民事信託の全貌を解説!メリット・デメリットや活用事例、手続き方法や税金について

民事信託の基礎知識
民事信託(家族信託)は、将来の認知症や意思判断能力の低下などに備え、あらかじめ信頼できる親族などに財産の管理や運用を託す制度です。2007年の信託法改正により個人でも利用しやすくなり、近年注目を集めています。本章では、民事信託の基本的な仕組みと関係者、商事信託との違い、家族信託や成年後見制度との比較を解説します。
民事信託とは?
民事信託とは、営利を目的としない個人間の信託契約のことで、主に相続や認知症対策などを目的として用いられます(信託法第2条)。委託者が信頼できる家族などの受託者に財産の管理・処分を任せ、その利益を受益者が享受します。
民事信託の仕組みと基本用語
民事信託には次の3者が関与します。
- 委託者:財産を託す人
- 受託者:財産を管理・運用・処分する人
- 受益者:信託財産から利益を受ける人
さらに、必要に応じて信託の監督役として「信託監督人」を置くことも可能です(信託法第124条)。信託契約は当事者間の合意によって成立し、必ずしも公正証書にする義務はありませんが、後日のトラブル回避のため公正証書化が推奨されます。
商事信託との違い
商事信託とは、信託銀行や信託会社が受託者となって委託者と契約を結び、営利目的で行う信託を指します。商事信託と民事信託の大きな違いは受託者が誰になるかです。下表をみてみましょう。
比較 | 商事信託 | 民事信託 |
受託者 | 信託銀行・信託会社 | 親族 |
報酬 | 必要 | 契約次第 ※無報酬も可能 |
認可 | 必要 ※信託の受託を事業として行うため | 不要 |
信託銀行・信託会社は信託を豊富に扱った経験があり、ノウハウもマニュアル化していますが、報酬が必ず発生します。
商事信託を利用したい場合は、自分のニーズを満足させる信託内容に関してどれくらいの報酬が発生するか、担当者によく確認したうえで契約を締結しましょう。
銀行などの信託商品との比較
商事信託は信託銀行や信託会社など、業として信託を受ける法人による信託です。たとえば銀行が提供する「投資信託」や「遺言信託」などが該当します(信託業法第2条)。民事信託とは異なり、報酬を受けて信託を行うことが前提です。
信託法の施行による新たな制度
2007年(平成19年)に施行された改正信託法(平成18年法律第108号)により、従来は金融機関などの法人が担っていた信託業務が、個人でも行えるようになりました。これによって、営利を目的としない「民事信託」が法的に明確な枠組みの中で実行可能となり、個人が家族や親族に財産管理を託す制度として広く活用されるようになりました。
従来の信託制度では、金融商品としての「商事信託」が中心で、個人が信託を設定することは制度上難しいものでしたが、改正後は以下のような点で大きな進展がありました。
- 契約による信託の自由度が拡大:信託目的や財産の種類、受託者の選定などがより柔軟に設定可能になりました。
- 自己信託の容認:委託者自身が受託者となる「自己信託」が制度として認められ、よりシンプルな信託の設計が可能に。
- 信託の透明性・安全性の確保:信託監督人や受益者代理人の制度が整備され、信託の不正利用を防ぐ仕組みが強化されました。
この法改正は、家族信託(民事信託)という新しい財産管理手法の普及を後押しし、特に認知症対策や相続・事業承継の手段として注目されるようになっています。今では、成年後見制度や遺言制度では実現できない柔軟な財産承継が可能な制度として、多くの家庭で活用され始めています。
信託のリスクと注意点
信託契約の内容が不明確であると、後の相続トラブルや税務リスクを招くおそれがあります。また、受託者の責任は重く、不適切な財産管理が発覚すれば損害賠償責任を負うこともあります(信託法第27条)。契約書作成時には専門家の関与が強く推奨されます。
家族信託との違い
実は民事信託も家族信託も、厳密に法律で違いが明記されているわけではなく、同じ制度と言えます。
民事信託(家族信託)は自分が将来、適切に自己の財産を管理・運用・処分等ができなくなった場合(認知症になった、介護が必要となった等)を想定し、事前に所有している金融資産・不動産資産を信頼できる親族の誰かへ託す方法です。
本制度には次の3者が登場します。
