相続した遺産を振り込んでくれない?対処法をケース別に解説!
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相続した遺産が振り込まれるまでの一般的な期間は?手続きの方法や財産の種類によって受け取りまでの期間が異なる!
被相続人(故人)の遺産について相続人の誰が引き継ぐかを決定しても、即座に遺産が受け取れるわけではありません。遺産の種類によって、次のように受け取れる期間が異なります。
・預貯金:即日~1カ月程度
・メガバンク約10日~4週間
・地方銀行2~3週間
・ゆうちょ銀行1週間〜1カ月
・JAバンク即日
・有価証券:2~3週間程度
・死亡保険:2~3週間程度
いずれの場合も、金融機関や保険会社等に必要書類を提出し、記載や添付書類の不備もなく、無事に相続手続きを完了すれば、概ね1カ月で遺産が振り込まれることになります。
ただし、遺言書がある場合、その遺言が公正証書遺言(公証役場で作成した遺言)であればそのまま使えますが、自筆証書遺言(公証役場で作成せず、被相続人ご自身で作成した遺言)であった場合は、家庭裁判所による検認という手続きが必要です。申立後、検認するまでに約2週間~2カ月かかります。こちらの期間も加味すれば、受け取りまで3カ月程度を要する場合があります。
検認を経なければその後の遺産の受け取りも、スムーズに進まないので注意が必要です。また、遺言はなくても相続人が複数いる場合、遺産分割協議を行う必要もあります。この協議に明確な期限はありませんが、遺産を受け取れるのは基本的には遺産分割協議が終了した後となります。
相続人間の協議で揉めだした場合は、解決まで長期間に及ぶこともあります。
相続した遺産が振り込まれるまでの流れは?相続発生から振り込みまでの手続きについて解説!
相続が発生し、引き継いだ遺産を受け取るまでの流れは次の通りです。
1.相続発生(被相続人が死亡)
2.家族が市町村の役所へ死亡届提出
3.相続人が誰かを確認(市町村の役所から、被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本を取得する)
4.被相続人の財産を調査
5.遺言書を探し、見つからなければ相続人間で遺産分割
6.遺産を引き継ぐ相続人を確認したら、遺産相続手続きを開始
7.相続人がそれぞれ金融機関・保険会社等から遺産を受け取る
ここでは預貯金・有価証券・死亡保険を受け取る手順について解説します。
預貯金の場合
預貯金の受け取りは、故人の預金口座がある各金融機関(銀行等)で手続きを進めます。手順は次の通りです。
1.必要書類の準備・提出
2.金融機関側のチェック
3.口座名義変更または払い戻し手続き
4.口座名義変更完了または払い戻し完了
手続きの際、必要な書類は主に次の通りです。
ただし、各金融機関等により手続きの詳細は異なる場合がありますのでご注意ください。
(共通)
・相続関係届書
(1)遺言書がある場合
・遺言書
・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(全部事項証明書)
・検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言の場合)
・預金を相続する人の印鑑証明書
(2)遺産分割協議の場合
・遺産分割協議書
・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(全部事項証明書):出生~死亡まで
・相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)
・相続人全員の印鑑証明書
有価証券の場合
有価証券の受け取りは、故人の口座がある各証券会社で移管手続きを進めます。手順は次の通りです。
1.必要書類の準備・提出
2.証券会社側のチェック
3.被相続人名義の口座から相続人の口座へ移管
4.有価証券を現金化するか運用継続
手続きの際、必要な書類は主に次の通りです。
(共通)
口座開設者死亡届書兼口座抹消届書
(1)遺言書がある場合
・遺言書
・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(全部事項証明書)
・検認調書または検認済証明書(自筆証書遺言の場合)
・預金を相続する人の印鑑証明書
(2)遺産分割協議の場合
・遺産分割協議書
・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(全部事項証明書):出生~死亡まで
・相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)
・相続人全員の印鑑証明書
死亡保険の場合
死亡保険金の受け取りは、受取人固有の権利です。そのため、受取人本人が単独で保険会社に請求手続きを進めます。手順は次の通りです。
1.必要書類の準備・提出
2.保険会社側のチェック
3.保険金を指定口座に振り込み
手続きの際、必要な書類は主に次の通りです。
・死亡保険金支払請求書
・保険金受取人の戸籍謄本
・保険金受取人の印鑑証明書
・被保険者(故人)の住民票
・死亡診断書(死体検案書)
・保険証券
相続した遺産を振り込んでくれない場合の対処法は?ケース別に解説!
