遺言執行者は相続人と同一人物でもOK?トラブルの予防策も解説!
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遺言執行者とは?権限・義務・責任について解説!
遺言書を作成した被相続人(遺言者)が、自身で作成した遺言の内容を実現してもらうために、遺言に従い執行する人を指定できます。それが「遺言執行者」です。
遺言執行者が単独で実行可能な手続きは主に次の通りです。
- 遺贈の手続き:遺言書に財産を相続人や相続人以外の人へ引き継がせる内容が記載されている場合
- 名義変更の手続き:遺言者の預貯金口座の名義変更や解約をする場合
- 遺産分割方法の指定:遺言者から相続財産の分割方法の指定を委託されていた場合
- 不動産の登記手続き:遺言者の土地や建物を相続人に引き継がせる場合
諸手続きの他、遺言執行者には次のような義務もあります。
- 遺言執行者の就任通知義務:相続人・受遺者全てに通知(遺言書のコピー等も添付)する
- 財産目録の作成・交付義務:遺言者の財産全てを特定した財産目録を作成し、相続人へ交付する善管注意義務:善良な管理者として相続財産を管理する
- 相続人への報告義務:相続人から要求があった時は、遺言執行の状況等進捗を相続人へ報告する
- 財産等の引渡義務:遺言書の内容に従い、財産や権利を相続人に引き渡す
その権限や義務を円滑に進めるため、相続人及び相続財産の調査を行うのも遺言執行者の仕事内容です。
遺言執行者が必要なケース・不要なケースとは??
遺言の内容によっては遺言執行者の就任が必要なケース、任意で構わないケースもあります。ここでは各ケースについて解説します。
遺言執行者が必要なケース
遺言執行者を就任させる必要のあるケースは「遺言による認知」と「遺言による推定相続人の廃除」です。
(1)遺言による認知:遺言執行者が市区町村役場に認知届を提出
遺言による認知とは何らかの事情で生前に認知ができないとき、遺言で行う認知です。相続人や認知される相手方がこの手続きを行うやり方は認められていません。
(2)遺言による推定相続人の廃除:遺言執行者が家庭裁判所に廃除を申立て
遺言による推定相続人の廃除とは推定相続人の相続権を奪う方法です。こちらも遺言者が死亡してから申立て手続きを進めます。ただし、廃除が認められるためには、推定相続人が遺言者を虐待したり、重大な侮辱したりした等の著しい非行の事実がなくてはいけません。
遺言書において廃除の意思や原因が明確でない場合であっても、遺言の解釈により廃除の意思が客観的に認められる場合には、遺言執行者は、廃除の申立てをすることができます。なお、遺言による推定相続人の廃除の申立ては、遺言執行者のみがなし得るため、遺言執行者でない相続人は申立てすることは認められていません。
任意で構わないケース
遺言による認知や推定相続人の廃除以外で遺言書を作成するケースでは、遺言執行者の就任は任意選択となります。例えば、相続人や相続財産が多く、誰か一人を遺言執行者にしないと手続きがなかなか進まないかもしれないと感じたら、遺言書で指定しておいた方が無難です。
遺言執行者がいない場合、次の手続きでは相続人全員の印鑑登録証明書や実印が必要です。
- 相続人以外の人(例:子が相続人なのに孫へも遺贈する等)が不動産の受遺者となる場合→法務局で不動産の登記手続き
- 遺言者の預貯金口座の解約・払い戻し→口座を開設している金融機関での手続き
遺言執行者がいれば、不動産の登記手続きは「遺言執行者+不動産の受遺者」だけで進められます。また、遺言者の預貯金口座の解約・払い戻しは遺言執行者が単独で行えます。
遺言執行者が不要なケース
たとえ遺言書を作成した場合でも、その内容によっては、遺言執行者を指定しなくても手続きが進むケースもあります。
例えば相続人が数人(例:配偶者と子2人)だけの場合や相続財産がわずか場合、相続人以外の人(例:内縁の妻等)が遺贈を受けない場合等、手続きはあまり煩雑とならないと想定される場合です。このようなケースなら、無理に遺言執行者を指名して対応する必要はないでしょう。
遺言執行者を指定しておくメリットとは?
