相続放棄の範囲はどこまでか?相続順位や財産管理、手続きの注意点を解説

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相続放棄とは?基本知識と手続きの流れ
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や負債を一切引き継がない選択肢のことです。プラスの財産だけでなく、借金や未払い税金などのマイナスの財産も含まれるため、負担を避けたい場合に有効です。
しかし、借金が多くて負担になりそうな場合や、相続によるトラブルを避けたい場合には、相続放棄を選ぶことができます。相続放棄をすれば、遺産を一切受け取らず、借金の返済義務もなくなります。ただし、手続きには期限があり、一度放棄すると取り消すことはできません。
相続放棄を検討している場合は、正しい手順を理解し、慎重に判断することが大切です。ここでは、相続放棄の基本的な仕組みや、手続きの流れを詳しく解説します。
相続放棄の意味と仕組み
相続放棄とは、相続人が遺産を受け取る権利を放棄することです。
遺産には、家や土地、預貯金などのプラスの財産と、借金や保証債務などのマイナスの財産があります。通常の相続では、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぎます。しかし、借金の方が多い場合、相続すると負担が大きくなります。
そんなときに利用できるのが相続放棄です。相続放棄をすると、借金の支払い義務がなくなります。ただし、家庭裁判所への申請が必要で、期限が決まっています。一度手続きをすると取り消せないため、慎重に判断することが大切です。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄をするには、決められた手順に従って進める必要があります。ここでは、自分で手続きを行う場合の流れを8つのステップに分けて解説します。
【ステップ1】相続財産の調査をする
まずは、亡くなった方(被相続人)の財産を確認します。
相続には、預貯金や不動産などの「プラスの財産」と、借金や未払い税金などの「マイナスの財産」があります。どちらが多いかを調べることで、相続放棄をするかどうか判断しやすくなります。
【ステップ2】相続放棄をするか決める
相続放棄をすると、後から取り消すことはできません。
そのため、財産の調査結果をもとに、本当に相続放棄をするべきか慎重に考えましょう。
相続放棄を選ぶケースとして、以下のような状況が考えられます。
- 借金が財産よりも明らかに多い
- 相続トラブルに巻き込まれたくない
- 他の相続人に遺産を譲りたい
- 相続の手続きをしたくない
【ステップ3】必要な書類を準備する
相続放棄の手続きには、以下の書類が必要です。
書類名 | 取得先 |
相続放棄の申述書 | 裁判所 |
被相続人の住民票除票または戸籍附票 | 市区町村役場 |
申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本 | 市区町村役場 |
被相続人の戸籍謄本 | 市区町村役場 |
その他血縁者の戸籍謄本(必要な場合) | 市区町村役場 |
戸籍謄本は本籍地の役場で取得しますが、広域交付制度を使えば他の市区町村でも発行可能です。ただし、利用条件があるので事前に確認しましょう。
【ステップ4】必要な費用を用意する
相続放棄の手続きには、以下の費用がかかります。
- 収入印紙(申述人1人につき800円)
- 郵便切手(裁判所ごとに異なり、約400~500円)
- 収入印紙は郵便局や法務局、金券ショップなどで購入できます。
【ステップ5】家庭裁判所に申述する
相続放棄の申請は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
申請方法は、次の2通りがあります。
・直接裁判所へ提出する
・郵送で提出する
申請書類に不備があると手続きが遅れるため、提出前にしっかり確認しましょう。
【ステップ6】裁判所の照会書に回答する
申述後、3~4日ほどで家庭裁判所から「照会書」が届きます。これは、相続放棄の意思確認をするための質問票のようなものです。必要事項を記入し、期限内に返送しましょう。
また、追加で資料の提出を求められる場合もあるため、指示があれば速やかに対応してください。
【ステップ7】相続放棄の受理通知書が届く
裁判所が相続放棄を正式に認めると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この通知書が届いた時点で、相続放棄が完了となります。
一般的に、照会書を返送してから2週間ほどで受理されます。
【ステップ8】他の相続人に伝える
相続放棄が完了したら、他の相続人に速やかに知らせましょう。
