認知症の人の遺言が有効になる条件は?無効となるケースや生前の対応策を解説

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遺産相続

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認知症の人が書いた遺言は有効?

作成した遺言書が有効か否かは、遺言を作成した人の遺言能力の有無で判断します。遺言能力の有無が問題となった場合、それを最終的に判断するのは裁判所です。

そのため、認知症を患っている人が作成した遺言が有効かどうかが問題となります。

次の基準を総合的に考慮して、遺言作成時に遺言能力があったかどうかを判断します。

  1. 医学的見地:診断書・鑑定書等で判断
  2. 遺言内容の複雑性:遺言内容・効果を遺言者が理解していたかどうかの判断
  3. 遺言内容の合理性:遺言者の生前の意思に合致した内容かどうかの判断

この3つの基準から裁判所が法的判断を下します。

遺言時の心身の状況はどうだったか

遺言を作成した時、遺言者はどのような心身状態だったかがチェックされます。以下の観点から判断します。

  • 精神的な疾患があるのか
  • 遺言者は常に精神的な疾患を患っているのか、それとも一時的か
  • 遺言者が患う精神的な疾患の症状・程度は重いか
  • 遺言時や遺言前後の言動や精神状態に異常がみられなかったか

精神科医の鑑定書や医師の診断書、看護師の看護記録等を参考に遺言作成時、遺言作成は困難だったかどうかを推察します。

遺言内容の複雑性

遺言内容・効果を遺言者が理解し、作成していたかどうかも判断基準となります。

現在は重い認知症を患っていたとしても、自筆証書遺言の作成当時、遺言内容が各相続人への的確な遺産配分内容となっており、緻密な計算能力を駆使して作成されていた場合、遺言能力はあったと認められる可能性が高いです。

一方、公正証書遺言の場合、実際に文書を作成するのは公証人です。しかし、遺言者が遺言内容を明確に口頭で告げて作成された公正証書遺言である場合、やはり遺言能力はあったと判断されることでしょう。

逆に、複雑な遺言内容だったにもかかわらず遺言作成当時、公証人の質問に遺言者が「はい」としか返答できない状態であった場合、遺言能力が無いと判断されてしまいます。

遺言内容の合理性

遺言の内容自体に不自然な点が無いかどうかも判断基準です。例えば、遺言者と受遺者(相続人)が疎遠であったにもかかわらず、他の相続人よりも多額の遺産を取得する内容だったというケースがあげられます。

この場合は認知症で判断能力の弱った遺言者に、受遺者が有利になるような遺言内容を記載させた、または遺言自体を偽造した、と他の相続人から疑われることになるでしょう。

遺言能力を有し遺言内容が合理的か否かは、生前の遺言者と受遺者との信頼関係・交際状況、遺言作成の経緯といった遺言当時の事情を考慮し判断します。

遺言が有効となるための条件

遺言が有効となるためには、いくつか条件があります。以下、解説していきます。

遺言能力の定義と判断基準

遺言能力とは、遺言がどんな意味を持ち、どんな効力があるかを理解できる能力です。

遺言能力の有無は医学的判断を尊重しつつ、最終的には裁判所が法的判断を行います。

その際には、先ほど紹介した遺言時の心身の状況はどうだったか、遺言内容の複雑性、遺言内容の合理性が考慮要素となります。

遺言内容の複雑さと意思能力の関係

遺言の意思能力については、遺言者がその内容を理解し、自分で判断できるかどうかがポイントです。遺言の内容がシンプルであれば、遺言者も理解しやすく、意思能力が認められやすくなります。

一方で、遺言の内容が複雑な場合、その意味を正確に理解するためには、より高い判断力が求められるため、意思能力が認められにくくなります。

そのため、遺言内容の複雑さは、意思能力の有無を判断する際に大きな影響を与えます。

長谷川式認知症スケールによる評価

「長谷川式認知スケール」(HDS-R、改訂長谷川式簡易知能評価スケール)とは、認知症の有無やその状態を確認するために行われる医療機関での検査の一つで、神経心理学的な検査としてよく用いられます。

この検査では、医師が本人に対して、年齢、日付、場所などを尋ね、その答えに基づいて点数をつけます。満点は30点で、20点以下の場合、認知症の可能性が高いとされています。また、10点以下であれば意思能力がないと判断される傾向にあります。

