国際相続の基礎と手続き完全ガイド|法の適用、海外資産、相続税までケース別に解説

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遺産相続

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国際相続の基本と適用される法律

被相続人が死亡した場合、一般的には、相続人全員が日本国籍かつ国内に居住していて、法務局に登記している土地や建物、国内の銀行に預けているお金などの相続財産について話し合い、協議した内容及び日本の法律・税制に従って手続きを行っていきます。

国際相続と区別するために上記を、国内相続とします。国際相続とは、具体的にどのようなケースを指すのでしょうか。

ここでは国内相続との違いと国際相続の定義、国際相続において適用される法律(準拠法)の決まり方についても解説します。

国内相続との違いと国際相続の定義

国際相続とは、日本以外の海外の国の法律・税制も適用される相続手続きのことを指します。日本の法律・税制だけが適用され海外での手続きが不要である国内相続とは異なりますので、覚えておきましょう。

例えば、下記のケースが国際相続に該当します。

  • 被相続人が生前、海外の資産を保有していた
  • 被相続人もしくは相続人の少なくともひとりが海外在住である
  • 被相続人もしくは相続人が外国籍である

適用される法律の決まり方

国内相続で完結せず、国際相続で手続きを行う必要がある場合、被相続人・相続人の国籍や居住地によって適用される法律(準拠法)が決まります。

また複数国の法制度が関与するケースもありえますので、本項で見ていきましょう。

日本では被相続人の国籍で準拠法が決まる

日本の法の適用に関する通則法第36条(適用通則法36条)では「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。

亡くなった方が日本国籍を有している場合は、居住地・死亡地に関係なく当然、日本法に準拠することとなり、民法などが適用されます。

また、日本国籍を有しない外国籍の方が、たとえ日本国内に住んでいて亡くなったとしても、国籍を有している本国の法律が適用されるということです。

日本では原則として重国籍を認めていませんので、重国籍状態となった場合は期限内に国籍を選択し、一つに絞り込まなければなりません(国籍法14条)。

一つに絞り込む前に死亡し、別の国籍を有していた場合も、適用通則法38条では日本国籍がある以上、準拠法は日本法とする旨が定められています。

このように国際相続では、日本の民法・通則適用法・国籍法そして相続税法や関係国の相続手続き制度についても最低限、把握すべきです。

なお、日本の法律と海外の法律は、ときに矛盾しているケースも見られ、日本では本国法が適用されると定めていても、海外では居住地国法(日本に住んでいる場合は日本法)と定めているケースもあります。

その場合、日本では関係国の法制度に則り日本法での相続手続きを認めています(適用通則法41条)。これを「反致」といいますので、覚えておかれるといいです。

複数国の法制度が関与するケース

日本では、国内の不動産の売買については宅地建物取引業法、所有移転など不動産の登記については不動産登記法・司法書士法というように当然、日本法の下、運用されています。

また、動産も道路運送車両法・銀行法・金融商品取引法などの日本法で管理されていますので、海外の不動産・動産についても現地国の法制度に則り管理・運用がなされていると考えるのが自然です。

そのため、日本国籍を有する被相続人が、海外に資産を有していた場合は、日本法のほか、関係国の法制度が関与し、相続手続きの煩雑化や長期化も懸念されます。

日本の法制度下では、国内相続・国際相続関係なく被相続人の死亡後10カ月以内に相続税の申告と納税を終えなければなりませんので、できるだけ早く相続手続きを進めていくことが肝要です。

スムーズな相続のための事前準備

前章でお伝えしたように、国際相続では複数国の法制度が関与することはめずらしくなく、手続きが思うように進まない事態となりえます。

そのため、被相続人の死亡後、役所への届け出などを行いつつ、相続をスムーズに行うために、先んじて以下4つの下準備を行っていくことが望ましいです。

  • 財産のリスト化
  • 専門家への相談
  • プロベートの有無の確認
  • 必要書類の確認

財産のリスト化

財産のリスト化により、相続手続きの全容が見えてきます。

被相続人と同居していたご家族なら生前、故人がどのくらいのお金を預け、土地や建物を所有していたかがわかると思うのですが、遺言書に添付された財産目録を確認してはじめて海外に資産があると判明するケースもめずらしくありません。