相続放棄の手続きをしても、裁判所が他の相続人へ自動で連絡することはありません。そのため、知らずに次の相続人が負債を引き継いでしまう可能性があります。
特に、順位が変わる場合(例:長男が放棄して次に弟が相続人になるなど)は、トラブルを防ぐためにも早めに伝えましょう。
相続放棄に必要な期限と注意点
相続放棄には期限があり、決められた期間内に手続きをしないと放棄できなくなります。
また、一度放棄すると取り消しができないため、慎重に判断する必要があります。
相続放棄の期限は「3か月以内」
相続放棄の申請は、相続が発生したことを知った日から3か月以内に行わなければなりません。3か月の間に、プラスの財産とマイナスの財産を調査し、放棄するかどうかを決めることが重要です。
この期間内に手続きをしないと、原則として借金も含めたすべての財産を相続することになります。
期限内に決められない場合は延長も可能
相続財産の調査に時間がかかる場合、3か月以内に判断するのが難しいこともあります。
その場合、家庭裁判所に申請すれば熟慮期間を延長することができます。
ただし、延長が認められるかどうかは裁判所の判断によります。
「財産の調査が終わらない」「相続人同士で話し合いがまとまらない」といった理由がある場合は、早めに延長の申請を検討しましょう。
相続放棄は取り消しできない
一度相続放棄をすると、「やっぱり相続したい」と思っても撤回はできません。
手続きが受理された後に気が変わっても、遺産を受け取ることはできなくなります。
そのため、次のような場合は慎重に検討する必要があります。
- 借金が多いと思ったが、実はプラスの財産もあった
- 財産の全体像が分からないまま放棄を決めてしまった
もし、借金の額が分からず不安な場合は、「限定承認」という方法もあります。
これは、プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ方法で、「借金があるかもしれないが、遺産もある」という場合に選択肢のひとつになります。
法定相続人の範囲と相続順位
人が亡くなると、その財産を相続できる人が決まっています。
これを「法定相続人」といい、民法で定められた相続の権利を持つ人のことを指します。
法定相続人は、被相続人(亡くなった人)の家族や親族の中から、一定の順位に従って決まります。
この順位によって、誰が相続できるか、どのように財産が分配されるかが変わります。
たとえ親族であっても、法定相続人に該当しない人は原則として遺産を受け取ることはできません。
また、法定相続人の範囲や順番は、遺産分割の際に重要なルールとなるため、相続手続きを進める前に確認しておくことが大切です。
配偶者は常に相続人となる
結婚している配偶者は、必ず相続人になります。
これは、どの親族が相続人になる場合でも変わりません。
ただし、ここでいう「配偶者」とは法律上の婚姻関係がある人のことを指します。
内縁関係(事実婚)の相手は相続人にはなれないので注意が必要です。
血族相続人の優先順位
血縁関係にある人(血族)は、法定相続人になります。
しかし、亡くなった人(被相続人)により近い関係の人が優先されます。
相続の順位は決まっており、第1順位の人がいる場合、第2順位以下の人には相続権がありません。
つまり、順位の高い相続人がいると、遠い親族には遺産がまわらない仕組みになっています。
第一順位:子(直系卑属)
配偶者のほかに、最も優先される相続人は「子ども」です。
子どもがいる場合、親や兄弟よりも先に相続権を持ちます。
たとえば、亡くなった人に配偶者と2人の子どもがいる場合、この3人が相続人となります。
もし子どもがすでに亡くなっている場合、その子どもの子(孫)が代わりに相続できます。
これを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」といいます。
孫も亡くなっている場合は、その子(ひ孫)が相続することになり、代襲相続は世代が続く限り適用されます。
養子も法律上は実の子と同じ扱いになります。
そのため、養子も第一順位の相続人になります。
養子の数に制限はありませんが、相続税の計算では以下の制限があります。
- 実子がいる場合→養子1人までが相続税の基礎控除の対象
- 実子がいない場合→養子2人までが控除の対象
そのため、養子が多い場合は相続税の計算に注意が必要です。
第二順位:父母・祖父母(直系尊属)
亡くなった人に子どもがいない場合、次に相続できるのは父母です。
父母もすでに亡くなっている場合は、祖父母が相続人となります。
第三順位:兄弟姉妹
子どもも親もいない場合、相続できるのは兄弟姉妹です。
もし兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子ども(おい・めい)が代わりに相続できます。
ただし、代わりに相続できるのは「おい・めい」までで、それ以降の世代には引き継がれません。
相続放棄をすると相続権はどう移る?
