介護の寄与分と代償分割の事例【実録】介護しない妹が遺産を要求…「寄与分」の壁と、配偶者も絡む相続トラブルを鎮めた代償分割

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遺産相続

今回は「親の介護をしたのは私なのに…」同居長男と、何もしなかった妹の遺産分割トラブルを紹介します。配偶者(夫・妻)まで巻き込み泥沼化しかけた兄弟喧嘩を、専門家が「代償分割」と「中立な調停」で円満解決へ導いた事例や「寄与分」が認められにくい理由も相続に詳しい行政書士が解説します。

「妹は、文句ばかりで介護も遺品の片付けも何一つしなかったんです。それなのに、いざお金の話になると……」

60代の男性(Iさん・長男)は、こめかみに手を当てながら、怒りと諦めが入り混じった表情でそう吐き捨てました。

Iさんは長年、ご実家の2階に世帯を構え、亡くなったお父様と同居していました。日々の介護はもちろん、最期を看取ったのもIさんです。

残された財産は、実家(土地・建物3,000万円)と、預貯金・株(5,000万円)。

「実家は同居していた私が継ぐ。残った預金は、妹と弟と3人で平等に分ける。これの何が不満だと言うんですか?」

しかし、家を出ている妹(長女)の主張は違いました。

「お兄ちゃんは3,000万円の家をもらうんでしょ? じゃあ、不動産をもらわない分、私には預金を多くもらう権利があるはずよ」

双方の主張は平行線をたどり、話し合いにはお互いの配偶者(夫・妻)まで口を挟み始め、一触即発の状態になっていました。

この記事では、「介護の苦労」と「法律上の権利」がぶつかり合い、家族関係が崩壊しかけた相続トラブルを、相続の専門家である行政書士がどうやって円満解決に導いたのかをご紹介します。

相続のプロ(行政書士)の診断:「介護の苦労」は法律で評価されるのか?

Iさんのお話を聞き、お気持ちは痛いほど分かりました。親の面倒を見続けた長男として「実家は自分がもらうのが当然」と思うのは、心情的にごく自然なことです。

しかし、プロの視点から見ると、Iさんの提案には「法的な落とし穴」がありました。

法律上の壁①:「寄与分(きよぶん)」は認められにくい

よく「親の介護をした人は、遺産を多くもらえる」と言われます。これを法律用語で「寄与分」と言います。

しかし、現実の家庭裁判所でこれが認められるハードルは極めて高いのです。通常の「子としての親孝行・見守り」程度では認められず、仕事を辞めて付きっきりで介護し、親の財産を維持したといった「特別な貢献」の証明が必要です。

法律上の壁②:妹の主張は「法律的には正しい」

今回の財産は、不動産(3,000万円)と預金(5,000万円)の合計8,000万円です。

法律上、これを兄弟3人で分ける場合、「1人あたり約2,650万円」の権利があります。

Iさんの案(家をもらい、預金も1/3もらう)だと、Iさんの取り分が「4,650万円」となり、明らかに1人だけ取り分が多くなります。妹さんから見れば、「お兄ちゃんだけズルい」と映ってしまうのです。

解決のプロセス:配偶者たちの不信感を乗り越える

「介護の感情」vs「法律の権利」は常に対立するものです。

当事者同士で話し合えば、必ず過去の恨み(感情論)に発展し、遺産分割協議は永遠にまとまりません。

行政書士である私は、Iさんだけの代理人ではなく、ご家族全体の「中立な調整役」として間に入ることを提案しました。しかし、最大の試練は最初の親族会議で訪れました。

荒れる親族会議と「専門家への不信感」

Iさん、妹さん、弟さん、そしてそれぞれの配偶者も揃った話し合いの場がつくられました。

空気は最悪でした。

妹さんの夫からは、「どうせ先生は、依頼者であるお兄さんの味方なんでしょう? お兄さんに都合の良い法律ばかり並べるつもりですか」と、強い不信感をぶつけられました。

※ちなみに、相続人ではない配偶者(夫や妻)には、遺産分割の話し合いに口を出す法的な権利は一切ありません。しかし、実務上はこうしてトラブルの種になることが非常に多いのです。

