認知症で特例が使えなくなるリスクと二次相続対策の遺言事例|【実録】「実家2億円」で相続税破産
「元気なうちに対策しないとマズい」友人の言葉に背中を押された50代長女。資産2.5億円の相続税対策において、最大の敵は「税率」ではなく「親の認知症」でした。数千万円の差が出る「二次相続」シミュレーションと遺言活用法を解説します。
「元気なうちに対策しておかないといけないって、友人から聞いたんです。……うちは大丈夫でしょうか?」
相談室のソファに浅く腰掛けた50代の女性(Fさん)は、不安そうに両手を握りしめていました。
Fさんは一人娘で、現在はご両親とは別居し、共働きで忙しい日々を送っています。
ご両親はご健在ですが、お父様は最近足腰が弱り、入退院を繰り返しているとのこと。
そして、Fさんの不安の種は、都内一等地に建つ「ご実家」でした。
実家の評価額はなんと2億円。預金の5,000万円と合わせると、資産総額は2.5億円にのぼります。
「もし父に万が一のことがあったら、私は相続税を払えるんでしょうか? 実家を売らないといけなくなるんでしょうか?」
漠然とした、しかし巨大な不安。
Fさんの直感は正解でした。プロの目から見ると、Fさんのご家庭は「ある条件」が重なると、税金で資産が吹き飛びかねない危険な状態だったのです。
この記事では、資産家の相続において最大の落とし穴となる「認知症リスク」と「二次相続(にじそうぞく)」を、緻密なシミュレーションで乗り越えた解決事例をご紹介します。
Contents
1. プロの診断:最大のリスクは「税額」ではなく「認知症」
Fさんは「相続税が高すぎて払えないこと」を心配されていました。もちろんそれも問題ですが、専門家である司法書士が気になったのは別の点です。
当時の会話を振り返りながら、プロがどこに「マズさ」を感じたのか解説します。
専門家(司法書士):
「Fさん、資産額が大きいので確かに相続税は高額になります。ですが、一番怖いのは『税金の計算』ではありません。『お母様の健康状態』です」
Fさん:
「母の健康、ですか? 母は今のところ元気ですが……」
専門家(司法書士):
「もし、お父様が亡くなった時、ショックや加齢でお母様が認知症になっていたらどうなると思いますか?」
Fさん:
「えっ……? 介護が必要になる、ということでしょうか」
専門家(司法書士):
「それだけではありません。認知症で判断能力がないと、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)ができません。すると、後見人をつけることになりますが、後見人がつくと『柔軟な節税対策』が一切できなくなるのです」
なぜ「認知症」だと実家を失うのか?
相続税には「小規模宅地等の特例」という、土地の評価額を最大80%減額できる強力なルールがあります。これを使えば、2億円の土地も4,000万円の評価で済むかもしれません。
しかし、この特例を使うには「誰が、どう相続するか」を自由に決める必要があります。
もしお母様が認知症になり、成年後見人がつくと、「法定相続分(権利通りに半分ずつ)」で分けることが原則となり、「特例を使って税金を安くするような分け方」ができなくなるリスクがあるのです。
専門家(司法書士):
「つまり、対策なしでお母様が認知症になると、税金が安くなる特例が使えず、最高税率での支払いを求められ、結果として実家を売却せざるを得なくなる可能性があるんです」
【セルフチェック】あなたの親御さんは大丈夫?認知症リスクのサイン
ここで読者の皆様も確認してみてください。もし以下の項目にひとつでも当てはまる場合、将来、遺産分割の話し合いができなくなり、節税対策がストップするリスクがあります。
- [ ] 最近、同じ話を何度も繰り返すようになった。
- [ ] 「財布がない」「通帳がない」と物を探すことが増えた。
- [ ] 料理の味付けが変わった、または料理自体をしなくなった。
- [ ] 以前は興味があった趣味や外出をおっくうがるようになった。
- [ ] 怒りっぽくなった、または逆に無気力になったように感じる。
- [ ] 不動産の権利証や実印の保管場所を把握していないようだ。
2. 解決のプロセス:シミュレーションで「二次相続」も守る
「まさか、そんな落とし穴があるなんて……」と青ざめるFさん。
しかし、まだお二人ともご存命です。対策を打つ時間は残されていました。
ステップ1:徹底的なシミュレーション(一次相続+二次相続)
