遺贈の放棄方法を解説!相続放棄との違い、手続きや注意点、かかる税金まとめ
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遺贈とは?包括遺贈と特定遺贈
遺贈とは、自分の財産を譲りたい人(遺贈者)が財産を譲り受ける人(受遺者)を遺言書で指定し、財産を譲渡する方法です。遺贈により自分の財産を譲りたい人を遺贈者、財産を譲り受ける人を受遺者といいます。受遺者は誰でもよく、法人でも構いません。
なお、遺贈は、遺贈者が亡くなってから、遺言書に従い手続きが進められるので、生前に財産を譲る生前贈与とは異なります。
遺贈の概要
遺贈には、包括遺贈・特定遺贈の2種類があります。それぞれについて解説します。
包括遺贈の特徴
包括遺贈は、遺贈者が遺言で自身の財産の全部または一定の割合を指定して譲る方法です。例えば配偶者と子A・Bが相続人となる場合、全財産の3分の2配偶者に、6分の1を子A、6分の1を子Bに遺贈する、という形で分けます。
なお、遺贈者に借金等の債務がある場合、包括受遺者は遺贈された割合に従い、その債務も引き受けなければいけません。
特定遺贈の特徴
特定遺贈とは、遺贈者が遺言で、財産を個別に指定した人へ遺贈する方法です。建物を誰に遺贈するのか、預貯金は誰に遺贈するのかというように、個別に財産の受遺者を決める遺贈方法です。
受遺者は特定の財産のみを取得するにとどまるものの、借金等の債務を指定されない限り、遺言にない債務を負担する必要はありません。
遺贈と相続放棄の違い
一方、遺贈と似ている制度に相続があります。相続は被相続人の財産を、法律で定められた相続人達が引き継ぐ方法です。法律で相続できる人の範囲は定められており、相続できる順位や相続割合が決まっています。
包括遺贈・特定遺贈と相続放棄はそれぞれ次のような違いがあります。
項目 | 放棄できる財産 | 放棄の方法 | 放棄する期限 |
---|---|---|---|
相続放棄 | プラスの財産・マイナスの財産全て | 家庭裁判所に申述 | 相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内 |
包括遺贈 | プラスの財産・マイナスの財産全て | 家庭裁判所に申述 | 包括遺贈があった事実を知った時から3ヶ月以内 |
特定遺贈 | 遺贈された財産 | 放棄を他の相続人・受遺者へ伝える | 期限なし |
遺贈の放棄はできる?相続放棄との違い
遺贈の放棄とは、遺言によって与えられた財産の受け取りを辞退することを指します。これは遺言が存在して初めて可能な行為です。一方、相続放棄は、亡くなった方の遺産に対して相続する権利を放棄することを意味します。
遺贈は、受遺者の意思にかかわらず遺贈者が単独で決定できます。しかし、受遺者は、無理に財物を受け取る必要はなく、遺贈の放棄が可能です。なお、遺贈の承認や放棄をする場合は、原則として撤回不可能なので、意思表示は慎重に検討する必要があります(民法989条1項)
遺贈を放棄するケースとは?
