【相続事例】家族信託は認知症対策や障害のある子供のためにもメリットのある信託制度

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家族信託

本連載では、相続にまつわるちょっと特殊でリアルな事例を紹介してまいります。ぜひお楽しみください。

私は相続の専門家と接することが非常に多いのですが、専門家の方々に「相続の対策が一番必要なご家庭はどんなご家庭ですか?」と伺うようにしています。

そこで回答される頻度の圧倒的第一位が今回の家族信託の事例のようなご家庭です。

こちらの家族信託の事例は司法書士の岡本先生にインタビューさせて頂いたものを記事にしています。

石橋家(仮名)と私、岡本との出会いは、桜が満開を迎えた春の始まりでした。

この日、春とは思えないほど外は寒く、満開の桜が咲き乱れる近くの公園は閑散としていました。

その日の午後、男性二人が私の事務所を訪れました。

お一人は杖を使い、お年を召されながらもスラっとした体型で、素敵なハットを被っている男性。

もう一人は、そんな彼を背中で支えながら、同じくスラっとした体型をした男性でした。

二人とも体型が似ているだけではなく、鼻筋が通った端正な顔立ちをしていたので、一目見てすぐに親子だとわかりました。

私が二人を応接室に案内すると、高齢の方は男性の手を握りながらゆっくりとソファに腰掛け、それを見届けた後に、もう一人の男性は彼の隣でドスンと音を立てながら、勢いよくソファに腰をかけました。

「本日は、家族信託についての説明をお聞きになりたいとのことですが、お間違い無いでしょうか?」

私が尋ねると、高齢の男性が

「はい、間違いありません」

とゆっくりとお答えになりました。

「なぜ今回、家族信託を検討することとなったのでしょうか?」

私が質問すると、隣に座っていた男性が

「では、父に変わって私がお話をさせていただきます」

と早口で話し始めました。

男性は、今回、私の事務所に来た二人はお父様と次男の拓也さん(仮名)であること。

また、拓也さんは両親の近くに住み、日頃、お父様とお母様が行っている賃貸経営の手伝いをしているということを教えてくださいました。

「今、両親は賃貸経営をしていますが、二人とも、もうすぐ90になろうとしています。そんな父の体調や状況だけでなく、我が家には障がいのある妹もいます。そこで成年後見制度も含めて様々な制度を調べてみましたが、これをやるとこっちがうまくいかないなど難しい部分があって…」

拓也さんの話す表情を見ていると、いかに長い間悩んでいたのかが伝わってきました。

「他に何かいい方法はないか調べてみると、先日たまたま参加したハウスメーカーでの相続セミナーにて、家族信託というものを初めて知りました。聞けば、成年後見制度よりも制約が少なそうなのと、我が家には障がいを持った妹がいるのですが、その妹を守ることもできるとか。セミナーで話を聞けば聞くほど、我が家にとって家族信託を選択するのが一番いいのでは?と思い始め、本日、父とお伺いさせていただきました」

