財産開示手続とは?民事執行法改正後の変化や手続きの流れをご紹介!

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遺産相続

財産開示手続とは?債権者が債務者の財産を調べることができる手続きです

財産開示手続とはどういうことなのか、そして財産開示手続は”債権者が債務者の財産を調べることができる手続き”といわれる理由などについて解説します。

財産開示手続とは?

財産開示手続について見てみましょう。

財産開示手続とは、金銭債権について債務名義又は一般先取特権を有する債権者の申立てにより、債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭し財産状況を陳述する手続きです。

財産開示手続により債務者の財産が開示されても、その財産(給料や預貯金など)に対して差押えの効力が及ぶわけではありません

債権を回収するためには、別途強制執行や担保権の実行を行う必要があります。

財産開示手続は債権者が債務者の財産を調べることができる手続きです

財産開示手続はどういう目的で導入されたのか見てみましょう。

債権者は債務者の財産を知らなければ金銭執行や一般先取特権の実行の申立てをすることができません。そこで、勝訴判決等を得た債権者のために債務者の財産に関する情報開示をする制度として、平成15年の民事執行法の改正により財産開示手続が創設されたのです。

このように、財産開示手続は権利実現の実効性を確保する見地から、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するために、つまり財産開示手続は債権者が債務者の財産を調べることができる手続きとして設けられたのです。

財産開示手続の再実施が制限される期間

財産開示手続の再実施が制限される期間について確認しておきましょう。

民事執行法は、財産開示手続が実施された後3年以内は原則としてこの手続きの再実施を許さないこととし、債務者が財産開示期日の後に新たに財産を取得したときなどに限って例外的に手続きの再実施をすることができるとしています(197条3項)。

つまり民事執行法197条3項によりますと、債務者が過去に財産開示期日においてその財産について陳述した場合であっても、以下に該当する場合は例外的に再度の財産開示手続を実施することができるとしているのです。

①債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかったとき
②債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき
③当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき

これは、財産開示手続の実施に伴う債務者の負担をできる限り少なくする趣旨とされ、再実施が制限されている期間中、他の債権者は既に実施された財産開示手続の記録を閲覧することが想定されています。

財産開示手続はどう変わった?民事執行法の改正前と改正後を比較

財産開示手続はどう変わったのか、民事執行法の改正前と改正後を比較して見てみましょう。さらに、民事執行法が改正された背景についても確認しておきましょう。

財産開示手続はどう変わった?

財産開示手続はどう変わったのかについて見てみましょう。

財産開示手続は、民事執行法の改正により以下の2点が変わりました。

①債務名義の制限が解除され、強制執行に必要な債務名義(仮執行宣言付判決や公正証書なども含む)を有していれば、その種類を問わず誰でも申立てができるようになったこと
②債務者が財産開示期日に出頭しなかったり、自分の財産について嘘を言ったことに対する罰則が強化されたこと

民事執行法が改正された背景

民事執行法が改正された背景について見てみましょう。

民事執行法は権利実現の実効性確保のために、平成15年改正により債務者の財産に関する情報を取得する制度として財産開示制度が導入されました。

しかしその運用状況を見た場合、実効性が必ずしも十分でなく、利用件数もそれほど多いとはいえない実情にあると指摘されたのです(中間試案補足説明3頁)。

その原因となる問題点として、以下の3点が挙げられました。

①財産開示手続の実施要件(改正前の民事執行法197条1項~3項)が厳しいこと

②財産開示手続の実施決定をしても、開示義務の違反に対する制裁が過料にとどまる(改正前の同法206条1項)ため、財産開示期日に出頭しない開示義務者(改正前の同法198条2項2号。債務者、法定代理人、法人の代表者)が多いこと

③債務者の財産情報取得は債務者の陳述に限られていたこと

そこで改正後の民事執行法は、後述するように上記①②について改正し、上記③について「第三者からの情報取得手続」を新設したのです。

民事執行法の改正前と改正後で変わった点を比較

財産開示手続の見直しと第三者からの情報取得手続に関して、民事執行法の改正前と改正後を比較してみましょう。

上述した「財産開示手続の実施要件」「開示義務の違反に対する制裁」及び「債務者の財産情報取得」について、民事執行法の改正前と改正後を比較した場合以下のようになります。