相続では、配偶者は常に相続人となり、以下の順位で相続権が決まります。
第一順位:子ども
第二順位:親や祖父母(直系尊属)
第三順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
では、相続人が相続放棄をすると、相続権はどのように移るのでしょうか?
相続放棄による相続権の変化
相続放棄をした血族は、最初から相続人ではなかったとみなされます。
そのため、その人が受け取るはずだった財産は、次の順位の相続人に移ります。
たとえば、子どもが相続放棄をした場合、相続権は親(第二順位)に移ります。
親も放棄すれば、さらに兄弟姉妹(第三順位)へと移っていきます。
ただし、相続放棄は相続人ごとに判断できるため、全員が放棄すれば最終的に相続する人がいなくなる可能性もあります。その場合、財産は国庫に帰属することになります。
【ケース別】相続放棄をした場合の影響
ここでは、ケース別の相続放棄をした場合の影響についてみていきましょう。放棄した相続人によって与える影響が変わってきます。
配偶者が相続放棄した場合
配偶者が相続放棄すると、残った相続人が遺産を引き継ぎます。
配偶者は常に相続人ですが、相続順位には影響しないため、他の人に相続権が移ることはありません。
たとえば、法定相続人が「配偶者と子ども2人」の場合、配偶者が相続放棄すれば、子ども2人で遺産を分けることになります。
このように、配偶者が放棄しても、その分の相続権が誰かに新しく発生するわけではなく、もともと相続人だった人たちの間で分配される仕組みです。
子が相続放棄した場合
子ども全員が相続放棄すると、相続権は次の順位である親や祖父母に移ります。
一方、一部の子どもだけが相続放棄した場合、放棄しなかった相続人が遺産を受け継ぎます。
例えば、相続人が「配偶者と子ども3人」の場合、子ども2人が相続放棄すると、残った配偶者と1人の子どもで遺産を分けることになります。
被相続人に孫がいる場合
被相続人に孫がいても、子どもが相続放棄しただけでは孫に相続権は移りません。
孫が相続できるのは、本来相続人である子どもが「被相続人より先に亡くなっている場合」のみです。
この仕組みを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」といいます。
たとえば、被相続人の子どもが生前に亡くなっていて、その子ども(孫)がいる場合、孫が親に代わって相続人になります。
しかし、子どもが単に相続放棄しただけでは、孫は相続できません。
被相続人に孫がいない場合
もし孫がいない場合、代襲相続は発生しません。
そのため、子ども全員が相続放棄したら、相続権は親(父母)に移ります。
親がすでに亡くなっている場合は、さらに祖父母へと相続権が移る仕組みです。
親が相続放棄した場合
親が相続放棄すると、次に相続できるのは祖父母です。
相続権は親等の近い人から順番に移っていくため、親が相続を放棄した場合は、その上の世代(祖父母)が相続人となります。
祖父母が相続人になる
親が相続放棄した場合、祖父母が生きていれば相続人になります。
もし、祖父母も相続放棄した場合、さらに上の世代である曾祖父母に相続権が移ります。
祖父母が他界していたら兄弟姉妹が相続人
祖父母や曾祖父母がすでに亡くなっている場合、相続権は次の順位である兄弟姉妹に移ります。
兄弟姉妹が相続放棄した場合
子どもや親が相続できない場合に兄弟姉妹が相続人になりますが、兄弟姉妹より後の順位の相続人はいません。
そのため、兄弟姉妹が放棄すれば、原則として遺産は誰にも引き継がれません。
兄弟姉妹が放棄しても甥・姪は相続人にならない
相続では、代襲相続(相続人が亡くなっている場合に子が代わりに相続する仕組み)があります。
しかし、兄弟姉妹が相続放棄した場合、甥・姪には相続権は移りません。
