被相続人が亡くなる前(生前)に相続放棄をした場合どうなる?実例を弁護士が解説

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遺産相続

兄の弁護士から、思いもよらない連絡が

友子さん(仮名)は兄と二人兄弟であり、母は数年前に他界しましたが、父は存命です。友子さんと父の関係は良好ですが、兄と父は長年不仲が続いています。

兄はことあるごとに「親父のことは嫌いだから、亡くなったとしても遺産なんていらない」と言っていました。父も兄には遺産を渡したくないと考えていましたが、「遺言書を作るのは面倒だ」と言って、遺言書を作成することはありませんでした。

友子さんは、父が亡くなった後に兄が前言を撤回し、遺産を要求してくるかもしれないと心配になりました。そこで、友子さんは、兄に相続放棄の念書を書いてもらうことにしました。

友子さんが兄に連絡したところ、兄は念書を書くことを了承し、「相続放棄します」という内容の念書に署名・捺印をしてもらうことができました。「これで父の遺産が兄に渡ることはない」と友子さんは一安心しました。

その数年後、父は他界しました。

友子さんが父の遺産を調査したところ、父に借金はなく、A銀行に4,000万円の預金があることが判明しました。友子さんは、兄が念書によって相続放棄しているため、相続人は自分一人であり、4,000万円は全て自分が取得できると考えました。

父の葬儀等を終えた友子さんは、預金の払戻しに必要な戸籍謄本や自身の印鑑登録証明書を準備し、念書と一緒にA銀行に提出しました。「これで預金の相続手続は完了した」友子さんはそう肩をなでおろしました。

しかし、A銀行の担当者から思いもよらないことを言われます。「お客様が預金を払い戻すには、相続人であるお兄様の同意が必要です」友子さんは耳を疑いました。

「兄は念書で相続放棄をしているので相続人ではないはずです」友子さんがそう言っても、A銀行の担当者は取り合ってくれませんでした。

数日後、友子さんのもとに兄の代理人を名乗る弁護士から「遺産分割協議申入書」という書面が届きました。その内容は、相続人である友子と兄で遺産分割協議をしたいというものでした。

不安になった友子さんは、弁護士に相談することにしました。

相続開始前に“あらかじめ相続放棄”はできないのか?

友子さんの兄は、父の生前に、相続放棄することを約束していますが、被相続人の生前にあらかじめ相続放棄をすることはできるのでしょうか?

民法では、相続放棄をする場合、自己のために相続開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければならないと定められています(民法第915条第1項、第938条)。

このように、相続放棄は、法律上、被相続人が亡くなって相続が開始した後に行われることが想定されています。したがって、相続開始前にあらかじめ相続放棄をすることはできないと考えられています。

それでは、口頭の約束だけでなく、相続放棄をするという念書や契約書を作成していた場合はどうでしょうか?

このような場合でも、相続開始前に相続放棄をすることはできず、念書や契約書に法律上の効力はありません。

以上から、兄が作成した念書によって相続放棄の効力が発生することはなく、父の死後に兄が家庭裁判所で相続放棄の手続をしない限り、兄も相続人となります。被相続人の生前に相続放棄の約束を取り付けておくことで相続放棄の効力が生じると誤解している方がしばしば見られますが、注意が必要なところです。

法定相続分はそれぞれ「2分の1」になるが…

兄が相続人になるとすれば、相続人は友子さんと兄の二人ということになります。

友子さんと兄の法定相続分(相続の割合)はそれぞれ2分の1です(民法第900条第4号)。相続人が複数おり遺言書がない場合、相続人全員の同意を得るか遺産分割協議を行わない限り、原則として預金の払戻手続を行うことはできません。

友子さんの法定相続分は2分の1ですが、父の預金4,000万円の2分の1である2,000万円についても単独で払戻手続を行うことはできません。

したがって、父の預金を払い戻すためには、友子さんと兄で遺産分割協議を行う必要があり、協議がまとまらない場合は、遺産分割調停や遺産分割審判といった家庭裁判所の手続を経なければなりません。

「特定の相続人に遺産を渡さない」のは、簡単なようで難しい

それでは、父が兄に財産を渡すことなく友子さんに全財産を渡したいと考えた場合、どのような方法があり得るのでしょうか?

考えられるのは、父が「全ての財産を友子に相続させる」という内容の遺言書を作成しておく方法です。このような遺言書があれば、友子さんが単独でA銀行の預金の払戻手続を行うことができると考えられます。

ただし、このような遺言書は兄の遺留分を侵害するものである点に注意が必要です。

遺留分とは、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、兄弟姉妹以外の相続人に認められています。遺留分を侵害された者は、侵害している者に対して、遺留分侵害額請求権を行使し、侵害額に相当する金銭の支払を求めることができます(民法第1046条第1項)。

「全ての財産を友子に相続させる」という遺言書がある場合、兄は遺産の4分の1である1,000万円の遺留分を有しているため(民法第1042条)、遺留分侵害額請求権を行使して、友子さんに対して、1,000万円の支払を求めることができます。

父の生前に、家庭裁判所の許可を得て、兄に遺留分を放棄してもらうことは可能ですが(民法第1049条第1項)、兄がこれを拒否する可能性があります。そこで、遺言書で遺留分侵害額請求権を行使しないようお願いしておく方法がとられることもあります。

以上のように、特定の相続人に遺産を渡さないという希望を実現するのは、簡単なようで難しいものです。個々のケースに応じてとり得る方法も異なるため、専門家に相談して対策することが重要でしょう。

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この記事を監修したのは…

三上 貴規

日暮里中央法律会計事務所 代表弁護士

三上 貴規(みかみ たかき)

当事務所は、日暮里駅より徒歩5分、弁護士と公認会計士・税理士が在籍する法律会計事務所です。
相続問題をはじめとする一般民事事件に注力しております。
代表弁護士は、朝日新聞「わが家の相続会議」に「ソーゾク博士」として登場したこともございます。

サイトURL:https://www.nc-lao.com/

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