農地は相続税の納税猶予制度に適用する?その条件や手続き方法を解説!
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農地の納税猶予とはどういう制度?
農地の納税猶予とは、農地を相続または贈与によって取得した場合に、農地に対してかかる相続税、贈与税の納税を猶予する制度のことです。
猶予を受けるためには、農地を相続または贈与によって取得した者が農業を続けることや、農地を農地として貸し出すことなどの条件をクリアしなければなりません。
猶予とはいっても、ただ単に納付のタイミングを先延ばしできるだけではなく、最初の申告で納税猶予に該当し、その後取り消される要件に該当しなければ通常そのまま免除されます。
ただし、贈与税に対して納税猶予を受ける場合は全額が対象となりますが、相続税の場合猶予されるのは全額ではありません。本来かかる相続税から農業投資価格を引いた差額が納税猶予額です。
農地の納税猶予の対象となる農地と対象とならない農地とは?
納税猶予を受けるためには、対象の土地が農地でなければなりませんが、対象となる農地と対象とならない農地があるため、農地であれば全てが該当するわけではありません。どのような農地が対象となりどのような農地が対象とならないのか、それぞれ解説します。
納税猶予の対象となる農地とは
被相続人が農業を行っていた場合や特定貸付を行っていた場合で、対象の農地が以下に挙げるいずれかの条件に該当する場合は納税猶予の対象となります。
- 相続税の申告期限までに遺産分割がされている
- 贈与税の納税猶予を受けていた
- 相続が開始した年に、被相続人から生前一括贈与を受けていた
なお、牧草放牧地や準農地も該当します。上記の条件に該当する土地であれば、作物の種類に関しては問われません。
納税猶予の対象とならない農地とは
三大都市圏の特例市(区)の市街化区域内にあり、生産緑地地区内または田園住居地域内ではない農地に関しては対象とはなりません。
ただし、生産緑地地区内にある農地の場合でも、以下の場合には納税猶予の対象にはなりません。
- 買取りの申し出があった
- 特定生産緑地の指定および指定の延長がされなかった
- 特定生産緑地の指定が解除された
納税猶予の対象になるかどうかについては、確認しておきましょう。
農地の納税猶予の被相続人・相続人の適用要件は?
相続税の納税猶予を受けるためには、被相続人・相続人それぞれが適用要件を満たす必要があります。被相続人・相続人の適用要件についてそれぞれ解説します。
被相続人の適用要件
被相続人の適用要件は以下のとおりです。
- 死亡日まで農業を営んでいた
- 生前一括贈与をした
- 死亡日まで特定貸付けや認定都市農地貸付け、農園用地貸付けをしていた
適用要件を満たすには、要件すべてに該当する必要はありません。上記のうちいずれかに該当していれば、被相続人に適用されます。
相続人の適用要件
相続人の適用要件は以下のとおりです。
- 農業経営を相続税の申告期限までに開始し、その後も継続して行うことになっている
- 生前一括贈与を受けた
- 特定貸付け、認定都市農地貸付けなどを相続税の申告期限までに行った
被相続人の要件同様に、要件すべてに該当する必要はありません。上記のうちいずれかに該当していれば相続人に適用されます。
農地の納税猶予で猶予される税額はどれくらい?計算方法を解説!
納税猶予額は、通常の評価方法で算出した相続税の総額から、農業投資価格によって算出した相続税の総額を引いて求めます。
そのため相続税の総額は、まず通常の評価方法と農業投資価格を用いたものの2種類を算出しなければなりません。ここでは、納税猶予で猶予される税額の計算方法について、具体例を挙げて解説します。
通常の評価方法で相続税の総額を求めるには
通常の評価方法で相続税の総額を求める場合の手順は以下のとおりです。
- 農地の評価額の算出
- 課税遺産総額の算出
- 相続税の総額の算出
具体的な例を用いて、相続税の総額の算出方法を解説します。
はじめに行うことは、農地の評価額を算出することです。農地の評価額は固定資産税評価額×倍率で求めますが、ここでは仮に、評価額を1億円とします。
農地の評価額を算出したら、課税遺産総額を算出します。課税遺産総額は、農地の評価額である1億円から基礎控除額を引いた金額です。
基礎控除額は相続税の計算時に遺産総額から差し引ける金額のことで、金額は法定相続人の人数によって異なります。基礎控除額は、以下の計算式で算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が3名いる場合の計算式は3,000万円+600万円×3人、基礎控除額は4,800万円です。農地の評価額である1億円から基礎控除額を引き、課税遺産総額は200万円です。
課税遺産総額=1億円ー(4,800万円+600万円×3人)=5,200万円
課税遺産総額を算出したら、課税遺産総額に対する相続税額を算出します。相続税額は、課税遺産総額に相続税率を乗じ、控除額を引いた金額です。なお、相続税率は45%、控除額は2,700万円と決められています。
相続税額=1億円×45%ー2,700万円=1,800万円