「私は中立のナビゲーターです」

ここで感情的になれば終わりです。行政書士である私は冷静に、そして誠実に答えました。

「ご心配はもっともです。ですが、私の仕事は『誰かを勝たせること』ではありません。お父様が残された財産を、法律に則って、皆様が一番納得できる形で分けるお手伝いをすることです。私はご家族全員の味方であり、中立なナビゲーターです」

その後も、妹さんご夫婦からの疑問には根気強く、丁寧に答え続けました。「この専門家は騙そうとしているわけではない」と理解していただくまでに少し時間はかかりましたが、徐々に信頼を得ることに成功しました。

解決の切り札:「代償分割」と「譲歩」のバランス

信頼関係ができたところで、行政書士である私は「現実的な着地点」を提案しました。

私(行政書士):

「Iさん、ここは『不動産を含めた総額』をベースに考えましょう。Iさんが家(3,000万)をもらう代わりに、預金からの取り分を少し減らして、その分を妹さんに多く回しませんか?」

これは「代償分割(だいしょうぶんかつ)」と呼ばれる手法の応用です。

  • Iさんへの説得: 「介護の苦労は報われるべきだが、法律上の不公平さを解消しないと争いは終わらない(裁判になれば寄与分も認められない可能性が高い)」
  • 妹さんへの説得: 「お兄さんが家を継いでくれるおかげで、実家を売却する手間や税金がかからない。預金を多めに取ることで納得してほしい」

結末:いがみ合いからの解放

最終的に、不動産はIさんが単独で相続。預貯金については、妹さんと弟さんに多めに配分することで合意が成立しました。Iさんも「これで縁が切れるなら安いものだ(揉め事が終わるなら構わない)」と、一歩譲る決断をしてくださったのです。

すべての手続きが終わり、重苦しい肩の荷が下りたIさんは、深く息を吐き出してこう仰いました。

「助かりました……。自分たちだけで話していたら、いつまで経っても平行線で、最悪は裁判になっていたと思います」

あの日、怒りと諦めに支配されていたIさんの表情には、ようやく本来の穏やかさが戻っていました。

さいごに:相続の専門家からのアドバイス

「相続は『正しい主張』だけでは解決しない」

今回の事例からお伝えしたい教訓は、「当事者同士の話し合いには限界がある」ということです。

Iさんの「介護の苦労」も、妹さんの「平等の権利」も、それぞれの立場から見ればどちらも「正しい主張」です。だからこそ、ぶつかり合うと出口が見えなくなります。そこに配偶者の意見まで加われば、火薬庫に火を投げるようなものです。

  • 介護の負担と遺産の分け方で揉めている
  • 不動産があって、きれいに分けられない
  • 相手の配偶者が口を出してくる

もし一つでも当てはまるなら、関係が修復不可能になる前に、「第三者(相続の専門家)」を入れてください。

法律という共通の物差しを持ち、全員の意見を汲み取りながらゴールへ導く「ナビゲーター」がいれば、泥沼の争いは必ず防げます。

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この記事を書いたのは…

中道 基樹

ナカミチ行政書士事務所 代表行政書士 一般社団法人ハーモニー後見センター代表

中道 基樹(なかみち もとき)

東京都新宿区のファインテックビルで行政書士をしています中道基樹(なかみちもとき)と申します。
2009年7月に29歳で何の経験もないところから事務所を開業し、11年となります。
「遺言」「相続」「成年後見」の分野を通じて、老後のことから、亡くなられた後のことまで、一貫したサポートが可能なのも当事務所の特徴です。
皆様おひとりおひとりに寄り添い親身になってサポートさせていただくことを理念としていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

サイトURL:https://nakamichi-souzoku.jp/

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