 | 老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3 |
独自の制度・加算 | 寡婦年金 死亡一時金 | 中高齢寡婦加算 経過的寡婦加算 |
※子は、死亡当時「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない未婚の子」または「20歳未満で障害等級1級または2級の障がいの状態にある未婚の子」の要件のうち、いずれかに該当する必要があります(死亡当時、胎児であった場合も出生以降に対象となります)。
※寡婦年金とは、遺族基礎年金独自の給付制度です。
夫が遺族基礎年金の被保険者として、保険料を支払った期間と免除された期間を合わせて10年以上ある場合、その夫が亡くなったとき、妻(事実婚も含む)は条件を満たしていれば、60歳から65歳までの間、年金が支給されます。
※死亡一時金も寡婦年金と同じく、遺族基礎年金の特別な給付制度の一つです。死亡一時金は、遺族基礎年金の被保険者として3年以上保険料を納めた人が亡くなった場合に、その遺族に支給されるものです。
※中高齢寡婦加算、経過的寡婦加算は、遺族厚生年金独自の給付制度です。遺族厚生年金に上乗せされる形で支給されます。
遺族厚生年金の受給資格
遺族厚生年金を受け取るには、亡くなった方が厚生年金に加入していたこと、そして遺族が定められた条件を満たしていることが必要です。
支給要件と条件
遺族が遺族厚生年金を受け取るためには、保険の加入者が以下の要件を満たすことが必要です。
- 亡くなった厚生年金加入者の保険料納付済期間が厚生年金加入期間の2/3以上あること
- 厚生年金加入者が令和8年4月1日より前に亡くなり、死亡日に65歳未満かつ死亡した月の前々月までの1年間に保険料の滞納がないこと
さらに、厚生年金の加入者が以下の状況で死亡することが必要です。
- 厚生年金保険の被保険者期間中に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因となり、初診日から5年以内に死亡したとき
- 傷害等級が1級または2級の障害厚生(共済)年金の受給者が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者だった方、または受給資格を満たした方が死亡したとき
受給対象となる人の範囲
受給対象となる人の範囲は、以下の通りです。
- 亡くなった方と同居している親族
- 亡くなった方から仕送りを受けていた別居中の親族(健康保険の扶養親族など)
- 前年の収入が850万円未満の親族
さらに、遺族厚生年金は、以下の順で受給することになります。
第1順位:配偶者または子供
第2順位:父母(被保険者死亡時に55歳以上であること)
第3順位:孫
第4順位:祖父母(被保険者死亡時に55歳以上であること)
そして、第1順位の受給者にも、さらに細かく順位が決まっています。
- 子供がいる妻
- 子供
- 子供がいる55歳以上の夫
- 子供がいない妻または55歳以上の夫
遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給の条件
公的年金は原則として「1人1年金」とされていますが、特定の条件を満たすと、例外的に「遺族厚生年金」と「老齢基礎年金」または「老齢厚生年金」の両方を受け取ることができる場合があります。
- 遺族厚生年金と老齢基礎年金:65歳以上で老齢基礎年金を受給している方が、新たに遺族厚生年金の受給資格を得た場合、両方を受け取ることが可能です。
- 遺族厚生年金と老齢厚生年金:65歳以上で両方の受給資格がある場合、原則として老齢厚生年金が支給されますが、もし老齢厚生年金よりも遺族厚生年金の額が多い場合、その差額も受け取ることができます。
ただし、老齢厚生年金の額が遺族厚生年金よりも高い場合、遺族厚生年金は支給されません。
離婚後の受給資格の変化
離婚後、元夫が亡くなった場合、元妻は遺族厚生年金を受け取ることはできません。ただし、子どもは父親との親子関係が続いているため、条件を満たせば遺族厚生年金を受け取れることがあります。
遺族厚生年金の支給には優先順位があり、妻と子の関係では次の順で支給されます。
子どものいる妻>子ども>子どものいない妻
この優先順位をもとに、以下のケースごとに誰が受給対象になるかを説明します。
- 元夫が再婚していない、または再婚しても子どもがいない場合
この場合、元夫が養育費を支払うなど、生計を共にしていると認められれば、前妻との子どもに遺族厚生年金が支給されます。支給期間は、子どもが高校を卒業するまで、または障害等級1級・2級に該当する場合は20歳までです。
- 元夫が再婚し、後妻との間に子どもがいる場合
この場合も、元夫が養育費を支払っている場合、前妻の子どもに受給権はあります。しかし、遺族厚生年金は「子どものいる妻」(この場合、後妻)が優先されるため、前妻の子どもの遺族厚生年金は支給停止となります。
- 元夫が再婚し、後妻に子どもがいる場合(後妻の子どもと元夫が養子縁組している場合)
この場合、元夫が養育費を支払っていれば、前妻の子どもにも受給権はありますが、遺族厚生年金は「子どものいる後妻」が優先されるため、前妻の子どもの受給は停止されます
- 後妻の子どもが養子縁組していない場合
この場合、後妻は「子どものいない妻」とみなされ、前妻の子どもに遺族厚生年金が支給されます。前妻の子どもは、高校卒業まで、または障害等級1級・2級に該当する場合は20歳まで年金を受け取ることができます。
