【弁護士監修】相続放棄は亡くなる前に可能?最新の生前対策を全解説

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遺産相続

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相続放棄は亡くなる前(生前)にできる?結論と法的根拠

結論:生前の相続放棄は法律上できない

被相続人が亡くなる前に相続放棄をすることはできません。

具体例で考えます。友子さん(仮名)は兄と二人兄弟で、父が存命。兄は父と不仲で「遺産はいらない」と口にし、父も兄に渡したくないと考えていましたが、遺言書はありませんでした。

そこで友子さんは兄に「相続放棄します」という念書に署名・捺印してもらいました。数年後、父が他界。財産はA銀行の預金4,000万円のみで借金はなし。友子さんは念書と戸籍謄本を銀行に提出しましたが、「払い戻しにはお兄様の同意が必要」と告げられ、後日、兄の代理人弁護士から遺産分割協議申入書が届きました。生前の念書では兄の相続権を消せなかったのです。

なぜできない?民法の条文から解説(民法第915条)

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第915条第1項、第938条)。相続放棄は相続開始後に行うものであり、開始前にあらかじめ放棄することはできません。

相続放棄の申述受理件数は増加傾向で、2024年(令和6年)の受理件数は308,753件で、さらに増加しています(出典:最高裁判所「司法統計年報」)。

生前に書いた「相続放棄の念書」に法的な効力はあるのか?

念書や契約書を作成していても、相続開始前の相続放棄はできず、これらに法的効力はありません。

友子さんの例でも、父の死後に兄が家庭裁判所で相続放棄をしない限り兄も相続人です。友子さんと兄の法定相続分はそれぞれ2分の1(民法第900条第4号)。遺言書がなければ相続人全員の同意か遺産分割協議がなければ預金の払戻しはできず、友子さんは自分の取り分2,000万円すら単独で引き出せません。

ただし遺産分割前でも、相続預貯金の払戻し制度により、同一金融機関で法定相続分の3分の1かつ150万円を上限に単独で払戻しを受けられます(民法第909条の2)。

【相続人向け】親の借金を相続したくない…亡くなる前にできる生前対策

対策① 親に債務整理をしてもらう(任意整理・個人再生・自己破産)

借金を生前に整理してもらう方法です。

  • 任意整理:債権者と交渉し利息カットや返済額を見直す
  • 個人再生:裁判所を通じ借金を大幅減額、原則3年(最長5年)で返済
  • 自己破産:返済不能な借金を裁判所の手続きで免責

存命中に借金を圧縮・免責できれば、相続時のマイナス財産が減少します。本人の同意が前提のため、早めの話し合いが重要です。

対策② 生命保険を活用する(受取人固有の財産となる仕組み)

受取人指定のある生命保険金は受取人固有の財産で、原則として遺産分割の対象になりません。保険契約に基づき受取人が固有の権利として取得するためです。相続放棄をしても生命保険金は受け取れます。

ただし相続放棄をすると「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は使えません(相続放棄者は相続人とみなされないため)。生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になります。

例外として最高裁は、保険金額や遺産総額に対する比率などから「到底是認できないほど著しく不公平」な特段の事情がある場合、特別受益に準じて持ち戻す対象になりうると判断しています(最高裁 平成16年10月29日決定)。

対策③ 遺留分放棄の手続きをする(家庭裁判所の許可が必要)

被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得れば、推定相続人は遺留分を放棄できます(民法第1049条第1項)。ただし放棄するのは「遺留分」であり、相続権そのものは失いません。後述の遺言書とセットで効果を発揮します。

【比較】相続放棄と遺留分放棄の違いとは?

