生前贈与の非課税制度を活用しよう!7つのパターンと成功させるポイントを解説

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生前贈与の基本と仕組みを理解する
生前贈与を効果的に活用するためには、まずその基本的な仕組みや相続との違い、税金のルールを正確に把握しておくことが大切です。
生前贈与とは何か?相続との違い
生前贈与とは、財産を所有する人(贈与者)が生きている間に、自分の意思で家族や第三者に財産を無償で譲り渡すことを指します。これに対し相続とは、財産の持ち主が亡くなったときに、その財産が法律や遺言に従って自動的に相続人に引き継がれることを意味します。
生前贈与は、財産を受け取る側(受贈者)が早めに財産を活用できるため、教育資金や住宅資金などの人生設計に役立つだけでなく、財産を贈る側にとっても相続税対策として非常に有効です。ただし、贈与税が発生する可能性があるため、非課税制度を理解して計画的に活用する必要があります。
贈与税が課される仕組みと基礎知識
贈与税とは、1年間(1月1日~12月31日)の間に個人から財産を受け取った場合に、その贈与財産の合計額が一定の基礎控除額(年間110万円)を超えた場合に課される税金のことです。例えば、親から子供に年間150万円を贈与した場合、基礎控除額の110万円を超えた40万円に対して贈与税が課されます。
この110万円という基礎控除額は毎年利用できるため、暦年贈与として計画的に行えば、長期的に見て相続財産を減らし、相続税の負担を軽減することができます。しかし、毎年同じ金額を同じ時期に機械的に贈与していると、複数年分をまとめて一括贈与した「定期贈与」とみなされる恐れがあります。これを防ぐには毎年の贈与ごとに贈与契約書を作成し、振込時期や金額を適宜変更するなど、個々の贈与が独立していることを明確にする工夫が必要です。
生前贈与が相続税対策に有効な理由
生前贈与を活用すると、財産を早めに子や孫に移転できるため、将来的な相続時の財産総額を減少させ、相続税の課税対象額を抑えることができます。また、将来的に価値が上がる可能性のある不動産や株式などの資産を評価が低い段階で贈与しておくことで、財産評価額が上昇した分にかかる相続税を回避できるメリットもあります。
さらに、生前贈与を行うことで、遺産分割時の家族間のトラブルを事前に防ぐことにも繋がります。贈与によって相続財産を明確に分配しておけば、将来相続が発生した際の争いを回避することができるのです。ただし、贈与が特別受益とみなされ、遺留分侵害などの問題に発展しないよう、配慮と調整が必要です。
生前贈与の代表的な非課税制度
生前贈与には、税負担を抑えて資産を移転できるさまざまな非課税制度があります。制度ごとに条件や非課税限度額が異なるため、自身の状況や目的に応じて最適な制度を選択することが重要です。ここでは代表的な7つの非課税制度について、それぞれの特徴と注意点を詳しく解説します。
暦年課税制度の基礎控除(110万円)
最も基本的かつ広く利用されているのが、暦年課税制度における基礎控除です。これは1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた金額のうち、110万円までは贈与税がかからないという制度です。例えば、親が子に毎年110万円ずつ贈与することで、贈与税を発生させずに長期的に資産を移転することが可能となります。
ただし、毎年同じ金額を同じ時期に贈与していると「定期贈与」とみなされる恐れがあります。税務署に否認されないためには、贈与契約書を作成し、振込日や金額を年ごとに変えるなどの工夫が必要です。また、贈与者が通帳や印鑑を継続的に管理していたり、受贈者が贈与された事実を知らない場合は、「名義預金」と判断され、贈与が否認されることがあるため注意が必要です。贈与の際は通帳や印鑑の管理を受贈者本人に引き渡し、贈与の実態を明確にすることが重要です。
相続時精算課税制度(2,500万円+基礎控除)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に対して贈与を行う場合に適用できる特例制度です。この制度では、贈与時には2,500万円まで贈与税が非課税となり、相続発生時にその贈与分を相続財産として合算して相続税を計算します。
2024年からの制度改正により、相続時精算課税制度を選択していても年間110万円の基礎控除が新たに認められるようになり、より柔軟な活用が可能となりました。たとえば、不動産や株式など、将来的に価値が上昇する資産については、この制度を使って早めに贈与しておくことで、評価額が高くなる前に資産を移転することができます。
ただし、この制度を一度選択すると、暦年課税に戻すことができません。また、将来的に相続税が課されるため、トータルでの税負担をよく見極める必要があります。税務の専門家と相談しながら慎重に判断しましょう。
相続時精算課税制度の活用メリット