これは、代襲相続が発生するのは「相続人が亡くなっている場合」に限られ、相続放棄の場合は適用されないためです。
つまり、兄弟姉妹が放棄すると、その子ども(甥・姪)は相続できず、財産は次の順位に移りません。
兄弟姉妹が死亡していても甥・姪が代襲相続する
もし、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、甥・姪が代襲相続します。
これは、相続人が亡くなっていたときに発生する代襲相続のルールによるものです。
つまり、
- 兄弟姉妹が生きている場合に放棄すると、甥・姪に相続権は移らない
- 兄弟姉妹が亡くなっていた場合、その子(甥・姪)が代襲相続する
この違いを理解しておくことが大切です。
甥・姪が相続放棄すると相続人がいなくなる
甥・姪が代襲相続した場合、その甥・姪も相続放棄すると、もはや相続人はいなくなります。
兄弟姉妹の相続は第三順位のため、それ以上の相続人はいません。
最終的に相続する人がいなくなると、遺産は国のものになります。
このようなケースでは、相続放棄する前に専門家に相談するのも一つの方法です。
相続放棄を検討する際のポイント

相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったとみなされます。
しかし、放棄した人の相続分がどうなるかは、誰が放棄するかによって変わります。
ここでは、配偶者・子ども・親・兄弟姉妹が相続放棄した場合の影響をくわしく解説します。
配偶者の相続放棄の影響
配偶者が相続放棄しても、残った相続人が遺産を引き継ぎます。
配偶者は常に相続人ですが、相続順位には関係しないため、配偶者の放棄によって新たな相続人が増えることはありません。
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人だった場合、配偶者が放棄すると、残った子ども2人が遺産を分けることになります。
子どもの相続放棄の影響
子どもが相続放棄をしたら、他の相続人に以下のような影響を及ぼします。一部の子どもが相続放棄した場合と、子ども全員が相続放棄した場合で影響は異なります。
一部の子どもが相続放棄した場合
一部の子どもだけが相続放棄した場合、放棄しなかった相続人がその分を相続します。
たとえば、配偶者と子ども2人が相続人で、1人の子どもが放棄すると、残った配偶者と1人の子どもが遺産を分けます。
子ども全員が相続放棄した場合
子ども全員が放棄すると、次の相続順位である父母(祖父母)に相続権が移ります。
この場合、相続人は配偶者と父母(または祖父母)になります。
配偶者がいなければ、父母(または祖父母)のみが相続人となります。
親の相続放棄の影響
親が相続放棄する場合には、親の片方が相続放棄した場合と、両方が相続放棄した場合によって影響が変わります。
いずれかの親が相続放棄しない場合
父または母のどちらかが放棄しても、残った方が相続します。
たとえば、相続人が配偶者と両親で、父が放棄した場合、配偶者と母が相続人となります。
父母ともに相続放棄した場合
両方の親が放棄すると、相続権は第三順位の兄弟姉妹に移ります。
この場合、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。
もし配偶者がいなければ、兄弟姉妹のみが相続することになります。
兄弟姉妹の相続放棄の影響
兄弟姉妹が相続放棄した場合、一部の兄弟姉妹が相続放棄した場合と、すべての兄弟姉妹が相続放棄した場合によって影響が変わります。
いずれかの兄弟姉妹が相続放棄しない場合
兄弟姉妹の一部が相続放棄した場合、放棄しなかった兄弟姉妹が、放棄した分を相続します。
