介護していた相続人に認められる寄与分の計算方法を解説!相場はどれくらい?
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療養看護型の寄与分とは?
寄与分とは、相続人の中で被相続人(故人)の財産維持に貢献した人がいるならば、その貢献度に応じて相続財産を増額するという制度です。
寄与分が認められる一般的な要件は次の通りです。
- 相続人自らの寄与(貢献)である
- 特別の寄与である
- 寄与行為に対して対価を受けていない
- 財産の維持や増加と因果関係がある
- 相続開始時までの寄与である
寄与分が認められるケースはいろいろあり、被相続人の事業を手伝っていた相続人がその財産形成に貢献した(家事従事型)、介護施設の入居費用の肩代わりや借金の返済をした(金銭等出資型)等が該当します。
被相続人を長期間にわたって介護してきた場合(療養看護型)も、寄与分が認められる可能性はあります。
介護していた相続人に寄与分が認められる条件とは?
寄与分は、主に相続人間の実質的な公平を図る目的で、法定相続分に従った財産配分を調整する仕組みです。そのため、寄与分の主張ができるのは基本的に法定相続人のみです。
被相続人の配偶者や子供、兄弟姉妹は被相続人を扶養する義務があり、この義務に基づいた一般的な介護の程度ならば寄与分は認められません。
こちらでは寄与分の認定で考慮される条件、法定相続人以外の人に寄与分が認められるケースを解説します。
寄与分の認定で考慮される条件
寄与分が認められ得るかどうかはケースバイケースで判断されます。その際、考慮される条件は主に下表の4つです。
考慮される項目 | 内容 |
介護の特別性 | 被相続人に対する介護が、通常の配偶者・親族間の扶養義務を超える「特別の寄与」にあたるか |
介護の無償性 | 原則として、無償で介護を行っていたか ※ただし、被相続人から対価を得れば寄与分が認められないわけではなく、被相続人から謝礼・小遣いを受け取っていた場合、その取得金額を個別具体的に検討 |
介護の継続性 | 介護が一定期間継続して行われていたか ※継続しなければいけないので、被相続人を月に数回程度看病のため訪問しただけでは、継続性に該当しない |
介護の専従性 | 介護をしてきた法定相続人が、療養看護にある程度専従していたか ※自分の仕事を辞め、介護に専念したという場合が該当 |
法定相続人以外の人に寄与分が認められるケース
例えば被相続人の子供に代わり、その配偶者が被相続人を介護していたというケースもあります。
この場合、被相続人の子供の配偶者であっても法定相続人ではないので、以前は寄与分が認められませんでした。
法定相続人以外の親族が被相続人に寄与した場合、被相続人が寄与した人へ財産を遺贈(遺言により贈与する方法)する等して、調整を図っていました。
しかし、2019年7月1日から法定相続人以外の親族には「特別寄与料の請求権」が認められています(民法第1050条)。
次の3つの要件を全て満たせば、特別寄与料の請求が可能です。
- 被相続人の法定相続人以外の親族である
- 被相続人へ無償で療養看護・その他の労務提供、財産の維持または増加させた
- 特別の寄与(通常期待されるような程度を超える貢献)をした
なお、特別寄与料は被相続人にではなく、他の相続人に金銭の支払いを請求します。
要介護認定がない場合は寄与分がもらえない?
寄与分が認められるためには、被相続人が病気・老化で療養看護を必要とする状態でなければいけません。健康的な被相続人の世話をしても、寄与分は認められないので注意しましょう。
寄与分が認められる目安は「要介護2」以上の状態と言われています。
要介護2は主に次のような状態の要介護者が該当します。
- 歩行や起き上がりが自分一人でできない場合が多い
- 食事、着替えは自分で行うのがやや難しい
- 排泄は一部援助が必要
被相続人が要介護認定を受けなければ、必ずしも寄与分が認められないわけではありません。ただし、少なくとも要介護2以上に相当する状態であるという立証は必要となります。
療養看護型の寄与分の主張にはどんな証拠が必要?
介護の寄与分を主張するために必要な証拠は、主に下表の3つがあげられます。
寄与分の証拠 | 内容 |
要介護認定、医師の診断書 | 被相続人がどの程度介護を必要としていたかの証拠となる 要介護認定を受けていた場合はその資料、認定を受けていなくとも医師の診断書等から、被相続人の症状を客観的に証明できる |
介護サービスの利用記録 | 被相続人のため介護サービスを外注、その費用を支出した証拠となる 証拠書類としては介護サービスの契約書、領収書、銀行口座の振替記録等が該当する |
介護した事実の記録 | 寄与分を主張する人が、被相続人の介護をしていた証拠となる 介護日誌を作成し、その中で介護の状況を詳細かつ具体的に記載する |
療養看護型の寄与分の計算方法を解説!相場はどれくらい?