受け取りたくない財産を遺贈された受遺者は、遺贈を放棄することができます。
例えば、受遺者は遺贈者の預貯金を受け取りたかったが、預貯金ではなく自分の所在地から遠い場所にある不動産を遺贈されたケースが挙げられます。
また、他の相続人が望んでいた財産を受け取ってしまい、その相手方との間でトラブルの発生を懸念するケースも該当します。
また、遺贈する内容に遺贈者の債務(借金等)が含まれ、その負担を嫌うケースもあります。
このように、遺贈の放棄は、いかなる理由であっても受遺者の意思で自由に行うことができます。
遺贈と相続放棄の異なるポイント
遺贈の放棄は自由に行えますが、相続放棄とは異なり、家庭裁判所への申述は不要です。
遺贈を放棄する際の手続き
ここでは、遺贈を放棄する際の手続きについて解説します。
遺贈の放棄はどのようにする?方法を解説
遺贈の放棄方法は、包括遺贈と特定遺贈で異なります。以下、それぞれに分けて解説します。
包括遺贈の放棄方法
包括遺贈の放棄を希望する場合、相続放棄に関する規定が適用されるため、裁判所で手続きしなければいけません(民法990条、民法938条)。
包括遺贈放棄の申述手続きは、遺贈者の最後の住所地の家庭裁判所で行います。主に次の書類を家庭裁判所へ提出します。他の書類も必要になる場合があります。詳しくは家庭裁判所にお尋ねください。
- 申述書:家庭裁判所で用紙を取得
- 遺言書の写し
- 遺言者の住民票除票または戸籍の附票:市区町村役場で取得
- 申述人(放棄する人)および遺言者の戸籍謄本:それぞれの本籍地の市区町村役場で取得
- 収入印紙:800円分、郵便局・コンビニ等で取得
- 連絡用郵便切手数百円分
特定遺贈の放棄方法
特定遺贈の放棄方法については、他の受遺者や相続人等に対して口頭で伝えるだけで構いません。ただし、放棄した証拠を残すことにより、以後のトラブルの発生を未然に防止できます。
例えば、内容証明郵便で相手方に意思表示をすれば、証拠が残るので安心です。
遺贈放棄の効果と期限
遺贈を放棄すると、受遺者への財産の移転がなかったことになります。また、包括遺贈の放棄には相続放棄と同様に期限があり、包括遺贈のあった事実を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述をする必要があります。
遺贈放棄の効果
遺贈を放棄すると、遺贈者の死亡時までさかのぼって効力が発生します。つまり遺贈を放棄すれば、受遺者へ財産の所有権が移転した事実は初めから無かったことになります(民法986条)。
遺贈を放棄した場合、包括遺贈・特定遺贈にかかわらず、放棄した財産は相続人に帰属し、遺産分割の対象になります。
包括遺贈の場合
包括遺贈を放棄した場合の具体例をあげて説明します。
(例1)配偶者が遺言で受遺者となり全ての遺産を取得した
相続人は次の3人です。
- 配偶者:受遺者として全ての遺産を取得
- 子A:何も取得せず
- 子B:何も取得せず
配偶者が、このような遺言内容では子A・Bがかわいそうだと感じて包括遺贈を放棄すると、遺贈がなかったものとして、法定相続人で遺産分割協議を行うことになります。
法定相続の割合で分割した場合には、配偶者1/2、子A1/4、子B1/4で相続財産を取得することになります。
(例2)包括遺贈で相続人(受遺者)3人が遺産を均等に取得した
包括遺贈の割合は次の通りです。
- 配偶者:1/3
- 子A:1/3
- 子B:1/3
配偶者が自分の遺贈を放棄した場合、配偶者に遺贈された財産は、配偶者と残った子A・Bで遺産分割協議を行うことになります。
特定遺贈の場合
特定遺贈は、包括遺贈のように「財産の3分の1を遺贈する」といった指定ではなく「A銀行にある預貯金1,000万円を遺贈する」「所在地◯◯の不動産を遺贈する」というように財産が特定されている遺贈のことです。
特定遺贈を放棄した場合の具体例を挙げて説明します。
(例1)配偶者が遺言で受遺者となり特定の不動産とA銀行の預貯金を取得した
相続人は次の3人です。
- 配偶者:受遺者として特定の不動産とA銀行の預貯金を取得
- 子A:何も取得せず
- 子B:何も取得せず
配偶者が、特定遺贈された不動産に住むことや管理することは難しいと感じ放棄した場合、配偶者と残った子A・Bで特定遺贈された不動産について遺産分割協議を行うことになります。なお、A銀行の預貯金については、配偶者が遺言に従い取得します。
遺贈の一部放棄は可能か?
