【相続事例】二世帯住宅の土地部分を小規模宅地等の特例に適応

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遺産相続

本連載では、相続にまつわるちょっと特殊でリアルな事例を紹介してまいります。ぜひお楽しみください。

結婚をし、子供が生まれ、そして子供が巣立っていく。

子供が巣立った後、広くなった家を見て、家を手放して以前よりも狭い家に引っ越そうと思う方は、たくさんいるかもしれません。

しかし、子どもは親と2世帯で住みたいなんて思ってないよね」ということが思い込みであるということもあります。そんなご家族のお話です。

私、山中の元に相談に来た幹雄さん(仮名)も、そんな一人でした。

幹雄さんと私の最初の出会いは、まだ新しい年が始まって間もない寒い冬のこと。

年明け早々、私の事務所に一本の電話がかかってきました。

電話の相手は懇意にさせてもらっている保険会社の営業の方でした。

「私のお客様に、お子さん二人が家を出て夫婦二人きりで住んでいる方なのですが、二人で住むには広すぎるということで、今よりも狭い家に引越しを検討している方がいらっしゃるんです。

ですが、相続の観点も含めて考えると不動産を買い替えるのがベストな選択なのかどうかちょっと疑問に思ったので、事前に山中さんのような税理士に相談した方がいいのでは?と思いまして…もしよろしければ、一度お会いしてお話を聞いていただけないでしょうか?」

営業の方からの話を聞き、私は二つ返事で幹雄さんご家族にお会いすることにしました。

電話をいただいて2週間後。

私は幹雄さんの自宅で幹雄さんご本人と奥様、そして当日ちょうど予定の空いていた長男の3人でお話をすることになりました。

「この度はお忙しい中、お時間を設けてくださりありがとうございます」

家に着くなり、開口一番に幹雄さんの奥様が私に声をかけてくださいました。

そんな奥様を見て、幹雄さんは「どうも」と軽く会釈をするだけでした。

幹雄さんは、「なぜ、引っ越すことを決めたのに税理士がわざわざ家にやってくるのか」と言わんばかりに、腑に落ちていない様子で居間の椅子に腰かけていました。

メンバーが揃い、少し緊張感のある中、改めて幹雄さんの家庭事情をお伺いすることにしました。

幹雄さんは元々奥様、長男、次男の4人暮らしをしていました。

しかし、長男は4年前に、次男は昨年結婚をし、今住んでいる一軒家の自宅で幹雄さんと奥様の二人暮らしになりました。

「この一軒家に夫婦二人で住むなんて、あまりにも広すぎるような気がして。最近できた駅近のマンションに引っ越した方が二人で住むにはいいのかしら、なんて主人と話していたんです」

奥様は早口で話をしました。

「けど保険屋さんに話したら、もう少し選択肢があんじゃないかっておっしゃって。それで山中さんをご紹介されました。」

と続けて話をする奥様。

幹雄さんは表情を変えずにただ黙っているだけだったのですが、奥様が「ね、そうよね?あなた」と声をかけると、「あ、あぁ」とようやく声を出しました。

「なるほど、そういうことでしたか」

私がそう答えると、幹雄さんはゆっくりと口を開き、

「今の時点で、この家を売って新しいマンションに引っ越すことはほぼ決まっている。だから、税理士さんに話すことなんてあるかな?と思っているのが本音なんだ」

とおっしゃいました。

ですが、私は気にしながらも構わずこう伺いました。

「お伺いしたいのですが、幹雄さんと奥様はご自身たちの老後をどのようにして欲しいか、お子様にお話ししたことはございますか?」

と質問をしました。

「家の話をしに来たんじゃないの?」と幹雄さんご夫婦は少し拍子抜けした表情をしていましたが、

「老後のこと…今までそんな話、子供たちにしたことないです」

と奥様は小さな声で答えました。

どうやらご主人も同じだったようで、奥様が「あなたもそうよね?」と幹雄さんに聞くと、「あぁ」と静かに答えました。

「ご夫婦の老後は老人ホームなどの施設で過ごしたいのか家で過ごしたいのか、もし命が危ない状況になったら延命治療を希望するのかしないのか。このようなお話し合いは、元気なうちにしかできないので、今のうちにお子様にどうして欲しいのか伝えておくことはとても大切です」

私がそう話すと、幹雄さんご夫婦の表情が一気に変わり、「確かにそうよね」と納得された様子でした。

「実は、このご自宅の売却に関しても同じことが言えます。この家を売る場合、家は長男、次男どちらが引き継ぐのか。まだ決まっていないとなると、これについても話し合う必要があります」

「そんなこと…大変お恥ずかしいのですが、まだ決めていませんでした」

奥様はぽつりと小さな声で答えました。

「ではまずは家の話の前に、幹雄さんご夫婦がどんな老後を過ごしたいのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

