農地の相続税はいくら?評価額の計算方法・相続税を免除する方法を解説!
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農地と他の土地の違いは?全て相続税の対象です
農地は他の土地と同じく、相続した場合には土地という財産分類として相続税の対象となります。
農地は大きく分けて「市街地農地」「市街地周辺農地」「中間農地」「純農地」の4つに分けられます。(国税庁HPより:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4623.htm)
それぞれで評価方式が異なりますが、宅地などと比べて評価額が少し低くなるようになっています。なぜ低くなるかというと、農地は農業にしか使用できないため、不動産所得などを得られる宅地と比較して利益を生み出しにくい状況になっているためです。
また、農地は農業委員会の管轄となっているため、売却したり宅地へ転用する場合にも農業委員会の許可が必要となり、宅地と比べて新しく何かをする場合に敷居が高くなっていることも理由として考えられます。
また、農地は上記のように用途に制限があることなどから、固定資産税などが軽減されており、相続税についても納税猶予の特例が適用される場合があります。
そのため、農地を相続した場合は軽減措置や特例などを知らずに相続税の申告を行うと、余分な税金を払うことになります。
農地を取得した人が相続税の申告をする場合には農地や不動産全般に詳しい税理士に申告を依頼する方が賢明です。
農地を相続する際の手続きとは
農地を相続した場合には、その他の土地と同じようにその不動産の管轄地域の法務局での相続登記が必要になります。その他農地以外の土地と異なる点としては農地を相続した人が法定相続人かそれ以外の人かで変わります。
法定相続人が相続した場合には、その土地の管轄の農業委員会に届出が必要になります。また、その他の土地の場合は相続登記の時期に期限はありませんが(※1)、農業委員会への届け出は被相続人が亡くなったことを知ってから10か月以内と決められています。
農業委員会への届出は相続登記完了後に行うこととなりますので、申告期限までに相続登記も完了させる必要があります。届出が遅れると過料が科せられることもあるようです。
(※1:2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続開始から3年以内に相続登記が完了していないと過料が科せられることになりました。)
農地を相続した人が法定相続人以外の場合であり、かつ特定遺贈(※2)の場合は届出だけではなく農地法3条の許可が必要になります。農地を相続した人が法定相続人以外であっても、包括遺贈(※3)の場合には許可は不要です。
(※2 特定遺贈:特定の財産を指定して、指定した人に遺贈すること)
(※3 包括遺贈:財産を指定せず、相続財産全体に対して全部や一定の割合で遺贈すること)
会社員だとしても農地は相続するべき?農地の価値の評価方法
まず、会社員が農地を相続した場合には、大きく分けて「①自身で農業を営む」「②農地として誰かに貸す」「③宅地などに転用して活用する」の3つの活用が考えられます。
一つ目の「①自身で農業を営む」が可能であれば、相続する価値は十分にあります。
農業所得は事業所得となるため、給与所得と損益通算(所得の合算・相殺)ができます。つまり、利益が出れば儲けとなり、赤字が出ても確定申告をすることで給与所得で支払った税金が還付される可能性があります。
二つ目の「②農地として誰かに貸す」に関しても農業委員会の許可が必要にはなりますが、借りてくれる見込みがあれば、収益となるため、固定資産税や維持費などを試算した上で利益が出るようであれば、十分に相続する価値はあります。
三つ目の「③宅地などに転用して活用する」に関しては、相続した農地によってできないことがあります。
前述のように農地は「市街地農地」「市街地周辺農地」「中間農地」「純農地」の4つに分けられ、それぞれについての特徴と評価方法をまとめると以下のようになります。
農地の分類 | 特徴 | 評価方式 |
市街地農地 | 宅地転用が容易 | 宅地比準方式 又は 倍率(※4)方式 |
市街地周辺農地 | 許可により宅地転用可能 | 市街地農地であるとした場合の価額×0.8 |
中間農地 | 宅地転用が難しい | 倍率方式 |
純農地 | 倍率方式 |
(※4 倍率:評価倍率は、路線価が定められていない地域の土地等を評価する場合に用いるもので、地域と地目ごとに定められているもの)
市街地農地は宅地へ転用が容易であるため、相続した場合も農業委員会の届出は必要にはなりますが、宅地に転用して売買することが可能であるため、相続をしても有効活用ができることが多いと考えられます。
市街地周辺農地は許可を受ければ宅地への転用は可能です。
中間農地及び純農地は宅地への転用が難しいものです。
つまり、市街地農地や市街地周辺農地で宅地へ転用することが容易である場合には、造成費をかけて宅地へ転用し、売買することもできるので、相続する価値はあります。ただし、宅地転用する場合も農業委員会の許可が必要になります。
農地の相続税はいくら?評価方法は?