この検査結果は、裁判所で遺言能力を判断する際にしばしば参考にされるため、遺言能力があったかどうかを確認する重要な資料となります。

ただ、長谷川式認知スケールのみで意思能力の有無が決まるわけではなく、ほかの事情と総合して検討されます。

医療記録や介護記録での確認

医師の診断書や介護記録を通じて、遺言を作成した時期に遺言者が意思疎通できていたか、金銭管理を行う能力があったかを確認する場合もあります。また、看護記録には遺言者の当時の状況が詳しく記載されていることが多いため、それらの情報も遺言能力を判断する際に重要な要素として考慮されます。

認知症の進行と遺言内容の合理性

認知症が進行している場合、遺言者の判断力や思考が影響を受けるため、遺言の内容が合理性を欠くことが多くなります。遺言を作成する際、判断力が低下していると、これまでの生活状況や価値観と合わない内容になったり、突然不自然な決定を含む遺言になることがあります。このような場合、遺言の背景や経緯が理解しづらくなり、意思能力に疑問が生じやすくなります。

認知症が進行していると、遺言内容に一貫性や合理性が欠けることが多く、その結果、意思能力が認められにくくなる可能性が高くなります。

認知症に関する裁判例から見る遺言の有効性

ここでは、遺言の有効性の判断に役立つ、認知症に関する裁判例を紹介します。

遺言が有効と判断されたケース

東京地裁平成28年1月29日判決では遺言者に認知症の進行が見られたものの、遺言内容がシンプルで理解可能であったため、遺言能力が認められ、遺言は有効と判断されました。

遺言者は公正証書遺言を作成した時点で認知症が進行しており、理解力や判断力に一定の障害がありました。しかし、遺言の内容は非常にシンプルであり、3条のみから構成されていました。その内容は、従前の遺言を撤回し、相続人の1人またはその長男に財産を相続させるというものにすぎず、複雑な判断や高度な理解を要するものではありませんでした。

裁判所は、遺言者が他者との意思疎通が十分可能であり、内容自体も単純であったため、認知症の影響を受けていたとしても、その遺言を理解することは困難ではなかったと判断しました。その結果、遺言能力が認められ、遺言は有効であると判断されました。

遺言が無効と判断されたケース

東京高裁平成21年8月6日判決では、遺言者がアルツハイマー病と左脳の脳梗塞を併発し、認知症が重度に進行したため、遺言能力が認められないという判断がなされました。

遺言者は、平成8年ごろから認知症の症状が顕著になり、同時期にアルツハイマー病を発症したと考えられています。その後、平成9年9月には脳梗塞を起こし、見当識障害や記憶障害が見られるようになりました。

その後、アルツハイマー病と脳梗塞の影響で認知症はさらに悪化し、平成12年2月には「重度の老人性認知症」と診断されています。同年4月に実施された「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」での得点は8点と評価され、これは深刻な認知機能の低下を示すものでした。

このような状況下で作成された自筆証書遺言について、裁判所は遺言者が遺言内容を理解し適切に判断できる能力がなかったとし、遺言能力を否定する判決を下しました。その結果、遺言は無効となりました。

公正証書遺言の作成とその有効性

公正証書遺言とは、公証人が遺言者のために作成してくれる遺言書です。公証人とは、契約等の適法性を公的に証明する公務員です。その作成方法と有効性について解説します。

公正証書遺言の作成の仕組み

公正証書遺言の手順は、まず遺言者本人が公証人・証人2人の前で遺言内容を口頭で告げ、公証人が文書でまとめ、遺言者本人・証人2人が内容を確認します。

なお、証人に特別な資格は不要です。弁護士のような専門資格者の他、遺言者の友人・知人等を立てても構いません。

公正証書遺言の作成の際は第三者が関与するので、遺言者本人だけで作成する自筆証書遺言よりも、信頼性が高いといわれています。

公正証書遺言が無効となる場合

裁判所によって無効と判断されるケースは主に次の5つです。

  1. 遺言者本人に遺言能力がなかったと判断された
  2. 遺言者が口頭で遺言内容を公証人に伝えていない
  3. 証人が不適格者:未成年者や相続人・その家族、公証役場の職員・公証人に雇われた人だった
  4. 遺言者の勘違い:遺言者が意図していた内容と遺言内容に違いがある
  5. 遺言内容が公序良俗違反:後継者がいるにもかかわらず、経営者が顧問弁護士へ会社の全財産を譲る等

遺言者に遺言能力があったとしても、公正証書遺言の作成のプロセス(遺言者が口頭で内容を伝えていない、証人が的確ではない)で問題があったり、遺言者の勘違いや遺言内容が常識に外れていたりしていれば、無効になってしまいます。