たとえば、相続人が配偶者と兄弟姉妹3人で、1人の兄弟が放棄した場合、残った配偶者と2人の兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹全員が相続放棄した場合
兄弟姉妹が全員放棄すると、配偶者がいれば配偶者が単独で相続します。
配偶者もいなければ、相続人がいなくなり、遺産は最終的に国のものとなります。
相続放棄をする際の実務的な注意点
では、実際に相続放棄をする場合には、どのような点に注意して手続きをすればよいのでしょうか。
相続放棄の申述は裁判所への手続きが必要
相続放棄をするためには、他の相続人に「相続放棄をする」と伝えるだけでは足りません。家庭裁判所にて「相続放棄の申述」という手続きをする必要があります。
「相続放棄申述書」という書類に記入し、戸籍謄本などの必要書類とともに裁判所に提出します。収入印紙や連絡用の郵便切手も忘れずに添付しましょう。
次順位の相続人には自動的に通知されない
相続人が相続放棄したとしても、次順位の相続人に自動的に通知がいくわけではありません。自分が相続放棄をしたことによって、新たに相続人になる人がいる場合には、不意打ちにならないように、忘れずに連絡しましょう。
相続放棄には3か月の期限がある
相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に行う必要があります。この期間をすぎると、相続放棄できず、被相続人の財産も債務もすべて相続することになります。
ただし、この3か月以内に手続きが終わらないときには、相続放棄の期限の延ばしてもらう手続きがあるので、家庭裁判所に問い合わせてみるとよいでしょう。
法定単純承認に該当しないよう注意
相続には、単純承認・限定承認・相続放棄の3つの方法があります。
このうち、単純承認とは、亡くなった人の財産(プラスの財産も借金などのマイナスの財産もすべて)を無条件で相続することを意味します。
単純承認は、明確な意思表示がなくても、財産を使ったり処分したりすると成立してしまうため、注意が必要です。
相続放棄を考えている場合は、無意識のうちに単純承認にならないように気をつけましょう。
相続財産を処分したり使ったりすると、単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなることがあります。
たとえば、以下の行為は「財産の処分」とみなされる可能性があります。
- 亡くなった人の預貯金を引き出す・解約する
- 不動産を売却・譲渡する
- 亡くなった人の借金や税金を支払う
これらの行為をすると、たとえ相続放棄を希望していても、単純承認したと判断され、借金なども含めてすべて相続しなければならなくなるため注意が必要です。
未成年者が相続放棄をする際の注意点
未成年者は単独で相続放棄することはできません。そのため、親権者などの「法定代理人」が代わりに手続きを行う必要があります。
法定代理人が手続きを行う
未成年者が相続放棄をする際には、法定代理人が手続きを行います。
未成年者の法定代理人は、基本的に親権を持つ親です。
両親がいる場合は、通常どちらも法定代理人となります。
一方で、両親が離婚している場合は、親権者となった親のみが代理人となります。
もし、親権を持つ人がいない場合(親が死亡・行方不明など)は、家庭裁判所が未成年後見人を選び、その後見人が手続きを行います(民法838条)。
利益相反を避けるため特別代理人の選任が必要
未成年者が相続放棄をする際、親権者と子どもが「利益相反」の関係にある場合は、特別代理人を選ぶ必要があります。
「利益相反」とは、一方の利益が、もう一方の不利益になる状況のことを指します。
たとえば、親が相続放棄をすることで自分の相続分を増やし、子どもの利益が損なわれる場合、親は子どもの代理人にはなれません。
そのため、特別代理人を家庭裁判所に申し立てて選任する必要があります。
