家族信託は認知症対策に有効?留意点や手続きの流れも解説!
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家族信託とは?成年後見制度との違いについて解説!
家族信託とは家族・親族に財産を託し、その管理運用を任せる仕組みです。委託者(財産を託す人)と受託者(財産を託される人)が信託契約を結ぶことで利用できます。
家族信託には次の3者が存在します。
・委託者:所有する財産を委託する人
・受託者:委託者から託された財産を管理・運用・処分する人
・受益者:信託財産から生じた利益を得る人
この3者が全て別人というわけではありません。委託者と受益者を同一人物とした、信託契約を締結する場合がほとんどです。
本人の財産の保全を目的とする制度として「成年後見制度」もあります。こちらは次の2種類に分けることができます。
・任意後見制度:ご自分が認知症等となり判断能力が衰えたときに必要だと思うこと(例:財産管理や介護手続等)を、契約で事前に盛り込んでおく制度
・法定後見制度:本人・配偶者・親族等が家庭裁判所へ申し立て、後見人を選任する制度
いずれの成年後見制度を利用しても、財産管理や身上監護(介護施設等へ入居する手続きのような法律行為)を行えます。
この成年後見制度では被後見人本人の利益が優先されます。つまり、家族や親族にとってメリットのある財産運用・処分でも、被後見人本人にメリットがなければ行えません。
一方、家族信託契約では信託目的に応じ、柔軟に財産管理を行うことができます。ただし、こちらは財産の管理・運用・処分を受託者の権限で行えますが、身上監護のための契約を行うことはできません。
家族信託は認知症対策になる?デッドロックを防ぐために有効な手段!
認知症対策として、家族信託は有効な方法と言われています。ここからは家族信託のメリット、認知症対策で家族信託の利用が有効なケースについて解説します。
家族信託のメリット
主に4つの利点を挙げることができます。
認知症となっても財産管理が可能
口座名義人本人が認知症になり、判断能力の低下が認められる場合、詐欺や横領、口座の不正使用等の犯罪に巻き込まれるリスクを防ぐため、銀行側の判断で口座を凍結する可能性があります。
口座が凍結されてしまうと本人の預金の流出は避けられるものの、例えば介護費用に充てる予定だった預金を引き出せない等、深刻な問題に発展するおそれもあります。
残念ながら、認知症となった本人名義の口座をその他の家族が代わりに管理することは、原則として認められていません。
しかし、家族信託ならば本人が認知症となる前に、口座の管理を託す内容を契約へ盛り込んでおくことで、認知症となった本人(委託者)の代わりに、受託者の方で信託口座の預金を管理することができるようになります。
税金が課されにくい
通常の贈与の場合等と異なり、家族信託が設定されたとしても、それが原因でいきなり課税されるようなことはありません。例として、委託者と受益者が同一人物で、受託者が他の家族の場合を考えてみましょう。
このケースで信託設定したとしても、信託後の財産の所有者は同一人物(委託者)のままで変更はありません。。そのため、受託者に贈与税はかかりませんし、信託財産が不動産の場合なら固定資産税等の税金はあくまで委託者(受益者)の負担となります。
しかし、信託終了時、当該財産の帰属先を本人以外の家族(帰属権利者)に指定していた場合、財産を受け取った家族に贈与税(受益者死亡を原因として信託を終了する場合:遺贈とみなして相続税)が課される可能性があります。
手続きが簡単
財産を委託したい人(委託者)と、信頼できる家族(受託者)の合意の下で信託契約が成立します。契約の際、行政機関や裁判所の関与は必要ありません。ただし、家族信託契約締結の際は契約書の作成が必要です。
契約書の内容は自由に記載できます。しかし、信託の目的・何を信託財産とするのか・誰に信託するのか・管理方法について明記しないと、家族信託を有効に活用することが難しくなります。
柔軟な財産管理を設定できる
家族信託の場合、委託者が元気なうちは委託者本人の意思を尊重し、判断能力が衰えたときは受託者の判断で効率的に運用していくことが可能です。
また、委託者本人の財産の譲渡先を細かく指定したり、遺言書においても相続の内容を指定したりすることが可能です。
例えば、本人の財産を引き継いだ人が亡くなった際、誰に財産を譲渡するか、どのように処分するか等、2次相続以降の指定方法まで柔軟に設定できます。
家族信託を有効活用した事例
高齢となった父親Aは市道沿いに所有する土地上に賃貸マンションを建てて不動産賃貸業を行っていました。しかし、将来的には当該市道の道路を拡張するという市の計画が判明しました。
市からいつ道路拡張の話があるかわからず、判断能力が欠如する前に、何らかの対策をとっておくべきとAそして娘Bが考えるようになりました。
そこで、次の内容で家族信託を締結することになりました。
・委託者・受益者:父親A
・受託者:娘B
・信託財産:拡張計画のある市道に面する一筆の土地
その結果、Aが認知症等で判断能力を失っても受託者であるBは引き続き、拡張計画のある市道に面する一筆の土地の管理や処分を行うことができるようになりました。
今後はいつでもBがAに代わって市側と交渉し、信託した土地の売買契約をすることが可能です。
家族信託の手続きは認知症の発症後でもできる?軽度であれば手続きできる可能性あり!
