認知症の人が残した公正証書遺言が無効になるのは稀?事例や遺言能力について解説!

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遺産相続

認知症の人が書いた遺言は有効?

作成した遺言書が有効か否かは、遺言を作成した人の遺言能力の有無で判断します。遺言能力の有無が問題となった場合、それを最終的に判断するのは裁判所です。

そのため、認知症を患っている人が作成した遺言能力があるのか、ないのかが問題となります。

認知症の人は通常の生活ができ、必要最低限の質問に答えられるケースも多いです。そのため、認知症だからといって作成した遺言書が直ちに無効と判断されるわけではありません。

次の基準を総合的に考慮して、遺言作成時に遺言能力があったかどうかを判断します。

  • 医学的見地:診断書・鑑定書医師の診断書・鑑定書等で判断
  • 遺言内容の複雑性:遺言内容・効果を遺言者が理解していたかどうかの判断
  • 遺言内容の合理性:遺言者の生前の意思に合致した内容かどうかの判断

この3つの基準から裁判所が法的判断を下します。

認知症の人が書いた公正証書遺言が無効になるのは稀?

公正証書遺言とは、公証人が遺言者のために作成してくれる遺言書です。公証人とは、契約等の適法性を公的に証明する公務員です。

公正証書遺言の作成の仕組み

公正証書遺言の手順は、まず遺言者本人が公証人・証人2人の前で遺言内容を口頭で告げ、公証人が文書でまとめ、遺言者本人・証人2人が内容を確認します。
なお、証人に特別な資格は不要です。弁護士のような専門資格者の他、遺言者の友人・知人等を立てても構いません。
公正証書遺言の作成の際は第三者が関与するので、遺言者本人だけで作成する自筆証書遺言よりも、信頼性が高いといわれています。

公正証書遺言が無効となる場合

裁判所によって無効と判断されるケースは主に次の5つです。

  • 遺言者本人に遺言能力がなかったと判断された
  • 遺言者が口頭で遺言内容を公証人に伝えていない
  • 証人が不適格者:未成年者や相続人・その家族、公証役場の職員・公証人に雇われた人だった
  • 遺言者の勘違い:遺言者が意図していた内容と遺言内容に違いがある
  • 遺言内容が公序良俗違反:後継者がいるのに、経営者が顧問弁護士へ会社の全財産を譲る等

遺言者に遺言能力があったとしても、公正証書遺言の作成のプロセス(遺言者が口頭で内容を伝えていない、証人が的確ではない)で問題があったり、遺言者の勘違いや遺言内容が常識に外れていたりしていれば、無効になってしまいます。

なお、公正証書遺言を無効とするには原告(無効を主張する側)が裁判所へ申立て、無効の主張・立証を行う必要があります。

遺言能力とは何か?誰がどのように評価するの?

遺言能力とは、遺言がどんな意味を持ち、どんな効力があるかを理解できる能力です。

遺言能力の有無は医学的判断を尊重しつつ、最終的には裁判所が法的判断を行います。遺言能力の有無が争われた裁判では、次の3つの基準を考慮して判断されます。

遺言時の心身の状況はどうだったか

遺言を作成した時、遺言者はどのような心身状態だったかがチェックされます。以下の観点から判断します。

  • 精神的な疾患があるのか
  • 遺言者は常に精神的な疾患を患っているのか、それとも一時的か
  • 遺言者が患う精神的な疾患の症状・程度は重いか
  • 遺言時や遺言前後の言動や精神状態に異常がみられなかったか

精神科医の鑑定書や医師の診断書、看護師の看護記録等を参考に遺言作成時、遺言作成は困難だったかどうかを推察します。

遺言内容の複雑性

遺言内容・効果を遺言者が理解し、作成していたかどうかも判断基準となります。

現在は重い認知症を患っていたとしても、自筆証書遺言の作成当時、遺言内容が各相続人への的確な遺産配分内容となっており、緻密な計算能力を駆使して作成されていた場合、遺言能力はあったと認められる可能性が高いです。

一方、公正証書遺言の場合、実際に文書を作成するのは公証人です。しかし、遺言者が遺言内容を明確に口頭で告げて作成された公正証書遺言である場合、やはり遺言能力はあったと判断されることでしょう。

逆に、複雑な遺言内容だったにもかかわらず遺言作成当時、公証人の質問に遺言者が「はい」としか返答できない状態であった場合、遺言能力は無かったと判断されてしまいます。

遺言内容の合理性

遺言の内容自体に不自然な点が無いかどうかも判断基準です。例えば、遺言者と受遺者(相続人)が疎遠であったにもかかわらず、他の相続人よりも多額の遺産を取得する内容だったというケースがあげられます。

この場合は認知症で判断能力の弱った遺言者に、受遺者が有利になるような遺言内容を記載させた、または遺言自体を偽造した、と他の相続人から疑われることになるでしょう。

遺言能力を有し遺言内容が合理的か否かは、生前の遺言者と受遺者との信頼関係・交際状況、遺言作成の経緯といった遺言当時の事情を考慮し判断します。

実際に公正証書遺言書が無効になった事例とは

ここでは公正証書遺言書が無効になったケースを2つ取り上げましょう。

公正証書遺言の内容を遺言者が理解していたか争われたケース

[事例]公正証書遺言の内容が複雑であったものの、作成当時の遺言者は軽い返答しかできず、遺言能力の有無が争われた

  • 遺言者:亡父(過去に脳梗塞で倒れ、認知症も患っていた)
  • 子供A:わずかな財産しか相続できない遺言内容
  • 子供B:亡父の大部分の不動産を相続する遺言内容