ここでは、遺言執行者を指名しておくメリットについて解説します。
遺志を尊重し遺産分配を円滑化する
遺言執行者は、遺言書に記された遺志を尊重し、その内容を適切に実行します。遺産の資産管理や財務手続き、遺産分配の監督などを担当します。
遺言執行者を指定しておくことで、遺志の実現を円滑に進める役割を果たすため、円満な相続手続きを進めることができます。
トラブル回避と円満な相続手続きの実現
遺言執行者の指定は、相続手続きにおいてトラブルを回避するための重要な手段です。遺言執行者が適切な判断を下し、公正かつ公平な取引を行うことで、争いや不和のリスクを低減することができます。
以上のことから、遺言執行者を指定することは、スムーズで円満な相続手続きを進めるために不可欠です。遺志の尊重、適切な遺産分配、トラブル回避、弁護士や司法書士との連携など、遺言執行者の重要性は多岐にわたります。
適任な遺言執行者を指定し、遺言書に明確に記載しておくことで、円滑な相続手続きの実現に貢献することができます。
遺言執行者になれるのはどんな人?選任方法についても解説!
遺言執行者は法律上、未成年者・破産者以外の方であれば誰でも就任できます。相続人はもちろん弁護士や司法書士のような士業専門家、信託銀行やNPO法人のような法人も遺言執行者になれます。
もしも、次のようなケースがあれば、相続人・受遺者・遺言者の債権者など利害関係人のいずれかが家庭裁判所に遺言執行者選任申立てをし、遺言執行者を選任してもらうことも可能です。
- 遺言書に遺言執行者の記載がなく、手続きが円滑に進むか不安な場合
- 遺言執行者に指定されていた人が亡くなった場合
- 遺言執行者に指定されていた人が就任を断った場合
なお、申立書に遺言執行者の候補者を記載できます。申立てから遺言執行者選任まで2週間~4週間ほどかかります。遺言執行者選任申立ての流れは下記の通りです。
- 申立てに必要な戸籍謄本等の書類収集・準備
- 遺言者の最後に住んでいた住所地の家庭裁判所へ提出
- 家庭裁判所は申立人・遺言執行者候補者に照会書(回答書)を送付
- 照会書(回答書)の返送し、家庭裁判所の審議
- 審判が確定し、家庭裁判所は申立人・遺言執行者に遺言執行者選任審判書謄本を送付
遺言執行者は相続人と同一人物でもよいの?
相続人の中から、遺言者の信頼できる人を選んで遺言執行者に指定し、遺言執行者が相続人と同一人物となっても問題ありません。遺言書に例えば「長男◯◯◯◯を遺言執行者に指定する」と明記すれば、その相続人が遺言執行者に就任できます。
ただしこの場合には、遺言執行者であると共に相続人という立場で手続きを担います。遺言内容に不満を持つ人が現れたり、財産調査や全ての相続人の確認が難航したりするケースも想定されます。
遺言執行者を相続人の中から指定する際は、相続人達から信頼が厚く、冷静に物事を進められ、手続き等の知識もある程度備えている人を選びましょう。
相続人が遺言執行者となるデメリットとは?発生しうるトラブルとともに解説!
相続人が遺言執行者となれば無報酬で、様々な遺贈や相続手続きに関する作業を行ってもらうことができます。しかし、次のデメリットにも注意しましょう。
遺言執行者と他の相続人が揉め出す
遺言執行者も相続人の1人である以上、遺言内容に従い公正な作業を行っているか、相続人から疑われるおそれもあります。遺言内容で受け取れる遺産が少ない人や、遺言執行者と元々仲が悪かった人には注意しましょう。
例えば遺言書を捏造したとか、遺言内容を遺言執行者本人へ有利にするため一部を改ざん(勝手に変更)したと疑われ、相手方から「遺言無効確認訴訟」を提起されるケースも想定されます。
遺言執行者の知識不足等でなかなか手続きが進まない
相続人間で遺言内容に関する不満がでなくても、相続人や相続財産が多いと、遺言執行者に大きな負担がかかります。法律的な手続きに疎く行政窓口や金融機関から修正を求められ、何度も手続きをやり直すケースも考えられます。
また、遺言執行者が仕事を持っている人なら、遺言の諸手続きに従事する時間は限定されてしまいます。行政窓口や金融機関は平日に申請を受け付けている場合が多いので、仕事を休んで対応することもあるでしょう。
相続人が遺言執行者となった場合のトラブルを未然に防ぐ方法とは?