受遺者が遺贈者の財産の一部を受贈し、一部を放棄したい場合は、包括遺贈と特定遺贈でその可否に違いが出てきます。
まず、包括遺贈の場合、受遺者は相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。つまり、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金や未払金等)も指定された割合で受け継ぎ、一部放棄は認められません。
一方で特定遺贈の場合、遺贈される財産が分けられるものなら一部放棄は可能です。例えば、預貯金5,000万円が特定遺贈された場合、2,500万円だけ受け取り、残りの2,500万円を放棄できます。
遺贈放棄後は、相続人が話し合いで、放棄された2,500万円の分割協議を行うことになります。
遺贈の放棄はいつまでにやる?期限をチェック
遺贈の放棄期限も包括遺贈と特定遺贈で違いがあります。
包括遺贈の場合は受遺者である事実を知ってから3か月以内に、家庭裁判所へ申述する手続きが必要です。
一方、特定遺贈の受遺者はいつでも放棄できます。ただし、特定受遺者がいつまで経っても遺贈の承認・放棄を決めかねていると、相続手続きが進まなくなります。
このような場合には、他の相続人が相当の期間を定めて、特定遺贈の受遺者が遺贈を承認するか、それとも放棄するのか催告ができます。その期間内に意思表示がなかった場合には、受遺者はその遺贈を承認したものとみなされます。(民法987条)。
遺贈の放棄後の影響
遺贈を放棄した場合、その財産は相続財産に組み込まれます。そのことから、以下の影響が生じます。
遺贈を放棄した場合の法的効果
遺贈が放棄された、つまり、受遺者が遺贈を拒否した場合、その遺産は相続人が受け継ぎます(民法第995条本文)。そのため、改めて相続人同士で「遺産分割協議」により財産の配分方法を決定する必要があります。
相続分に与える影響
遺贈を放棄すると、相続人の遺産分割に影響を与えます。放棄された遺産は相続人が受け継ぎ、相続分が変化します。放棄された遺産は、基本的には未分割の遺産として遺産分割協議の対象となります。
遺贈の放棄は撤回できるのか?
遺贈を放棄した場合は原則として後から撤回ができません。遺贈の仕組みがよくわからない場合や、自分だけで承認や放棄を決めるのに不安を感じたら相続の専門家である「相続診断士」へ相談してみるのもおすすめです
遺贈に関する税金
遺贈を受けると、税金を支払わなければならない場合があります。かかる税金ごとに、詳しく説明します。
遺贈にはどのような税金がかかる?
遺贈に関する税金には、「相続税」「不動産取得税」「登録免許税」があります。
相続税について
遺贈で相続財産を取得した受遺者には、贈与税ではなく相続税が課せられます。したがって、相続税の計算時には、「基礎控除」が適用され「3,000万円+(法定相続人数×600万円)」が相続財産の合計額から差し引けます。
例えば相続財産の合計額が10,000万円、相続人が3人の場合は
3,000万円+(3人×600万円)=4,800万円
4,800万円が基礎控除分となるので、こちらのケースでは基礎控除を差し引いた5,200万円をもとに相続税が計算されます。
上記の場合で、相続人以外の者が全ての財産を取得したとしても、基礎控除の計算方法は変わらず、4,800万円が控除できる金額になります。
ただし、受遺者が被相続人の配偶者及び一親等の血族以外の場合には相続税が2割増しとなります。
不動産取得税について
相続又は包括遺贈により遺言者の不動産を取得した人は、不動産取得税を納める必要がありません。
しかし、相続人以外の受遺者で、特定遺贈により不動産を取得した人は、不動産取得税を納める必要があります。
不動産取得税の税率は2027年3月31日まで次の通りです。
- 住宅:3%
- 住宅以外の家屋:4%
- 土地:3%
登録免許税について
不動産の所有権移転登記をする際は登録免許税もかかります。税率も受遺者が相続人か相続人以外の人で違ってきます。
- 相続人が受遺者:固定資産税評価額×0.4%
- 相続人以外の人が受遺者:固定資産税評価額×2%