ここに来た経緯を一通り話し終えた拓也さんの話を、お父様は遠くを見ながら隣で静かに聞いていました。

「ご丁寧にありがとうございます。質問なのですが、収益物件があるとのことでしたが、その物件はどなたのものになっておりますか?」

私が質問すると、拓也さんはすぐに

「収益物件のほとんどは、母と父の共有となっています」

と言いながら、私に不動産登記等謄本を差し出しました。

いただいた不動産登記等謄本を広げながら私は

「もしよろしければ、石橋様の家族関係や状況など詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」

と聞くと、拓也さんは早口ではありましたが、丁寧にご家族お一人お一人について紹介をしてくださいました。

まず、石橋家の家族構成は、両親と拓也さんを含め4人兄弟の6人家族であること。

長男は仕事の都合で遠方に住んでおり、自分で所有している家に住んでいるとのこと。

三男は地元で飲食店経営者として活躍をしているが、現在妻と離婚調停中で、今後、相手側が承諾すれば離婚は成立するが、なかなか相手が承諾してくれない状況にあること。

そして、一番末っ子の長女には軽度の障がいがあり、仕事はしているが障がいのため対人コミュニケーションが非常に苦手であること。

拓也さんが家族紹介を終えると、隣で話を聞いていたお父様が突然口を開きました。

「子供の人数も多いですし、長女は障がいもあるので…私が生きて動ける間に何かしなきゃいけないとはわかってはいたものの、何をどうしていいのかわからない状況でして…」

お父様としてどうしても伝えたかった思いなのでしょう。

途切れ途切れになりながらも、『なんとかしてほしい』という思いが強く伝わってきました。

そんなお父様の姿を見て、私はすぐに

「わかりました。私でよければ、微力ながらお力添えさせていただければと思います」

と返答しました。

まず私は、今回の石橋様の目的だった家族信託についてお話をさせていただきました。

「家族信託というのは、財産管理の一つの手法で、言葉通り家族に管理を託すということです。

実は最近、認知症の方が増加傾向にあることから家族信託は注目されています。なぜなら、親が重度認知症になると、そもそも契約行為全般ができなくなるので、様々なことに支障が出ます。特に不動産オーナーの方ですと、不動産の管理自体ができなくなってしまう可能性もあります。

そうなる前に、家族信託を行うことで認知症になっても、口座や資産が凍結されることなく、家族が親の財産管理ができるようになるのです。

また、石橋様の場合、ご家族に障がいを持つお子様がいらっしゃるということでしたが、このような場合、家族信託を使うことで事前に頼れる他の子供に財産を信託し、親が亡くなった後に信託をした財産から障がいのある子供にお金を使うなど、障がいのある子供を守ることもできます。」

以上のことを私が話し終えると、お二人は

「これなら今後のことがなんとかなるかもしれない」

そんな希望に満ちた目をされていました。

しかし、私はここでお二人に家族信託を行う上で大切なことをお伝えします。

「家族信託というのは、言葉通り家族で財産等の管理をすることです。ということは、家族全員でこのことを共有する必要があります。他にお子様がいらっしゃるということでしたので、まずは家族全員がどのような思いや考えを持っているのか、それをしっかりヒアリングすることが大事です」

話を聞いた拓也さんは

「確かに」

と静かに呟かれたので、私はすかさず、

「もしよろしければ、次回はご家庭の状況も見たいので、ご自宅で本日こちらに来られなかったご家族様とお話をすることは可能でしょうか?」

とお伺いすると、拓也さんはすぐに

「承知しまし来られなか家族全員に連絡を取り可能な日を聞くので、ぜひいらしてください」

とお答えくださりました。

それから1ヶ月後。

春を通り越して初夏を感じさせるような暑さの日に、私は拓也さんからいただいたメールに記載された住所を基に、石橋様のご自宅へ伺いました。

チャイムを鳴らすと、すぐに拓也さんが玄関を開けてくださいました。

「お待ちしてました。今日は暑いので、涼しい中へどうぞ」

私はそのまま居間に案内されると、そこには前回の話し合いにいらしたお父様以外に長男、三男、長女、お母様の家族全員がお揃いになっていました。

私はすぐにご家族みなさまに挨拶をさせていただき、その後、相続等についてご家族一人ひとりがどのような思いや考えをいただいているのか、個別にお話を聞くことにしました。

まずは三男からお話を聞くことになりました。

三男は、

「私が結婚をする前後に、両親から生前贈与などにより過去に資産の一部を両親からいただいたことが実はあります。また、今離婚調停中ということで早くに終わらせたいのですが、なかなか相手側が合意してくれません。もしこのまま相手が合意してくれないなどになった際、私が関わるとより大変なことになって家族に迷惑をかけてしまうと思うので、私は家などの財産は一切いらないという思いです」