財産開示手続の実施要件

改正前の民事執行法は、金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義(22条各号)のうち、暫定的な裁判所の判断である仮執行宣言付のもの、並びに、誤った執行がされても原状回復が容易であることを理由として金銭債権に限って債務名義性が認められている執行証書及び支払督促については、財産開示手続の実施の申立てに必要な債務名義から除外していました(197条1項柱書かっこ書)。

つまり仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、確定した支払督促、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)などは除外されていたのです。

これは、財産開示手続により債務者の財産に関する情報が一度開示されると、後になって権利の存在が否定されるに至った場合であっても、当該情報が開示されなかった状態に回復することができないためです。

これに対して改正後の民事執行法は、金銭執行の申立てに必要とされる債務名義であれば、いずれの種類の債務名義についても申立てをすることができるようにしました(197条1項柱書)。

債務名義の例としては、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、確定した支払督促、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)、手形判決、少額訴訟判決、家事審判、和解調書、民亊調停調書、家事調停調書、訴訟費用額確定処分などがあります(民事執行法22条)。

財産開示手続は強制執行の準備として行われるものであり、いずれの債務名義についても、それにより行うことができる強制執行の内容に違いはないと考えられています。そのため強制執行と財産開示手続とでは本来、その申立てに必要とされる債務名義の種類に差を設けるべきではないという考え方に基づいています。

開示義務の違反に対する制裁

改正前の民事執行法は、開示義務者の不出頭、宣誓拒絶、陳述拒絶及び虚偽陳述に対して30万円以下の過料の制裁を定めていました(206条1項)。

これに対して改正後の民事執行法は、後述するとおり懲役刑を含む刑事罰を定めたのです(213条1項5号・6号)。

債務者の財産情報取得

改正前の民事執行法では、債務者の財産情報取得は債務者の陳述に限られ(199条1項)、債務者の不出頭や虚偽の陳述の可能性があり十分機能していませんでした。

これに対して改正後の民事執行法では、第三者から債務者の財産情報を取得できる手続きが新設されました(205条~207条)。

具体的な内容は後述するとおりです。

財産開示手続でできるようになったことは?養育費の請求や借金の回収も

民事執行法の改正により財産開示手続でできるようになったことは何なのか、その改正に伴い第三者から債務者の財産情報を取得する手続きが新設されたこと、養育費の請求や借金の回収が可能になったことなどについて解説します。

財産開示手続でできるようになったことは?

民事執行法の改正により、財産開示手続でできるようになったことは何か見てみましょう。

上述したように以下の2点が財産開示手続でできるようになりました。

①財産開示手続の要件の緩和によりすべての債務名義によって財産開示手続ができるようになった
②制裁が強化され開示手続に非協力的な債務者に対して6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を科すことが可能になった

第三者から債務者の財産情報を取得する手続きが新設されたこと

民事執行法の改正で新設された第三者から債務者の財産情報を取得できる手続き(204条~211条)を確認しましょう。

執行裁判所は、債権者の申立てにより第三者に対して債務者の財産情報を書面で提供することを命じられるようになったのです。

債権者は、具体的には以下のように取得することができます。

①登記所(法務局)から債務者の土地・建物に関する情報(205条)
②市町村、日本年金機構等から債務者の給与債権(勤務先)に関する情報(206条)
③金融機関から債務者の預貯金債権、上場株式、投資信託受益権、社債、国債等に関する情報(207条)

ただし給与債権(債務者の勤務先)に係る情報取得手続は、債権者が民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権又は人の生命身体の侵害による損害賠償請求権のいずれかを有する場合に限って申立てが認められ、第三者に情報提供が命じられることに注意する必要があります(206条1項柱書)。

民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務とは以下の場合です。

❶夫婦間の協力扶助義務(民法752条)
❷婚姻費用分担義務(民法760条)
❸子の監護費用分担義務(民法766条等)
❹扶養義務(民法877条~880条)

なお、上記①~③の情報取得手続の申立要件としては、上記①②では「財産開示手続」を経ていることが必要とされますが、上記③では「財産開示手続」を経ていることは必要とされていません