- 委託者:財産の管理・運用・処分を親族の誰かに託す人
- 受託者:財産の管理・運用・処分を託された人
- 受益者:財産権を有し、その財産から利益を受ける人
委託者はどんな財産の管理・運用・処分してもらうのか、更に受託者の選任の他、解任の権利も有しています。
受託者は委託者から財産の管理・運用・処分を託され、適正に対応する義務を負います。
受益者は、管理・運用・処分により利益を得る人です。基本的に委託者が受益者となるものの、自分・妻が利益を得るというように複数人で設定したり、孫へ利益を与えるというように委託者以外の特定の親族を受益者と決めたりしても構いません。
その他、任意で受託者を監督するため「信託監督人」の指定も可能です。
成年後見制度との比較
成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人のために、家庭裁判所が選任した後見人が財産管理や契約行為を行う制度です(成年後見制度:民法第7条・第8条等)。
法定後見制度と任意後見制度の特徴
法定後見制度と任意後見制度の特徴は、以下のとおりです。
- 法定後見制度:家庭裁判所が後見人を選任する。本人の判断能力がすでに低下している場合に利用される。
- 任意後見制度:本人が判断能力があるうちに契約しておく制度。将来に備えてあらかじめ後見人を指定できる。
どちらを選ぶべきか?
民事信託と成年後見制度には次のような違いがあります。
比較項目 | 民事信託 | 成年後見制度 |
---|---|---|
始める時期 | 任意・自由に契約可能 | 本人の判断能力が低下してから(法定) |
管理内容 | 指定財産のみ | 財産全般+身上監護 |
柔軟性 | 高い(契約内容を自由に設計) | 低い(家庭裁判所の監督あり) |
終了時期 | 契約で決定可能 | 原則として本人の死亡まで |
民事信託は財産の管理・承継に特化し、成年後見制度は本人の生活支援も含めた包括的な制度といえます。目的や状況に応じて、両者を併用することも検討されます。
民事信託のメリットとデメリット
民事信託は、委託者の自由に信託する財産の種類、管理や運用・処分方法を指定できますが、制度利用の際は注意すべき点もあります。
6つのメリット
民事信託には、以下のような6つの大きなメリットがあります。ひとつずつ解説していくので、参考にしてみてください。
通常の遺言では対応できない要望に応えられる
民事信託では、信託契約によって「受益者の次の受益者(=後継ぎ受益者)」を指定できます。これにより、遺言では難しい「数世代先までの財産の承継ルート」を明確にできます。たとえば、自分→配偶者→子ども→孫といったように、財産の流れを生前に決めておくことが可能です(信託法第91条)。
成年後見制度より柔軟な財産管理が可能
成年後見制度では、家庭裁判所の監督下での財産管理が求められるため、使途や管理に制限があります。一方、民事信託では、契約内容に沿って自由に財産を使うことができ、家庭裁判所の関与も不要なため、柔軟な財産管理が可能です。
不動産の共有リスクを回避できる
複数の相続人で不動産を共有すると、売却や管理に全員の合意が必要となり、トラブルの原因となりがちです。民事信託を活用すれば、不動産の管理・処分権限を受託者に集中させられるため、機動的な運用が可能です。
委託者の意思が正確に反映される
信託契約書の内容によって、委託者の意向を細かく反映できます。たとえば「毎月10万円を受益者に支払う」「不動産は必要に応じて売却する」などの詳細な取り決めが可能です。
倒産隔離機能による財産保護
信託財産の独立性が保たれる点がメリットです。
委託者から託された財産は受託者が管理・処分します。ただし、預金の場合なら受託者は自分の個人財産と分けて管理しなければいけません。その際に金融機関で開設するのが「信託口口座」です。
この信託口口座で受託者が管理すれば、委託者はもちろん受託者が倒産したり破産したりしても、債権者(お金を貸した人等)から差し押さえを受ける事態は回避できます。
このように、委託者・受託者いずれの債権者も強制執行ができない機能は「倒産隔離機能」と呼ばれています。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託が活用できる