資産家の場合、今回の相続(一次相続:父死亡)だけでなく、将来の相続(二次相続:母死亡)まで計算しないと、トータルで大損をします。
私たちは提携税理士と協力し、以下の比較シミュレーションを行いました。
- A案:とりあえずお母様に全財産を渡す(配偶者控除の活用)
- 一次相続税は0円だが、二次相続でお母様の財産が膨れ上がり、莫大な税金がかかる。
- B案:Fさん(娘)にも実家の一部を相続させる
- 一次相続税は発生するが、小規模宅地等の特例をフル活用し、トータルの税額を圧縮する。

専門家(司法書士):
「以下の比較表をご覧ください。計算の結果、B案の方が、トータルで数千万円も手元に残るお金が多いことが判明しました」
| 項目 | A案:とりあえず母に全財産(配偶者控除をフル活用) | B案:娘にも実家の一部を相続(小規模宅地等の特例を活用) |
| 一次相続税額(父死亡時) | 0円 (配偶者の税額軽減により) | 約1,500万円 |
| 二次相続税額(母死亡時) ※概算 | 約6,000万円 (母の財産が膨れ上がるため) | 約2,500万円 (母の財産が圧縮されているため) |
| トータル相続税額 | 約6,000万円 | 約4,000万円 |
| 最終的な手残り財産の差 | 基準 | 約+2,000万円 (B案の方が有利!) |
| <small>※上記はシミュレーションに基づく概算です。実際の税額は評価額や控除の適用状況により異なります。</small> |
ステップ2:遺言書による「意思の固定」
次に必要なのは、この最適な配分を確実に実行するための「遺言書」です。
遺言さえあれば、もし将来お母様が認知症になっても、話し合い(遺産分割協議)をせずに遺言通りに手続きが進められるため、特例を確実に適用できます。
Fさん:
「父に遺言を書いてもらう必要がありますね。でも、父は今、入院中で……」
ここが一番の難所でした。
お父様は足が不自由で、体調も万全ではありません。公証役場へ行くのも難しい状況でした。
専門家(司法書士):
「諦めるのはまだ早いです。公証人に病院まで出張してもらいましょう」
私たちは急いで手配を進めました。お父様の体調が良い日を見計らい、公証人に病室まで来てもらい、口述筆記で公正証書遺言を作成しました。
お父様も「これで家族が守れるなら」と、力を振り絞って手続きに応じてくださいました。
3. 結末:数年後の相続、そして「安心」
対策から数年後、お父様は安らかに息を引き取られました。
悲しみの中ではありましたが、相続の手続きは驚くほどスムーズでした。
遺言書があったため、残されたお母様の判断能力を心配して慌てる必要もなく、シミュレーション通りの遺産分割が実行されました。
結果、相続税は最小限に抑えられ、Fさんは実家を手放すことなく相続することができました。
「あの時、先生に相談していなかったら……今ごろどうなっていたか想像するだけで怖いです。父が頑張って遺言を残してくれたおかげで、母も私も、住み慣れた家で思い出を守ることができました」
Fさんの言葉には、資産を守りきった安堵感が滲んでいました。
4. 専門家(司法書士)からのアドバイス
「相続税の対策は『生前』にしかできない」
今回の事例から学べる教訓は一つです。
「亡くなってからでは、税金は1円も減らせない」ということです。
特に今回のように、
- 資産規模が大きい(不動産の割合が高い)
- 配偶者が高齢である
- 子供が一人っ子である
といったケースでは、事前のシミュレーションと遺言の有無が、手元に残る財産額を数千万円単位で変えてしまいます。
「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安を感じたら、ご両親が元気なうちに、私たち専門家にご相談ください。
あなたの家族と資産を守るための「最適解」を、一緒に導き出しましょう。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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この記事を監修したのは…
司法書士、相続アドバイザー、FP
成田 拓実(なりた たくみ)
港区南麻布に事務所を構えております、司法書士の成田と申します。不動産に関する相続登記をはじめ、銀行口座、証券口座の相続、家族信託、裁判所の関わる相続放棄や、未成年者が相続人に含まれる場合の手続き、さらには会社の社長がお亡くなりになった場合の株の相続や会社の解散清算手続きなど幅広く対応しております。