上記のように農地は4つに分けられます。それぞれについて簡単に評価方法の概要を以下に示します。
市街地農地は宅地へ転用が容易であることから、宅地と同じ評価を行い、宅地造成費を差し引いた金額が評価額となります。宅地造成費とは「整地費」「土盛費」「土止費」などがあります。
整地費はさらに以下の表のように「整地費」「伐採・抜根費」「地盤改良費」に分けられます。
平坦地の宅地造成費(令和3年分・東京国税局管内)
工事費目 | 造成区分 | 金額/1平方メートル当たり | 内容 | |
整地費 | 整地費 | 整地を必要とする面積1平方メートル当たり | 700円 | ①凹凸がある土地の地面を地ならしするための工事費又は②土盛工事を要する土地について、土盛工事をした後の地面を地ならしするための工事費 |
伐採・抜根費 | 伐採・抜根を必要とする面積1平方メートル当たり | 1,000円 | 樹木が生育している土地について、樹木を伐採し、根等を除 去するための工事費をいいます。したがって、整地工事によって樹木を除去できる場合 には、造成費に本工事費を含めません。 | |
地盤改良費 | 地盤改良を必要とする面積1平方メートル当たり | 1,600円 | 湿田など軟弱な表土で覆われた土地の宅地造成に当たり、地盤を 安定させるための工事費をいいます。 | |
土盛費 | 他から土砂を搬入して土盛りを必要とする場合の土盛り体積1平方メートル当たり | 6,900円 | 道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高 さ(原則として道路面)まで搬入した土砂で埋め立て、地上げする場合の工事費をいい ます。 | |
土止費 | 土止めを必要とする場合の擁壁の面積1平方メートル当たり | 76,200円 | 道路よりも低い位置にある土地について、宅地として利用できる高 さ(原則として道路面)まで地上げする場合に、土盛りした土砂の流出や崩壊を防止す るために構築する擁壁工事費をいいます。 |
農地区分ごとの評価方法
宅地と同じ評価を行うため、路線価地域では路線価による評価(宅地比準方式)、倍率地域では固定資産税評価額に基づいて評価(倍率方式)を行うことになります。
<市街化農地の評価方法(宅地比準方式 又は 倍率方式)>
その農地が宅地であるとした場合の価額-宅地造成費の金額
市街地周辺農地は市街地農地であるとした場合の価額に80%を乗じて評価します。市街地農地と同じように路線価地域であれば路線価評価、倍率地域であれば固定資産税評価額に倍率をかけた上で、80%を乗じることとなります。
<市街地周辺農地の評価方法(宅地比準方式 又は 倍率方式)>
(その農地が宅地であるとした場合の価額-宅地造成費の金額)×0.8
中間農地及び純農地は宅地への転用が難しいことから、田または畑として固定資産税評価額に倍率を乗じて計算します。
~中間農地・純農地の評価方法(倍率方式)~
固定資産税評価額×倍率
農地の相続税を免除する方法はある?納税猶予の特例について紹介
農地を相続した場合には納税猶予の特例が受けられる場合があります。それには被相続人、相続人の両方が以下の全てを満たす必要があります。(相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地等については、この特例の適用を受けることはできません)
(被相続人)
次のいずれかに該当する人であることが必要になります。
- 死亡の日まで農業を営んでいたこと
- 生前に農地等を一括贈与(複数人で分けないこと)したこと
(死亡の日まで受贈者が贈与税の納税猶予または納期限の延長の特例の適用を受けていた場合に限る) - 死亡の日まで営農困難時貸付や特定貸付を行っていたこと
(※営農困難貸付・・・障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けを行うこと)
(相続人)
次のいずれかに該当する人であることが必要になります。
- 相続税の申告期限(被相続人の死亡から10か月)までに農業を引継ぎ、その後も継続していること
- 農地等を生前に一括贈与され、贈与税の納税猶予の特例を適用していたこと
- 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金または経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人(贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行うものに限ります)
- 農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、営農困難時貸付けをし、税務署長に届出をした人(贈与者の死亡後も引き続いて賃借権等の設定による貸付けを行うものに限ります)
- 相続税の申告期限までに特定貸付を行ったこと(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付け等を行っている人)
ただし、農地が次の条件に当てはまらないことが条件となります。
- 三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)の特定市以外の市街化区域内にあり、生産緑地や田園住居地域内の農地、地区計画農地保全条例による制限を受ける区域内にある農地でないこと
- 買取の申し出がされたもの
- 特定生産緑地の指定(及び指定の延長)がされなかったもの
- 特定生産緑地の指定が解除されたもの
<農地の納税猶予が受けられない条件>
逆に農地の納税猶予が受けられないものをまとめると、以下の場合となります。
- 三大都市圏の特定市にあるもの
- 三大都市圏の特定市以外の市街化区域内にあるが、生産緑地や田園住居地域内の農地、地区計画農地保全条例による制限を受ける区域内でない農地
- 買取の申し出がされたもの
- 特定生産緑地の指定(及び指定の延長)がされなかったもの
- 特定生産緑地の指定が解除されたもの
<納税猶予の取消しとなる場合>
農地の納税猶予を受けた場合において、相続後に以下に当てはまると猶予が取り消されて猶予した税額全額を支払うことになるため、注意が必要です。
- 農業をやめた場合
- 農地を譲渡、贈与した場合
- 継続届出書(3年ごとに提出要)の届出を怠った場合
- 担保価値が減少した場合において、担保の増加や変更を求められた場合において、それに応じなかったとき
逆に、以下の状況になった場合には猶予されている税額が免除され、納める必要がなくなります。
- 相続人が死亡した場合
- 三大都市圏特定市以外の市街化区域内の農地(生産緑地を除く)で相続人が20年間農業を継続した場合
- 相続人が農地を一括贈与した場合→受贈者へ納税猶予が引き継がれます
農地の相続に関する相談先はこちら
上記のように農地の相続の場合は評価や納税の猶予など、通常の土地の相続より複雑でより専門的な知識が求められます。
税理士を最も手堅く探す方法としては日本税理士会連合会の税理士情報検索サイト(https://www.zeirishikensaku.jp/)があります。
また、地域の税理士会に問い合わせると、相続に強い税理士を選定して紹介してくれるでしょう。
民間のルートでは地域の不動産会社などは相続に強い税理士と提携している可能性があります。
税理士の敷居が高いと感じる人は相続診断士へ相談する方法もあり、他には地域の農業協同組合(JA)などに尋ねてみるのも一つの方法です。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
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