相続税が払えないときの対処法は?延納、物納、借入れなどの選択肢を徹底解説
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相続税が支払えない場合の理由
相続税が払えない理由は様々ですが、ここでは代表的な3つの理由について解説します。
相続財産に現金や預金が少ない
被相続人が残した相続財産に現金や預金が少ない場合、相続税の支払いが難しくなるケースがあります。というのも、相続税は原則として「現金による一括納付」が必要なので、相続税の支払いをカバーするのに現金が足りない場合には、相続税の支払いに支障をきたす可能性があります。
遺産分割協議が進まず預貯金が凍結されている
個人が亡くなると、預金口座は凍結され、お金を簡単には下せなくなります。
凍結を解除するためには、「遺産分割協議書」を銀行に示す必要があります。遺産分割協議書とは、遺産分割の合意について記載した文書のことです。遺産分割協議がまとまらないと、遺産分割協議書は作成できません。そうなると、被相続人の預貯金をいつまでも引き出すことができない状況に陥ります。
不動産が相続財産の大部分を占めている
不動産が相続財産の大部分を占めている場合、その分の相続税を支払わなければならないのに、相続税を支払う金銭が不足しているという事態が発生することがあります。
相続税の納付方法
相続税は原則として現金で一括納付することが必要です。そうはいっても、納付が難しいこともあるでしょう。そういった場合の例外的な納付方法について解説していきます。
延納:相続税を年払いにする方法
相続税は原則として現金で一括納付しなければなりませんが、一定の要件を満たすことで分割払いをすることができます。この制度を「延納」といいます。
延納の条件と手続き
相続税の延納をするためには、税務署への申請を行い、以下の4つの要件を満たしていることを認めてもらう必要があります。
- 相続税の金額が10万円を超えること
延納制度を利用するには、延納を申し出る相続人の相続税が10万円を超えていることが必要です。延納制度の判定は相続人ごとに行われます。 - 金銭納付が困難な金額であること
相続人のもともとの財産を支払いにあてても、相続税の全額を支払えない場合がこれに当たります。ただし、全財産をあてなければならないわけではなく、生活に必要な分は残しておいても問題ありません。 - 申告期限までに延納申請書、担保提供関係書類、金銭納付を困難とする理由書を提出すること
相続税の申告・納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。その申告期限までに、「延納申請書」、「担保提供関係書類」、「金銭納付を困難とする理由書」を税務署に提出しなければなりません。 - 延納税及び利子の額に相当する担保を提供すること
延納制度を利用するためには、担保の提供が必要です。担保には不動産や有価証券などが利用できます。ただし、延納税額が100万円以下であり、かつ延納期間が3年以下の場合は担保の提供は必要ありません。
延納のメリットとデメリット
延納のメリットは、なんといっても1回あたりの納税負担が軽くなることです。相続財産のうち不動産割合が75%以上であれば、最長20年の延納が認められます。
延納のデメリットは、支払いが終わるまで利子税が課されることです。相続税が支払えない場合には、延納の検討とともに、利子税を含めた支払い計画を立てることが必要です。
物納:不動産や株式などの現物で相続税を納付する方法
延納で分割しても現金での相続税の納付が難しい場合には、例外的に「物」で相続税を納めることが認められており、これを「物納」といいます。物納は、相続財産に限られ、相続人がもともと持っていた財産を納付することはできません。
物納の条件と手続き
物納するには、以下のすべての条件を満たすことが必要です。
- 延納によっても金銭で納付することが困難であり、その納付を困難とする金額を限度としていること
相続した金銭、相続人がもともと持っていた金銭でも納付できない場合に、物納が認められます。 - 物納申請財産は定められた種類の財産および順位で、その所在が日本国内にあること
第1順位は不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式などで、第2順位は非上場株式、第3順位は動産です。これらの優先順位に応じた日本国内にある財産で納付することが必要です。 - 物納にあてることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること、および物納劣後財産に該当する場合には、ほかに物納にあてるべき適当な財産がないこと
換金しやすい財産以外については、受付がなされません。 - 物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること
相続税の申告・納付期限までに申請をする必要があります。
物納のメリットとデメリット
物納のメリットとしては、現金での支払いをしなくて済むことです。また、相続財産で納付できるので、手出しが不要です。
デメリットは、納付した物が相続時の時価よりも低く評価されやすいこと、物納が許可された場合にも却下された場合にも利子税がかかることです。物納はハードルが高く、現実には認められるケースがほとんどありません。そのため、以下に解説する通り、相続財産を売却して現金化することを検討した方が、スムーズな可能性があります。
相続財産を売却して現金化
相続税の調達方法として最も簡単なのが、相続財産を売却して納税資金をねん出する方法です。相続税を納める前でも、財産を処分することは可能ですが、遺産分割協議などによって決まった自分の相続分のみにしか認められないので、注意しましょう。
不動産売却時の注意点
一般的に相続した財産を現金化する場合、不動産を売却するケースが多いといわれています。不動産を売却する際には、名義を被相続人から相続人に変更しなければなりません。
また、不動産を売却することで「譲渡所得税」という税金がかかることもあるため、それを踏まえたうえで売却価格を検討しましょう。不動産は売却まで時間がかかることが多いため、相続税の申告期限に余裕をもって売却手続きを行う必要があります。
金融機関からの借入れ
相続財産の処分が難しい場合には、自分の財産で相続税を支払う方法しかありません。手元に現金がない場合には、相続財産を担保にして金融機関などから相続税の納税資金を借り入れることも一手です。延納の場合の利子税と融資利率とを比較し、どちらがいいか検討してみてください。
不動産を担保にしたローン