相続放棄をした場合の財産管理と手続き
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったとみなされます。
しかし、相続財産が放置されると周囲に悪影響を及ぼす可能性があるため、放棄した人にも一定の管理義務が発生する場合があります。
また、相続財産を適切に管理・処分するために「相続財産清算人」を選任することもできます。
ここでは、相続放棄後の財産管理と手続きについて詳しく解説します。
相続放棄をしても発生する管理義務とは
相続放棄をしても、すぐに財産管理の責任がなくなるわけではありません。
民法では、次の相続人や管理者が財産を引き継ぐまで、放棄した人が適切に管理しなければならないと定められています。
たとえば、以下のようなケースでは、放棄した人が一時的に管理義務を負います。
- 相続放棄したが、次の相続人がまだ決まっていない
- 土地や建物が放置され、第三者に損害を与える可能性がある
管理義務の対象となる主な財産は、以下のとおりです。
- 住んでいた家や空き地
- 賃貸物件やその契約
- 借地・農地・山林
管理を怠ると、周囲に損害を与えた場合に責任を問われることもあるため、注意が必要です。
相続財産清算人の選任が必要なケース
相続放棄をした人が財産の管理を続けるのは大変です。
そのため、財産の管理や清算を専門に行う「相続財産清算人」を家庭裁判所に申請して選任することができます。
相続財産清算人が必要になるケースは、たとえば以下のような場合があります。
- 相続人が全員放棄し、誰も財産を管理しない場合
- 放置された財産が老朽化し、第三者に被害を及ぼす可能性がある場合
- 借金や未払いの税金があり、適切に処理する必要がある場合
相続財産清算人を選任すると、放棄した人は財産管理の義務から解放されます。
相続財産清算人の役割と手続き
相続財産清算人は、以下のような業務を行います。
- 財産の管理・売却
- 未払いの税金や借金の整理
- 必要に応じて相続人の調査
選任された管理人がこれらの業務を担当することで、相続放棄した人の負担を減らすことができます。
相続財産清算人の選任申立ての流れ
相続財産清算人を選任するには、家庭裁判所に申立てを行います。
手続きの流れは以下の通りです。
- 申立書の作成(必要事項を記入)
- 必要書類の準備(戸籍謄本、財産の資料など)
- 家庭裁判所へ申請
- 裁判所の審査(必要に応じて追加書類を提出)
- 相続財産清算人の選任決定
裁判所が適任者を選び、正式に管理人が選任されると、財産の管理が引き継がれます。
相続財産清算人選任の費用
相続財産清算人を選任するには費用がかかります。
- 申立費用:収入印紙800円
- 郵便切手代:数千円程度(裁判所による)
- 予納金:30万円~100万円程度(管理人の報酬として)
予納金は、相続財産があれば後で返還されることもありますが、財産がほとんどない場合は返還されない可能性もあります。
相続財産が国庫に帰属する流れ
相続人がいない場合、または相続人全員が相続放棄をした場合、最終的に相続財産は国のものになります。これを「国庫に帰属する」といいます。
相続財産が国庫に帰属する流れは以下の通りです。
- 相続人がいないことを確認(相続放棄が完了)
- 相続財産清算人が財産を管理・整理
- 債務や税金の支払いを完了
- 残った財産が国に引き渡される
ただし、国庫帰属の手続きには時間がかかるため、放棄後に財産管理をどうするかは事前に考えておくことが重要です。
相続放棄の影響と代替手段
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったとみなされます。
では、相続人全員が相続放棄した場合、財産はどのように処理されるのでしょうか?
親族全員で相続放棄するとどうなる?