なお、公正証書遺言を無効とするには原告(無効を主張する側)が裁判所へ申立て、無効の主張・立証を行う必要があります。

実際に公正証書遺言書が無効になった事例とは

ここでは公正証書遺言書が無効になったケースを2つ取り上げましょう。

公正証書遺言の内容を遺言者が理解していたか争われたケース

[事例]公正証書遺言の内容が複雑であったものの、作成当時の遺言者は軽い返答しかできず、遺言能力の有無が争われた。
遺言者:亡父(過去に脳梗塞で倒れ、認知症も患っていた)
子供A:わずかな財産しか相続できない遺言内容
子供B:亡父の大部分の不動産を相続する遺言内容

[遺言能力が争われた背景]
公正証書遺言書の内容は数多くの不動産資産が漏れなく記載され、内容が複雑になっていました。しかし、遺言者である父は脳梗塞で倒れ、認知症も患っていた経緯があり、遺言書の作成当時は「はい。」という返答しかできない状態でした。

子供Aは、遺言内容を遺言者が正確に理解しない状態で公正証書遺言が作成されたと主張し、地方裁判所に遺言無効確認を求めて提訴しました。

[判決]
地方裁判所は、作成に立ち会った証人や医師の診断等から、相手の言うことに誘導されて「はい。」 と言う程度の返答しかできない状態であったと判断、複雑な内容を理解し判断する能力は無かったと判示しました。

[結果]
公正証書遺言書は無効となり、子供A・子供Bは遺産分割協議で遺産を分割することになりました。

公正証書遺言の内容で不自然な点が争われたケース

[事例]亡父の遺言書に不自然な点が多く目立ち、公正証書遺言の有効性を疑われ、遺言能力の有無が争われた。
遺言者:亡父(認知症を患っていた)
妻:亡父の大部分の遺産を取得
長女A:亡父の自宅不動産を相続
長男B:わずかな財産しか相続できない遺言内容
次女C:わずかな財産しか相続できない遺言内容

[遺言能力が争われた背景]
妻・長女Aが潤沢な財産を相続した一方、長男Bは父の財産を管理し財産の保全に尽くしていたものの、わずかな財産しか相続できませんでした。また、次女Cも長男Bと同様にわずかな財産しか受け取れませんでした。

長男B・次女Cは生前の父の遺言能力がなく、公正証書遺言書は無効であると主張しました。しかし、訴訟提起直前に長男Bが亡くなり次女C単独で遺言無効確認の訴えを起こします。

[判決]
地方裁判所は公証人の証人尋問を行いつつ、亡父の主治医の診断や看護師の看護記録等の記載内容を重視し、亡父の遺言能力が無かった事実を認め、遺言無効の判決を下しました。

[結果]
妻・長女Aは控訴しましたが、高等裁判所から遺言無効を前提とした和解の提案がなされました。

そこで妻が次女Cに対し、次女Cの解決金(法定相続分の財産に相当する金銭)を支払う和解内容で合意、訴訟上の和解が成立しました。

認知症の遺言に備えるための対策

認知症を発症した後に遺言書を作成すると、無効になる可能性があります。遺言を有効にするためには、次の対策が必要です。

遺言能力があるうちに作成を

最もいい方法は、認知症を発症する前に早めに遺言書を作成しておくことです。早めの準備は、家族にとって大きな助けになります。また、認知症を発症していても、進行がそれほど進んでいなければ、遺言能力が認められる可能性があります。判断力の低下を感じたら、できるだけ早く遺言書を作成することが大切です。

公正証書遺言の作成が推奨される理由

公正証書遺言を作成することは、遺言能力を確認する上で非常に有効です。公証人が遺言者と直接対面し、言動や行動を観察して、遺言内容を理解しているかを確認するため、遺言能力が一定程度保証されます。また、公証人は遺言者の意思疎通能力や精神状態にも注意を払い、必要に応じて質問を行うため、後に遺言能力が争われるリスクを減らすことができます。

ただし、公正証書遺言だからといって必ず遺言能力が認められるわけではありません。遺言者の健康状態や認知症の進行具合によっては、後に遺言能力が否定される場合もあります。そのため、場合によっては医師の診断書などの追加証拠を準備しておくことが推奨されます。

遺言執行者の指定

遺言者が認知症である場合、その相続人、特に配偶者も高齢で認知症を患っている可能性があります。そんなときは、遺言書の中で遺言執行者をあらかじめ指定しておくといいでしょう。

