【相続・空き家問題】売れない実家を相続…固定資産税120万円と管理負担に苦しんだ70歳長男の10年

親が亡くなり、誰も住まなくなった実家──売る? 残す? 意見が割れたまま、空き家は10年間“塩漬け”に。相続人の誰も動かず、固定資産税や管理費の負担は長男ひとり。本記事では、あねがわ司法書士事務所の姉川智子司法書士が、生前対策がなかったことで家族が長年悩むことになった実例をもとに、解決策を解説します。
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生前対策なきまま残された実家の現実
熊本県に住む山田義明さん(仮名、70歳)は、結婚して実家を出た後も近所に自宅を構え、両親の暮らしを支えてきました。
20年前に父・義人さんが亡くなった際には、遺産分割協議を経て、実家の名義を母・ヤエさん(当時75歳)に変更。母が一人で住み続けることを前提にした対応でした。
母が一人暮らしとなることもあり、今後も実家に住み続けると考えての対応でした。しかし、その3年後にヤエさんが自宅で転倒して骨折し、それをきっかけに老人福祉施設に入居。実家には「いずれ戻るかもしれない」と考えて売却せずにいたものの、帰宅はかなわず、その後亡くなりました。
相続後10年…売るに売れない実家、きょうだいの意見は平行線
子どもたちは今後、誰も実家に住む予定はなく、長男の義明さんは売却を検討。当時、実家の時価はおよそ1,000万円と見積もられていました。これ以上維持しても意味がないと考え、隣県に住む弟・秀人さん(当時65歳)と、東京に住む妹・レイ子さん(当時63歳)に相談しました。
秀人さんは「思い入れのある家だから、自分が退職後に戻るかもしれない」と売却に反対し、レイ子さんは「どちらでもいいので、お兄さんたちで決めてください」と消極的な姿勢でした。
その後も義明さんは繰り返し売却の提案をしましたが、秀人さんの態度は変わらず、実家は売れないまま10年が経過。誰も住まない家に対し固定資産税は毎年発生し、年間約12万円を義明さんが負担してきました。空き家期間が長いため建物の傷みも進み、管理費も増加。まさに「塩漬け状態」です。家の傷みもあってか、定年退職した現在も秀人さんが戻る気配はありません。
「共有名義」はリスク。家族を困らせない選択を
このように、思い入れのある実家であっても、相続人の間で意見が分かれれば、手続きは一気に滞ります。不動産は分けにくい財産のため、ご両親が生前に対策を講じておくことが重要です。
とくに有効な手段は遺言書の作成です。たとえば、
「自宅不動産は長男の義明に相続させる」
といった一文があるだけでも、相続人の意思決定は格段にスムーズになります。さらに
「母が住んでいる間は管理してあげてほしい」
「先祖代々の土地なので大切にしてほしい」
「将来的には売却し、代金はきょうだい3人で平等に分けてほしい」
など、具体的な処分方針まで記載しておくと、相続人の間での意思決定がしやすくなります。
また、不動産を共有名義にすることは極力避けるべきです。共有状態では全員の同意がなければ売却などの処分ができず、共有者に相続が発生すれば持分がさらに細分化。誰が何を決めるべきかも見えづらくなり、結果的に“話し合えない家族”を生んでしまうのです。
相続登記の義務化と“決めないまま”のリスク
なお、このケースのように相続登記が行われないまま10年間放置されていた場合、令和6年4月から相続登記が義務化されたことにより、相続開始から3年以内に登記を行う必要があります(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由がないまま怠った場合には10万円以下の過料が科されることがあります(同法第164条第1項)。
ただし、今回のように相続人間の対立で協議が進まない事情がある場合は、正当な理由があるとみなされ、過料が課される可能性は低いと考えられます。
このように、実家の相続はトラブルになりやすく、生前に売却を検討することもひとつの選択肢です。自宅を手放す決断は本人にとって大きな勇気が必要ですが、子どもに判断を委ねることの難しさを考えると、元気なうちに自ら方針を決めておくことが、家族にとっても大きな助けになります。
ぜひ、元気なうちに、家族が集まる機会などを活用して、「今後どうしたいか」「住まいをどうするか」について、率直な思いを話し合う時間を持つことをおすすめします。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
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この記事を書いたのは…

司法書士
姉川 智子(あねがわ ともこ)
宮崎県出身。福岡大学法学部卒。平成21年司法書士試験に合格後、博多や東京にて司法書士業務に従事。令和5年より、佐賀県鳥栖市にてあねがわ司法書士事務所を開設。相続登記、不動産登記の他、親族トラブルへの相談対応も多数。自身も16歳の時に実父を亡くす経験をしており、相続手続は「想い」と「手続」どちらの対策も必要と感じ、司法書士として多数の相続手続に携わる傍ら、縁ディングノートプランナーとして想いを遺す縁(エン)ディングノートの普及に努める。プライベートでは1男1女の母として育児に奮闘中。
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