ここでは相続人が遺言執行者となった場合の想定されるトラブルをどう防ぐべきかについて解説します。
公正証書遺言を作成する
遺言者が自筆して作成する遺言は自筆証書遺言と呼ばれます。遺言者が無料で作成できる反面、どこに保管されているのか誰からも気付かれないリスクや、相続人から破棄されたり内容を勝手に改ざんされたりするリスクも想定されます。
つまり、内容の信憑性を他の相続人から疑われてしまう場合があるのです。そこで、公証役場の公証人に遺言者の意思を反映した遺言内容を作成してもらい、公証役場と自宅に保管する遺言方法がおすすめです。この遺言を「公正証書遺言」と呼びます。
公正証書遺言があれば、公証役場に保管されるので破棄や改ざんの心配もありません。遺言内容に疑念を抱く相続人に対し、遺言執行者は遺言内容が真正であることを主張し易くなります。
専門家・法人に遺言執行者になってもらう
遺言執行者は基本的に誰でも就任可能ですが、手続き作業は煩雑で多くの時間を割いて対応する必要が出てきます。そのため、遺言・相続の諸手続きに関する専門家である弁護士・司法書士・行政書士を、遺言執行者に指定した方が安心です。
専門家に遺言執行者になってもらうよう依頼する場合は、報酬が発生しますので、事前に確認し、選任しましょう。
また、公正中立な立場で遺言を執行してくれるので、相続人間でトラブルになる危険性も軽減されるはずです。
なお、遺言執行者は法人でも就任できます。遺言者本人に馴染みのある信託銀行の担当者やNPO法人の職員がいたら、遺言執行者になってくれないか相談してみましょう。
遺言執行者を専門家に依頼する場合にかかる費用はどのくらい?
遺言執行者への報酬は、依頼する専門家や地域によって異なる場合があります。以下は一般的な費用の相場に関する情報です。
弁護士に依頼する場合
弁護士に遺言執行者の役割を依頼する場合、費用は基本的に時間制(タイムチャージ)で計算されます。弁護士の時間単価や対応する業務の複雑さによって価格が変動するため、相談の際に具体的な費用について確認することが重要です。
一般的には、1時間あたり数万円程度の費用がかかることがあります。
司法書士に依頼する場合
司法書士に遺言執行者の役割を依頼する場合、費用は業務内容や地域によって異なります。一般的には、弁護士に比べて費用が比較的安価である傾向があります。
具体的な費用については、相談の際に司法書士に直接お問い合わせください。相場としては、数万円から十数万円ほどの費用がかかることがあります。
遺言執行者への報酬・費用の要素となる事項
遺言執行者に依頼する際に含まれる費用の要素としては、以下のような項目が考えられます。
- 契約書作成や法的な手続きにかかる時間と労力
- 遺産の調査や点検、財産評価の作成費用
- 遺産分配の計画立案のためのコンサルテーション費用
- 相続税の評価や税務対応に関する費用
遺言執行者を専門家に依頼する場合、費用は専門家の時間単価や業務の複雑さ、地域によって異なります。具体的な費用については、相談の際に専門家に確認することをおすすめします。
適切な遺言執行者を指定し、円滑な相続手続きを進めるためにも、費用について事前に理解することが重要です。
遺言執行者は辞任・解任可能?トラブル発生時の相談先も紹介!
遺言執行者は辞任も解任もできますが、いずれも家庭裁判所に申立てて許可を得なければいけません。辞任したい場合は正当な事由(例:仕事が忙しくて両立は難しい、病気やケガをして入院しなければいけない等)が必要です。
一方、解任する場合は遺言執行者が義務を果たしていない状況について、申立人が説明しなければ認められません。
遺言執行者を解任できる具体的なケースは、以下の通りです。
- 遺言に記載された権利承継事務を行わなかった
- 財産目録の作成を行わなかった
- 遺言執行者が病気で職務を行うことができない
- 相続財産を不正に使っていた
遺言執行者に指定されているが就任すべきか辞退すべきか迷っている、遺言執行者に就任したけれど手続きが思うように進まない、と悩んでいたら「相続診断士」に相談してみましょう。
相続診断士は遺言・相続全般のアドバイスをしてくれる専門家です。必要に応じ弁護士・司法書士・行政書士なども紹介してくれるので、問題解決がスムーズに進むことでしょう。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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この記事を監修したのは…
こいで司法書士事務所 代表司法書士
小出 亮(こいで りょう)
千葉県流山市の司法書士。10年以上の業務経験を活かし、主に相続手続き・生前準備(遺言など)・不動産・会社の登記手続きを専門としている。丁寧・親切・誠実をモットーに、きめ細やかなサービスと柔軟でスピーディーな対応が強み。一般市民の方向けの講演・セミナー・相談会を通じて、司法書士は身近な存在かつ頼りになることを多くの方に知ってもらうために積極的な活動を行っている。
サイトURL:https://ny-shoshi.com/