信託法の改正により、後継ぎ受益者制度(信託法第91条)を活用した「受益者連続信託」が可能となりました。これにより、代々の相続において財産の移転先を明確にしておくことができ、争続を防止できます。
5つのデメリット
多様なメリットがある民事信託ですが、次のようなデメリット・留意点もあります。ひとつずつ、わかりやすく解説します。
身上監護の取り決めができない
民事信託は、委託者の金融資産・不動産資産をどうするかの取り決めに範囲が限定されています。
つまり、判断能力が低下した委託者に代わって、受託者が賃貸住居の確保や医療機関への入院手続き、介護契約の手続き等のような「身上監護」の権利はありません。
委託者が身上監護についてもサポートしてもらいたいと考えている場合、成年後見制度(成年後見人が判断能力の衰えた本人に代わり、財産管理・契約行為を担う制度)の利用も検討しましょう。
節税効果は限定的
民事信託の場合、税制上の優遇措置が設けられていません。
民事信託(家族信託)は信託内容を自由に委託者が設定できるものの、例えば相続の際に相続税の基礎控除「3,000万円+(600万円×法定相続人)、贈与の際は贈与税の基礎控除(110万円)のような控除制度はありません。
そのため、民事信託をしても、信託財産で得られた利益を節税する効果は得られないので注意しましょう。
受託者の税負担が増す可能性
受託者が管理する信託財産によって利益が生じた場合、税務処理の複雑化により、事務負担や専門家への依頼コストが発生します。信託財産の運用益などがあると、受益者の所得として申告・納税が必要になります。
受託者の責任が大きい
受託者には、善管注意義務や忠実義務(信託法第29条・第30条)が課せられており、適切に信託財産を管理・運用しなければなりません。不適切な管理や説明責任を果たさなかった場合、損害賠償責任を問われることもあります。
信託できない財産が存在する
法律上、信託に向かない財産もあります。たとえば、年金受給権や生活保護などの「一身専属権」に該当する権利は信託できません。また、信託するには明確な権利証明や登記が必要なため、曖昧な名義の財産も注意が必要です。
民事信託の活用事例とできること

民事信託は、財産の管理・承継方法を柔軟に設計できる制度です。ここでは、民事信託で「できること」と「具体的な活用事例」を紹介します。
民事信託で可能な5つのこと
民事信託では、以下の5つのことができます。それぞれについて、詳しく解説していきます。
生前の財産管理が自由にできる
民事信託を使うと、委託者の意向に従って、財産の使い方や管理方法を詳細に定められます。たとえば、「介護費用としてこの口座から月10万円支出する」などの具体的な管理内容を信託契約に盛り込めます。
財産管理と利益分配の分離
受託者は財産を管理するだけで、利益を得るのは別の受益者とすることができます。これにより、例えば親が財産を管理するが、孫に利益を配分する、といった設計も可能です(信託法第2条第3号・第5号)。
詳細な遺産分割が可能
信託契約であらかじめ「どの財産を誰に・いつ・どのように渡すか」を指定できるため、遺産分割を円滑に進めることが可能になります。遺言では難しい細かい指定にも対応できます。
数世代先の承継を決定できる
通常の相続制度では難しい、数世代先の承継計画を設計できます。たとえば「自分が亡くなったら妻へ、妻が亡くなったら子へ」といった段階的な承継を明記できます(信託法第91条)。
現行の相続制度の制約を超えた活用
信託契約の内容に沿って財産の管理・承継が行われるため、法定相続分や遺留分などの相続制度の制約を一定程度回避することができます。
活用ケースの具体例
ここでは、具体例を用いて、民事信託を活用したケースを紹介していきます。ご自身のケースに合わせて参考にしてみてください。
認知症対策として財産を管理する
委託者である親が受託者である子供と信託契約を締結し、自分の入所費用の支払いと財産の処分を希望するケースがあげられます。
例えば委託者が認知症となり介護施設へ入所し、自宅に住む人がいなくなる場合、受託者が委託者の自宅を代わりに売却し、そのお金で施設の入所費用に充てることが可能です。
自分が認知症になっても介護施設で受けられるサポートの費用が賄われ、空き家になるリスクのある自宅を処分できるので、委託者も安心です。
遺言の代わりに財産承継を決める
