生前・相続後の遺留分放棄の手続きと注意点、念書の有効性について解説!
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遺留分の放棄とは?相続放棄との違い
一般的に、相続人が、相続にかかわる権利を手放すというと、相続放棄という言葉を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、民法の第五編(相続)には、相続放棄以外にも、遺留分の放棄という制度が認められています。
では、遺留分の放棄とはどのような制度でしょうか?以下、遺留分の放棄について、相続放棄との違いを踏まえ、解説します。
遺留分とは何か?
遺留分とは、一定の相続人に対して、一定の割合の財産取得を認めた財産の留保分です。この権利は、遺言によっても奪うことはできません。
民法は、相続人の生活保障を図り、あるいは、相続人が生前に被相続人の財産形成に寄与したことなどを考慮して相続人の財産に対する潜在的持分の清算を確保するために、一定の相続人に対して、一定の割合の財産の取得を認めました。
遺留分が認められることによって、例えば、被相続人が、全ての財産を、相続人の一人に与える旨の遺言を残して亡くなったとしても、該当する相続人においては、遺留分として認められる範囲については遺留分侵害額請求権を行使することにより、遺留分侵害額に相当する金銭をもらうことができる場合があります。
なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていないので注意が必要です。また、遺留分の割合も、法定相続分割合(民法九○○条以下)とは異なっています。
遺留分の放棄とは?
遺留分の放棄とは、遺留分権利者自らが、所定の手続きを経て、自らの遺留分を放棄することです(民法第一〇四九条)。
遺留分は、遺留分権利者のために認められた制度ですから、遺留分権利者自身が認めるのであれば、放棄することは差し支えありません。
遺留分の放棄と相続放棄の違いについて
遺留分の放棄と混同しやすいものとして相続放棄(民法第九三八条以下)があります。相続放棄とは、法定相続人が相続人としての地位を放棄するものです。その効果は相続開始の時点までさかのぼって生じ「初めから相続人とならなかったものとみなす」(民法第九三九条)と定められています。
そのため、相続放棄をすれば財産のみならず借金も相続することがなくなります。自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内(民法第九一五条一項)にしなければならず、生前の相続放棄は認められていません。
他方、遺留分の放棄は、遺留分だけを放棄することを意味します。したがって、遺留分を放棄したからといって、相続を放棄したことにはなりません。そのため、相続が開始した場合、相続人になりますし、相続人になりたくなければ、別途、相続放棄の手続きを取る必要があります。なお、遺留分の放棄は、相続放棄と異なり、相続開始後だけでなく相続開始前においても、所定の手続きを経れば、遺留分の放棄をすることが認められています(民法第一〇四九条)。
遺留分の放棄の手続きと手順について
次に、遺留分の放棄の手続きと手順について説明します。遺留分の放棄は相続前と相続後によって手続きに大きな違いがあります。
生前に遺留分の放棄はできる?
生前に遺留分の放棄をすることはできます。ただし、家庭裁判所の許可が必要となります(民法第一〇四九条一項)。これは、遺留分の放棄について、放棄者がその効果について十分に理解していない場合や、放棄者の意思に反して行われる危険性もあることから、家庭裁判所の許可を必要としたものです。そのため、許可の審判においては、放棄者の意思を確認するだけでなく、放棄することに合理的な理由があるか否かについても判断されます。
生前の遺留分の放棄の手続き
では、具体的な手続きはどうなっているのでしょうか。具体的な手続きとしては、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、遺留分を有する推定相続人が、添付資料とともに、遺留分放棄の許可審判申立書、財産目録等を提出して行います。添付資料としては、被相続人予定者及び申立人の戸籍謄本が必要です。また、申立てにかかる費用として、収入印紙800円、予納郵便切手(各裁判所の定めるところによります)が必要です。
相続開始後の遺留分の放棄の手続き
相続開始後において遺留分の放棄をする場合、家庭裁判所の許可は必要とされていません。遺留分権利者が、遺留分侵害者に対し、遺留分の放棄の意思表示をすれば足ります。遺留分侵害者にとっては、遺留分権利者に書面にしてもらっておいた方がいいでしょう。
遺留分の放棄の念書の有効性とは?
被相続人予定者の生存中に、相続後、遺留分に関する争いを回避するために「遺留分を放棄する」旨の念書を書いてもらいたいと思うこともあるかもしれません。しかし民法が、生前に遺留分の放棄をするには、家庭裁判所の許可を必要としていることからすれば、許可が経ていない場合、念書は無効となります。
遺留分の放棄をするにあたっての注意点
遺留分の放棄について、家庭裁判所は、放棄者の意思を確認するだけでなく、放棄することに合理的な理由があるか否かについても判断します。そのため、通常、合理的な理由があるか否かについては、放棄することと引き換えに、同等の代償を受けたかどうかが見られますので注意が必要です。
また、いったん遺留分の放棄が認められると、原則として、放棄の撤回は認められないので注意が必要です。
したがって、遺留分の放棄をするにあたっては、十分に熟慮して決めることをお勧めします。
遺留分を放棄をさせたい相手がいる場合に何ができるか
前述のように、被相続人予定者の生前に、遺留分の放棄が認められるためには、家庭裁判所の許可が必要となるため、遺留分権利者自らにおいて、遺留分の放棄手続きをとってもらうことはかなり困難です。
そのため、まずは、相続の専門家に相談し、代償となる財産を差し出すことと引き換えに、遺留分の放棄を認めてもらうよう交渉する必要があります。
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この記事を監修したのは…
京都弁護士会所属 伸晄法律事務所
岩本 貴晴(いわもと たかはる)
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