農業投資価格を用いて相続税の総額を求めるには
農業投資価格を用いて相続税の総額を求める場合の手順は以下のとおりです。
- 農業投資価格の確認
- 評価額の算出
- 課税遺産総額の算出
- 相続税の総額の算出
農業投資価格は国税庁のホームページで確認できます。地域別に定められているため、対象の農地がある都道府県の価格を確認します。例えば東京都であれば、畑10a(1a=100 m2)あたり840千円です。
農業投資価格を確認したらその価格に土地面積を乗じ、農地の評価額を求めます。例えば100aの畑の場合、以下のように計算します。
農地の評価額=840千円×100a/10a=84,000千円=8,400万円
農地の評価額を算出したら、評価額8,400万円から基礎控除を引きます。そうして求められるのが課税遺産総額です。
基礎控除額は、前述のとおり3,000万円+600万円×法定相続人の数で求められます。以下は法定相続人が3名だった場合の計算式です。
課税遺産総額=8,400万円ー4,800万円=3,600万円
課税遺産総額がわかったら、相続税額を算出します。相続税額は、課税遺産総額に相続税率20%を乗じた金額から、控除額である200万円を引いて求めます。
相続税額=3,600万円×20%ー200万円=520万円
納税猶予額を算出するには
相続税の総額が算出できたら、いよいよ納税猶予額の算出です。
- 通常の評価方法で算出した相続税の総額=1,800万円
- 農業投資価格を用いて算出した相続税の総額=520万円
納税猶予額=1,800万円ー520万円=1,280万円
このように、納税猶予が適用できれば多くの猶予を受けられます。まずは納税猶予の特例が適用できるかどうかを確認しましょう。
農地の納税猶予の手続き方法を紹介!必要な書類はある?
農地の納税猶予を受けるためには、管轄の税務署に対して手続きをしなければなりません。ここでは、手続き方法や必要書類などについて解説します。
納税猶予の手続き方法
納税猶予の手続きには期限があり、被相続人が死亡した翌日から10か月以内に申告書を提出する必要があります。申告には以下の書類を添付し、納税猶予額と利子税相当の担保を提供します。
- 相続税の納税猶予に関する適格者証明書
- 相続税の納税猶予の特定貸付けに関する届出書
- 担保提供する財産の明細書、担保の提供に関する書類
適格者証明書は、土地の所在を管轄する農業委員会で取得できます。特定貸付けに関する届出書は、特定貸付けをしている場合に必要な書類です。特定貸付けがなければ必要ありません。
また、一度書類を提出すれば終わりではなく、3年ごとに税務署に対し継続届出書を提出しなければなりません。継続届出書を提出しない場合は納税の猶予が取り消され、これまで猶予されていた相続税と利子税を支払わなくてはなりません。
農地の納税猶予の猶予期間はどれくらい?
農地の納税猶予には、猶予期間が設けられています。期限は農地の種類によって異なり、すべて同じではありません。
そのため、対象の農地がどのタイプに該当するのかを確認する必要があります。農地の種類と納税が猶予される期間については以下のとおりです。
農地の種類 | 納税が猶予される期間 |
①市街化区域内にある生産緑地 | 相続人の死亡まで |
②農業振興地域や市街化調整区域内にある農地 | ・申告期限から20年 ・相続人の死亡 上記のうち早いほうが猶予期間です。 |
①②の両方を所有している場合 | 相続人の死亡まで |
農地の納税猶予における注意点!猶予が打ち切りになるケースとは?
納税猶予が適用できたとしても、場合によっては猶予が打ち切りになることもあります。猶予が打ち切りになる場合、納税猶予が全部取り消される場合と、一部が取り消される場合があります。
納税猶予が全部取り消される場合は以下のとおりです。
取消しの要件 | 納税猶予期限 |
猶予を受けた農地の20%を超える譲渡などを行った場合 ※収用などを除く | 譲渡などを行った日 |
農業経営を廃止した場合 | 廃止した日 |
継続適用の届出書が期限を過ぎても提出されない場合 | 提出期限の翌日 |
上記の場合は、納税猶予期限より2か月を経過する日までに、納税猶予を受けた税額と利子税を納付する必要があります。
また、以下の要件を満たした場合は、納税猶予の一部が取り消されます。
取消しの要件 | 納税猶予期限 |
猶予を受けた農地の20%以内の譲渡などを行った場合 | 譲渡などを行った日 |
猶予を受けた農地の収用などによる譲渡などを行った場合 | 譲渡などを行った日 |
相続税の申告期限後10年を経過する日において、納税猶予を受ける準農地で農業に利用されていない土地がある場合 | 10年を経過する日 |
生産緑地法の規定により、都市営農農地などの買取りの申し出があった場合 | 買取りの申し出があった日 |
農地が都市計画法に基づく特定市街化区域農地などに該当することとなった場合 | 告示があった日またはその事由が生じた日 |
上記の場合も、納税猶予期限より2か月を経過する日までに、納税猶予を受けた税額と利子税を納付する必要があります。
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