療養看護型の寄与分の計算には「報酬相当額」「日数」「裁量割合(裁判所が裁量で判断する割合)」を考慮します。計算式は次の通りです。
報酬相当額(日当)×日数×裁量割合
報酬相当額(日当)は基本的に介護保険の介護報酬基準を参考として計算します。日当の相場は6,000円〜9,000円程度です。
裁量割合は法定相続人による介護か、そうでない者(法定相続人以外の人)による介護かにより、報酬額を調整する配慮から、寄与分の算定で利用されます。裁量割合は概ね0.5〜0.8程度です。
例えば被相続人の配偶者が介護しているなら扶養義務は当然とされ、裁量割合は低く判断される可能性もあるのです。
次のケースを取り上げ、寄与分を計算してみます。
[事例]被相続人の配偶者が2年間(730日)にわたり、被相続人を毎日介護した。裁判所はこの2年間に特別の寄与があり、報酬相当額7,000円、裁量割合は0.5を相当とした
報酬相当額7,000円×730日×裁量割合0.5=2,555,000円
被相続人の配偶者の寄与分は255万円となります。
療養看護型の寄与分が実際に認められたケースとは?
被相続人が認知症を発症し介護を必要としていた、介護を長期的に行っていたというケースで裁判所は寄与分を認める傾向があります。
認知症の被相続人を介護し、10年間にわたり特別の寄与が認められた事案
被相続人の子供Aが20年余にわたり病弱で老齢の被相続人と同居・扶養し、特に被相続人の認知症の悪化〜死亡に至るまで10年間は常に被相続人へ付添い看護しています。子供Aがその寄与分を主張した事案です(盛岡家庭裁判所昭和61年4月11日審判)。
[裁判所の判断]
裁判所は、少なくとも子供Aが被相続人と同居・扶養した20年の内、後半10年間の療養看護に特別の寄与を認めました。
そして、被相続人は他人を介護従事者として雇った場合、支払う必要がある費用1,971万円の支払を免がれたと認定しています。
しかし、その子が介護従事者ではなく6年ほど家族のため、一般家事労働をなす余裕もあった点について考慮し、上記金額の60%(裁量割合0.6)である1,182万6,000円の寄与分が認められました。
通常期待される扶養義務の範囲内か否かが争われ、特別の寄与が認められた事案
被相続人は子供であるBとその妻に、1995年ごろから共同で、日常的な世話を継続していました。しかし、2002年以降から認知症が顕著となった頃から、子供Bは常時付き添うようになります。
子供Bは被相続人を常に見守り、その排便の介助も進んで行いました。子供Bはその他の相続人へ、被相続人の扶養し続けた寄与分を主張した事案です(大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判)。
[裁判所の判断]
裁判所は、子供B夫婦の2002年以前の日常的な世話は、被相続人が看護を必要とする健康状態とはいえないため、通常期待される扶養義務の範囲内にとどまると判断しました。
しかし、被相続人の認知症が顕著となった2002年以降の3年間は、特別の寄与があったと判断し、1日当たり8,000円(報酬相当額)程度と評価し、その3年分の876万円を寄与分と認めました。
療養看護型の寄与分を主張する方法!認められるためにすべきこと
自分の寄与分は他の相続人へ主張しないと、自分の遺産の取得分に寄与分は考慮されません。こちらでは寄与分を主張する方法と注意点、相談先について解説します。
寄与分を主張する方法と注意点
まずは自分で計算を行い、その後他の相続人へ主張してみましょう。遺産分割協議の際に主張し、相続人の全員が納得してくれたら、寄与分も含めた協議書を作成します。
ただし、自分が主張する寄与分に他の相続人が納得せず、遺産分割協議が不調に終わった場合、家庭裁判所へ「寄与分を定める処分調停」を申し立てましょう。
調停は家庭裁判所の調停委員が当事者の主張を聞きながら調整し、調停案に合意する形で問題解決が図られます。この調停も不調に終わると家庭裁判所の審判に移行し、決定が下されます。
ただし、家庭裁判所の調停・審判を行う際は、予想外に問題解決が遅くなる可能性もあります。解決までに1年以上かかるおそれがあるので注意しましょう。
寄与分で悩んだ場合の相談先
寄与分に関して相続人間で争いが生じた場合、法律の専門家である「弁護士」に相談してみましょう。弁護士が当事者の間にたって和解案を提示してくれる場合もあります。
また、話し合いがまとまらなければ自分を代理人として、家庭裁判所への申立てを進めてくれます。
その他、寄与分をはじめとした相続全般に疑問点・不明点があるなら「円満相続ラボ」を利用しましょう。円満相続ラボでは「相続診断士」の紹介を無料でサポートしてくれます。
相続診断士は相続全般に深い知識を有する専門資格者なので、寄与分等に関する悩みへ適切なアドバイスを行ってくれるはずです。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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