故人と財産について話をしたこともなく、遺言書や財産目録を残した形跡もなかったのであれば、相続人が協力し合って故人の部屋を整理しながら、通帳や登記済証などを探し当てて、相続すべき財産についてリスト化していくことになります。

資産の有無について照会すべき関係機関を見つけるうえでは、残存している郵送物のチェックも不可欠です。

専門家への相談

故人の自宅が遠くて通えない、仕事で忙しくて時間がとれないといった理由で、財産リストの作成が長期化もしくは難航しそうな場合は、専門家に相談し、代行をお願いするのもいいでしょう。

生前の故人の仕事や私生活を鑑みて国際相続に発展すると予見できる場合は、国際相続に詳しい相続診断士などに相談することをおすすめします。

円満相続ラボは、無料相談に応じてくれる相続・終活の専門家(相続診断士)を紹介しています。相続診断士のなかには弁護士など他の資格を併せ持つ先生もいらっしゃいます。

遺産や相談の内容によっては、相続診断士が弁護士や司法書士、税理士などとチームを組み、円満かつ迅速に相続手続きが終わるようにサポートしてくれます。

相続人だけでは手続きが難しいと感じた場合はぜひ、電話・メールでお気軽にお問い合わせしてみてください。

プロベート(検認手続き)の有無確認

プロベート(プロベイト)とは、相続手続きに裁判所が関与して検認を行うもので、アメリカやイギリスなどが制度化しています。

日本は包括承継主義の下、手続きが進められていきますが、アメリカなどでは、管理清算主義が採用されています。

管理清算主義とは、裁判所が遺産を凍結し、選任した執行者が遺産から返済や納税を行い、それでもなお残余財産があれば、そこではじめて相続人が承継できるというものです。

管理清算主義を採用している国に被相続人の個人名義の資産があれば、プロベートの対象となりえます。

プロベートは第三者が介入するうえ、公告期間が設けられていたり、裁判所の認可が下りるまで手続きが止まったりするため、遺産の分割ができず、日本の相続税申告・納付期限に間に合わない可能性もあり、注意が必要なのです。

しかし、専門家に相談しておくことで、税務署に対し、相続財産が分割されていない場合の申告を提案・代行するなど、ベストな対策を講じてくれるはずです。

ちなみにプロベートが必要な国でもプロベート対象外の資産があり、ジョイントテナンシー、ジョイントアカウントについては、裁判所がプロベートを実施することはありません。

ジョイントテナンシーとは、合有不動産権ともいい、不動産を複数人で共有する制度で、万が一、共有者が死亡した場合、故人の権利が他の生存共有者に自動的に移るものです。

ジョイントアカウントとは、ジョイントテナンシーと同じように複数人で共有する口座で、生存者受取権が付いていれば、故人の資産は他の生存共有者に自動的に移ります。

相続におけるプロベートを回避するために、予め夫婦、親子の共有財産とし、対策を講じているケースも少なくありません。

必要書類(在留証明・サイン証明含む)の確認

被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)・住民票の除票などのほか、相続人全員の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書といった必要書類をリスト化し、速やかに入手できるか、いつまでに揃うかについて早期に確認します。

特に日本国籍のまま海外赴任・移住し、日本の住所を持たない相続人は、日本で住民票及び印鑑証明書が取得できません。その代わり相続手続きの際に在留証明やサイン証明を提出することになります。

在留証明

在留証明は、日本でいう住民票で、日本外務省管轄の在外公館(大使館など)で発給を受けられます。日本国籍を有し、現地に3カ月以上滞在していて、日本に住民登録がないことが受給要件です。

サイン証明

サイン証明は、日本でいう印鑑証明書で、在外公館では「署名証明」としています。形式としては2種類あり、提出先が形式を指定していれば、そのとおり発給を受けるようにしましょう。

