換価分割とは?メリット・デメリット、遺産分割協議書の書き方や税金について解説
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換価分割とは?他の遺産分割方法との違いは?
換価分割とは、相続財産である不動産を金銭に換えて分割する遺産分割方法です。不動産が不要な場合や、相続税の用意がない場合に役立ちます。
ここでは、換価分割の定義や、他の分割方法との比較について説明します。
換価分割の定義
換価分割とは被相続人の所有する土地や建物等を売却後、そのお金を法定相続人の間で分配する遺産分割方法です。
換価分割の基本的な流れ
換価分割は、以下の流れで行います。
- 遺言で換価分割を確認、または遺産分割協議で換価分割を決定
- 遺産分割協議書を作成する(遺産分割協議の場合)
- 相続登記
- 売買契約
- 売買代金受領
- 相続人間で受領した売買代金を分配
他の遺産分割方法との違い
他には次のような遺産分割方法もあります。
現物分割
被相続人の現金や株式、土地や建物等の財産を、現物のまま相続人間で分割する方法です。
代償分割
特定の相続人が被相続人の財産を引き継ぐ代わりに、他の相続人には代償金を支払う分割方法です。
換価分割
換価分割は分割し難い不動産等を現金化し、相続人で分けるので公平な配分が可能です。一方、現物分割は現物のまま相続人間で分割するので、公平な分割が難しいケースもあります。
一方、お金で分割するという点で代償分割と換価分割は似ています。
しかし、財産を引き継いだ相続人が他の相続人に代償金を支払わなければいけません。代償金を支払うだけの資力がなければ難しい遺産分割方法といえます。
換価分割による財産の評価方法
換価分割で不動産等を売却し、得たお金を複数の相続人に分配しても、相続税の計算する上で、相続発生時点の不動産等の相続税評価額がベースとなります。
具体例をあげましょう。
(例)被相続人の唯一の遺産である相続税評価額5,000万円の土地を、6,500万円で売却できた。
- 土地の相続税評価額:5,000万円
- 売却価格:6,500万円
- 相続人:子A・B2人
相続税を算定する場合、売却価格6,500万円ではなく、土地の相続税評価額5,000万円を相続税の基礎控除から差し引きます。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」なので4,200万円
5,000万円-4,200万円=800万円
課税遺産総額は800万円となります
財産の評価額の決定方法
相続財産である不動産の評価額は、土地と建物で計算方法が異なります。それぞれについて、解説していきます。
土地の評価額の決定方法
1.路線価価格か倍率地域かを確認する
路線価図を確認し、路線価図があれば路線価地域、路線価図がなければ倍率地域です。路線価図は、国税庁ウェブサイトから確認できます。
確認出来たら、それぞれにつき、以下の計算式で計算していきます。
路線価地域:相続税路線価×調整率×土地の面積
倍率地域:固定資産税評価額×倍率
2.評価減されるかどうか確認する
地形や立地などの、土地ごとの条件により評価が下がる可能性があります。その判定はとても複雑なので、専門家である税理士に相談することをお勧めします。
3.賃貸されているかどうか確認する
賃貸があった場合、所有者が自由に使用できないので、以下の計算式で評価額を減額します。
借地権(土地を借りていた場合):自用地としての評価額×借地権割合
貸宅地(土地を貸しいた場合):自用地としての評価額ー借地権の価格
貸家建付地(土地と建物を貸している場合):自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
※借地権割合:路線価図に記載
※借家権割合:一律30%
※賃貸割合:建物の各独立部分の床面積の合計に対する賃貸部分の床面積の合計
上記の手続きで、大体の土地の評価額が決定します。不安な場合には、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
建物の評価額の決定方法
1.固定資産税評価額を確認する
建物の相続税評価額は、以下の算定式で求めます。相続税における建物の評価額は、基本的には固定資産税評価額と同じです。
固定資産税評価額×評価倍率(1.0)
建物の固定資産税評価額は、毎年4月ごろに送られてくる固定資産税課税明細書(納税通知書)に記載されています。
2.賃貸されているかどうか確認する
建物が賃貸されているかを確認してください。賃貸されている場合、以下の計算式で減額します。
1軒(1棟)全部貸家の場合:固定資産税評価額×(1-借地権割合)
住宅の一部が貸家の場合:固定資産税評価額×(1-借地権割合×賃貸割合)
※借家権割合:一律30%