[遺言能力が争われた背景]

公正証書遺言書の内容は数多くの不動産資産が漏れなく記載され、内容が複雑になっていました。しかし、遺言者である父は脳梗塞で倒れ、認知症も患っていた経緯があり、遺言書の作成当時は「はい。」という返答しかできない状態でした。

子供Aは、遺言内容を遺言者が正確に理解しない状態で公正証書遺言が作成されたと主張、地方裁判所に遺言無効確認を求めて提訴しました。

[判決]

地方裁判所は、作成に立ち会った証人や医師の診断等から、相手の言うことに誘導されて「はい。」 と言う程度の返答しかできない状態であったと判断、複雑な内容を理解し判断する能力は無かったと判示しました。

[結果]

公正証書遺言書は無効となり、子供A・子供Bは遺産分割協議で遺産を分割することになりました。

公正証書遺言の内容で不自然な点が争われたケース

[事例]亡父の遺言書に不自然な点が多く目立ち、公正証書遺言の有効性を疑われ、遺言能力の有無が争われた

  • 遺言者:亡父(認知症を患っていた)
  • 妻:亡父の大部分の遺産を取得
  • 長女A:亡父の自宅不動産を相続
  • 長男B:わずかな財産しか相続できない遺言内容
  • 次女C:わずかな財産しか相続できない遺言内容

[遺言能力が争われた背景]

妻・長女Aが潤沢な財産を相続した一方、長男Bは父の財産を管理し財産の保全に尽くしていたものの、わずかな財産しか相続できませんでした。また、次女Cも長男Bと同様にわずかな財産しか受け取れませんでした。

長男B・次女Cは生前の父の遺言能力がなく、公正証書遺言書は無効であると主張しました。しかし、訴訟提起直前に長男Bが亡くなり次女C単独で遺言無効確認の訴えを起こします。

[判決]

地方裁判所は公証人の証人尋問を行いつつ、亡父の主治医の診断や看護師の看護記録等の記載内容を重視し、亡父の遺言能力が無かった事実を認め、遺言無効の判決を下しました。

[結果]

妻・長女Aは控訴しましたが、高等裁判所から遺言無効を前提とした和解の提案がなされました。

そこで妻Aが次女Cに対し、次女Cの解決金(法定相続分の財産に相当する金銭)を支払う和解内容で合意、訴訟上の和解が成立しました。

公正証書遺言を無効にする際の手続き方法や必要な資料を解説

遺言者の遺言書作成当時の遺言能力に疑いを持ち、公正証書遺言を無効にしたい場合は調停・訴訟を提起します。ここではその際の手順や必要書類を説明します。

公正証書遺言を無効にする方法

公正証書遺言で作成されていても、相続人全員の合意があれば遺産分割協議に変更し、遺言内容にかかわらず話し合いで遺産の分割が可能です。

遺言者の遺言能力に不安を感じていたら、公正証書遺言の内容に従う必要はありません。しかし、遺産分割協議で話し合いがまとまらなければ遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟に移行します。

遺言無効確認調停

遺言無効確認訴訟を行う前に、まず相続人間で和解できるよう家庭裁判所で調停による解決が図られます。

その際は、調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成)が設けられ、調停委員会が相続人それぞれの話を聴いたうえで、解決案を提示します。この提案に当事者が合意できた場合は調停調書を作成します。

調停の際は主に次のような書類の提出が必要です。

  • 調停申立書:家庭裁判所で取得
  • 公正証書遺言書
  • 申立人及び相手方、被相続人の戸籍謄本:それぞれの本籍地の市区町村役場で取得
  • 不動産登記事項証明書:遺産に不動産がある場合

遺言無効確認訴訟

調停でも和解が成立しない場合は、被告の住所地または相続開始時の被相続人の住所地を管轄する地方裁判所に、訴訟を提起します。

訴訟の流れは次の通りです。

  1. 証拠・必要書類を準備
  2. 訴訟を提起
  3. 判決:勝訴した場合は遺産分割協議へ

訴訟期間は資料の準備〜判決までは1年程度かかります。訴訟の手数料は訴額によって変化し、例えば訴額10万円の場合は1,000円、訴額1億円の場合は32万円です(裁判所ホームページ「手数料額早見表」参照)。

更に弁護士を立てるならば、着手金・報酬金がかかります。弁護士事務所ごとで料金設定は異なります。

訴訟の際は主に次のような書類の提出が必要です。

  • 訴訟申立書:地方裁判所で取得
  • 公正証書遺言書
  • 財産内容を示す登記事項証明書、通帳の写し等
  • 申立人及び相手方、被相続人の戸籍謄本:それぞれの本籍地の市区町村役場で取得
  • 医療記録、介護記録、医師の意見書(鑑定書)等

認知症の家族が書いた遺言に関する相談先は?

相続開始後に遺言書が発見されたものの、作成当時に遺言者が認知症で、遺言能力を有していたか疑わしい場合は、まず「相続診断士」に相談してみましょう。

相続診断士は遺言についても専門的な知識を有しているので、有益なアドバイスが得られるはずです。また、士業専門家への橋渡しも行っています。例えば、遺言書の内容や有効性に関して相続人で揉めそうなときは弁護士を紹介してもらえます。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

本サイト「円満相続ラボ」では、相続診断士に無料で相談できる窓口を用意しております。お気軽にご相談ください

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