生前の相続放棄はできない!?その理由や代わりの対処法をご紹介!

公開日: 遺産相続

生前に相続放棄はできない!相続放棄は相続が発生してから行われるものです

相続放棄は、相続人が故人(被相続人)の遺産を一切受け取らないかわりに、故人の債務を返済しない相続方法です。

被相続人が存命中でも、その債務(ローン・未払金等)がプラスの遺産(預金や土地、家屋等)を超えていると判断できるケースはあります。

しかし、このような場合でも被相続人が生きている間に相続放棄をすることはできません。なぜなら法律で「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に相続放棄ができると明記されており、相続は被相続人が亡くなった時点で開始されるとされているためです(民法第915条)。

また、相続放棄をするには家庭裁判所へ申し立てる必要があり、生前に相続放棄をしようとしても相続が発生していないため申し立ては受理されません。

生前に相続放棄の旨が書かれた念書や契約書は効果がある?

例えば被相続人から「自分は借金ばかりだから、自分の死後は相続放棄してほしい」といわれて承諾し、念書や契約書を書くなどして、被相続人の存命中に推定相続人(相続人となる可能性が高い人)が相続放棄の約束をしても法的な効果はなく、法令上の相続放棄には当たりません。

相続の発生していない状態で相続放棄の手続きができない以上、このような形で約束した相続放棄は無効となります。

相続放棄の代わりに生前にできる対処法をご紹介!

生前に被相続人の多額の借金がわかっており、前もって対策を講じたい被相続人本人・推定相続人の方々もいるはずです。ここでは生前に可能な4つの対処法を解説します。

生前贈与で対処する

生前贈与とは贈与者(被相続人)が生きているうちに受贈者(家族等)へ財産を贈与する方法です。贈与する相手は誰でもよく、受贈者1人につき贈与が毎年110万円以内ならば原則として贈与税はかかりません(暦年贈与)。

この方法であれば多額の借金があっても、基本的にプラスの財産(預貯金等)を分与することが可能です。

ただし、生前贈与した財産の額が債務額を上回ってしまうと、お金を貸した債権者(銀行等)は債権の回収ができなくなってしまいます。

そのため、債権者側から「生前贈与は債権者の利益を害する事を知って行った」と判断され、詐害行為取消権訴訟に発展する可能性もあります。この訴訟が認められると生前贈与は取り消されます。

死亡保険金を受け取ることができるようにする

被相続人が生きているうちに生命保険(死亡保険)へ入り、家族の誰かを受取人に指定、死亡保険金が下りるよう対処するのも良い方法です。

この死亡保険金は、契約者(被保険者)が生前に契約していた保険契約に基づき支払われる受取人固有の財産であり、相続人が相続放棄をしても相続財産に当たらないため、相続人は死亡保険金を受け取ることができます。

廃除を申し立てる

廃除とは家庭裁判所に申立てを行い、推定相続人の相続権をなくす方法です。この制度は、推定相続人となる家族が債務を引き継がないようにする対処法ではなく、相続権そのものをなくす効果があります。

そのため、誰もが利用できるわけではなく、推定相続人からの虐待や重大な侮辱等を受けた事実がある場合に利用することができます。この事実をもとに、家庭裁判所の慎重な判断で廃除を行うべきか否かが決められます。

遺留分の放棄と遺言書の作成

推定相続人の遺留分放棄の手続き・遺言書の作成を併用し対処することができます。遺留分とは相続人が最低限主張できる相続分のことです。ただし遺留分放棄だけ、遺言書の作成だけでは十分な対処ができません。

生前の相続放棄は認められませんが、生前に推定相続人から遺留分を放棄してもらうことは可能です。なぜなら、遺留分がなくても相続権は失われないからです。

この遺留分の放棄は一方的な強制でないこと、そして家庭裁判所の許可があることが必要となります。遺留分の放棄だけでは遺産分割の対象になるので、被相続人は遺言書を作成します。

遺言書には放棄した人へ相続させない内容を記載します。これで遺留分を放棄した人は、遺産相続の対象外となります。

生前の借金を減らすには?気になる方法をチェック!

被相続人に多額の借金等がある場合、生前のうちに返済して、相続人達に債務を引き継がせないことも大切です。ここでは2種類の債務整理法を解説します。

任意整理

任意整理は債務者と債権者とで、返済のことについて交渉し双方が合意して行う債務整理法です。

任意整理には法定された手順がなく双方が納得すれば裁判所を介さず借金減額を実現できます。しかし、債務者側でしっかりとした返済計画を立てないと、債権者の合意を得ることは困難です。

弁護士等の法律の専門家に相談しアドバイスを得ながら、交渉を進めることが有効な方法です。

個人再生

個人再生は裁判所に申立を行い、経済的な建て直しを図る債務整理法です。個人再生には次の2種類の手続きが存在します。

・小規模個人再生:住宅ローンのような被担保債権以外の借金額が5,000万円を超えず、継続的または反復して収入を得る見込みのある人が対象
・給与所得者等再生:小規模個人再生に該当する人の内、サラリーマンのように給与または給与に類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつその金額の変動の幅が小さいと見込まれる人が対象

地方裁判所に申し立て、返済期間等を定めた再生計画案が認められれば、大幅な債務の減額が期待できます。

ただし、個人再生の条件として借金額が一定の額を超えず、継続的または反復して収入を得る見込みのあることが必要です。

死後の相続放棄~手続・期限・必要書類を解説~

被相続人の死亡後に相続が開始され、相続人は相続放棄が可能となります。ここでは相続放棄の手続きの流れ、必要書類を解説します。

相続放棄の流れ

相続放棄の手続き際には被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ必要書類を提出します。それから、相続放棄申述受理通知書が届くまで約1か月~2か月かかります。

・被相続人の死亡:相続開始
・相続人が相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申し立て必要書類を提出
・概ね2週間後に家庭裁判所から照会書が自宅へ届く
・照会書の質問事項に回答、家庭裁判所へ返送
・家庭裁判所が審理開始
・自宅に相続放棄申述受理通知書が届く

必要書類について

申述人(相続放棄を希望する人)は手続きの際、次の書類が必要です。ケースによっては、家庭裁判所から追加の書類を求められることがあります。

・相続放棄申述書:裁判所のホームページまたは家庭裁判所の窓口等で取得
・被相続人の住民票除票または戸籍附票:住民票除票は市区町村役場、戸籍附票は本籍地の市区町村役場で取得 
・被相続人の戸籍謄本(死亡記載あり):被相続人の本籍地の市区町村役場で取得
・申述人の戸籍謄本:申述人の本籍地の市区町村役場で取得
・収入印紙800円分:郵便局等で取得

生前に対処が難しい場合は相続放棄も検討可能

被相続人の生前に債務を引き継がない方法は複数あります。しかし、手続きが難しかったり、手間がかかったりしてしまうケースもあるはずです。

その場合は、無理をせず相続開始後に相続放棄を行いましょう。また、相続放棄の前に被相続人の財産調査をしっかり行い、正確な財産・債務を把握したうえで、放棄するか否かを決めることが大切です。

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