※賃貸割合:建物の各独立部分の床面積の合計に対する賃貸部分の床面積の合計
権利関係の調査
権利関係の調査は、法務局に赴いて登記簿謄本を取得することで行います。登記簿謄本の取得はオフライン、オンラインいずれでも可能です。
法務局での取得方法
管轄法務局の窓口に来庁し、備え付けの請求書に必要事項を記入して提出します。その場で登記簿謄本を作成してもらえ、10〜15分で受け取ることができます。
郵送での取得方法
管轄法務局に封書で「申請書」「登記印紙(手数料)」「返信用の封筒・切手」を郵送します。法務局に請求書が届き次第、作成し返送してくれます。
オンラインでの取得方法
管轄法務局がオンライン化している場合には、インターネットを利用して請求することができます。受け取りは郵送でも来庁でも可能です。
不動産登記簿謄本は以下のリンクから申請できます。https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/shomeisho_000001.html
費用
登記簿謄本を請求するための手数料は以下の通りです。
請求・受け取りの方法 | 金額 |
---|---|
書面請求 | 600円 |
オンライン請求・送付 | 500円 |
オンライン請求・窓口交付 | 480円 |
換価分割で遺産を分けるメリット・デメリット
換価分割を行えば公平な遺産分割ができる反面、譲渡所得税が発生する可能性のある点に注意しましょう。
メリット
ここでは、換価分割で遺産を分けるデメリットについて解説します。
換価分割で遺産を分けるメリット
不動産のような遺産分割が難しい被相続人の財産でも、現金化して公平に分配でき、相続人間でのトラブルを回避できます。
なお、特定の相続人が財産を得て、それ以外の相続人には代償金を与える方法がとられても、支払う側に十分な資力がなければ実現は困難です。
換価分割を行うならば、特定の相続人の資力に頼る必要は無いので、非常に分割しやすい方法と言えます。
公平な遺産分割
現物分割では公平な相続が成り立たないケースが多々あります。相続するモノ=現物の価値はまちまちで、それを均等に割り切ることは現実には困難だからです。
そこで用いられるのが換価分割です。相続財産を金銭化したうえで分割することによって、額面上からみても公平に遺産を分けられます。
納税資金の確保
不動産の遺産に占める割合が大きい場合、相続した金銭だけでは相続税の納付ができないケースが発生します。そのような場合には、換価分割の際に不動産を売却した代金から支払うことをおすすめします。不動産の売却代金に相続税はかからないので、現金や預貯金などに相続税が課税されるときは、換価分割で納税資金を準備しましょう。
デメリット
ここでは、換価分割で遺産を受けるデメリットについて解説します。
換価分割で遺産を分けるデメリット
換価分割で遺産を分けるとなると、モノをお金に換えるための費用と手間がかかります。また、売買契約の金額は当事者の合意により決まるので、思ったよりも低い金額でしか売却できず、評価額より遺産が減ってしまう可能性もあります。
売却による税金(譲渡所得税)
相続税の発生の他、不動産購入時の価格よりも高い価格で売却できた場合「譲渡所得税」がかかってしまいます。
また、譲渡所得税は所有期間に応じ税率が変わるので注意しましょう。相続で引き継いだ不動産は、被相続人の所有期間も含めて判定します。
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以下なら「短期譲渡」、5年超なら「長期譲渡」の税率で、次のように譲渡所得税を算定します。
- 短期譲渡所得:「売却価格-必要経費(取得費+譲渡費用)」×39%
(住民税30%+住民税9%+復興特別所得税) - 短期譲渡所得:「売却価格-必要経費(取得費+譲渡費用)」×20%
(住民税15%+住民税5%+復興特別所得税)
売却手続きの手間
換価分割は現物分割や代償分割より、時間がかかることがほとんどです。不動産価格の算定や仲介業者への依頼、売却先が決まった後の手続きなど、売却のために手間がかかるからです。
さらに、相続人間で売却額について合意が形成できない場合、手続きが長期化するリスクもあります。
相続手続きを早く終わらせたい場合や、人間関係がこじれている場合には、現物分割や代償分割を検討してみてもいいかもしれません。
希望価格で売却できない可能性
不動産は必ずしも希望価格で売却できるわけではありません。
特に、不動産の売却代金で相続税を支払いたいのであれば、納付期限までに不動産の売却手続きを終えなければなりません。そういった状況では、買手が有利になるため、市場価格よりも安く買いたたかれてしまうケースもあります。
できるだけ早めに仲介業者に相談して、売り手を探してもらいましょう。
換価分割がおすすめなケースとは?