不動産を含む相続が発生した場合、「不動産担保ローン」を活用できるかもしれません。不動産担保ローンとは、文字通り、不動産を担保にしてお金を借りるローンです。担保物件となる土地の権利書などを準備して、金融機関に問い合わせてみましょう。
利用する金融機関は、普段から付き合いのある銀行がおすすめです。保証人もあらかじめ決めておき、相談する日に同席すれば、よりスムーズな申請につながります。
相続放棄:相続そのものを放棄して相続税の支払いを避ける
相続は必ずしなければならないわけではなく、「相続放棄」をして相続人の資格そのものを放棄することができます。相続をすると、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も引き継がなければなりません。マイナスの財産が多ければ、相続放棄を選択するのも有用です。
相続放棄のメリットとデメリット
相続放棄のメリットは、マイナスの財産を引き継がなくて済むということです。ただし、デメリットとして、プラスの財産も引き継げなくなるため、思い入れのある自宅なども手放さなければなりません。なお、相続放棄は被相続人が亡くなってから3か月以内にする必要があるので、注意しましょう。
相続税が支払えない場合の影響
相続税の申告・納税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内にしなければなりません。支払わない場合には、以下のような影響が発生するでしょう。
無申告加算税や延滞税が発生する可能性
相続税を申告しなかった場合、無申告加算税が発生します。ただ、災害などの影響で申告できなかったなど、やむを得ない事情に限り、無申告加算税がかからないケースもあります。さらに、延滞税も発生します。延滞税は相続税の本税とは別に納付する必要があります。延滞割合がかなり高く設定されているので、速やかな納付が必要です。
財産の差押え
相続税の延滞が続くと、国税庁に財産を差し押さえられる可能性があります。差押え対象の財産は不動産や預貯金、給与などで、徴収職員が決定します。給与が差し押さえられた場合には、勤め先に差押え通知書が送付されるため、職場に税金を滞納していることが発覚してしまいます。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できない
相続税を期限内に申告・納税できなかった場合、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」が適用できなくなる可能性があります。
配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者に限り1億6000万円まで、または法定相続分の範囲内までは相続しても相続税がかからない特例です。小規模宅地の特例とは、被相続人の自宅を同居親族などが相続する場合、敷地面積330㎡までの相続税評価額の80%を減額できる特例です。
どちらも節税効果の大きな特例ですが、遺産分割協議で相続人が確定していること、相続税の申告・納付が要件です。
相続税の納付資金を準備する方法
相続税の納税資金を準備するためには、生前に現金を貯金しておくことも大切ですが、納税額そのものを低くする方法を活用することも重要です。
生命保険の活用
生命保険の保険金も相続財産の対象ですが、「500万円×法定相続人の数」までであれば非課税となります。最低でも500万円は相続財産から差し引かれるので、現金や預貯金よりも課税額が低くなります。
生前贈与を活用して資産を移転
年間110万円までの贈与であれば、贈与税がかかりません。また、子供の教育資金、結婚・子育て資金などを一括贈与する場合、最高で1500万円まで贈与税がかからない特例があります。贈与した分、被相続人の財産が減少するため、相続税の課税対象額を小さくすることができます。
養子縁組をして相続人を増やす
相続税には「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」まで非課税となる「基礎控除」という制度があります。
法定相続人が増えれば増えるほど、基礎控除の額は上がります。そして、養子も法定相続人に含まれるため、養子縁組をすることで基礎控除額が上がり、課税額が下がることになります。
遺産分割協議が進まない場合の対策
相続税の申告・納税は被相続人の死亡を知ってから10か月以内に行う必要があります。それまでに遺産分割協議がまとまらない場合には、相続財産の中から相続税を支払うことが難しくなります。その際の対処法をいくつか解説します。
納税額分の遺産分割を優先して行う
相続税の納付が遅れると、追加で税金を支払わなければなりません。相続人全員がそういった事態を避けたいはずですから、相続税の資金分だけ遺産分割協議を行い、預貯金を下ろすといったことが考えられます。
遺産分割の合意は相続財産の一部のみに対しても有効です。相続人全員の合意が得られるなら、この方法が最も簡単でしょう。
預貯金の仮払い制度を利用する
遺産分割協議が終わっていない場合、原則として預貯金口座の解約はできません。
ただし、「預貯金の仮払い制度」を使えば、遺産分割協議の成立前でも150万円か相続発生時の預金残高×法定相続分×1/3のいずれか低い方を上限として引き出せます。金融機関ごとにこの額を引き出せるので、被相続人の取引銀行が多ければ、相続税の納付に十分な額が調達できる可能性があります。
法定相続分の預金払い出しを請求する
相続が発生すると被相続人の預金口座は凍結されます。ただ、裁判例には、遺産分割協議前に相続人が凍結された被相続人の預貯金を引き出せた事例もあります。
こういったケースは珍しいため、弁護士による交渉が必要不可欠ですし、必ず認められるというものではありません。他に選択肢がない場合の最終手段として考えましょう。
その他の対策
その他の対策として、相続開始前後のどちらにおいても、税理士の助言を求めることをおすすめします。
税理士に相談して節税対策を行う
相続税は税率が高いため、納税資金対策が重要です。換金しにくい財産をたくさん持っている場合には、生前に節税対策について税理士に相談しておきましょう。生前贈与などの対策を一緒に考えてくれます。
納税に困った場合は税理士に相談してアドバイスを受ける
相続税の納付に困った場合には、税理士に相談し、延納が良いのか、物納が良いのか、ローンを組むのが良いのかなど、納付方法について相談し、ベストな手段を検討してもらいましょう。
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この記事を書いたのは…
弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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