そうはっきりとお答えになりました。

また、長女は対人コミュニケーションが苦手ということだったので、長女とは直接話すことはせず、お母様のお話を聞くこととなりました。

お母様は

「私自身、もう90手前なので体を動かすのが辛いと思うことが増えました。今は次男が賃貸経営を手伝ってくれていますが、不動産の修繕をするということをとっても所有者本人が契約に出ていかなければいけないという場面がままありますので、それが身体的にきつくなってきました。あとは、やはり長女の将来が気がかりです」

と、ゆっくりですがご自身の思いの丈を話してくださいました。

そして、最後に長男にお話を伺うと、腕組みをしながら

「俺はもう持ち家に住んでいるから、正直この家はいらない」

とキッパリ言いました。

家族全員の話を聞いて改めて、石橋家にとっては家族信託が適切ではないかと思いました。

まず、収益不動産に関して、今の状況で契約行為が起きた場合、何かあったときにお父様とお母様が動かなければいけない状況となるので、拓也さんが代行することができません。

しかし、お父様と拓也さん、お母様と拓也さんが家族信託にて拓也さんが受託者(管理者)となれば、このような事態になったときに拓也さんが代行することが可能です。

これにより、お母様の希望である、自分が何か動かなければならないというのを回避することができます。

また、お父様とお母様が一番心配している長女のことを考えても、障害があるため個人では難しい財産管理等を信頼できる兄弟にお願いできる家族信託が適しているのではないかと思いました。

そこで私は、ご家族皆様に家族信託で話を進めていきたいこと、そしてお父様に次回までに収益物件は誰に相続するのかということ。

今ご両親が住んでいる家を長女に相続した後に、長女ご自身が亡くなった場合はどなたに相続をしたいのかを考えてほしいとお話をしました。

私の話を聞き、家族全員は納得の表情をされていました。

その後、次回の面談日が決まり、私はみなさまに挨拶をしてから家を後にしようとすると、後ろからお母様が小走りにかけてきました。

そして、

「本日はお忙しい中、ありがとうございます。家族信託ができるなら、長女のことも含めとても安心できそうです」

そう笑顔でお話ししてくださいました。

そして、翌2週間後。

雨が降る中、再び、私の事務所にお父様と拓也さんがやってまいりました。

お二人の表情は、初めて事務所にいらした時よりもかなり晴れやかな表情をされていました。

応接室に入ると、拓也さんはすぐに

「あれから何度も家族会議をし、話がまとまってきました」

と笑顔でお話しされました。

聞くと、家族会議を重ねるうちに、長男はお会いした際は家はいらないと話していましたが、今の仕事を辞めたら地元に戻ってくることを検討していることが判明したとのこと。

「長男が実家に帰ってくることを考えて、実家については長男が受託者となり、長男が生きている間は長男が、長男が亡くなった場合は長男の子供がお父様、お母様、長女のために管理することにしました。そして長女が亡くなった時は、実家は長男の子供のものにすることにしました」

そのまま拓也さんは話し続けます。

「また、岡本先生と先日お話をしてから、収益物件に関しては私が管理者として両親と信託契約をするのがいいのではないか、そんな話になりました」

話し終えた拓也さんは、とてもすっきりした表情をされており、隣で話を聞いていたお父様も笑顔を見せてくれました。

話を受けて、私は

「ご家族皆様のおかげで家族信託の具体的内容をまとめられそうなので、このままどんどん進めてまいりましょう」

と言いました。

そこから私と石橋家の拓也さんを中心に、繰り返し面談をしながら準備を進めていきました。

具体的にはというと、実家について長男が受託者になることの信託契約書を作ったり、物件以外の信託していない預金などの財産に関して、ご両親お二人に遺言書を作成していただきました。