遺言手続き・遺産分割協議を経て、遺産を受け取るだけの段階となっても、一向に振り込まれる気配がないという事態はゼロといえません。
ここでは、遺産が振り込まれない事態を回避する方法、振り込みを請求する方法について解説します。
代表者がいる場合
相続人が複数いる場合に代表者を立てれば、相続手続きをスムーズに進めることが期待できます。代表者に相続人全員が必要書類を渡せば、全員で市町村や金融機関等の窓口に向かい手続きをする手間が省けます。
しかし、代表者を立てたとしても次のような事実があると、振り込みがなかなか進まない場合もあります。
・相続人の中に行方のわからない人がいる場合
・被相続人に離婚歴があり、前妻の子がいた場合
・相続人達の知らぬ間に養子縁組をしており養子がいた場合
行方のわからない相続人、前妻の子、養子のいずれも原則として相続権を有しています。遺産の取得には彼らの協力も必要です。
そのため、相続人の中から代表者を選ぶのではなく、弁護士等の専門家を代理人として立て、相続人の調査や調整を依頼した方が良いでしょう。
なお、相続人の中から代表者を選び、必要書類を渡したにもかかわらず、なかなか遺産の振り込みがされない場合は、手続きを進めるよう弁護士に依頼し代表者と交渉してもらったり、家庭裁判所へ遺産分割の調停申立を行ったりする対応が必要となります。
遺産分割協議書を作成した場合
被相続人が遺言書を作成していない場合、相続人全員で遺産分割方法を協議して決定し、その内容を遺産分割協議書に明記します。
この遺産分割協議書は、被相続人の預貯金の取得、有価証券の現金化、不動産の名義変更手続き等の際の必要書類となります。
遺産分割協議書さえ作成できれば、滞りなく手続きは進められることでしょう。しかし、次のケースで遺産の受け取りが遅延する可能性もあります。
・遺産が不動産資産しかなく、代償分割(相続人の1人が遺産を引き継ぐ代わりに、代償金を他の相続人に支払う)をしたが、手続きの遅延が起きた
・遺産分割協議書を作成後、被相続人の新たな遺産が発見された
事前の対策としては代償分割で遺産分割を行う場合、協議書へ遺産を引き継ぐ相続人に「何日までに代償金を用意する」という期限設定を設けておくことが有効です。また、特に不動産に対する代償金の場合は、登記変更の必要書類を渡すのと引き換えに代償金を払ってもらうという形にすることもよくあります。
また、被相続人の新たな遺産が発見されれば、その遺産を誰が引き継ぐかを再び相続人間で協議しなければいけません。その場合に話し合いが紛糾するおそれもあります。
そのため、新たな遺産が発見されたことを想定し「新たに遺産を発見した場合は、相続人〇〇〇が引き継ぐ」もしくは「法定相続分にて各自相続する」と協議書へ記載しておくのも有効な方法です。
遺言執行者がいる場合
遺言執行者とは遺言者(被相続人)に代わり、遺言書にしたがって遺産配分に必要な手続きを取り仕切る人のことです。家庭裁判所によって選任されることもありますが、基本的に遺言書で指定されます。
遺言執行者に資格は不要であり、相続人から信頼のおける人を選んでも構いません。しかし、次のケースでは手続きが進まず、遺産の受け取りが遅延する可能性もあります。
・遺言執行者に指定された人が就任を断った
・遺言執行者を選んだものの、何らかの理由で手続きがなかなか進まない
遺言執行者に指定された人は、就任を断ることも可能です。断られた場合は相続人が家庭裁判所へ選任を申し立てる、もしくは遺言執行者なしで、相続人達で遺産分割を行っていくことになります。
一方、遺言執行者が正当な事由(例:相続手続きに難航している、病気やケガをした等)があり、なかなか執行を行うことが難しい場合、家庭裁判所に解任を請求し、新たに遺言執行者選任の申立てを行う対応も可能です。
特定の相続人が遺産を使い込んでしまった場合の対処法は?口座の凍結や取引履歴の確認が有効!?
