分割相続とは?分割方法別のメリット・デメリット、手続きの流れやトラブル対策を解説
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分割相続とは
分割相続とは、被相続人(亡くなった人)の遺産を、複数の相続人で分け合って相続することをいいます。
法定相続人が複数いる場合、相続財産はそれぞれの法定相続分による共有状態となり、各相続人が財産を自由に処分することはできません。共有状態となった相続財産を相続人間の協議で分割し、財産を相続する人を決めることで、各相続人が自由に処分することができるようになります。これが分割相続の手続きです。
分割相続の決定方法
遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容に従って分割相続をします。遺言書がない場合や、遺言書の内容と異なる遺産分割を希望する場合には、遺産分割協議を行います。
遺言書による分割
有効な遺言書が存在すれば、法定相続分よりも遺言の内容が優先されます。遺言書に従って分割相続を行うことで、相続財産の調査や遺産分割協議の負担が軽減され、相続人間のトラブル防止にもつながります。
遺言書には、以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言:すべて自筆で作成する遺言書。一人で簡単に作成でき、費用や手間がかかりません。ただし、保管方法によっては家族が見つけられない可能性があります。自筆証書遺言は法務局に預けることができるので、保管方法に不安がある場合には、法務局に問い合わせてみるといいかもしれません。
- 公正証書遺言:公証人に遺言の内容を伝え、正確な文章で記載してもらう遺言書。公証役場で保管されます。費用がかかり、証人2人が必要になりますが、安全で確実です。
- 秘密証書遺言:遺言書が本人のものであることを公証人に証明してもらい、内容は秘密にする遺言書。公証人にも内容を知られることはありません。ただ、公正証書遺言よりは低額であるものの、費用がかかり、証人2人も必要です。
遺言書に基づく相続
遺言書の存在を知っている相続人は、他の相続人に遺言書があることを伝える必要があります。遺言書を隠した場合には、相続権を失う可能性があるので注意しましょう(民法891条5号)。
法務局で保管されていない自筆証書遺言や秘密証書遺言については、「遺言書の検認」という手続きを家庭裁判所で行う必要があります(民法1004条1項)。また、封がされている遺言書は、家庭裁判所での開封が必要なので、勝手に開けてはいけません(同条第3項)。
遺言書で遺言執行者が指定されており、その人がその役割を承諾した場合には、遺言執行者が相続財産の移転などの手続きをすべて行います。
遺産分割協議
遺言がない場合や遺言書と異なる内容で遺産分割を希望する場合、法定相続人全員で遺産分割について協議し、その内容を遺産分割協議書に記載します。
相続人全員の合意による分割
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。合意内容をまとめ、相続人全員が実印を押印することによって法的効力が発生します。
協議で合意できない場合には、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。裁判所のスタッフである「調停委員」が話し合いに加わることによって、相続人間の協議をスムーズに進めます。それでも合意できない場合には、「遺産分割審判」を申し立て、裁判官が遺産分割方法について決定します。
分割相続の種類
分割相続には、現物分割・換価分割・代償分割という3つの方法があります。それぞれの分割方法のメリット・デメリットについて解説します。
現物分割
現物分割とは、遺産をそのままの形で相続人に分ける分割方法です。たとえば、不動産と金銭が遺産で、相続人A、Bがいた場合、不動産をAに、金銭をBに分配するのが現物分割です。
メリット: 直接の分割による遺産の価値維持
現物分割は、一つの財産を一人が相続することになるため、遺産の価値が維持できます。たとえば、不動産をAの単独名義とした方が、AとBの共有名義とするより不動産の価値は高くなります。不動産を共有にした場合、共有者の合意がないと不動産の処分などができなくなります。そのため、共有の不動産は「共有減価」というディスカウントが行われてしまいます。
デメリット: 分割が難しい場合がある
現物分割をすると、公平な分割ができない場合があります。たとえば、遺産として1000万円の土地と500万円の現金があった場合、相続人であるAさんが土地、Bさんが現金を相続すると、500万円もの差がでてしまいます。
土地を分割(分筆)して相続することも考えられますが、分割できない土地も多々あるので、抜本的な解決にはなりにくいでしょう。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却し、その金銭を相続人間で分ける分割方法です。たとえば、AとBが相続人で、相続財産が不動産のみの場合、この不動産を2000万円で売却し、売却代金をAとBで1000万円ずつ分配するのが換価分割です。
メリット: 金銭による公平な分割
換価分割のメリットは、なんといっても公平な分割が可能になるところです。金銭であれば1円単位で分割が可能になります。
デメリット: 財産の売却手続きが必要
ただ、換価分割には、財産を売却するというひと手間を加えなければなりません。売却には、仲介業者を依頼したり、買手を探したりする必要があるため、時間とコストがかかります。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人が現物で遺産を取得し、代わりにほかの相続人に対して、代償金を支払うことによって清算する分割方法です。
メリット: 相続人間での公平な分配
代償分割では、価値の高い現物を取得した相続人が、現物を取得しなかった相続人に対して法定相続分に応じた金銭を支払うことになるため、公平な分割が可能になります。
デメリット: 代償金の準備が必要
代償分割を利用するには、現物を相続する相続人に代償金を支払うだけの資力が必要です。現物を相続する相続人にまとまったお金がない場合には、代償分割は難しいでしょう。
