家族信託のデメリットは?注意点やトラブル事例について解説!

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家族信託

相続における家族信託とは?制度の概要や目的について解説!

家族信託とは、自分の老後・介護時に備え、保有している不動産資産(土地・建物)や金融資産(預貯金・現金等)を信頼できる家族や親族へ託し、その管理・処分を任せる制度です。

家族信託は希望通りに預けた財産を管理してもらうことが目的で、自分と財産を預ける家族等との間で「信託契約」を結ぶことで信託が開始されます。

家族信託に関わる人は次の通りです。

・委託者:自分の保有している不動産や現金等の財産管理を任せる人

・受託者:委託者から財産管理等を託される人、管理の名義人となる人

・受益者:委託者の財産管理の結果、発生した利益を受ける人

家族信託のメリットは?認知症が発生した場合でも財産管理が可能になる!

家族信託を利用すれば、委託者の将来のために次の有効な対策を講じることができます。

認知症に関する対策ができる

管理を任された家族(受託者)が、委託者に代わり財産管理を行ってくれます。委託者が認知症になった後、死亡した後も管理の継続が可能です。

これと似た制度に「成年後見制度」があります。こちらも財産管理をサポートする目的で利用しますが、家庭裁判所が成年後見人等を監督し、第三者が成年後見人等になると報酬も発生し続けます。しかし、家族信託は家族や親族に管理を託すので、家庭裁判所の監督はなく、基本的には報酬は設定しない場合がほとんどです。

また、信託内容は契約で自由に定められます。成年後見の一つである法定後見制度のように、家庭裁判所に後見人の選任を申し立てる必要はなく、裁判所の監督もありません。

相続・二次相続対策として有効

家族信託では遺言書と同様に委託者(兼受益者)が亡くなった場合、遺産(受益権)の承継人を誰にするか指定できます。さらに遺言では認められない二次相続の指定も可能です。

つまり、財産管理を任せたい委託者兼当初の受益者が、財産管理を任せる人(受託者)との間で、委託者の生前の財産管理に加え、委託者兼当初受益者が亡くなった後に受益者となる人(第二受益者)と、その人にかかわる財産管理の仕方を決めることができます。

更に、第二受益者が亡くなった場合を想定し、第二受益者以降の財産を継ぐ人について定めることもできます。これを後継遺贈型信託の受益者連続型信託と呼んだりします。

このように、遺言書を作成する以上に柔軟な相続対策が可能です。

死後の財産管理も可能

財産の管理を任せたい委託者(受益者)が、財産の管理を任せる人との間で生前の財産管理に加え、委託者の死亡後に財産管理を必要とする人(配偶者や子等)も二次受益者に指定し、どのような財産管理を依頼するかも決められます。

例えば受託者が委託者の死後も、認知症になった配偶者や障害のある相続人(子)に代わって財産を管理し、その受益権として毎月一定額を渡していくような契約も有効です。

家族信託のデメリットと注意点は?

家族信託は柔軟な財産管理のための契約を結べる反面、次のようなデメリットも存在します。

損益通算ができない

信託財産に収益不動産(マンションやアパート経営)があり、信託財産から不動産所得にかかる損失が生じた場合、その損失を利益から控除するようなことができません。

つまり、信託財産たる不動産に関係した損失は、信託財産以外からの所得と損益通算(利益と損失を合算し申告利益を少なくできる制度)や純損失の繰り越しは不可能です。

その他、信託契約を複数に分け、それぞれの信託契約をまたいだ損益通算も認められません。

ただし、信託財産の損失についてのデメリットはあるものの、信託財産から生じる利益と個人の損失が出た分の損益通算はすることが可能です。

したがって、大規模修繕や損が出そうな不動産を含めてどのような不動産を信託財産に入れるかは専門家と相談し、慎重に検討する必要があります。

家族信託を締結すること自体には基本的には税務メリットがなく、節税対策を検討するならば、不動産の売却や、買い替え、賃貸建物を建設する等、別の措置を講じておくべきです。

身上監護は入っていない

財産管理に関しては柔軟な内容を設定できる家族信託ですが、判断能力のなくなった委託者に代わり、入院手続きや住居の確保や介護契約等について代理で手続きができる「身上監護」をする権利は認められていません。

つまり、受託者は、委託者や受益者のために医療機関への入院手続きや、介護施設入所手続きを行うことは不可能です。

そのため、身上監護を検討するならば家族信託の他に、身上監護の権利も認められている成年後見制度を併用する必要があります。

財産管理がずさんになるリスクもある

家族信託の受託者は、委託者の財産を適切に管理・処分でき、かつ信頼できる家族を選びます。家族が受託者に就任するため、基本的に報酬は不要です。

しかし、委託者から信任されたにもかかわらず、その財産管理をまともに行わない等のケースも想定されます。

委託者はもちろん、他の相続人の中から不満の声が上がり、受託者とトラブルになるおそれもあります。受託者に適任な信頼できる家族や親族がいない場合には、無理に家族信託を進めるべきではありません。