また、収益物件に関して拓也さんが受託者として信託契約をすることは決まりましたが、ご両親は当時、収益物件としていくつもお持ちでいました。

このことについてお父様に話を聞くと、

「長男と次男の二人で話し合いで決まるなら、二人で分け合う形で決めてほしい」

とのことだったので、話し合いで決めることにしました。

どのように物件を決めるか考える際に、二人の財産のバランスが取れることを基準に考えてはどうかと私が提案すると、二人は快く承諾してくださいました。

結果、収益の大きい物件に関しては次男の拓也さんが取ることにして、財産のバランスを取ることにしました。

また、長女の今後援助の必要性を考慮して、自宅だけではなくご両親の現金も自宅と一緒に信託をすることにしました。

こうすることで、より長男が長女の面倒を見やすくなるようにしました。

このようなやりとりを数ヶ月間行い、石橋家と何度も話し合いをしながら、ついに家族全員が納得できる内容で家族信託をする日を迎えることができました。

気がつけば、石橋家と出会って2度目の春がやってきました。

桜の蕾が見え始めた頃、事務所のポストを見るとお母様から素敵な絵葉書が送られてきました。

絵葉書の写真は、ハワイのワイキキビーチが写ったものでした。

絵葉書の裏には、お母様の文字でこう綴られていました。

「今回、岡本先生に相談をしたことで、しばらく疎遠だった家族が何度も顔を合わせる機会を与えてくださったと思っております。また、主人や子供たちの思いを聞くこともできたので、皆が皆それぞれ自分なりに家族のことを考えているということを知ることもでき、嬉しかったです。今回の家族信託を進める中で、主人が『若い頃に家族ともっと一緒に過ごせばよかった』と話すことがありましたが、それを聞いた子供たちが『だったらみんなが元気のうちに旅行に行こう‼︎』と提案してくれ、どうせなら豪華にということで、ハワイまでやってきました。この度は、家族の絆を再確認できる機会を与えてくださり、本当にありがとうございました」

家族信託は新しい相続の制度のため、専門家のセミナーに参加して詳しい話を聞くことをおすすめします!

今回、石橋家はご家族皆様がまだ体が動かせるうちに家族信託という選択をされましたが、もしこれがお母様が寝たきりの体調になり、お父様が亡くなってしまっていたら、大変なこととなっていたでしょう。

まず、お母様の体では賃貸経営は現実的にできませんし、お父様と共有になっている収益不動産について誰も触れられなくなるだけでなく、口座に眠る現金も誰も下ろせなくなります。

それだけではありません。

障害のある長女に関しても凍結するリスクが増え、そうなってしまった場合、長女は一人で自分の財産管理をしなければならなくなり、事実上一人で生きていかなければならなくなります。

最近は高齢者と言っても、歳を感じさせない元気な方も増えてきております。


そのため、

「うちの両親はまだ元気だから大丈夫」

そう思っている方も多いかもしれません。

しかし、病や体調不良は、時として突然襲いかかってくることがあります。

この記事を読んで家族信託に興味を持ったという方もいらっしゃるかもしれません。円満相続ラボにも情報が載っていますので、ご興味ある方はご参考になってください。

また、いきなり士業の先生に相談するのは敷居が高いなと思われる方も少なくありません。そんな場合は、石橋様のようにハウスメーカーなどで開催している相続セミナーを検索して頂いて参加してみることから始めてもいいのかもしれません。

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この記事を書いたのは…

山本 祐一

一般社団法人相続FP協会、相続FPの学校 代表理事

山本 祐一(やまもと ゆういち)

1973年神奈川県横浜市生まれ。祖父大工、父工務店経営者という建築一家の環境に育つ。
大学卒業後、住友林業㈱にて営業店長職を11年経験。ソニー生命保険株式会社で営業とマネージャーを計14年経験し、後に独立。分からないまま認知症になってしまう人を救いたいという想いでFP×建築の仕組みを全国に提供中。
趣味はダイビング、城めぐり、旅行。妻と娘2人の4人暮らし。

サイトURL:https://ghyjr.hp.peraichi.com/

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