通常、遺言書の内容に従って相続手続きを進めるのは財産を受け継ぐ相続人です。しかし、相続人が認知症であれば、自分で手続きを行うことが難しくなり、せっかくの遺言書があっても相続が進まないという問題が生じます。こうした状況を避けるためには、遺言書の中で遺言執行者を指名しておくことが重要です。

遺言執行者は、相続人が手続きを行えない場合でも、遺言書に基づいて相続手続きを進めることができます。これにより、認知症の相続人がいてもスムーズに手続きが行われ、成年後見人を付ける必要もなくなります。

証拠としての医療記録や診断書の保存

認知症の人でも、遺言書作成時に遺言能力があれば、その遺言は有効と認められる可能性が高まります。

しかし、遺言書を作成しても、後に相続人間で「遺言者が認知症だった」として遺言の有効性を巡って争いが起こってしまうことがあります。こうしたトラブルを防ぐためにも、遺言書作成時に医師の診断書や医療記録を一緒に保管しておくことをおすすめします。診断書には、遺言者の判断能力が十分であったことが記載され、医療記録には当時の言動や行動が記載されているため、後々の証拠として非常に有効です。

遺言書を作成する前に、かかりつけの医師から医療記録を取り寄せ、判断能力についての診断書も作成してもらいましょう。それを遺言書と共に保管しておくことで、相続時に発生しがちな争いを防ぎ、遺言の有効性を高めることができます。こうした準備は、遺言者の意思を確実に実現するために重要な手段です。

無効の可能性がある遺言への対応策

ここでは、無効の可能性がある遺言に対して、相続人が取れる対応策を紹介します。

遺留分侵害額請求の手続き

遺留分侵害請求とは、遺留分を侵害された人が、贈与や遺贈を受けた相手に対して、侵害された遺留分の範囲でその金銭的価値の返還を求めることです。

無効と思われる遺言によって自分の遺留分が侵害されている場合、遺言無効の主張に加えて、遺留分侵害額請求をすることが大切です。具体的には、「被相続人の遺言は遺言能力がない状態で作成されたため無効である。また、仮に遺言が有効だとしても、私の遺留分が侵害されているため、遺留分侵害額請求を行う」という通知を相手に送る必要があります。

遺留分侵害額請求には、相続の開始や贈与・遺贈があったことを知ってから1年以内という期限があります(民法1042条)。もし遺言無効の訴訟中に1年が経過してしまうと、この請求ができなくなってしまうため、早めに手続きを進めることが重要です。

特別受益の持ち戻しについて

特別受益の持ち戻しとは、生前に特別な贈与を受けた相続人がいた場合、その贈与を含めて遺産分割の計算をすることで、相続人間の不公平を解消する仕組みです。たとえば、ある相続人が生前に多額の贈与を受けていた場合、その分を遺産に加算して遺産分割を行います。

ただし、被相続人が「特別受益の持ち戻しをしなくてもよい」とする意思表示を遺言などで残していた場合、その特別受益は遺産分割に含まれません。これを「特別受益の持ち戻し免除」と呼び、被相続人が遺言でこの免除を明示することが可能です。

しかし、遺言能力に問題がある場合、その遺言に記載された「持ち戻し免除の意思表示」も無効となる可能性があります。もし遺言の有効性に疑問がある場合、遺言無効を主張するとともに、特別受益の問題についても適切に主張する必要があります。これにより、遺産分割がより公平に行われるようにすることが重要です。

介護に対する寄与分の主張

寄与分とは、被相続人の財産維持や増加に特別な貢献をした相続人が、その貢献に応じて多くの遺産を受け取ることができる仕組みです。しかし、一般的な扶養の範囲内での介護だけでは寄与分として認められにくく、より高度な介護や特別な貢献が必要です。

具体的には、次の3つの条件を満たすことが求められます。

  1. 病気、老化により被相続人が療養看護を必要とする状態であること
  2. 被相続人との身分関係から通常期待される程度を越える特別な貢献をしていること
  3. 寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていること

つまり、日常的な介護だけではなく、特別な介護を長期間にわたり行い、財産の維持に貢献していることが必要です。遺言が無効となる可能性がある場合、この寄与分を主張することで、遺産分割の際に公平な評価を受けられる可能性があります。

遺言の有効性に疑問がある場合の対応

遺言の有効性に疑問がある場合には、以下の対応策をとることが考えられます。

公正証書遺言を無効にする方法

公正証書遺言で作成されていても、相続人全員の合意があれば遺産分割協議に変更し、遺言内容にかかわらず話し合いで遺産の分割が可能です。

遺言者の遺言能力に不安を感じていたら、公正証書遺言の内容に従う必要はありません。しかし、遺産分割協議で話し合いがまとまらなければ遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟に移行します。