相続開始後の遺産の使い込みを確認する方法は、主に下記の2つがあります。
・被相続人の通帳に記帳する(取引履歴の確認)
・金融機関から取引明細書を発行してもらう
使い込まれるのは現金や預貯金が考えられます。
金額が大きくなるのはやはり預貯金ですので、被相続人が亡くなったら早めに金融機関に死亡の旨を連絡し口座を凍結してもらうのが有効です。ただし、被相続人と同居していた家族がおり、光熱費等の支払がその口座で行われている場合などもありますので、口座凍結のタイミングについては配慮が必要な場合があります。
相続人が、例えば被相続人の預貯金を口座が凍結される前に使い込んだ、被相続人の現金を使い込んだ等が発覚した場合、他の相続人は返還請求を行うことができます。次のような流れで対処していきましょう。
1.使い込んだ人に返還を求める:返還しなければ裁判や仮差押えで対応することを伝え、自発的な返還を促す
2.使い込んだ人返還に応じなければ、裁判や仮差押えを実行
ここでは仮差押え、不当利得返還請求・損害賠償請求の方法を解説します。
仮差押え
仮差押えとは、遺産を使い込んだ人の財産の一部に制約を加える方法です。地方裁判所(請求額が140万円以内は簡易裁判所)に仮差押えを申し立てます。手順は次の通りです。
1.遺産を使い込んだ人が返還に応じないことを確認
2.裁判所へ仮差押えを申し立てる
3.裁判所で審理
4.申立人が担保金(仮差押えをする対象財産の2~3割程度)を用意
5.担保金を供託後、仮差押えの決定
6.仮差押えの執行
申立手続きがスムーズに進めば最短1週間程度で、仮差押えが執行されます。使い込んだ人が財産を処分する前に、迅速な対処を期待できます。
仮差押えの対象は、使い込んだ人が不動産を持っていれば原則不動産(売却等が出来なくなる)を差し押さえます。
不動産を持っていない場合や持っていても明らかにオーバーローンとなっている(不動産価値よりも被担保債権の金額の方が大きい)場合には、預貯金口座等を差し押さえることができます。
不当利得返還請求・損害賠償請求
不当利得返還請求とは、遺産を使い込んだ人に損失を被った人が、本来得るはずだった利益を請求する方法です。
一方、損害賠償請求とは、遺産を使い込んだ人の行為で損害を受けた場合、その賠償を請求する方法です。
返還を望む場合には上記のどちらの請求でも可能です。
1.不当利得返還請求または損害賠償請求を地方裁判所(請求額が140万円以内は簡易裁判所)に申し立てる
2.答弁書の提出、争点整理
3.裁判所で審理
4.返還命令または賠償命令へ
ただし、請求可能な期間はそれぞれ異なります。
不当利得返還請求
→ 使い込みが2020年4月1日より前であった場合、損失発生から10年で時効
→ 使い込みが2020年4月1日以降に行われていた場合、損失発生から5年で時効
・損害賠償請求→損害・使い込んだ人を知ったときから3年で時効
返還請求を行う人は、一般的に時効の長い不当利得返還請求を選ぶ場合が多いといわれています。
相続した遺産が振り込まれない場合の相談先は?トラブルの可能性がある場合は弁護士に相談!
相続した遺産が振り込まれない場合、相続人間で話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、解決を目指すことになります。
自分で手続きを行う場合、様々な必要書類・証拠資料の提出、裁判官や調停員との話し合いや調整が必要です。
自分だけでトラブルの解決が難しい場合、弁護士や司法書士の専門家に相談・依頼することが良い方法です。しかし、下記のように、弁護士や司法書士では業務の範囲は異なります。
・弁護士:手続き書類作成・提出代理、調停・審判、返還請求訴訟等全般が可能
・司法書士:手続き書類作成、不動産登記等の提出代理、認定司法書士は訴訟物価格140万円以下なら簡易裁判所で訴訟可能
どんな専門家に相談したらよいかわからない場合は、まず「相続診断士」に相談してみましょう。「相続診断士」は相続全般のアドバイスをしてくれる有資格者で、各ケースを考慮し弁護士や司法書士の専門家への橋渡しも担います。
相続診断士から助言を受けつつ、相続した遺産が振り込まれない場合の対処法を冷静に検討することも可能です。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
本サイト「円満相続ラボ」では、相続診断士に無料で相談できる窓口を用意しております。お気軽にご相談ください
この記事を監修したのは…
法律事務所A.I.Links
加藤 丈晴(かとう たけはる)
私は2012年に独立し、現在は四谷に事務所を構えております。他士業とのつながりを活かし、法務・労務・交渉の総合アドバイザーとして企業、個人を問わず数多くの御依頼をいただいております。今年で独立満10年となりますが、社会的・法的弱者の支援をすることを志して弁護士を目指した当時の気持ちを忘れることなく、依頼者の信頼に応えるべく弁護士業務に臨んでおります。
サイトURL:https://www.ai-links.jp/