こちらでは、換価分割を行った方が良いケースについて取り上げましょう。
相続財産が分け難く揉めそうな場合
動産にしたうえで売却し、売却価格を平等に分ける方法が考えられます。
この方法なら、特定の相続人だけが得をするという事態は避けられ、相続人間のトラブルを回避できます。
相続人が被相続人の土地・建物に思い入れがあったとしても、共有不動産にしたままだと利用は難しい場合が多いです。
また、特定の相続人だけが取得するならば、代償金を支払わないと他の相続人と揉めてしまうでしょう。
誰かが被相続人の土地・建物に住むわけでないなら、換価分割が最も有効な方法と言えます。
相続税の納税資金を準備したい場合
相続手続きを進め明らかに相続税が発生するとわかったら、原則として被相続人の亡くなった事実を知った日の翌日から10カ月以内に、金銭で納付をしなければいけません。
申告の際に納付するお金が足りないならば、換価分割して得たお金を納税資金として利用できます。
しかし、必ずしも相続税申告期限内に買い手が現れ、売却できるとは限りません。迅速に売却を済ませたいならば、不動産会社に相談し対応を話し合いましょう。
不動産の相続を希望する人がいない場合
相続人全員が不動産の相続を希望していない場合には、換価分割が有用です。相続したくない財産がある場合、相続放棄も一つの手段ですが、放棄すると預貯金や株式など不動産以外の財産も相続できなくなります。
不動産のみを相続したくないときには、換価分割がおすすめです。
代償金を準備できない場合
代償分割をする際には、不動産を取得した相続人が、ほかの相続人に代償金を支払わなければなりません。不動産の評価額が高い場合には、土地の代償金だけで数千万円になるケースもあるので、現金の準備が難しいときには、換価分割をおすすめします。
換価分割の手続きの流れ
遺言で不動産を換価分割する手順について説明しましょう。
- 被相続人(遺言者)が遺言書(清算型遺贈)を作成
- 相続発生
- 遺言書に従い換価分割を開始
- 相続人の代表または遺言執行者が不動産の名義を変更
- 法定相続人の共有名義の相続とする
- 買い手を探す
- 買い手が現れたら不動産売買契約を締結
- 不動産移転登記を、法定相続人全員または遺言執行者の責任で行う
- 遺言書に従い、売却価格を法定相続人で分ける
清算型遺贈を行う場合、相続不動産を被相続人名義のまま買主に名義変更はできません。
まずは法定相続人の共有名義で所有権移転登記を一旦行ったうえで、買主と売買契約締結・売却を行い、所有権移転登記をする必要があります。
不動産の評価額や権利関係の調査
換価分割をするときは、まず不動産の評価額と権利関係を調査しましょう。
不動産の評価価格は公示価格や固定資産税評価額、路線価などを参考にしますが、専門知識が必要になるので、不動産会社や税理士などに評価してもらうことをおすすめします。
不動産の権利関係を調査するときには、法務局で登記事項証明書を取得します。相続が開始した時点で相続人が本当に所有権を持っていたのか、確認しなくてはならないためです。抵当権をはじめとする担保権も確認することができます。
遺産分割協議(換価分割の決定)
遺産分割協議により、換価分割をする旨を決定します。換価分割をするためには、相続人全員の合意が必要になるためです。協議がまとまったら、遺産分割協議書に換価分割する旨を記載しておきましょう。
相続登記
相続登記とは、「相続する不動産の名義変更」のことをいいます。
相続で不動産を取得したら、被相続人の名義で登記されていた不動産を相続人の名義に変更することにより、その不動産の名義人であることを第三者に公示できます。
相続後に不動産を売却する際には、不動産登記が必要不可欠です。
相続登記の方法
相続登記は、対象の不動産の住所地を管轄する法務局へ行き、不動産登記の窓口を探して、登記申請書と添付書類一式を提出して申請します。
法務局での書類の審査と登記には1週間~10日くらいかかります。登記が済むと、登記識別情報の通知や登記完了証が送られてきます。
相続登記の必要書類
相続登記をするためには、以下の書類が必要です。
①登記申請書、②不動産の登記事項証明書、③遺言または遺産分割協議書、④被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本、⑤被相続人の住民票の除票、⑥相続人全員の戸籍謄本、住民票、⑦法定相続人の印鑑証明書、⑧固定資産評価証明書
相続登記の費用
相続登記をする際に必要な費用として、登録免許税がかかります。