ここでは、公正証書遺言を無効にするために調停・訴訟の提起をする際の手順や必要書類を説明します。

遺言無効確認調停

遺言無効確認訴訟を行う前に、まず相続人間で和解できるよう家庭裁判所で調停による解決が図られます。

その際は、調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成)が設けられ、調停委員会が相続人それぞれの話を聴いたうえで、解決案を提示します。この提案に当事者が合意できた場合は調停調書を作成します。

調停の際は主に次のような書類の提出が必要です。

  • 調停申立書:家庭裁判所で取得
  • 公正証書遺言書
  • 申立人及び相手方、被相続人の戸籍謄本:それぞれの本籍地の市区町村役場で取得
  • 不動産登記事項証明書:遺産に不動産がある場合

遺言無効確認訴訟

調停でも和解が成立しない場合は、被告の住所地または相続開始時の被相続人の住所地を管轄する地方裁判所に、訴訟を提起します。

訴訟の流れは次の通りです。

  1. 証拠・必要書類を準備
  2. 訴訟を提起
  3. 判決:勝訴した場合は遺産分割協議へ

訴訟期間は資料の準備〜判決までは1年程度かかります。訴訟の手数料は訴額によって変化し、例えば訴額10万円の場合は1,000円、訴額1億円の場合は32万円です(裁判所ホームページ「手数料額早見表」参照)。

更に弁護士を立てるならば、着手金・報酬金がかかります。弁護士事務所ごとで料金設定は異なります。
訴訟の際は主に次のような書類の提出が必要です。

  • 訴訟申立書:地方裁判所で取得
  • 公正証書遺言書
  • 財産内容を示す登記事項証明書、通帳の写し等
  • 申立人及び相手方、被相続人の戸籍謄本:それぞれの本籍地の市区町村役場で取得
  • 医療記録、介護記録、医師の意見書(鑑定書)等

遺言が有効であっても注意すべき点

遺言が有効な場合でも、いくつか注意すべき点があります。以下、解説します。

相続放棄の検討

遺言で「全財産を相続する」と書かれている場合、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続することになります。小さなもので言えば、亡くなった方の未払いの入院代や家賃、施設費用、退去費用、公共料金なども含まれます。大きなものだと、住宅ローンや個人的な借金なども引き継ぐことになります。

さらに、財産だけでなく亡くなった方の地位も引き継ぐため、不動産の借主としての地位なども相続する点に注意が必要です。

債務超過の場合には、相続放棄を検討することをおすすめします。相続放棄は、被相続人の死後3か月以内に行うことが必要なので、早めの判断が求められます。

他の相続人から遺留分侵害請求をされる可能性

また、全財産を相続させる旨の遺言で財産を相続した場合、他の相続人から遺留分侵害請求をされる可能性があります。「遺留分」とは、法定相続人が最低限受け取る権利を保護するための仕組みです。

遺留分は、相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して認められており、遺言によって財産を他者に譲渡された場合でも、遺留分が侵害されないように配慮されています。
遺留分が侵害された場合、その相続人は、相続を受けた人に対して遺留分に相当する財産を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。遺言で全財産を相続することになった人は、他の相続人からこの請求を受ける可能性が高くなります。

遺留分侵害額請求がなされた場合、その請求を受けた人は、遺留分に相当する金額を支払わなければならず、結果的に全財産をそのまま相続できるわけではなくなります。

相続トラブル防止のための弁護士相談

相続が始まり、遺言書が見つかったものの、作成時に遺言者が認知症で遺言能力に疑問がある場合は、「相続診断士」に相談してみましょう。

円満相続ラボ」には、豊富な経験を持つ相続診断士が在籍しており、遺言に関する専門的な知識をもとに、有益なアドバイスを提供してくれます。また、必要に応じて、士業の専門家への橋渡しも行っており、遺言書の有効性や内容について相続人間でトラブルが生じそうな場合には、弁護士の紹介も可能です。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

本サイト「円満相続ラボ」では、相続診断士に無料で相談できる窓口を用意しております。お気軽にご相談ください

この記事を監修したのは…

中澤 泉

弁護士・ライター

中澤 泉(なかざわ いずみ)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
法律をはじめ、記事執筆やコンテンツ制作のご依頼がございましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

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