遺言よりも柔軟かつ詳細に財産の承継先やタイミングを定めることができ、家族間のトラブルを防ぐことが可能です。たとえば、「長男に事業用資産、次男に現金資産を承継させる」などの対応が可能です。
障害のある子どもの生活を安定させる
委託者が認知症をはじめとした判断能力の低下に応じ、受託者が財産に関する管理・決定へ対応するという方法の他、特定の親族のために利用する方法もあります。
例えば、委託者には可愛がっている相続人(例:息子や娘等)がいるものの、知的障害を持っており、自分の死後も生活費を支給するようサポートしてもらいたいときに有効です。
この場合は知的障害を持つ相続人に代わり、受託者が財産管理を行い、毎月の生活費を支給するよう信託契約を締結できます。
事業承継や株式の信託活用
自社株を信託し、後継者が確定するまで経営権を信託によって管理する方法があります。特に、経営権の分散防止やスムーズな事業承継を目的として活用されるケースが増えています。
子供がいない夫婦の財産管理
子供がいない夫婦の場合、配偶者亡き後の財産承継先が問題になります。信託を用いれば、自分の死後に配偶者へ利益を配分し、配偶者の死後は特定の親族や団体に財産を承継させるといった二段階の設計が可能になります。
民事信託の手続きと進め方
ここでは、民事信託を利用する際の手順や、必要書類について解説します。複雑に思えますが、ひとつずつステップを踏んでいくことで、適切な民事信託が行えます。
民事信託を始めるための方法
民事信託を利用するためには、委託者と受託者の合意によって信託契約を締結する必要があります。信託契約は、公正証書で作成することで信頼性が高まり、後々のトラブル回避にもつながります(信託法第3条、第4条)。
信託契約を締結する
民事信託を希望する場合、親族と信託契約を締結しなければいけません。次のような手順で進めていきます。
- 事前に士業専門家(弁護士・司法書士)へ相談:必須ではないが、助言を求めると作業が円滑に進む。
- 委託したい人がまず民事信託の目的を考える(例:認知症等で自分の意思判断能力が低下したら、信頼できる親族に自分の財産をどのように管理・処分してもらうか検討する)
- 自分と信頼のおける親族とが話し合い、互いに信託内容に合意する。
- 話し合って決定した内容を信託契約書へ記載する。
- 契約書作成後、委託者の金融資産・不動産資産の信託作業に移る。
- 金融資産は信託口口座を作成し、不動産資産は信託登記をする。
遺言による信託の設定
遺言によっても信託を設定できます(信託法第3条第2項)。この場合、被相続人の死亡によって信託契約が効力を持つため、財産承継の手段として有効です。
自己信託を利用する
信託法では、委託者と受託者が同一人物でも構いません(信託法第3条第3項)。このような自己信託は、財産の管理を自ら行いつつ、受益者を別の者に設定することで資産承継の準備が可能です。
手続きの流れ
民事信託は法律上の契約行為であるため、段階ごとに適切な手続きが求められます。スムーズかつ法的に有効な信託契約とするためには、以下の流れに従うことが重要です。
家族間での信託内容の話し合い
民事信託は「契約」によって成立するため、委託者・受託者・受益者の三者が信託の目的や財産の範囲、管理方法、利益の分配方法などについて、十分に話し合い、合意形成を図る必要があります。
特に、委託者が将来的に認知症を発症することを想定した「認知症対策型信託」や、障害のある家族の生活支援を目的とする信託では、信託の終了時期や次の受益者(後継ぎ受益者)についても事前に合意しておくことが重要です。
信託契約書の作成と公証役場での公正証書化
民事信託は口頭でも成立しますが、証拠保全やトラブル回避の観点から、書面による契約が不可欠です。特に資産が高額である場合や、不動産を信託する場合は、公正証書による契約が推奨されます(公証人法第1条、第43条)。
公正証書にすることで、契約内容の真正性が確保され、将来的な相続人からの異議申し立てなどのリスクを抑えることができます。
財産名義の変更(不動産登記・信託口口座開設など)
信託契約が締結されたら、対象となる財産の「名義変更」が必要です。
- 不動産の場合:不動産登記法第98条に基づき、「信託登記」を行います。登記簿には「所有権の移転」と「信託の登記」が記載され、登記名義人は受託者となり、「信託目録」には信託の内容が記録されます。