相続により不動産の所有権移転登記をする際には、土地・建物それぞれにつき、「固定資産税評価額×4/1,000」の計算式で登録免許税を算出します。
この金額の収入印紙を法務局で購入し、登記申請書に張り付けて提出します。
手続きが難しい場合には、司法書士に代理してもらうことも一つの手段です。
不動産会社への仲介依頼
相続登記が完了したら、不動産会社へ仲介を依頼することが一般的です。もちろん、自分で買い手を見つけることも可能ですが、不動産売却には、売買契約書の作成や登記手続きなど、専門的な知識を必要とする場面が多々ありますので、高度な知識を持っている人以外にはおすすめできません。
不動産仲介によって買い手が見つかった場合には、条件交渉によって売却価格を決めます。最終的な売却価格が決まったら、売買契約書を取り交わしましょう。
売却代金の受け取りと分配
不動産が無事売却出来たら、売却代金を受け取り、相続人間で遺言、遺産分割協議書に基づいて分配します。
各相続人名義の預金口座へ直接振り込みする方法や、各相続人の受取額に応じた現金や小切手などで受領する方法があります。
換価分割する際の遺産分割協議書の記載方法
こちらでは複数の相続人の話し合いがまとまり遺産分割協議書を作成する場合、換価分割の記載方法等をどうするかについて解説しましょう。
相続人全員の名義で相続登記する場合
相続不動産を共同相続人全員の名義に変更すると決めた場合、遺産分割協議書へ次のように換価分割する旨を記載します。
【記載例】甲・乙の2人が法定相続人の場合
第1項 次の不動産を換価処分するため、相続人甲、相続人乙がそれぞれ2分の1の割合で共有取得する。
(相続土地・建物の表示)
第2項 相続人甲、相続人乙は共同して前項の不動産を売却し、売却代金から不動産売却に伴う諸費用に要する一切の費用を控除した残金を、それぞれの共有持分割合に従って取得する。
相続人代表の名義で相続登記する場合
法定相続人の誰かを代表として、代表者の単独名義に変更すると決めた場合、遺産分割協議書へ次のように換価分割する旨を記載します。
【記載例】甲・乙の2人が法定相続人の場合
第1項 次の不動産を換価処分するため、相続人甲が取得する。
(相続土地・建物の表示)
第2項 相続人甲は前項の不動産を速やかに売却し、売却代金から不動産売却に伴う諸費用に要する一切の費用を控除した残金を、相続人甲および相続人乙はそれぞれ2分の1の割合で取得する。
換価処分に関し不明な点は相続診断士へ相談を
遺言書に換価処分を記載するべきか、相続人が換価処分で遺産分割を行うべきか悩んでいるなら、相続全般の専門知識を有する「相続診断士」へまず相談してみましょう。
相続診断士は有資格者なので、相談者の悩みや不明点へ的確なアドバイスを行います。
相続診断士の助言を受けつつ、換価処分で相続財産を分配した方が良いかどうか、冷静に検討しましょう。
換価分割にかかる税金
換価分割を行った際に課税される主な税金は「譲渡所得税」です。相続税と合わせて解説します。
相続税
換価分割のために不動産を売却した代金に対しては、相続税がかかりません。相続税は、亡くなった時の財産に関するものなので、換価分割により相続財産がいくらで売却されても相続税には影響を与えません。
課税対象と評価額
相続税の課税対象は、被相続人が亡くなった時の財産、つまり、換価する前の不動産の評価額に対してかかります。したがって、換価分割した場合の売却価格は相続財産の評価額とは別物であり、相続税が課されることはありません。
譲渡所得税
換価分割をして譲渡所得を得た場合には、譲渡所得税が課せられる可能性があります。譲渡所得とは、不動産の売却で得た利益のことで、不動産を購入するときにかかった費用(取得費)と売るときにかかった費用(譲渡費用)を足した金額を差し引いて求めます。
税率と計算方法
譲渡所得税を計算するためには、まず譲渡所得の額を算出しなければなりません。計算式は、以下のようになります。
譲渡所得=売却価格ー(取得費+譲渡費用)
そのうえで、譲渡所得税の税率を計算します。譲渡所得税の税率は、売却した不動産の所有年数によって変わります。基本的には以下の計算式を使います。
- 所有年数5年以内(短期譲渡所得):所得税30%+住民税9%+復興特別所得税
- 所有年数が5年超(長期譲渡所得):所得税15%+住民税5%+復興特別所得税
※復興特別所得税:基準所得税(所得税額から、所得税額から差し引かれる金額を差し引いた後の金額)×2.1%
支払い期限
