個人事業主が死亡した場合の事業継承は?必要な手続きについて解説!
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死亡した個人事業主の事業継承はどのように可能?手続きの流れも解説!
個人事業主とは個人で事業経営をしている方々のことです。事業主が事業経営の途中で亡くなった場合、まず遺族がその事実を市区町村役場等へ報告しなければいけません。次のような流れで手続きを進めていきます。
1.個人事業主の死亡を確認
2.個人事業主の死亡を届け出て、廃業の手続きを行う
3.故人の事業を引き継ぐ場合、改めて開業届出等を行う
4.承継手続きの完了
個人事業主の死亡届・廃業届等の提出
個人事業主が死亡したとき、市区町村役場への死亡届はもちろん遺族の誰かが故人の事業を引き継ぐ場合でも、所轄の税務署へまずは、廃業届を提出する必要があります。
また、遺族の方々は、たとえ亡くなった個人事業主の事業に関係していなくても、法定された期間内に次の届出を済ませる必要があります。
・死亡届
・廃業届出
・事業廃止届出
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
※詳しくは後の章にて解説
なお、死亡や廃止の報告だけではなく、亡くなった個人事業主の収入に対する確定申告手続きである「準確定申告」も行います。準確定申告は相続人全員が書類に連署・押印するので、相続人間で協力し合う必要があるでしょう。
事業を引き継ぐ場合の手続き
亡くなった個人事業主の事業を引き継ぐ場合、通常の開業手続きを進めていきます。開業届出を提出時に、亡くなった個人事業主の屋号を明記すれば引き継ぎができます。必要な届出は次の通りです。
・開業届出
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
・青色申告承認申請
※詳しくは後の章にて解説
故人の使用していた屋号を無理に承継する必要はありませんが、全く異なる屋号を用いると以前より贔屓にしてもらっていた顧客から「別の店になった」と誤解されてしまうおそれがあります。これからも馴染みの顧客を大切にしたいなら、前もって事情を説明するか屋号は変更しない方が無難です。
個人事業主が死亡した場合の相続手続きの流れや注意点は?相続人数や債務残高を確認!
亡くなった個人事業主の経営が順調だったかどうかで、相続人が進める手続きに影響が出てきます。経営状態のチェックは特に重要で、次のような流れで行います。
1.遺言書の有無を確認、相続人の把握
2.個人事業主の財産や経営状態のチェック
3.事業の引き継ぎや単純承認もしくは相続放棄するか等を決める
遺言書の有無や相続人を把握する
まずは亡くなった個人事業主が遺言書を作成しているかどうか確認します。基本的には記載された遺言内容で相続人の遺産分与を進めていきます。
ただし、遺言書の内容が例えば「全ての遺産を配偶者へ譲る」というような内容の場合、その他の相続人から遺留分侵害額請求権を行使されるおそれがあります。
遺留分とは相続人に最低限保証される遺産取得割合であり、遺言書があっても無視できない権利です。
一方、遺言書が無い場合は法定相続人を確定しなければいけません。亡くなった個人事業主の本籍地の市区町村役場で出生から死亡までの戸籍謄本を収集しましょう。
配偶者と子供しか法定相続人にならないような場合は不要と考えられることが多いですが、故人に離婚歴があるなら、前妻との間に子供のいるケースもあります。
前妻との間の子供には相続権があるため、その存在を知らずに遺産分割してしまうと、後日、分割をやり直す事態も想定されます。
個人事業主の財産や経営状態を確認
亡くなった個人事業主が所有していた土地・建物や預貯金等の他、経営状態も確認しましょう。どんなにプラスの財産があっても、赤字経営で多額の債務(借金・未払金等)が残っているケースが想定されるためです。
経営状態によっては、相続した財産で返済できないような債務額にまで膨らんでいる場合があるので注意しましょう。
財産調査は相続人全員で手分けして行っても構いませんが、行政書士のような士業専門家に任せた方がスムーズです。
財産調査等を踏まえ、どのように手続きを進めるか決める
債務がわずかで経営状態も良好、まとまった財産が確認できたら、相続人の誰かが事業の引き継ぎをしても、相続人全員が単純承認(プラスの財産の他、借金等も相続する方法)しても構いません。
しかし、借金等が多い場合は無理に事業を引き継ぐ必要はなく、相続を放棄する方法も検討しましょう。相続放棄は借金等の他にプラスの財産も相続しない方法です。この方法は相続人単独で行えますが、他の相続人に前もって意思表示をしておきましょう。
そうしないと他の相続人から「借金を押しつけられた」と誤解され、トラブルに発展するかもしれません。
相続人全員で合意できる場合は限定承認が可能です。限定承認は相続したプラスの財産で相殺可能な分だけ借金等を相続する方法です。赤字経営でも先代が守ってきた事業を引き継ぎたい場合、大幅に債務を減らせるので有効な手段と言えます。
個人事業主が死亡した場合に必要な届出は?廃業届や事業廃止届の提出が必要!