受益権で揉める可能性がある

家族信託は、財産管理に関する取り決めの自由度が高いものの、完全に自由に委託者が信託契約内容を決めてしまうと、他の家族との間でトラブルが発生するリスクもあります。

例えば信託契約で委託者の全財産に関して、委託者が亡くなった後の二次受益者を妻にしたら、他の家族は不公平に感じるかもしれません。

後々、受益者を誰にしたかで揉めそうな場合、受益者を家族複数人に設定したり、バランスを取った受益権を設定することも検討してみましょう。

長期間にわたり家族を拘束

家族信託では、委託者を受益者とできる他、一次財産承継者(二次受益者)だけでなく、それ以降の財産承継者を受益者と設定することも可能です。

その反面、何世代にもまたがり、長期にわたり財産管理や処分に制限をかける事態となり、家族間での混乱や財産をめぐる争いが誘発されるおそれもあります。

専門家が依然として少ない

家族信託は2006年の信託法改正で創設され、翌2007年に施行された制度です。そのため、法改正してからそこまで長い期間経っておらず、裁判例の積み重ねが少ない、まだまだ歴史の浅い制度といえます。

弁護士や司法書士、行政書士等の士業専門家だけではなく、民間の資産運用会社も家族信託のコンサルティングを行っている場合があります。家族信託を検討している場合は、相続、特に家族信託の専門家へ事前に相談した方が無難です。

しかし、家族信託を実際にコンサルティングした事務所・民間会社はあまり多くありません。相談したい場合は、相続の専門家からの紹介を受けたり、専門家(会社)が開設しているホームページを閲覧などして調べたりする必要があります。

そして、家族信託の実績が十分あるか、事例や経験が豊富にあるか等を確認してから問い合わせをしましょう。

信頼して管理を任せる親族等が必要

信託の本質は、信頼関係です。自らの財産を信頼して任せられる親族がいない場合は、そもそも家族信託を設定することができません。

お子様がいらっしゃらないご夫婦やお一人様の場合は、任意後見を含む成年後見制度を検討する必要があります。

家族信託にかかる費用は?税金がかかる可能性がある点に注意!

家族信託は委託者と受託者の契約で成立します。まずは契約成立までの手順をみてみましょう。

1.信託契約の決定と契約締結:委託者が信託対象となる財産の範囲・管理方法・受益者が誰か等を取り決め、受託者の合意の下で締結

2.信託用口座の開設:信託財産(預金・賃貸収入等)で利益を得る際に利用

3.信託登記:信託財産に不動産がある場合、名義を委託者から受託者に変更

4.運用の開始:受託者の財産管理を開始

一見すると、家族信託では費用があまりかからないと感じます。しかし、信託契約内容のより確実で誠実な運用を目指す場合や専門家からの有益なアドバイスを得たい場合には、信託財産の種類によって次の費用がかかります。

・信託契約書を公正証書にする場合:手数料3~10万円程度。契約書原本は公証役場で保管されるので、紛失や内容の改ざんを防止できる。

・コンサルタントに依頼する場合:外部の専門家にコンサルティングを依頼した場合、信託財産1億円以下の部分で1%、受益者連続型の場合は1.5倍程の報酬が相場。

・信託財産に不動産がある場合:固定資産税評価額の0.4%の登録免許税(土地信託の場合:固定資産税評価額の0.3%)

ただし、先述したように、家族信託にかかる費用は、単発で一度切りの場合がほとんどで、成年後見制度のように、継続的な費用はかからないです。

家族信託を利用した方が良いケースや家族信託に向いている人とは

家族信託にはメリット・デメリットの双方があります。その特徴を踏まえ、次のご家庭に向いている制度といえます。

高齢になった親が所有する不動産を管理したいケース

日本では長寿化が進展している一方、認知症をはじめとした病気のリスクが高まっています。親と子が離れて暮らしている場合は、所有する不動産の管理、相続対策に不安を感じるケースも多いことでしょう。

そこで委託者(親)が元気なうちに、より希望にそった形で不動産資産等を管理・処分してもらいたいならば、子を受託者として家族信託を活用するのが有効な方法です。

孫やひ孫の代まで困らないよう財産承継の取り決めをしたいケース

遺言を作成する場合は、相続人にどんな遺産を引き継ぐのかについて指定することができます。しかし、その相続人が受け継いだ財産を、さらにその先の誰に承継させるかまでは指定できません。

一方、家族信託では遺言で認められない二次相続以降の財産承継先の指定も可能です。例えば相続トラブルで、委託者の孫やひ孫が十分な遺産を得られないかもしれないと不安を感じた場合には、委託者側で細かく承継内容を決めることができます。

しかし、デメリットでも指摘したように、何世代にもまたがってしまうと、長期にわたって財産管理や処分に制限をかける事態となります。そのため、その後のトラブルに発展するリスクも十分検討する必要があります。

共有名義である不動産の管理をスリム化したいケース

不動産を単独ではなく他の人と共有する場合があります。売却するならば共有者全員の合意が必要で、一人でも反対すると売却は認められません。

また、共有者の一人が認知症等になり意思判断能力が失われた場合、不動産の処分が迅速にできなくなります。

しかし、共有者全員が健康なうちに委託者兼受益者となり、共有者の誰かを受託者とした信託契約を結べば、将来、共有者の誰か一人が意思能力等を失っても、不動産の管理・処分は受託者の権限で可能です。

共有不動産の管理をよりスリム化したい場合、家族信託の締結が有効といえます。

家族信託を利用した人が後悔しやすいポイントは?トラブル事例・失敗事例について解説!