項目 相続放棄 遺留分放棄
生前の手続き できない 家庭裁判所の許可で可能
効果 相続人でなくなる(全て承継しない) 遺留分侵害額請求権のみ放棄(相続権は残る)
手続き先 家庭裁判所(相続開始後) 家庭裁判所(生前)
期間 相続開始を知った時から3ヶ月以内 期限の定めなし

【被相続人向け】特定の人に財産を渡したくない…亡くなる前にできる生前対策

対策① 遺言書を作成する(「特定の者に相続させる」旨の遺言)

「全ての財産を友子に相続させる」といった遺言書があれば、受け取る相続人が単独で預金の払戻しを行えます。

ただし他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分は被相続人の財産から法律上保障される最低限の取り分で、兄弟姉妹以外の相続人に認められます。侵害された者は遺留分侵害額請求権を行使し、侵害額相当の金銭の支払を求められます(民法第1046条第1項)。

友子さんのケースで「全財産を友子に相続させる」遺言があれば、兄は遺産の4分の1である1,000万円の遺留分を有し(民法第1042条)、友子さんに支払を求められます。

遺留分侵害額請求権は、相続開始および侵害する贈与・遺贈を知った時から1年間、または相続開始から10年間で時効消滅します(民法第1048条)。対策として、生前の遺留分放棄や、遺言書での付言が用いられます(付言に法的拘束力はありません)。

対策② 生前贈与を活用する(贈与税・遺留分計算への影響に注意)

特定の相続人に生前に財産を渡す方法です。注意点が2つあります。

1. 贈与税:暦年課税では年間110万円の基礎控除を超える贈与に贈与税がかかる

2. 遺留分計算への影響:相続人への一定の生前贈与は遺留分算定の基礎財産に含まれ、遺留分侵害額請求の対象になりうる

遺留分算定では、相続人への生前贈与は原則として相続開始前10年間のもの(婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本としての贈与)が基礎財産に算入されます(民法第1044条第3項)。双方が遺留分権利者に損害を加えると知って贈与した場合は期間制限なく算入されます。

また2024年1月1日以降の暦年課税贈与は、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税価格に加算されます(改正前は3年以内。延長された4年分は総額100万円まで加算対象外)。

対策③ 推定相続人の廃除を申し立てる(認められるケースとは)

相続人による虐待・重大な侮辱・著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所に「推定相続人の廃除」を申し立て、相続権を奪えます(民法第892条)。遺言でも行えます(民法第893条)。対象は遺留分を有する推定相続人で、兄弟姉妹は対象外です。

認められた例:長男がヤミ金融から多額の借金を重ね、父親が20年以上過酷な取り立てを受け苦痛を被ったケースで「著しい非行」として廃除を認めました(神戸家裁伊丹支部 平成20年10月17日審判)。

一方、父が長男の妻との不和を理由に申し立てたケースでは、長男自身の虐待・侮辱はなく、妻との不和は婚姻関係の問題で長男に帰責される非行とはいえないとして認められませんでした。

廃除には相続人本人の明確な非行が必要です。

対策④ 相続欠格事由に該当するか確認する

一定の重大な事由がある相続人は当然に相続権を失います(民法第891条、相続欠格)。被相続人の殺害で刑に処せられた、詐欺・強迫で遺言を作成・変更させた、遺言書を偽造・破棄・隠匿したなどです。該当する場合、手続き不要で当然に相続権を失います。

そもそも相続放棄とは?基本をわかりやすく解説

相続放棄の定義とメリット・デメリット

相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切引き継がない意思表示を家庭裁判所に申述する手続きです。

  • メリット:マイナス財産を引き継がない。相続トラブルから離脱できる
  • デメリット:プラス財産も受け取れない。受理されると原則撤回不可

プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない

相続放棄をすると、預貯金・不動産などプラスの財産も借金などマイナスの財産もすべて引き継ぎません。「借金だけ放棄して預金は受け取る」はできません。受取人固有の財産である生命保険金は相続放棄をしても受け取れます。