譲渡所得の申告と納税は、不動産を売却した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日の間に行う必要があります。不動産を売却した翌年の確定申告時と覚えておくといいでしょう。
発生するケースとしないケース
換価分割をして譲渡所得を得た場合でも、譲渡所得税が発生するケースと発生しないケースがあります。
譲渡所得税が発生するケース
原則として譲渡所得税は発生するもの、と考えておきましょう。
例外は「特別控除」が受けられる場合です。
譲渡所得税が発生しないケース
特別控除が受けられる条件はさまざまですが、換価分割における代表的なケースとしては、「自己居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除」と、「相続した空き家を譲渡した場合の3000万円の特別控除」があげられます。
自己居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除
相続した不動産を売却して譲渡所得を得た場合、一定の要件を満たすと特別控除が受けられます。
この制度のうち最も重要な要件は、売却した不動産が「居住用不動産」と認められるか否かです。現所有者である売主が売却直前までその不動産に住んでいたかどうかが問われます。
「居住用不動産」と認められた場合、譲渡所得が3000万円以下であれば、譲渡所得税は発生しません。3000万円を超えた場合も、3000万円までは特別控除の対象となります。
相続した空き家を譲渡した場合の3000万円の特別控除
被相続人が1人で住んでいた不動産を相続し、そこに誰も居住しないまま空き家として売却した場合、一定の要件を満たすことで、特別控除が受けられます。
要件を満たすか否かの判断は非常に煩雑なので、弁護士への相談をおすすめします。
要件を満たしている場合、譲渡所得が3000万円以下であれば、譲渡所得税は発生しません。3000万円を超えた場合も、3000万円までは特別控除の対象となります。
遺言による換価分割(清算型遺贈)とは?
清算型遺贈とは、被相続人が遺言書で財産を売却・現金化し、それぞれの相続人に一定の割合または一定の金額で引き継ぐよう指定する方法です。
清算型遺贈を行う財産は土地・建物のような不動産に限定されません。自動車のような動産、株式・債券等の有価証券も換価分割で分配するように指示できます。
また、相続人に限らず受贈者(遺贈する相手)を相続人以外の親類縁者、友人や知人、法人としても構いません。
清算型遺贈のよくあるパターン
清算型遺贈は遺言で、できるだけ相続人等へ公平に財産を配分したいとき有効な方法です。
遺言書を作成する際は次のようなパターンで、清算型遺贈が行われます。
- (パターン1)被相続人の全財産を売却・現金化し、一定の割合または一定の金額で遺贈
- (パターン2)被相続人の特定の財産を売却・現金化し、一定の割合または一定の金額で遺贈
パターン1は、被相続人に不動産資産が多く、複数の相続人で等分で相続し難いケースです。
一方、パターン2は金融資産があっても不動産資産を含め、なるべく相続人間で揉めないよう正確に等分して、相続させたいときに取られる方法といえます。
遺言書の記載方法
清算型遺贈を行いたい場合、遺言書に換価分割を行うよう明記します。
具体例をあげましょう。
(例)被相続人は自分の所有する土地・建物を売却し、そのお金を長男と次男へ平等に分配したいと考えている。
【記載例】
遺言者は、その所有する下記不動産を換価処分し、その換価代金で不動産売却に伴う諸費用に要する一切の費用を控除した残金を、遺言者の長男〇〇〇〇(平成〇年〇月〇日生)、遺言者の次男〇〇〇〇(平成〇年〇月〇日生)に各2分の1の割合で相続させる。
記
(1)所在 埼玉県○○市○○町
地番 〇番〇号
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
(2)所在 埼玉県○○市○○町
家屋番号 〇〇番
種類 居宅
構造 木造2階建
床面積 1階〇〇平方メートル
2階〇〇平方メートル
遺言を執行する際の注意点
清算型遺贈の執行自体は相続人がいれば可能です。しかし、相続人が換価分割せず、被相続人の財産を独り占めにする可能性もゼロではありません。
遺言者(被相続人)の意思に従った執行を望むならば、遺言執行者を遺言書で指定した方が良いでしょう。
遺言執行者は相続人の中から特に信頼できる人を選んでも良いですが、弁護士や司法書士等の士業専門家に任せても構いません。