家族信託は契約により利用できる仕組みのため、認知症等で判断能力を失った後は、原則として信託契約を締結することはできません。しかし、契約が有効となるケースもあります。
ここでは認知症を発症しても、契約の成立が期待できるケースについて解説します。
公証人が契約内容を理解していると確認できた場合は可能
公証人とは事実の存在や契約等の法律行為の適法性を、証明・認証する公務員のことです。この公証人が、財産を託したい人が契約内容をしっかり理解している、と確認した場合に家族信託の契約締結ができます。
ただし、認知症を発症した後に締結する家族信託は、健康な時よりも判断能力が低下した状態で行われます。認知症発症前の家族信託と比較すれば、契約の有効性が争点となるトラブルも発生しやすくなるはずです。
そのため、なるべく健康で判断能力が正常なうちに、家族信託の契約を進めておいた方が無難です。
家族信託の締結は問題ないと認められた事例
高齢の叔母Aには配偶者や子がなく、姪Bがこれまで金銭等の管理をしていたものの、最近は叔母Aの物忘れが目立つようになり、記憶があやふやになることが度々ありました。そこで財産管理をより徹底させたいとA・Bが考えるようになりました。
公証人はAが契約締結に必要な判断能力を有すると認め、次の内容で家族信託を締結することになりました。
・委託者・受益者:叔母A
・受託者:姪B
・信託財産:土地・住居・預金
その結果、Aが認知症等で判断能力を失っても受託者であるBは、引き続きAの自宅の管理・処分、預金を使ってAの治療費・施設費等の支払いが可能となります。
更に、Bは他の親族から私的流用を疑われないようにするため、まず公証役場で家族信託の契約書を公正証書とし、契約書の証拠能力を高めました。
そして、銀行で信託のための口座を作成しました。これでBの預金と、Aの信託のための預金を明確に分けて管理することができます。叔母Aも他の親族も、この対応に異を唱える人はいませんでした。
家族信託ができない認知症の場合はどのように財産管理すれば良い?
認知症の進行で家族信託が行えない場合、成年後見制度の一つである「法定後見制度」を利用しましょう。
こちらは被相続人(財産を所有している家族)が認知症となっても、他の家族等が家庭裁判所へ申し立てれば、裁判所が被相続人本人に代わって財産管理や身上監護を担う、法定後見人を選任してくれるというものです。
ただし、法定後見人は被相続人本人の保護を目的として選任されます。そのため、法定後見人による財産の処分は、被相続人本人のためにならないと裁判所から判断され、認められない場合もあります。
本制度では、家族信託で設定できるような自由な財産の処分・運用等が非常に難しくなります。
家族信託のデメリットや留意点は?相談できる専門家が少ない!
家族信託で想定されるデメリットは次の通りです。
(1)税務に関する負担等
信託財産の運用でマイナスが生じた場合、他の所得分の税金は減らせません。家族信託は損益通算ができない仕組みです。
反対に、1年間に信託財産から3万円以上の収益があれば、税務署へ信託計算書・信託計算書合計表の提出を行う必要があります。税務に関する負担は増えることとなります。
(2)専門家が少なく、専門家に相談はできてもコンサルティング費用がかかる
家族信託は新しい制度のため、その知識を有した者や、実務経験豊富な法律の専門家を見つけるのはなかなか難しいものです。また、専門家が見つかっても無料では対応してくれず、相談料・コンサルティング報酬等がかかってしまいます。
(3)長期にわたり当事者を拘束しトラブルのおそれも
家族信託は長期にわたり、資産の管理・処分へ制限をかけるようなことも想定されます。それが逆に親族の相続トラブルへ発展するおそれもゼロとは言えません。
数十年先を見据えた家族信託の設計は、より慎重に家族・親族と話し合い、いろいろなリスクを考慮したうえで設定することが大切です。
家族信託の手続きや費用は?まずは家族間で話し合い目的を決めましょう!
ここでは家族信託を契約する流れ、かかる費用の目安について解説します。
家族信託を契約する流れ
次のような手順で進めます。
1、家族に家族信託の相談・合意を得る:受託者に選ぶ家族の他、他の家族の意見もよく聞く
2、契約書を作成・契約締結:信託の目的・何を信託財産とするのか・誰に信託するのか・管理方法をよく話し合い明記する。作成した契約書は公証役場で公正証書にすると公証人が内容を真実であると認証したことになるので証明力は上がる
3、財産の名義を受託者へ移す:信託財産を一覧にした信託目録の作成する
4、専用口座を開設:現金・預金が信託財産の場合、それらを管理する専用口座を開設、その口座に信託財産のお金を入金し管理する
費用の目安
家族信託は専門家に相談したり、公正証書にしたり、信託財産に不動産が含まれていたりする場合、費用がかかってしまいます。
費用の目安は次の通りです。
・相談、コンサルティング料:概ね1億円以下の信託財産は価格の1%、1億円超~3億円以下は価格の0.5%
・公正証書作成費用:専門家に依頼した場合は10万円~15万円
・公正証書作成手数料:公証人へ支払う費用として3万円~10万円
・登録免許税:信託財産に不動産がある場合、不動産価格の4/1,000に相当する額
総額約50万円~100万円かかると想定しておくと良いでしょう。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
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