上記①~③により、その後の強制執行の実効性が確保されるようになりました。

養育費の請求や借金の回収も可能に

養育費の請求や借金の回収などの具体的な手続きについて見てみましょう。

養育費を請求する場合

養育費を請求するため訴えを起こしたり調停を申し立てるなどして、判決や調停などで養育費の支払いが決まったのに、相手方(債務者)がお金を支払ってくれないなどの場合を見ていきましょう。

この場合、債権者としては強制執行をしたいけれども、債務者の不動産、給与債権(勤務先)、預貯金債権、上場株式、国債等が分からない場合どうすればよいのでしょうか。

債務者の財産が分からない場合、裁判所の手続きとして財産開示手続と第三者からの情報取得手続があります。

そして財産開示手続を経ている場合には、第三者からの債務者の不動産や給与債権に係る情報取得手続を申し立てることができ、財産開示手続を経ていない場合でも、第三者からの債務者の預貯金債権等に係る情報取得手続を申し立てることができます

これら全部の場合、つまり債務者の財産に係る情報を取得する手続きを行うためには、申立人は以下の①~③の要件を満たしていることが必要です。

①養育費の支払い義務のあることが分かる確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、調停調書、和解調書、公正証書など執行力ある債務名義を有していること

②申立ての6ヶ月以内に実施された強制執行又は担保権の実行における配当や弁済金交付手続において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を受けられなかったとき、又は申立人が債権者として通常行うべき調査を行い、その結果判明した財産に対して強制執行等を実施しても、当該金銭債権の完全な弁済を得られなかったことの疎明があったとき(以下、②は「強制執行等の不奏功等の要件」といいます)

養育費を請求するには、後者の要件が問題になるでしょう。

そのため債権者としては、預貯金債権であれば預貯金口座を調査したが不明であるか、見つかった口座の残額では完全な弁済が得られないこと、給与債権であれば勤務先を調査したが不明であるか、雇用主からの給料等だけでは完全な弁済が得られないことの疎明資料を提出することになります。

③申立ての日の3年以内に財産開示手続が実施されたこと(債務者の不動産や給与債権に係る情報取得手続を申し立てる場合)

債権者は第三者からの情報取得手続を利用することにより、債務者の不動産のほか、給与の支払者、預貯金口座等についての情報が、登記所(法務局)、市区町村や金融機関等から得られます。特に預貯金口座についての情報は、財産隠しを防止するため、上述したように財産開示手続を経ずに取得することができます

以上の手続きによって、債務者の財産がどこにあるか、給与は誰から支払われているかが分かった場合、債権者は債務者の財産を差し押さえて養育費分の金額を回収することができます。

一般的なのは、債務者の給与債権の差押えでしょう。そして養育費の債権で給与債権を差し押さえる場合、給与債権の2分の1まで差し押さえることができます(民事執行法152条3項)。

他に財産がない場合には、債務者の不動産や動産を差し押さえて競売にかけ、売却したお金で債権回収を図ることも可能です。

また、預貯金債権についても、預貯金口座を差し押さえることができます

借金の回収などの場合

金銭をめぐるトラブルなどが発生し、裁判手続、調停手続、公正証書作成などで債務名義を有する者であれば、裁判所に申立てをして、債務者の財産に関する情報のうち、不動産については登記所に対し、給与債権(勤務先)については市町村等に対し、預貯金等については銀行等に対し、強制執行の申立てに必要な情報の提供を命じてもらうことができます。

また、債務者の給与債権に関する情報取得手続の申立てをすることができるのは、上述したように、養育費等の支払いや人の生命身体の侵害による損害賠償金の支払い(例えば、物損を除く交通事故の損害賠償金の支払い)を内容とする債務名義を有している債権者に限られます。

借金の回収、つまり貸金返還請求権を有する者も、裁判所に申立てをして、債務者の財産に関する情報を取得することができます(ただし、給与債権に関する情報の取得はできません)。

遺産分割金請求権、不貞行為を理由とする慰謝料請求権、物損事故による損害賠償請求権、売買代金請求権、売掛金請求権、賃金請求権など金銭の支払いを目的とする請求権は、貸金返還請求権と同様の扱いになります。

貸金返還請求権などを有する債権者は、養育費の請求と同様に、債務者の財産を差し押さえて請求金額を回収することができます。

ただし、養育費等の扶養義務に係る金銭債権以外の債権については、その給与の4分の3に相当する部分(支払期が毎月の場合は33万円が上限)が差押禁止とされているので(同法152条1項柱書・2号・2項、同法施行令2条1項1号号)、原則としてその4分の1に相当する金額しか差し押さえることができません

裁判所に出頭しなかったらどうなる?厳しい罰則あり

債務者が財産開示期日に裁判所に出頭しなかったらどうなるのか、その場合何か罰則があるのかについて解説します。

裁判所に出頭しなかったらどうなる?