相続人全員が相続放棄すると、財産は家庭裁判所が選任する「相続財産清算人」が管理・清算します。
清算人は、財産を整理し、まず借金などを支払った後、残った財産を国庫に引き渡します。
ただし、亡くなった人と特に関わりが深かった人(特別縁故者)がいれば、裁判所の判断で財産の一部を受け取れる可能性があります。
相続財産清算人が選ばれるまでは、相続放棄した人にも財産を守る義務(保存義務)があるため、勝手に処分しないよう注意が必要です。
また、相続放棄すると、基本的に借金の支払い義務はなくなります。
ただし、債権者(貸主)に相続放棄を証明するため、「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所で取得しておくと安心です。
ただし、保証人や連帯保証人になっていた場合は、相続放棄しても支払い義務は残ります。
また、清算人が選任されると、不動産や株式を売却し、可能な範囲で借金を返済します。
それでも残った借金は、最終的に貸した側(債権者)の負担となります。
相続放棄をしても受け取れる財産とは
相続放棄をすると、亡くなった人の財産(プラスもマイナスも)を一切引き継がなくなります。
しかし、相続財産に含まれないものであれば、放棄しても受け取ることが可能です。
たとえば、以下の財産は相続放棄しても受け取ることができます。
- 生命保険の死亡保険金
→受取人が指定されている場合、その人が受け取れる。
- 健康保険の給付金(葬祭費・埋葬料など)
→国民健康保険や健康保険組合から支給される。
- 遺族年金・死亡一時金
→遺族が受け取る制度で、相続財産には含まれない。
- 未支給年金
→亡くなった人が受け取るはずだった年金。
→生計を共にしていた家族(配偶者・子・父母など)が優先して受け取れる。
- 祭祀財産(さいしざいさん)
→お墓・仏壇・位牌・家系図などのことで、法律上の相続財産には含まれない。
相続放棄以外の選択肢
被相続人の財産を相続したくないと考えるとき、相続放棄以外にも、「相続分の譲渡」や「限定承認」といった選択肢もあります。
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、自分が持つ相続権を他の人に譲ることを指します。譲る相手は自由に選ぶことができ、他の共同相続人だけでなく、全く関係のない第三者にも譲渡可能です。また、有償でも、無償でも構いません。譲渡をすると、その人は相続権を失い、遺産分割協議にも参加する必要がなくなります。
相続分の譲渡は法律上の特別な手続きは必要なく、他の相続人の同意も不要です。口頭の合意でも成立しますが、後のトラブルを避けるため、「相続分譲渡証明書」を作成するのが一般的です。
相続放棄と異なり、相続分の譲渡では負債も含めて譲受人に引き継がれます。ただし、債権者に対しては影響を及ぼさず、譲渡人が借金の支払いを求められる可能性があるため注意が必要です。
相続放棄との大きな違いは、譲渡では家庭裁判所での手続きが不要なことです。相続放棄は、相続開始から3か月以内に家庭裁判所で申請しなければなりませんが、相続分の譲渡にはそのような期限はありません。ただし、遺産分割協議が終わった後は譲渡できなくなるため、早めに手続きを行う必要があります。
相続分の譲渡にはメリットとデメリットがあります。メリットとしては、相続手続きをせずに済むこと、相続人が多い場合に人数を整理できること、さらに有償譲渡なら遺産分割協議を待たずに現金を手に入れられる点が挙げられます。一方で、第三者に譲渡すると、遺産分割協議が複雑になり、相続人同士の争いにつながる可能性があるというデメリットもあります。
譲渡を行う際にはいくつかの注意点があります。相続人以外の第三者に譲渡した場合、他の相続人は1か月以内であれば取り戻し請求ができるため、譲渡先を慎重に選ぶことが重要です。また、被相続人が遺言を残している場合、内容によっては相続分の譲渡ができないこともあります。
税金の負担にも注意が必要です。相続人同士で無償譲渡をした場合、譲受人には相続税がかかります。有償で譲渡した場合、譲渡人には受け取った金額に対して所得税がかかることがあります。第三者に譲渡した場合、無償であれば相続税と贈与税、有償であれば相続税と譲渡所得税が発生する可能性があります。
相続分の譲渡は相続放棄とは異なる選択肢として利用できますが、相続手続きの負担や債務の引き継ぎ、税金の問題などを考慮しながら、慎重に判断することが大切です。
限定承認の活用方法
限定承認とは、相続財産のうちプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産(借金など)を引き継ぐ方法です。単純承認のように借金をすべて背負うこともなく、相続放棄のように財産をすべて手放す必要もありません。そのため、相続財産の全体像が不明な場合や、特定の財産を引き継ぎたい場合に有効です。