在留証明もサイン証明も取得する際に二度手間にならないよう、相続手続きの全容が判り次第、通数や提出先、形式を確認して、これらを取り寄せたほうが賢明です。

専門家を入れておくことで、必要書類や提出先、形式・通数についても的確な助言を受けられます。

よくある国際相続のケースと対応

相続では、次の3つのワードが出てくると国際相続となる可能性が高くなります。

  • 海外資産
  • 海外在住
  • 外国籍

それぞれ、必要な対応を交え解説していきます。

被相続人が生前、海外の資産を保有していた

日本国籍・日本在住でも生前、被相続人が仕事で海外とのつながりが深かった、海外投資に積極的だった、夫婦で日本と海外を行き来していたなど、海外所在の財産があってもおかしくありません。

どの国に、どういう資産があるのかを確認し、書面化する作業(財産のリスト化)が必須となりますが、ご自身で動くことが難しければ、専門家へ相談するとスムーズです。

被相続人もしくは相続人の少なくともひとりが海外在住である

子や孫は日本にいて夫婦だけで海外に移住し、配偶者を残して亡くなったケースや、相続人の1人だけが海外で起業し、現地で暮らしているケースなどが該当します。

被相続人・相続人の国籍、日本での居住歴により課税範囲が変わりますので、国税庁のサイトにある図表を確認いただきたいです。

財産のリスト化と並行して、海外にいる被相続人・相続人の国籍、日本での居住歴、必要書類の一覧と、いつ揃うか見込みを確認して書面化しておくと、相談時、専門家の対応が早くなります。

被相続人もしくは相続人が外国籍である

被相続人が外国籍のまま日本に在住し死亡した場合、相続手続きは国籍のある国の法律が適用されますが、相続人は日本の相続税も課されることになります。

詳細は、前出の国税庁のサイトにある図表で確認できますので、あらかじめ国籍・居住歴から調べて把握しておきましょう。

海外に資産がある場合の実務対応

ここでは、海外に資産があると判り国際相続を進めていく際、どのように実務を進めるかについて注意点、遺産分割協議に分けてお伝えしていきます。

現地財産の相続で注意すべき点

海外に資産がある場合、多くの方が現地国の役所・機関・会社とのやりとりにおいて、距離・時差・言葉・法律・慣習の違いなど、あらゆる場面で壁を感じることになるでしょう。

本項では、国際相続当事者となったときに有効な資産別の留意事項や、必要不可欠となる書類について、お伝えしていきます。

資産別の留意事項(不動産・金融資産など)

海外資産が不動産の場合、被相続人の死亡後、プロベートの有無で取り扱いが変わってきますので、まずはプロベートの有無、対象外の資産かを確認します。

プロベートが必要なケースでは、検認が終わるまで売買・リフォーム・居住・賃貸に供することもできません。

次に、その国の準拠法、運用制度や慣習等を確認します。例えば、中国の不動産を被相続人が所有していた場合、相続時、房地産交易中心で登記を行います。その際、産権証(日本の登記済証に該当)や遺言または遺産分割協議書が必要です。