分割相続を行う際の注意点
分割相続をするときは、いくつかの注意点があります。以下に詳しく解説します。
分割相続の重要性と手続きの開始
分割相続を行わないと、相続手続きが開始できません。遺産分割協議を行い、誰がどの相続財産を取得するかを決めた「遺産分割協議書」がなければ、銀行からお金を引き出すことも、不動産の名義を変更することもできません。
相続手続きの第一歩である分割相続は非常に重要なので、しっかりと手続きを進めましょう。
共有財産の同意と維持コスト
共有財産を売却したいときは、相続人全員の同意が必要です。分割相続を行わないと、相続財産は相続人全員の共有状態となり、全員の同意がなければ相続財産を売却することができません。
さらに、いつまでも共有財産を売却できないと、維持コストがかかります。たとえば、不動産であれば固定資産税や建物の修繕費などがかかってしまいます。このコストを誰が負担するのか、さらに話し合いが必要になります。
早めに分割相続を行い、共有状態を解消することが大切です。
数次相続による権利関係の複雑化
数次相続とは、被相続人の相続が開始した後、遺産分割が終わる前に相続人が死亡し、次の相続が開始されてしまった状態をさします。
こうなると、権利関係者が増えて、分割相続がさらに難航します。
数次相続が起きる前に、早めに分割相続をしておくことをおすすめします。
相続税の特例や控除の適用
分割相続が確定し、相続税申告をすると、相続税の特例や控除を受けられます。
たとえば、配偶者の税額軽減が適用されれば、配偶者のみ1億6000万円、または法定相続分まで非課税になります。
また、小規模宅地等の特例を使えば、宅地の相続税評価額を最大80%まで減額できます。
分割相続ができない場合には法定相続分で分割したとみなされ、未分割の状態で申告できますが、これらの特例が適用できません。
申告期限は相続開始を知った時から10か月以内なので、早めに手続きしましょう。
相続放棄や限定承認の認可
「相続放棄」とは、プラスの財産とマイナスの財産すべてを放棄し、相続人としての資格を手放すことをいいます。「限定承認」とは、マイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続する手続きです。いずれも相続開始を知った時から3か月以内に行う必要があります(民法第915条)。
相続放棄や限定承認は、「単純承認」をしたあとではできません。単純承認とは、被相続人のプラスの財産・マイナスの財産を無条件ですべて相続することです。相続財産を処分したり、遺産分割協議に参加したりすると、単純承認をしたとみなされてしまうので、注意しましょう。
相続人間の連絡と協力
相続人の中には疎遠な人もいるかもしれません。連絡が取れなかったり、連絡が取れても相続手続きに非協力的であると、遺産分割協議が進みません。
相続人が一人でも欠けていると、遺産分割協議は不成立になってしまうので日ごろから最低限の交流は持っておくことが望ましいです。
遺産分割協議での譲歩の必要性
遺産分割協議は、全員の合意が必要です。そのためには、自分の意見を押し通すだけでなく、適切な譲歩も大切です。被相続人の面倒をみていた相続人がいる場合、寄与分を考慮してその人に多く相続財産を取得してもらう、被相続人と同居している親族がいる場合には、その人に家を取得してもらうなどの配慮が求められます。
分割相続で発生しやすいトラブル
ここでは、分割相続で特に発生しやすいトラブルについて解説します。
遺産分割協議の開始や難航
相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますが、連絡先が不明だったり、認知症の相続人がいると、協議の開始が難しくなります。住所や連絡先が分からない場合には、戸籍謄本をたどって現住所を調べる必要があります。また、認知症の相続人が参加した遺産分割協議は無効になるため、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらわなければなりません。
遺産が不動産に偏っていると、遺産分割協議をするのが難航する場合があります。換価分割を行おうにも、その家に住んでいる被相続人の配偶者が同意してくれないなど、トラブルになってしまうケースも少なくありません。話し合いを重ねて、相続人全員が納得できる結論を出しましょう。なかなか結論が出ない場合には、弁護士に相談してみるのも一手です。
特別受益や寄与分の主張
「特別受益」とは、一部の相続人が被相続人から遺贈や生前贈与によって受けた特別の利益のことをいいます。特別受益を受けた相続人は、その分相続財産を減らされることになるので、トラブルに発展する可能性が高いです。
「寄与分」とは、一部の相続人が被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度です。寄与者以外の相続人は相続分が減ってしまうので、こちらもトラブルに発展する可能性が高いです。
特別受益や寄与分の認定には専門的な知識が必要になるので、困ったら弁護士に相談してみることをおすすめします。
資金不足による代償分割の困難
代償分割によって公平な分割をしようとしたとしても、現物を取得する相続人に資力がなければ実現不可能です。
その場合には、不動産を換価分割によって分けることを検討しましょう。
不動産の無断売却
不動産の分割方法で争いになった場合、一部の相続人が自分の法定相続分のみの登記をし、無断で売却してしまうケースもあります。遺産分割協議が終わるまでは登記を行わないという約束をしておくことが重要です。
まとめ
分割相続を行う場合には、親族同士が利害関係者となるため、トラブルに発展しやすい側面があります。話し合いがまとまらず、争いが起きそうな場合には、相続の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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この記事を書いたのは…
弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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