裁判所に出頭しなかったらどうなるのかについて見てみましょう。

改正前の民事執行法は、開示義務者が正当な理由なく執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日に出頭せず、又は宣誓を拒んだ場合や、財産開示期日において宣誓した開示義務者が正当な理由なく陳述すべき事項について陳述をせず又は虚偽の陳述をした場合に、30万円以下の過料に処することとしていました(206条1項)。

これに対しては、財産開示手続が十分機能していない原因の1つに、手続違背に対する制裁が弱いことにあるとして、より強力な制裁を求める意見があったのです。

裁判所に出頭しなかった場合、厳しい罰則あり

裁判所に出頭しなかった場合の罰則について確認しておきましょう。

その罰則は厳しいものになりました。

上述したように債務者が財産開示期日に出頭しなかった場合は、刑事罰が科されることになります。つまり「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者」は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられるのです(改正後の民事執行法206条1項5号)。

なお、裁判所から財産開示期日への呼出しを受けたのにもかかわらず正当な理由なく出頭しなかったとして、令和2年10月20日男性介護士が書類送検されたと報道されています。

もちろん上記の刑事罰からすれば、違反者は裁判で懲役や罰金に処せられるだけでなく、逮捕の可能性もあるわけです。

財産開示手続の流れをチェック!

財産開示手続の流れについて確認してみましょう。

以下では、債務名義に基づき財産開示手続を申し立てる場合について説明します。

①申立て

債務名義を有する債権者は、財産開示手続の申立てをすることができます。申立ては、債務者の住所地を管轄する地方裁判所にする必要があります。

②財産開示実施決定

執行裁判所は、審査の後財産開示を実施する要件が揃っていれば、財産開示手続を実施する旨の決定をします。

③期日指定・呼出し等

財産開示実施決定が確定した後、執行裁判所は財産開示期日及び財産目録提出期限を指定し、期日呼出状・財産目録提出期限通知書を送達して告知します。

④財産目録の閲覧・謄写

提出された財産目録は、民事執行法201条に記載された者に限り財産開示期日前においても閲覧・謄写をすることができます

⑤財産開示期日

❶財産開示期日は非公開で行われます。債務者(開示義務者)は、財産開示期日に出頭して債務者の財産について陳述しなければなりません。債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭しなかったり、債務者の財産について嘘を言った場合は刑事罰が科されることがあります

❷申立人は財産開示期日に出頭して、債務者の財産状況を明らかにするため執行裁判所の許可を得て債務者(開示義務者)に質問することができます

❸債務者(開示義務者)が財産開示期日に出頭しなかった場合、財産開示手続は終了します。

弁護士費用はどのくらいかかる?相場を確認!

弁護士費用はどのくらいかかるのか、その相場を確認しましょう。

インターネット上で明らかになっている財産開示手続や第三者からの情報取得手続に関する弁護士費用についていくつかご紹介します。

①財産開示手続及び第三者からの情報取得手続について、各着手金:55,000円(税抜50,000円)、各報酬金:なしとするもの

②財産開示手続及び第三者からの情報取得手続について、各着手金:55,000円(税抜50,000円)~とするもの(土地建物に関する情報、給与債権(勤務先)に関する情報、預金債権等、手続きごとに着手金が発生)

③訴訟からご依頼いただいている方は着手金55,000円(税込み)、成功報酬55,000円(税込み)、財産開示のみご依頼の方は着手金110,000円(税込み)、成功報酬55,000円(税込み)とするもの(成功報酬は何らかの財産の開示があった場合に発生) 

なお、弁護士に支払う費用の種類としては、「着手金」「報酬金」「手数料」「法律相談料」「日当」「実費」などがあります。弁護士に依頼するときには、事件や依頼の内容によって金額が異なりますので、総額でどの程度の費用が必要になるのか、よく確認するようにしてください。

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