離婚後の遺族厚生年金については複雑なので、悩んだ場合にはお近くの年金事務所または年金センターの相談窓口を訪ねてみるといいでしょう。
遺族厚生年金の支給額
遺族厚生年金の金額は、亡くなった人が受け取る予定だった老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3にあたります。この報酬比例部分は、年金の加入期間や過去の給与(平均標準報酬月額)に基づいて決まります。
ただし、遺族厚生年金を受給する際、亡くなった方の厚生年金加入期間が25年(300ヶ月)未満であれば、加入期間は自動的に25年として計算されます。
支給額の目安と計算方法
遺族年金の支給額を計算するためには、まずは亡くなった人が受け取る予定だった老齢厚生年金の報酬比例部分を計算する必要があります。それに4分の3をかけたものが遺族厚生年金の受給額となります。
厚生年金加入期間を25年とした場合、平均標準報酬額ごとの遺族厚生年金額の目安は以下の早見表のとおりです。
平均標準報酬額 | 遺族厚生年金(年額) |
20万円 | 246,645円 |
25万円 | 308,306円 |
30万円 | 369,968円 |
35万円 | 431,629円 |
40万円 | 493,290円 |
45万円 | 554,951円 |
50万円 | 616,613円 |
55万円 | 678,274円 |
60万円 | 739,935円 |
報酬比例部分の計算式
遺族厚生年金の計算の基礎となる、老齢厚生年金の報酬比例部分の計算式は以下の通りです。
報酬比例部分=A+B
A:平成15(2003)年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額 × 1,000分の7.125 × 平成15年3月までの加入期間(月数)
B:平成15(2003)年4月以降の加入期間
平均標準報酬額 × 1,000分の5.481 × 平成15年4月以降の加入期間(月数)
支給額のシミュレーション
遺族厚生年金支給額の計算式は以下の通りです。
A:平成15(2003)年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額 × 1,000分の7.125 × 平成15年3月までの加入期間(月数)
B:平成15(2003)年4月以降の加入期間
平均標準報酬額 × 1,000分の5.481 × 平成15年4月以降の加入期間(月数)
遺族厚生年金支給額=A+B×3/4
以下の条件の場合、遺族厚生年金はいくら受給できるでしょうか。
- 2003年3月以前の平均報酬月額が20万円、被保険者期間60か月
- 2003年4月以降の平均報酬月額が30万円、被保険者期間240か月
受給者:妻50歳
A:20万×(7.125/1000)×60=85,500
B:30万×(5.481/1000)×240=394,632
A+B×3/4=360,099
支給額は、36万99円となります。
支給額を増やすための加算制度
遺族厚生年金の支給額を増やすために、中高齢寡婦加算と、経過的寡婦加算という制度があります。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金に上乗せされる給付で、以下の条件のいずれかを満たした妻に、40歳から65歳までの間、年額59万6,300円が支給されます。
- 夫が亡くなった時点で、妻が40歳以上65歳未満であり、18歳未満の子や、20歳未満で障害等級1級または2級の子どもがいない場合。
- 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受け取っていた妻が、子どもが18歳を迎えたなどの理由で遺族基礎年金を受け取れなくなった場合。
この加算は、上記の条件を満たす妻に対して自動的に適用されます。
経過的寡婦加算
経過的寡婦加算は、次のいずれかの条件を満たした妻に対して支給される追加の年金です。
- 昭和31年4月1日以前に生まれた妻が、65歳以上で遺族厚生年金の受給資格を得た場合。
- 中高齢寡婦加算を受けていた昭和31年4月1日以前生まれの妻が、65歳に達した場合。
この加算は、対象となる妻が65歳以上になった際に支給されます。
遺族厚生年金の手続きと必要書類
ここからは、具体的に遺族厚生年金を受け取るための手続きや必要書類について解説していきます。
申請の流れと手続き方法
遺族厚生年金の申請手続きは、以下のステップで進めます。
- まず、亡くなった方の死亡届を市町村役場に提出します。
- 次に、亡くなった方の資格喪失届または年金受給権者死亡届を年金事務所に提出します。
- 最後に、必要書類を年金事務所や年金相談センターに提出します。
もし亡くなった方が在職中であれば、資格喪失届を勤務先に提出します。一方、年金を受給していた場合は、年金事務所に年金受給権者死亡届を提出する必要があります。
必要書類の種類と提出方法
遺族厚生年金を申請するための書類には、すべての場合に必要な「共通書類」と、交通事故などの第三者行為が原因で死亡した場合に必要となる「第三者行為による死亡の場合の追加書類」の2種類があります。それぞれ、年金事務所への提出が必要です。
共通書類
共通書類は、主に以下の書類です。
- 年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)
- 死亡者の年金手帳
- 死亡者の死亡診断書の写しまたは死亡届の記載事項証明書
- 世帯全員の住民票の写し
- 死亡者の住民票除票:世帯全員の住民票の写しに含まれている場合は不要