なお、中国では個人が土地を所有できる制度はなく、建物のある土地の使用権が認められているにすぎません。

海外資産が金融資産の場合も同様で、プロベートが終わり、遺産管理人から引き継がれなければ、日本への送金や利用もできません。

また、遺産分割協議後、海外から送金、日本で受領する際も、さまざまな名目の手数料が必要となります。

金融資産も国によって法律、制度が異なります。例えば、オーストラリアにはテストメンタリートラストという遺言信託制度があります。

遺言により財産がテストメンタリートラストに設定された場合、遺産は相続財産として相続人に引き継がれることなく、トラストとして保持される仕組みです。

つまり、相続人が意のままに取り扱うことはできず、被相続人が生前行った意思決定により、分配などが行われることになります。

オーストラリアでは相続税が課されることはありませんが、トラストによって得た純利益について毎年、所得税を納めることになります。

なお、詳細は後述しますが、相続により海外資産を取得した場合で、5,000万円を超えたときは管轄する税務署に国外財産調書を提出しなければなりません。

海外に資産がある場合の必要書類

中国の不動産のところで産権証というワードが出たように日本同様、海外でも相続においては、所有権など資産保有を裏付ける書類を要します。

また、被相続人の国籍、居住地、死亡地により異なりますが、日本国内で亡くなった場合は、海外から死亡届や死亡診断書、死亡届記載事項証明書が求められることもあります。

さらに、日本の役所から発行を受けたものについて翻訳文を添付する、外務省による公印確認もしくはアポスティーユ(ハーグ条約批准国で通用)を付けるように指示されるでしょう。

遺産分割協議と手続きの進め方

財産のリスト化をすべて終え、相続人も確定したあと遺産分割協議に入ることができるのですが、プロベートの有無で手続きの進め方が異なります。

本項ではまず、プロベートを含む場合について解説します。

プロベートが必要なケース

アメリカやイギリスなどプロベートが必要な海外資産があれば、現地国の裁判所により遺産が凍結され遺産財団となり、遺産管理人が選任され、引き継がれます。

遺産管理人が海外資産について調査、債権債務の清算、相続税の申告・納付を行ったのち、裁判所が遺産分配許可を出したあと、そこではじめて遺産が相続人に渡り、遺産分割協議となるのです。

遺産分割協議の進め方については、プロベートが不要なケースで解説します。

プロベートが不要なケース

プロベートを終えた、プロベートが最初から不要な場合は、国内相続と同様に相続人が一堂に会し、国内外の資産について、遺産分割協議を行います。

その内容を基に遺産分割協議書を予備含め必要な数だけ作成し、相続人が署名・実印の押印を実施します。

一堂に会することができない場合は、郵送などでやりとりを行えば済むのですが、時間がかかります。

また、相続人全員の印鑑証明書、住民票を添付しますが、外国籍や海外居住中の相続人でこれらがない方は前出の「サイン証明書」「在留証明書」を取得・提出します。

国際相続に関する税務の基礎

本章では、相続税法で定められている国際相続における課税ルールについて、解説します。

国内外の財産に対する日本の課税ルール

国際相続では、被相続人・相続人の居住地、国籍によって国内外の財産が課税対象となるケースと、国内にある財産だけが課税対象となるケースに分かれます。

ここでは、居住地や国籍などに関するルール、課税対象となる海外資産について説明します。

居住地・国籍・10年ルールとは

課税対象が国内外、国内のみになるのかは、被相続人・相続人の居住地(住所)、国籍そして10年ルールに基づきます。

10年ルールとは、過去10年以内の日本の住所の有無で、課税対象範囲が変わってくる「きまり」です。

被相続人が死亡時、日本国籍で国内に住所を有していたもしくは過去10年以内に国内に住所があった場合、国内外の財産が課税対象となります。

国籍問わず被相続人が死亡時に10年以上、国内に住所がなかった場合、相続人が相続時、下記に該当する方は、国内外の財産が課税対象です。

  • 日本に住所があり一時的に住んでいる者ではない
  • 日本に住所がないが日本国籍で過去10年以内に国内に住所があった

被相続人が日本の住所の有無に関係なく外国人もしくは国籍問わず死亡時に10年以上、日本に住所がない場合で、相続人が相続時、下記に該当する方は国内財産のみが課税対象となります。

  • 日本に住所があり国籍問わず一時居住者である
  • 日本国籍で過去10年以上日本に住所がなかった
  • 外国籍で国内に住所がない

このように、10年ルール(過去10年以内の日本の住所の有無)で、課税範囲が大きく変わってきます。

課税範囲が国内外の財産となる相続人を無制限納税義務者、国内財産のみとなる相続人を制限納税義務者といいます。

詳細は、国税庁のサイトにある図表で確認可能です。

課税対象となる代表的な海外資産

相続税が課税されることになる主な資産は、次のとおりです。

  • 動産
  • 不動産(土地や建物、船舶、航空機)
  • 預金、貯金、積金または寄託金
  • 保険金
  • 退職手当金
  • 社債、株式、法人に対する出資または外国預託証券
  • 国債、地方債