死亡届や廃業手続き、事業を引き継ぐためには様々な手続きが必要です。各届出は期限がそれぞれ違うので注意しましょう。
個人事業主の死亡した場合の手続き
事業を引き継ぐ意思のある相続人がいる場合でも、廃業届を提出する必要があります。下表を参考にしてください。
届出書類 | 提出先 | 提出期限 |
死亡届 | 次のいずれかの市区町村役場 ・故人の本籍地・死亡地・届出人の住所地 | 亡くなった事実を知った日から7日以内 |
廃業届 | 納税地を管轄している税務署 | 廃業日から1カ月以内 |
事業廃止届 ※消費税課税事業者のみ | 納税地を管轄している税務署 | 明確な期限指定はなく、「速やかに」提出 |
個人事業者の死亡届 ※消費税課税事業者のみ | 納税地を管轄している税務署 | 明確な期限指定はなく、「速やかに」提出 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届 ※従業員・事業専従者等に 給与を支払っていた場合のみ | 納税地を管轄している税務署 | 廃業日から1カ月以内 |
準確定申告書 | 納税地を管轄している税務署 | 相続の開始があったことを知った日の翌日~4か月以内 |
事業を引き継ぐための手続き
事業を引き継ぐ手続きの中で青色申告承認申請に注意しましょう。個人事業主の死亡した日によって提出期限が異なってくる場合もあります。
届出書類 | 提出先 | 提出期限 |
開業届出書 ※引き継ぐ人が新たに開業する場合 | 納税地を管轄している税務署 | 死亡日から1か月以内 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 ※従業員・事業専従者等に給与を支払う場合のみ | 納税地を管轄している税務署 | 死亡日から1か月以内 |
青色申告承認申請書 | 納税地を管轄している税務署 | ケースにより異なる |
所得税の青色申告承認申請書は、事業を引き継ぐ人が以前から個人事業主でなかった場合、納税地を管轄している税務署に申請する書類です。提出期限は原則として青色申告書で申告をしようとする年の3月15日までです。
ただし、青色申告の承認を受けていた個人事業主の死亡日によって提出期限が異なります。
死亡日 | 提出期限 |
1月1日~8月31日 | 死亡日から4か月以内 |
9月1日~10月31日 | その年の12月31日まで |
11月1日~12月31日 | その年の翌年の2月15日まで |
なお、白色申告していた被相続人の事業を引き継いだ場合は次の通りです。
事業を引き継いだ日 | 提出期限 |
その年の1月15日までに引き継いだ場合 | 青色申告の承認を受けようとする年の3月15日まで |
その年の1月16日以降に引き継いだ場合 | 引き継いだ日から2か月以内 |
個人事業主が死亡した場合、事業用の口座はどうなる?個人の口座と同様に凍結される!
金融機関は亡くなった個人事業主の親族から死亡の事実を知らされた場合、基本的に個人の口座であっても、事業用口座であっても凍結します。
これ以後、他の相続人から勝手に預金が引き出される心配はないものの、凍結口座から従業員等への給料の支払いや事務所の家賃の支払いもできなくなります。凍結を解除するには、相続人間で迅速に事業の引き継ぎや遺産の分与等を決定する必要があるでしょう。
事業の承継の際に発生する税金について解説!
相続が発生した場合、亡くなった個人事業主の事業を引き継いだ場合、いずれも税金は課せられてしまいます。主に課税される可能性のある税金は次の通りです。
相続税
相続の際に発生する税金で、申告・納付の期限は亡くなった個人事業主の死亡日の翌日から10ヶ月以内です。ただし、プラスの財産は多くても債務があればその分を差し引けます。
更に相続税の基礎控除「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」であり、課税価格が基礎控除分を超えなければ、申告も納税も不要です。
相続が発生したからといって、必ず相続税が発生するわけでは無いので慎重にプラスの財産と債務を調査しましょう。
所得税
個人事業主は1年間に生じた所得の確定申告を行う必要があり、毎年2月中旬から3月中旬までに手続きを行い所得税を納付します。
こちらの申告方法には税務署の窓口申告・郵送申告の他、電子申告(e-Tax)も利用できます。青色申告をe-Taxで行う場合は65万円の特別控除が適用されます。
その他の税金
亡くなった個人事業主から事業を引き継いだ人に必ず課せられるわけではないですが、例えば先代の2年前の年間課税対象となる売上高が1,000万円を超えていた場合、引き継いだ1年目から消費税の納税義務が生じます。
また、先代の所有していた土地・建物を引き継いだ場合、固定資産税・都市計画税が課せられます。固定資産税は原則として税率1.4%かかり、都市計画税は0.3%が上限です。
個人事業主の相続対策は?法人化、事業継承税制の活用、生前贈与等の対策が有効!
個人事業主は亡くなる前に、いろいろな方法で節税対策を講じることが可能です。
①個人事業の法人化
法人化により事業用資産は会社のものとなるので個人用資産と区分できます。会社の株式自体は相続税の対象ですが、法人の株式の相続は事業用口座が凍結されることはなく、遺産分割がしやすいメリットがあります。
②個人版事業承継税制
青色申告をしていた個人事業主の事業が引き継がれた場合、その事業用資産の相続税・贈与税が軽減される制度です。一定の条件に合致し都道府県知事の認定を受ければ、贈与税または相続税100%猶予または免除されます。
③生前贈与
生きている間に家族へコツコツ財産を贈与する方法です。贈与税の基礎控除は受贈者1人につき年間110万円です。1年で贈与額を110万円以下に抑えれば、原則として受取人へ贈与税がかかりません。
なお、亡くなった個人事業主の相続手続きや事業の引き継ぎで不明点や悩みがあれば、相続の専門資格者である「相続診断士」に相談してみましょう。有益なアドバイスが期待できます。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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