特殊なケースの考慮事項
相続放棄した人が遺贈を受けた場合、受けとることはできるのでしょうか。逆に、遺贈の放棄をすることは可能なのでしょうか。以下、詳しく解説していきます。
相続放棄をした人が遺贈を受けた場合の対応
相続放棄をした人が遺贈を受けた場合の対応は、包括遺贈か特定遺贈かで変わってきます。それぞれについて解説します。
包括遺贈の場合
相続放棄者が包括遺贈を受けると、たとえ相続放棄をしていた場合でも、遺贈により債務(マイナスの財産)を含めたすべての財産を引き継ぐことになります。
これは、包括受遺者が相続人と同じ権利義務を持つとされているためで、相続放棄をしていても包括遺贈を受け入れると、債務も含めて全財産を引き継ぐ立場になってしまうからです。
マイナスの財産が多いために相続放棄を選んだのであれば、包括遺贈を受けた場合にも、遺贈の放棄を検討する必要があるでしょう。
特定遺贈の場合
相続放棄をした人が特定遺贈を受けても、債務を引き継ぐことはありません。
相続放棄をすることで、相続人としての権利や義務は放棄されますが、それが受遺者としての権利を放棄することにはならないため、特定遺贈を受け取ることが可能です。
遺贈の放棄をされた財産はどうなる?
受遺者が遺贈を放棄した場合、遺贈予定だった財産については相続財産に組み込まれます。相続人全員で遺産分割協議を行い、分け方を決めることになります。
遺贈放棄後の遺産の扱い
遺贈放棄後、遺産は相続人全員の共有となります。それを解消するために分割協議を行い、再分配することになります。
専門家への相談のすすめ
急に遺贈をされて、受け取っていいのかわからない、放棄の方法がわからない、などお悩みの場合には、弁護士などの専門家を頼ることを検討してみてください。
弁護士への相談で得られるアドバイス
遺贈は財産をもらえるので一見メリットがありそうですが、遺贈される財産の内容によっては、必ずしも受け取る側にとって有利とは限りません。特に、遺贈の方法が「特定遺贈」ではなく「包括遺贈」の場合、借金などのマイナスの財産も一緒に引き継ぐリスクがあります。
そのため、遺言により遺贈があることを知った場合は、早めに弁護士に相談し、遺贈によるリスクを把握することが大切です。
複雑な遺産問題を解決するための専門家の役割
遺贈を受けたからといって、必ずしもすぐにその財産が自分のものになるわけではありません。包括遺贈の場合は、遺産分割協議に参加する必要があることがありますし、特定遺贈の場合でも、不動産を遺贈された場合には、他の相続人や遺言執行者と共同で登記申請を行わなければなりません。また、遺贈によって相続人の「遺留分」が侵害された場合、遺留分を主張する相続人から請求が来ることもあります。
このように、遺贈を受けると相続人とのやり取りが必要になるため、個人でこれに対応するのは大変な負担です。弁護士に依頼すれば、相続人とのやり取りをすべて任せることができ、精神的な負担を大きく軽減できます。ひとりで手続きを進めるのが不安な場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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この記事を監修したのは…
吉野よしと行政書士事務所 代表
吉野 禎人(よしの よしと)
資 格 :行政書士、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プラニング技能士
所 属 :行政書士会足立支部 役員、足立区区民相談員
白鷗大学法科大学院法務研究科(修了)にて法律実務を学ぶ。
外資系生命保険会社に約6年半勤務。数多くの相続相談に乗るが、円満相続のためには保険だけでは解決しきれないということを痛感し、相続専門行政書士として独立。
コロナ前まで約5年間、対面での相続セミナーを実施。相続に関する相談を年間100件以上受ける。相続手続きや遺言書の作成業務を数多く受任。
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