これらが海外資産であるとの判定を受けるためには、動産や不動産が実際に国外にある、銀行や保険会社の営業所が国外にある、国債や地方債の発行元が外国または外国の地方公共団体及びこれらに準ずる機関で国外に所在することが求められます。

各国の相続税制度の違いとポイント

遺産分割協議を終えると、相続税の申告・納付となり、日本では被相続人の死亡後10カ月以内に行うことになります。

アメリカなど、海外主要国の制度はどうなっているのか、見ていきましょう。

アメリカ・フランスなど主要国の例

本項では、アメリカ、イギリス、フランスの相続税制度について、解説します。

アメリカの相続税制度

アメリカには相続税という名目の税は存在しませんが、日本の相続税にあたる制度が遺産税・贈与税・世代跳躍移転税の3つです。

世代跳躍移転税は、祖父母から孫など、親・子の世代を超えた相続に課されます。また、連邦税とは別に、遺産税を課す州もあります。

アメリカでは、遺産財団から債務のほか税金なども差し引かれ、それでもなお残った遺産があれば、相続人に分配されますので実務上、遺産税などを支払うのは、裁判所が選任した執行人となります。

アメリカの相続税納付期限は、相続発生から9カ月です。

ちなみに日本とアメリカは、相続税条約を発効しており、被相続人がアメリカに資産を残している場合は、条約の適用を受けますので、確認が必須です。

事業目的外の預貯金があった場合、アメリカの法律では国外財産(非課税)としていますが、条約では債務者の居住地の財産(課税)という取り扱いとなっています。

ただし、アメリカには納税者に有利な規定を優先するという原則があり、実務上、条約ではなく法律に基づいて、取り扱われます。

イギリスの相続税制度

イギリスもアメリカと同様、プロベートが必要です。執行人・管理人は裁判所が選任するのではなく、遺言で指名された者、遺言がなければ親族などが就きます。

執行人・管理人が裁判所のプロベートオフィスに権限付与の申し立てを行い、許可が下りれば、相続手続き、納税も進めていきます。

イギリスの相続税納付期限は、相続発生から6カ月です。

フランスの相続税制度

フランスにおける相続手続きは基本、公証人が行います(公証人に依頼します)。

公証人が遺産相続の全容、課税の有無といった調査を行い、被相続人との関係性なども調べ、相続人を確定させていきます。フランスでは続柄などにより相続税の免除額や控除額が決まります。

相続人が取得したフランス国内における財産が一定額以上の場合や、申告を行っていない生前に受けた贈与分がある場合は相続税の申告・納付が必要です。期限は、フランスで死亡した場合は相続発生から6カ月、国外で死亡した場合は12カ月以内です。

相続税がない国もある

日本では、あって当たり前の相続税ですが、前出のオーストラリアのように世界に目を向けると相続財産への課税、相続税制度自体が存在しない国も少なくありません。

2025年6月現在、相続税がない国の一例は、下表のとおりです。

ヨーロッパオーストリア、スウェーデン、ノルウェーなど
アメリカ大陸ウルグアイ、ペルー、メキシコなど
アジアインド、中国、シンガポールなど
オセアニアオーストラリア、ニュージーランド

二重課税リスクとその回避方法

国際相続における二重課税リスクとは、日本の相続税だけではなく、外国にも遺産税などを支払わなければならなくなることです。

二重課税になると、相続放棄や財産の処分を検討せざるを得なくなるなどのリスクが生じることになります。以下、起こりやすい課税パターンや外国税額控除について、見ていきます。

起こりやすい課税パターンと対応例

日本において、被相続人の国内・国外の財産に相続税が課される無制限納税義務者で、かつ被相続人が財産を残した国に相続税制度があり、次の理由を挙げて外国が遺産税などを課すことで、二重課税が生じえます。