- 請求者の収入証明:源泉徴収票や所得証明書など
- 子供の収入証明:学生証や在学証明書など(義務教育中の子供は不要)
- 請求者名義の預金通帳またはキャッシュカード
- 認印
- 年金証書
- 合算対象期間が確認できる書類
第三者行為による死亡の場合の追加書類
第三者行為による死亡の場合追加書類は、主に以下のものになりますが、死因によっても必要書類が異なりますので、年金事務所に確認することをおすすめします。
- 交通事故証明書:自動車安全運転センターの窓口に申請
- 第三者行為事故現況および確認届:年金事務所で確認してください
- 死亡者に被扶養者がいる場合は扶養を証明できる書類:源泉徴収票、健康保険証などの写し
- 損害賠償金の算定書:示談書など
遺族厚生年金の注意点
遺族厚生年金を受け取る場合には、以下の点に注意が必要です。
受給対象外となるケース
遺族厚生年金の受給者が、以下の状況になった場合、受給対象外となるので注意が必要です。
- 受給権者が婚姻したとき
- 受給権者と亡くなった被保険者の親族関係がなくなったとき
- 受給権者が亡くなったとき
- 受給権者が直系の祖父母や直系姻族以外の人の養子になったとき
65歳以上での年金の変更について
遺族厚生年金の受給者が65歳になると、通常は自分の老齢年金だけを受け取ることになります。また、受給者の妻が65歳になると、中高齢寡婦加算は終了するため、この点に注意が必要です。
年金権利の時効について
年金を受け取る権利は、権利が発生してから5年が経過すると時効により消滅し、年金を受け取れなくなります。これは、受給資格があっても、申請を怠った場合や手続きを忘れていた場合でも適用されるため、受け取る際には早めに手続きを行うことが重要です。
ただし、何らかのやむを得ない事情があり、期限内に手続きをできなかった場合には救済措置があります。この場合、書面で事情を説明し、時効を回避するための申し立てを行うことが可能です。
この理由としては、病気や事故などで手続きを行えなかった場合が該当します。申し立てが認められれば、時効が停止され、年金を受け取る権利を失わずに済む場合もあります。
そのため、もし手続きが遅れそうな場合や困難な事情があるときには、できるだけ早く年金事務所に相談し、適切な対応を取ることが大切です。
確定申告の必要性と注意点
遺族厚生年金は、受給額にかかわらず所得税や住民税がかからない非課税扱いとなるため、確定申告をする必要はありません。一方、老齢年金は「雑所得」として扱われるため、控除額を超える場合や確定申告不要制度の対象にならない場合は、確定申告を行う必要があります。
遺族厚生年金の税金と離婚の場合の扱い
遺族厚生年金の税金と、離婚の場合の取り扱いについて解説します。
遺族厚生年金に関連する税金
遺族厚生年金は非課税です。これは、厚生年金保険法第41条で「租税その他の負担は、保険給付として支給された金銭を基準に課すことはできない」と定められているためです。ただし、「老齢年金についてはこの限りではない」とされており、老齢年金には例外的に課税されます。
税金の取り扱いと申告の必要性
遺族厚生年金は所得税や相続税がかからないので、確定申告も不要です。
離婚後の遺族厚生年金の受給について
夫が生きている間に離婚し、その後元夫が亡くなった場合、元妻は遺族厚生年金を受け取ることはできません。
しかし、夫が亡くなった後に離婚(死後離婚)した場合は、元妻でも引き続き遺族厚生年金を受け取ることができます。ただし、元妻が再婚すると、その受給資格は失われます。
離婚が遺族厚生年金に与える影響
離婚すると、元妻は遺族厚生年金を受け取る資格を失い、その権利は次の順位にある家族に移ります。例えば、元妻に元夫との子どもがいる場合、その子どもが遺族厚生年金を受け取る資格を持つことになります。
離婚後の受給資格の変更と手続き
離婚後に遺族厚生年金を受け取る資格が失われた場合や、再婚して資格が消滅した場合は、必ず年金事務所に連絡をし、適切な手続きを行う必要があります。手続きを怠ると、過払い金が発生し、返還を求められることもあります。
子どもがいる場合、その子どもに受給資格が移ることがありますが、これも手続きが必要です。
不明点があれば、年金事務所に直接相談することをおすすめします。
専門家への相談
遺族厚生年金の受給について不安がある場合には、専門家である社会保険労務士、年金事務所の窓口に相談してみましょう。
専門家に相談するメリット
専門家に相談するメリットは、まず、自分が遺族年金の受給資格があるかどうか、また受け取れる年金額を明確に把握できることです。さらに、申請に必要な書類の準備や申請書の記入方法についてもアドバイスを受けられるため、手続きがスムーズに進むという利点があります。
相談の際に準備するべき情報
亡くなった人の年金加入状況、亡くなった当時の生計維持関係、遺族の状況等をメモしていくといいでしょう。
相談先とその選び方
遺族厚生年金についてわからないことがある場合には、まずは年金事務所や年金センターに行って質問してみましょう。手続きを代行してほしい場合には、社会保険労務士の事務所に相談してみることをおすすめします。
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この記事を書いたのは…
弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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