- 金融資産(現金・預金)の場合:受託者名義の「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を開設し、委託者の口座から信託財産を移します。この口座は受託者の個人口座と区別され、倒産隔離効果を確保できます(信託法第24条参照)。
信託財産の管理運用開始
名義変更が完了すれば、受託者は信託契約に従って財産の管理・運用を開始します。管理方針は契約書に詳細に記載することが望ましく、たとえば「毎月●万円を受益者に渡す」「不動産を必要に応じて売却できる」など、具体的に定めることで、運用の柔軟性と信託目的の達成が両立します。
民事信託の必要書類
民事信託契約書を締結する場合は次の書類が必要です。
- 信託契約書:基本的に委託者・受託者が合意して作成、公正証書で作成すると捏造や改竄等を防げる
- 戸籍謄本・住民票:信託契約書を公正証書にするとき必要。委託者・受託者・受益者全員が用意する。戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で1通450円、住民票は現住所の市区町村役場で1通300円で取得。
- 印鑑登録証明書:信託契約書を公正証書にする、信託財産で指定した土地・建物の登記をする場合に必要。現住所の市区町村役場で1通300円で取得。
- 不動産登記事項証明書:不動産を対象とした信託契約の際に必要。地方法務局・支所等で取得、手数料1通600円。
- 固定資産評価証明書:不動産を対象とした信託契約の際に必要。対象不動産の所在地を管轄する市区町村役場で取得、手数料1通300円。
- 本人確認書類:信託契約書を公正証書にするとき、信託口口座開設・土地・建物の登記の際に必要。運転免許証、マイナンバーカード等が該当。
民事信託に関わる税金と費用
民事信託は法律行為であるため、一定の税金や費用がかかります。信託を検討する際には、これらの負担も含めて総合的に判断することが大切です。
税金の仕組みと課税対象
民事信託では信託財産から得られる利益に課税されますが、その対象や仕組みは通常の相続や贈与とは異なります。受託者や受益者の役割によって課税関係も変わるため、正確な理解が重要です。
課税対象者は受益者
民事信託における課税対象は、財産から生じた利益を受け取る「受益者」です。たとえば、信託不動産の賃料収入は受益者の所得とみなされ、所得税の対象になります(所得税法第12条)。
受託者は非課税
受託者は信託財産の名義人となりますが、実際の利益を得るわけではないため、信託財産に関する税金は発生しません。課税関係はあくまで受益者に集中します。
節税効果はないが流通税の節約には有効
信託そのものには相続税や贈与税の控除制度のような節税効果はありません。ただし、不動産の贈与に比べて登録免許税などの流通税を抑えられるケースがあるため、結果的にコスト削減につながる場合があります。
民事信託にかかる主な費用
民事信託の設計や実行には、専門家への相談料や登記・契約書作成費用など、さまざまなコストが発生します。事前に目安を把握しておきましょう。
コンサルティング費用
信託の設計や仕組みづくりには、司法書士・弁護士・税理士などの専門家のサポートが必要です。内容の複雑さに応じて費用は10万~50万円以上かかることもあります。
信託契約書の作成費用
契約書は信託の根幹をなす文書であり、書式や内容に不備があると無効になるリスクも。専門家による作成を依頼することで、安全性が高まります。
公証役場での公正証書化費用
信託契約書を公正証書にすることで、後のトラブルを防ぎ、証拠力を持たせることができます。公証人手数料は内容により異なりますが、数万円程度が一般的です。
司法書士や専門家への手数料
不動産登記や信託口口座の開設手続きなどを依頼する場合、司法書士などの専門家への報酬が発生します。業務範囲によって費用は異なります。
不動産信託登記の登録免許税
不動産を信託する場合には、登記変更のための登録免許税(原則0.4%)が必要です。評価額に基づいて算出されるため、事前に確認しておくことが重要です。
民事信託を検討する際のポイント
民事信託は非常に柔軟な制度ですが、誰にとっても万能な手法とは限りません。検討すべき人や専門家の選び方を知っておきましょう。
民事信託を活用すべき人とは?