  • 財産が現地国に所在すること
  • 現地国に居住していたこと

外国税額控除の活用による調整

本項では、日本の外国税額控除と、日米相続税条約と外国税額控除の関係、二重課税を回避できないケースがあることについて解説します。

日本の外国税額控除とは

日本では、国外の財産について、所在国から相続税などを課された場合、日本の相続税の計算時において、控除することができます。

また、プロベートを経た場合、被相続人に相続税が課されますが、その分も控除可能です。

ただし、日本国内の財産について外国から課された税額は控除されない点に注意が必要です。

日米相続税条約と外国税額控除

日本は、世界で唯一、アメリカとのみ相続税条約を交わしています。相続税制度が大きく異なるというのが理由ですが今のところ、中国など他国との条約締結は実現していません。

在アメリカ合衆国日本国大使館の公式サイトには以下の記載があります。

二重課税を回避するため、日米両国は外国税額控除制度を設けており、居住地国での課税に際しては相手国で課された税額の全額または一部控除が認められます

引用元:在アメリカ合衆国日本国大使館:税について

つまり日本とアメリカに財産があり、双方で無制限納税義務者となっている場合は、外国税額控除で二重課税リスクを回避できるのです。

二重課税を回避できないケース

日本・アメリカが関与している場合でも、二重課税を回避できないケースを紹介しておきます。

例えば、日本・アメリカ・そのほかの国と複数国に被相続人の資産があり、日本とアメリカで、ともに無制限納税義務者だったとします。アメリカが第三国の財産について遺産税などを課税した場合は、その分が外国税額控除の対象外となります。

なぜなら、外国税額控除制度は、財産所在国から課された場合が対象で、アメリカが第三国所在の財産に課税した場合は当てはまらないからです。そのため、二重課税を回避できません。

相続税申告の流れと実務の注意点

国際相続も国内相続と同様、遺産分割協議を終えたら、財産の分配、登記などと並行して、相続税の申告と納付を行います。

本章では、申告先・期限・納付方法の違い、海外送金や財産評価で生じやすい問題、国外財産調書の提出が必要な場合について見ていきます。

申告先・期限・納付方法の違い

相続税の申告先(納税義務地)については、被相続人の死亡地により異なります。日本国内で亡くなった場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に、相続人が共同して同一の申告書1通を出せば足ります。

しかし、国外で亡くなった場合は、相続人がそれぞれ設定している納税地において、単独で申告することになります。

相続時に日本に住所があれば、申告時の住所地を管轄する税務署に申告します。相続時に日本に住所はなかった場合及び相続時に日本に住所があり、申告時に日本に住所がない場合は申告設定した納税地、申告しなかった場合は国税庁長官が納税地を指定します。

相続税の申告期限は、被相続人の死亡(相続の開始時)から10カ月以内ですが、納付期限が早まるケースもあり要注意です。

例えば仕事の都合などで10カ月を待たずに出国する予定があれば、出国前に申告と納付を終えなければなりません(相続税法27条)。申告と納付ができない場合は納税管理人を定めることで、無申告加算税や延滞税を支払わずに済みます。

納付方法については、国税庁の資料に以下の説明が付されています。

金銭で納付することが原則ですが、金銭で納付することが困難で、一定の要件を満たしている場合には、相続税を年賦により分割納付する「延納」と、相続財産で納付する「物納」の方法があります

引用元:国税庁:➌相続税の納付

延納は金銭であり、物納は相続財産で納めることになります。延納か物納かを選択できるわけではなく、延納がどうしても困難な場合にのみ物納が認められていますので、覚えておきましょう。

海外送金や財産評価で生じやすい問題

海外送金で問題となるのは、手数料名目の多さや為替です。遺産分割協議後、海外から日本に送金する場合は一般的に海外送金手数料・中継銀行手数料(コルレス手数料)がかかります。