他の相続方法(単純承認・限定承認)との違い

方法 内容
単純承認 プラス・マイナスの財産をすべて無限に承継
限定承認 プラス財産の範囲内でマイナス財産を承継
相続放棄 一切の財産を承継しない

限定承認は相続人全員が共同で行う必要があり(民法第923条)、手続きも煩雑です。限定承認・相続放棄とも、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述します。

親が亡くなった後に行う相続放棄の具体的な手続き

相続放棄ができる期間は「3ヶ月」

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(熟慮期間)に行います。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出します。期間を超えると原則認められません(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)(出典:裁判所)。正当な理由があれば、家庭裁判所への申し立てで熟慮期間の伸長が認められることがあります(民法第915条第1項ただし書)。

手続きの基本的な流れ(申述書の作成から受理通知書まで)

1. 被相続人の財産・借金を調査する

2. 必要書類(戸籍謄本など)を収集する

3. 相続放棄申述書を作成する

4. 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する

5. 家庭裁判所から届く照会書に回答する

6. 相続放棄申述受理通知書を受け取る

必要書類一覧と収集のポイント

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本)

申述人と被相続人の関係で必要な戸籍の範囲が変わります。戸籍収集には時間がかかるため、3ヶ月の期限を意識し早めに着手します。

相続放棄手続きにおける5つの注意点(財産の処分、撤回不可など)

1. 3ヶ月の期限を厳守:超過すると原則不可

2. 撤回できない:受理されると原則撤回不可

3. 財産を処分・消費しない:遺産を使うと単純承認とみなされ放棄できない場合がある

4. 次順位の相続人に承継:放棄すると借金は次順位に移るため事前に連絡する

5. 生命保険金の扱いに注意:受け取れるが、著しく高額だと持ち戻しを主張される可能性

相続放棄を亡くなる前にしたい人からのよくある質問(Q&A)

Q. 絶縁状態の親の借金を相続しない方法はありますか?

絶縁状態でも生前の相続放棄はできません。親の死後、相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄を行うのが確実な方法です。

Q. 相続放棄をすると、生命保険金も受け取れませんか?

受け取れます。受取人指定のある生命保険金は受取人固有の財産で遺産分割の対象になりません。ただし相続放棄をすると非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えず、みなし相続財産として相続税の課税対象です。著しく高額な場合は特別受益に準じた持ち戻しを主張される可能性があります。

Q. 親が認知症の場合、生前対策はできますか?

遺言書作成や債務整理は本人に十分な判断能力(意思能力)があることが前提です。認知症の進行度によっては有効な意思表示が難しく、成年後見制度の利用を検討する必要があります。判断能力があるうちに早めの対策が重要です。

Q. 相続放棄にかかる費用はいくらくらいですか?

家庭裁判所への申述には収入印紙800円分(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手、加えて戸籍謄本等の取得実費がかかります。弁護士や司法書士に依頼する場合は別途報酬が発生します。

まとめ:生前の相続放棄は不可!状況に合わせた対策を専門家と相談しよう

被相続人が亡くなる前の相続放棄はできず、生前の念書や契約書にも法的効力はありません。状況に応じた生前対策が重要です。

  • 借金を相続したくない相続人:債務整理の依頼、生命保険の活用、相続開始後の相続放棄
  • 特定の人に財産を渡したくない被相続人:遺言書の作成、生前贈与、相続人の廃除

いずれも遺留分・贈与税・手続き要件など専門的判断が必要です。個々のケースで取り得る方法が異なるため、専門家への相談をおすすめします。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

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この記事を監修したのは…

三上 貴規

日暮里中央法律会計事務所 代表弁護士

三上 貴規(みかみ たかき)

当事務所は、日暮里駅より徒歩5分、弁護士と公認会計士・税理士が在籍する法律会計事務所です。
相続問題をはじめとする一般民事事件に注力しております。
代表弁護士は、朝日新聞「わが家の相続会議」に「ソーゾク博士」として登場したこともございます。

サイトURL:https://www.nc-lao.com/

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