私が尋ねると、奥様は

「私は、元々周りに迷惑をかけたくないと思うから、施設などに入れてくれて構わないと思っています」

ときっぱりと答えてくれました。

「あなたはどうなの?」

奥様が幹雄さんに尋ねると、幹雄さんは

「お前がそう思っているなら、俺も一緒で構わない」

と言葉少なに答えてくれました。

幹雄さんが答えた後、奥様は幹雄さんの答えにかぶさるようにして

「だって、今時親夫婦と一緒に住みたい子供なんていないじゃないですか。だったら、子どもたちに世話をかけないためにも、私たちは私たちで、子供たちは子供たちで住んだ方がいいじゃないですか」

と笑顔で話をしました。

私は、そんな二人の返答を聞いていた長男は実際どう思っているのか、聞いてみたいと思いました。

すると長男は、

「俺は…、俺は父さんと母さんと離れて暮らして心配するくらいなら、一緒に住みたいと思っている」

と答えたのです。

想像していなかった返答に、幹雄さんご夫婦はかなり驚いたようで、一瞬部屋には沈黙の時間が流れました。

「ちょっと、あんた。それ本気で言っているの?」

奥様が長男に問いかけると、長男は

「実はずっと前から、父さんと母さんに何かあったらすぐ駆け付けられないから、いつか一緒に住めたらいいなと思っていたんだ。俺は本気で思っているよ‼︎」

と大きな声で答えました。

話を聞くと、長男が今住んでいるところから幹雄さん夫婦の家まで車で数時間かかるところに住んでいました。

そのため、何かあったときにすぐに駆けつけることができないことをずっと気にしていたというのです。

また、長男ご夫婦は元々共働きをしており、長男の奥様はそろそろ職場復帰をしたいと思いながらも子供の保育園がなかなか決まらず、職場復帰したくてもできない状況に陥っていました。

「一緒に住めば父さん母さんに子供を預けて嫁も働きに出れるし、何かあってもすぐにかけつけることができるだろ?それにこの思い出深い家を手放すより、このまま思い出を作った方がいいと俺は思うんだ」

そう話す長男に、奥様は少し目に涙を溜めながら

「そんな風に思っていたなんて、考えてもみなかった…」

と声を震わせながら答えました。

そんな親子のやりとりを見ていた私は、マンションを購入するお金で家を二世帯にリフォームして住むことを提案しました。

実は、二世帯住宅にすることは相続税の節約にもつながります。

なぜ節約につながるのかというと、二世帯住宅の土地部分を小規模宅地等の特例に適応できる可能性が高いためです。

小規模宅地等の特例というのは、一定の要件に当てはまる土地を相続した場合、相続税評価額を最大80%減額できるというものです。

「けどそれって、建物や間取りの制限などはないかい?」

幹雄さんが私に質問をしてきました。

「結論から申し上げると、数年前より小規模宅地等の特例が適用となる二世帯住宅の間取りには制限はありません。玄関が別でも一緒でもどのタイプの二世帯住宅でも適用が可能になります」

「そうなんですね!でしたらリフォームして二世帯にした方がお得じゃない‼︎玄関が一つの二世帯だとお互い気を使うからちょっとなぁ、と思うけど、玄関が別の二世帯ならいい距離感で住むことができそうじゃない‼︎」

と喜びながら話す奥様。

幹雄さんも声には出さないものの、少し和らいだ表情で話を聞いてくださいました。

まずは次男に長男が家を引き継いでいいのかどうか話をしなければということになり、後日、次男にも長男の思いを伝えにいきました。

話を聞いた次男夫婦は快く長男の思いを受け止めてくれ、晴れて幹雄さん夫婦と長男夫婦の二世帯で今まで住んでいた家をリフォームをして、幹雄さん夫婦と長男家族で住むことが決まりました。

翌年、仕事始めの日に事務所のポストを覗いてみると、幹雄さんの住所から年賀状が届いていました。

そこには、奥様の字で

「まさか孫と同居する日が来るとは思っていませんでしたが、孫が元気すぎてこちらもこれまで以上に元気になっています」

と一言添えられていました。

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この記事を監修したのは…

山中 朋文

税理士法人bestax代表

山中 朋文(やまなか ともふみ)

税理士とは「税の専門家」であると同時に「企業や事業主のホームドクター」であるべき、と考えています。そのために日常的な事象についての相談があった時に、即座に対応できるシステムを構築し、その体制を維持することが大事です。お客様に対し私を窓口として、あらゆるサービスをご提供できる「ワンストップサービスの会計事務所」にしたいと願っております。

サイトURL:https://bestax.jp/index.html

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