さらに海外から送金されたお金を日本で受け取る場合も、中継銀行手数料に為替手数料、為替取扱手数料(リフティングチャージ)が必要となるはずです。

また、為替は毎日変動しますので、送金のタイミングによっては資産総額が目減りしてしまうこともありえます。

財産評価は、相続税額を決定するうえで重要な指標となります。そして国外財産の評価は財産評価基本通達第1章総則(評価の原則)5-2に定めがありますので、その内容を、以下3つに分けて説明します。

  1. 通達の定めで評価できない財産については、通達に定めた評価方法に準じる、または売買実例価額、精通者が示した価格などを基に評価する。
  2. 課税上弊害がない限り、取得価額を基に財産所在地における同じ種類の財産の一般的価格動向に基づき時点修正した価額で評価することもできる。
  3. 課税上弊害がない限り、課税時期後の譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出したもので評価することもできる。

つまり、課税上弊害がない内容で取得・譲渡が実現していれば、その額を基に財産を評価するということです。

では逆に課税上弊害が出る内容とは、どういうことかといえば、著しく安価で購入・譲り受けた場合を指します。

例えば市場では1,000万円で取引されている不動産を500万円で購入した場合、国は500万円分の相続税を徴収できなくなり課税上、弊害が出るとしているのです。

ゆえに、国が課税上弊害が出ると判断した場合、売買実例価額、精通者が示した価格を基にした評価が出るでしょう。

そのため、いくら取得・譲渡価額が安かったとしても、当該財産が高く評価された場合、多額の相続税を納付する結果となりえます。

国外財産調書の提出が必要な場合

国外財産調書は、2014年にスタートした制度です。日本国内に住所があるもしくは1年以上居所がある個人が、年末(12月31日)時点の国外財産が5,000万円を超える場合に、提出します。なお期限は翌年の6月15日までで半年ほどの猶予が設けられています。

相続開始年の国外相続財産については、国外財産調書に記載しないことも可能で、取得していたとしても含めずに国外財産調書を提出するかどうかを判断できます。

しかし、相続開始年の次の年以降、遺産分割を終え国外財産を取得した場合は、その額を加え、まだ遺産分割を終えていない場合は法定相続分に按分した額を加え国外財産調書提出の是非を判断します。

国際相続に関するよくある質問

最後に、円満相続ラボに寄せられる国際相続に関するよくある質問を4つ、ご紹介いたします。

海外在住でも手続きできる?

はい。外国に住んでいる場合でも、国内に住んでいる場合と手続きの流れは、基本的に変わりありませんので、手続き可能です。

遺産分割協議書はEMS(国際スピード郵便)でやりとり可能ですし、在留証明やサイン証明は現地で取得できます。

しかしながら被相続人の自宅が日本にある場合は、財産のリスト化などを行うことが困難で、日本にいる共同相続人に任せるほかありません。

相続人が1人だけの場合は、日本在住の専門家に依頼することで、手続きを進めていけます。

日本の専門家に海外対応を依頼できる?

はい。円満相続ラボには国際相続サポートを専門に行っている相続診断士もいますので、海外における対応もお任せください。

まずは、お気軽に電話・メールでお問い合わせいただけますと幸いです。

郵送やコミュニケーションが困難な場合の対処法

国や地域の事情などで郵送やコミュニケーションが困難な場合は、弁護士や税理士に依頼して、相続手続きを一任されてはいかがでしょうか。

円満相続ラボでは、国際相続に強い法律事務所や税理士事務所と提携しており、いつでもご紹介することができます。

国際的に有効な遺言の作成方法は?

国際相続に強い弁護士の先生のお力を借りて、公正証書遺言を作成してもらうことをおすすめします。

公証役場、在外公館で作成した遺言書は、少なくとも遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約(ハーグ条約)批准国においては、有効なものとして取り扱われています。

国際相続でトラブルになった場合の対応は?

被相続人の国籍を確認し、その国の法制度下で紛争解決を試みましょう。

相続における準拠法は、被相続人の本国法となりますので(適用通則法36条)、亡くなった方の国籍が日本なら、日本の裁判所に調停・審判を申し立てます。

たとえ、相手方が海外在住でも、日本の裁判所が事件を管轄し、呼び出すきまりです。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

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