委託者側で信託内容を自由に取り決められる家族信託ですが、契約締結によりトラブルとなるケースも出てきています。ここでは、実際に起きたトラブル、想定し得るトラブルを解説します。

自分で作成した信託で想定外の税金がかかるケース

家族信託の設定の方法によっては、想定外の課税がされる場合があります。専門家に頼まず自分で作成した場合はもちろん、専門家が作成したものでも、課税リスクのある契約書が散見されます。

例えば、委託者と当初受益者を一致させないと贈与税が課税されます。また、特定委託者と判断された場合には、こちらも贈与税の課税がされてしまいます。

その他、贈与税課税や法人税課税がされるケース、ある者の死亡によって信託の終了場合において、本来払わなくてもよい不動産取得税が別途かかってしまうケースなど、契約書の一行、一文等が誤った内容になっているだけで、大きな損害を被る場合があります。

専門家の見極めも大事ですし、ましてや自分で作成し手続きをするのは非常にリスクが高いので、避けた方がよいでしょう。

信託内容が遺留分を侵害したケース

家族信託では委託者が亡くなった場合、誰にどんな財産を渡すか等も契約で決めておくことができます。

この契約内容自体は自由に設定できます。しかし、その内容が法定相続人(民法で規定された相続人)の遺留分(最低限主張できる遺産の取り分)を侵害してしまうケースもあります。

家族信託の契約内容と遺留分が争われた裁判で東京地方裁判所(2018年9月12日判決)は、信託契約の一部無効を判示しました。

この判決で、たとえ委託者が自由に設定できる契約内容でも、遺留分を侵害するような受益権の承継先を設定した場合には、その契約が即無効にはなりませんが、遺留分まで奪うことはできず、遺留分侵害額請求の対象になるという点が確認されました。そのため、遺留分に配慮した家族信託を行うことが大切です。

信託不動産に抵当権の設定があるケース

不動産の管理・処分も家族信託の範囲ですが、その不動産に抵当権(債務不履行の場合、担保にした資産で弁済を受ける権利)が設定されている場合、注意が必要です。

家族信託では不動産を信託範囲とする場合、受託者への名義変更が必要です。その際は債権者(例:銀行等)への通知または承諾等を受けなければいけません。

債権者の承諾なく、いきなり名義変更した場合は契約違反となります。そのため、分割支払いができなくなり一括返済を要求されるケースもあります。

家族信託の相談先は?専門性や費用の観点から解説!

家族信託について相談したいが、誰に相談すべきかわからないときは相続を専門としている士業や「相続診断士」などに相談してみましょう。また「相続診断士」は家族信託を含めた相続に関する質問、悩みへのアドバイスをしてくれる有資格者です。

相続を専門にしている士業は横の繋がりもありますし、相続診断士は、家族信託に詳しい士業専門家への橋渡しも担っています。例えば下記のように、家族信託を締結したい人やご家庭のケースに応じて、それぞれの専門家を紹介してくれます。

・家族信託の他、相続に関するトラブル等が心配な方:弁護士(契約手続き、裁判所での紛争解決も担う)

・家族信託の他、相続財産に関する調査、所有権移転手続き等を代理してもらいたい方:司法書士(契約手続き、不動産登記の手続き等に精通)

・家族信託の他、相続税の試算や税金対策などを提案してほしい方:税理士(相続税試算、税金対策、納税資金の確保等の施策などの提案)

まずは、家族信託や相続全般に関する相談を相続を専門にしている士業や実績のある相続診断士などに行えば、スムーズな契約手続きが期待できるでしょう。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

本サイト「円満相続ラボ」では、相続診断士に無料で相談できる窓口を用意しております。お気軽にご相談ください

この記事を監修したのは…

向田 恭平

相続対策専門司法書士

向田 恭平(むかいだ きょうへい)

相続の対策、家族信託を中心に活動。複雑な案件も敬遠せずに積極的に引き受ける。すべて紹介で年間相談件数は500件以上、同業や他士業などの専門家からの相談も多い。
専門家向けをはじめ、金融機関、不動産業者等の講演依頼、書籍執筆の依頼が絶えない。家族信託の専門家としてテレビ出演もしている。
徹底的に話を聞き相談に乗ることをモットーとしている。

サイトURL:https://peaceup.jp/

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