以下のようなライフステージや課題を抱えている人は、民事信託の活用によって大きな効果を得られる可能性があります。目的と活用方法を照らし合わせて検討しましょう。
認知症対策が必要な人
高齢化社会において、将来的な認知症リスクは誰にとっても他人事ではありません。本人の判断能力が低下した場合、預金や不動産の管理・処分が難しくなり、家族が代理で手続きを行うにも限界があります。
従来は「成年後見制度」が用いられてきましたが、本人の自由な財産運用ができなくなるなどの制約があるため、柔軟な対応が困難です。一方で、民事信託を活用すれば、認知症になる前に本人の意思に基づいて財産管理の方針を決めることができ、信頼できる家族に託すことで、老後の安心を確保できます。
相続対策を検討している人
相続の際、「誰に何をどのように承継させるか」は家族関係に大きな影響を及ぼす問題です。遺言書だけでは対応しきれない複雑な相続や、多額の不動産・金融資産がある家庭、事業承継を伴うケースでは、民事信託の活用が有効です。
たとえば、「長男に事業を継がせたいが、他の相続人にも公平に財産を渡したい」「自分が亡くなった後も、妻が亡くなるまで財産を管理し、その後に子どもへ引き継ぎたい」など、柔軟な財産承継が可能になります。
障害のある家族のために財産を管理したい人
障害を持つ子どもがいる家庭では、親が亡くなった後の生活や財産管理が大きな不安要素となります。成年後見制度でも一定の支援は可能ですが、財産の使い道に柔軟性がなく、裁判所の監督もあるため制限が多いのが現状です。
その点、民事信託を利用すれば、「毎月10万円を生活費として支給する」「医療費が必要な場合には信託財産から支出する」など、きめ細かな支援内容をあらかじめ契約で定めることが可能です。将来の生活の安定と家族の安心につながる、非常に実用的な制度です。
民事信託を相談できる専門家の選び方
民事信託を安全・確実に活用するためには、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。相談先としては、司法書士・弁護士・税理士が中心になりますが、それぞれの役割と選び方のポイントを把握しておきましょう。
司法書士、弁護士、税理士の役割
それぞれの専門家の役割は、以下のとおりです。
- 司法書士:信託契約書の作成支援、不動産の信託登記、信託口口座の開設手続きなど、実務的な処理を得意とします。特に不動産信託では重要な役割を果たします。
- 弁護士:契約トラブルを防ぐ法的チェックや、信託契約の妥当性確認、複雑な法律問題への対応が可能です。親族間で意見が分かれている場合や、紛争リスクがある場合には弁護士への依頼が安心です。
- 税理士:信託による課税関係の整理や申告対応、相続税・贈与税の影響についてのアドバイスを行います。特に節税効果や将来の税負担を見据えた設計には不可欠です。
信託内容がシンプルな場合は司法書士中心、相続や税務が絡む場合は税理士や弁護士との連携が効果的です。
専門家選びのポイント
専門家選びにおいては、次のような点に注目するとよいでしょう。
- 民事信託の実績や専門性があるか:信託に関する実務経験や対応件数は信頼性の指標になります。ホームページや口コミなどで確認しましょう。
- 複数士業との連携ができるか:司法書士・税理士・弁護士などが連携してワンストップで対応できる体制が整っていると安心です。
- 費用体系が明確か:事前に料金の見積もりを提示してくれるか、追加費用がどのように発生するかを確認しましょう。
- 相談のしやすさ・対応の丁寧さ:信託は長期的な仕組みです。信頼関係を築ける専門家であるかどうかも大切です。
民事信託を成功させるには、専門家との連携が不可欠です。とはいえ、どこに相談すべきか迷う方も多いでしょう。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。
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