限定承認を選択すると、まずプラスの財産を確定し、マイナスの財産を支払った後に余った分を相続できます。仮にマイナスの財産が多かったとしても、プラスの財産の範囲内でのみ支払えばよいため、相続人の自己資産に影響はありません。この仕組みにより、借金のリスクを避けつつ、価値のある財産を守ることができます。
例えば、相続財産に自宅や事業が含まれており、借金があるもののプラスの財産も残る場合、限定承認を利用すれば家や事業を手放さずに済む可能性があります。また、財産の調査が不十分な状態で相続放棄をしてしまうと、後から価値のある財産が見つかった場合でも権利を取り戻せません。しかし、限定承認であれば、財産を整理した上で最終的な判断ができます。
ただし、限定承認を行うには相続人全員の同意が必要であり、家庭裁判所への手続きも必要になります。また、財産目録の作成や債務の整理など、相続放棄よりも手続きが煩雑になるため、慎重な準備が求められます。
手続きを進めるには、相続開始から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。その後、公告を行い、債権者に対して支払い請求の機会を与え、債務の整理を行います。債務を清算した後、財産が残れば相続人が分配できます。また、限定承認をすると、相続税とは別に、所得税の準確定申告が必要になるため、税務上の影響も考慮しておく必要があります。
限定承認は、相続放棄と異なり財産をすべて失うことなく、借金のリスクを避けることができる制度です。特に、財産の詳細が不明な場合や、家や事業を引き継ぎたい場合には、有効な選択肢となります。ただし、相続人全員の同意が必要であり、手続きが複雑なため、事前にしっかりと準備を行うことが重要です。
相続放棄をする際に専門家へ相談すべきケース
相続放棄をする際、専門家に相談することでスムーズに手続きを進められます。特に、相続財産の調査や期限管理、債権者対応などの負担を減らすため、弁護士に依頼するのは有効な選択肢です。
相続人全員で同じ専門家に依頼すると負担軽減
相続人が複数いる場合、全員で同じ専門家に依頼すると、情報共有が円滑になり、無駄な手間を省くことができます。個々に別の専門家に相談すると、費用が増えたり、対応にばらつきが出たりする可能性があります。相続放棄の手続きは時間との勝負でもあるため、統一した対応をすることで、相続人全員の負担を軽減できます。
弁護士に相談するべき相続放棄のケースとは
弁護士に相談すべきケースの一つは、相続財産の調査が必要な場合です。相続財産には、現金や預貯金だけでなく、不動産、株式、骨とう品など評価が難しいものも含まれます。財産の価値が分からなければ、相続放棄すべきかどうか正しい判断ができません。弁護士に依頼すれば、プラスとマイナスの財産を調査し、適切なアドバイスを受けられます。
また、相続放棄の手続きには期限があります。相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申立てを行わなければなりません。その間に財産の調査を行い、必要書類を集めるのは容易ではありません。弁護士に依頼すれば、手続きを迅速に進めることができ、期限切れを防ぐことができます。
相続放棄をすると、自分の相続分はなくなりますが、その分、次順位の相続人に相続権が移ります。たとえば、兄弟が相続放棄をすると、次に親や祖父母、兄弟姉妹に相続権が移ることになります。このことを知らずに相続放棄をすると、後順位の相続人との間でトラブルになる可能性があります。弁護士に相談すれば、相続放棄の影響を他の相続人に適切に説明し、不要な争いを防ぐことができます。
相続放棄をしても、債権者から請求が来る場合があります。相続放棄をしている以上、返済義務はありませんが、請求を放置すると、裁判を起こされる可能性もあります。また、誤って被相続人の借金を支払ってしまうと、単純承認とみなされ、相続放棄が無効になることがあります。弁護士に依頼すれば、債権者とのやり取りを任せられ、不当な請求に対応してもらえます。
相続放棄の期限が過ぎてしまった場合でも、特別な事情があれば相続放棄を認めてもらえる可能性があります。たとえば、被相続人に財産がないと誤解していた場合や、長期間にわたって債務の存在を知らなかった場合などです。ただし、裁判所に認めてもらうためには、詳細な説明を記載した上申書の提出が必要になります。弁護士に依頼すれば、上申書の作成をサポートしてもらい、相続放棄を認めてもらえる可能性を高めることができます。
相続放棄は、単に財産を放棄すれば終わりではなく、さまざまな問題が生じる可能性があります。トラブルを避け、スムーズに手続きを進めるためには、弁護士に相談し、専門的なアドバイスを受けることが重要です。
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この記事を書いたのは…

弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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