弁護士に相談するメリット
換価分割について弁護士に相談することにより、適切な節税対策が取れたり、手続きが円滑化したりなど、さまざまなメリットを得られます。
税金の節税
節税をする上で、まず大切なのが弁護士に相談することです。どの節税方法を選べばいいのか、適用要件に合致するためにはどうすればいいのかアドバイスをもらえます。
たとえば、換価分割をする不動産の譲渡所得税について、自己居住用財産を譲渡した場合の特別控除が受けられるのか、相続した空き家を譲渡した場合の特別控除を受けられるのかは、それぞれの適用要件に該当するか否かの判断をしなければわかりません。
専門家である弁護士の助言により、最も有用な節税方法を選択でき、税務署などでの手続きもスムーズに行えます。
手続きの円滑化
換価分割を行う際には、被相続人の遺言書を検認したり、遺産分割協議を行ったり、不動産の名義を変更したりなど、さまざまな手続きが必要になります。そもそも相続は一生のうち1度か2度の出来事なので、その手続きに慣れている人は少ないと思います。しかし、相続の案件を多数手がける弁護士であれば、スムーズに手続きを行うことができます。
弁護士の経験と専門知識を借りて、換価分割手続きを円滑に進められれば、精神的にも肉体的にも相続人の負担が軽くなります。
不動産売買の安全性確保
換価分割のための不動産の売買というのは、大きな資産が動く重大な手続きです。不動産を安く買いたたかれないために評価額を算定したり、後にトラブルにならないよう不動産売買契約書の内容を精査したりする必要があります。
経験豊富な弁護士であれば、不動産の売買手続きを安全に行うことができます。
まとめ
遺言書に換価処分を記載するべきか、相続人が換価処分で遺産分割を行うべきか悩んでいるなら、弁護士に相談してみましょう。
換価分割を選ぶべきかの判断基準
不動産を取得したい相続人がいない場合や、現物分割では相続人間の公平性が保たれない場合、代償分割の際の代償金が用意できない場合には、換価分割を選ぶことは有用な手段です。
一方で、不動産に相続人が引き続き住み続ける場合や、相続人それぞれが1つずつ不動産を相続するなど、現物分割でも公平に分割できる場合、代償分割が滞りなく行える場合には、その他の分割方法をとることも考えられます。
相続人の置かれた状況によって、どのような分割方法で不動産を分割するのが適切かは異なります。弁護士に相談することによって、適切な分割方法について、具体的なアドバイスを求めることが可能になります。
分割方法に悩んだ場合には、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士への依頼方法と相談の流れ
まずは、ウェブサイトなどで不動産相続に関する経験が豊富な弁護士を探してみましょう。「不動産 相続 弁護士」などで検索すると、たくさんの弁護士事務所のウェブサイトが出てきます。
中には、ウェブサイトに解決事例を載せている弁護士事務所もあるので、自分の事例に近いモノを探してみるのもいいでしょう。
そのうえで、いくつか弁護士事務所をピックアップし、予約をとって、法律相談を行います。初回の法律相談料は5000円~2万円程度で、無料の法律事務所もあります。
遺産分割手続きに関する手続きは長期化することが珍しくなく、長い間弁護士とかかわっていくことになるので、直接会って弁護士との相性を確かめることは重要です。
また、初回の相談で弁護士費用についての説明があるので、自分のニーズと予算感に適した弁護士を選ぶことも大切です。
依頼する弁護士を決めたら、弁護士と業務委託契約書を締結し、着手金を支払い、相続手続きを開始します。困ったことがあったらその都度弁護士と相談しながら、手続きを進めていくことになります。
【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ
相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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この記事を監修したのは…
弁護士・ライター
中澤 泉(なかざわ いずみ)
弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
法律をはじめ、記事執筆やコンテンツ制作のご依頼がございましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。