最大2,500万円の贈与を非課税で一括実行できる点が最大のメリットです。将来値上がりする可能性がある不動産や有価証券などは、この制度で早めに贈与することで、将来的な評価額の増加に伴う税負担を回避できます。
制度を活用する際の注意点
相続時精算課税制度を利用した贈与は、相続発生時にその金額が相続財産に加算され、相続税の計算対象となります。2024年の改正により、相続開始前3年以内の贈与は全額が従来通り加算されるほか、2027年1月以降に発生する相続については、「相続開始前7年以内の贈与」も加算対象に段階的に拡大されます。
ただし、3年を超え7年以内の贈与については、年間100万円までは加算対象から除かれるという控除が新たに設けられました。これにより、一定の範囲内であれば長期的に分散した贈与が可能となり、計画的な相続税対策が可能になります。
一方で、この制度を一度選択すると、暦年課税に戻すことができず、柔軟な対応が難しくなるため注意が必要です。制度改正の内容を十分に理解し、贈与の時期や金額を慎重に検討することが求められます。税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
配偶者控除(おしどり贈与:最大2,000万円)
婚姻期間が20年以上である夫婦間において、居住用不動産またはその購入資金を贈与する場合には、贈与税の課税価格から最高2,000万円まで控除される特例制度があります。これを「配偶者控除」または「おしどり贈与」と呼びます。
この特例は、暦年課税制度の基礎控除(110万円)と併用することができるため、最大で2,110万円まで贈与税が非課税になります。
例えば、妻が夫から2,000万円の自宅資金を贈与された場合、その全額が控除対象となり、贈与税が発生しません。加えて、さらに110万円分の現金などを同じ年に贈与されても、贈与税の対象外になります。
ただし、この配偶者控除の特例は以下の点に注意が必要です。
- 一生に一度しか利用できません(同一の配偶者間に限る)。
- 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに税務署に申告する必要があります(期限を過ぎると非課税が適用されません)。
- 夫婦の婚姻関係が事実として継続しており、法律上の婚姻関係が20年以上あることが要件です(内縁関係は対象外)。
- 贈与財産が実際に居住用であること(居住の見込みでは不可)。
この特例は、将来の相続税対策というよりも、配偶者の住居安定のための措置として設けられている性格が強く、計画的に住宅資金を渡したいときに活用されるケースが多く見られます。
住宅取得等資金の非課税枠(最大1,000万円)
父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の購入や増改築にあたって資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば最大で1,000万円まで贈与税が非課税になる制度があります。この制度は、若年層の住宅取得を支援する目的で設けられており、贈与年や住宅の性能に応じて非課税限度額が異なります。
耐震・省エネ・バリアフリー等の一定の基準を満たす「質の高い住宅」であれば最大1,000万円、それ以外の一般住宅では最大500万円が非課税となります。
この制度を利用するためには、以下のような要件があります。
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること。
- その年の合計所得金額が2,000万円以下であること。
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の取得と居住、または居住見込みであること。
- 贈与された資金を住宅取得等のために充てること。
また、この制度は「相続時精算課税制度」との併用も可能です。たとえば、相続時精算課税を選択して2,500万円分の贈与を非課税で受けたうえで、さらに住宅取得等資金の非課税枠を使えば、贈与税の負担を抑えた形で大きな資金移転が実現します。
注意点としては、必ず贈与を受けた翌年の3月15日までに「住宅取得資金の非課税の適用を受ける旨の申告書」を税務署に提出しなければならないことです。期限を過ぎると非課税が適用されないため、事前準備とスケジュール管理が欠かせません。
教育資金一括贈与(非課税枠:1,500万円)
教育資金一括贈与の非課税制度は、祖父母や父母などの直系尊属が、30歳未満の子や孫に対して教育資金をまとめて贈与する際に、一定額まで贈与税がかからない制度です。非課税限度額は受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の教育関連支出については500万円まで)と定められており、非常に大きな金額を非課税で移転できる制度です。
この制度を利用するには、信託銀行や金融機関などを通じて専用口座を開設し、贈与者が教育資金として一括で拠出します。受贈者が実際に教育支出を行うたびに、その都度領収書を提出して支払いを証明することで、非課税扱いが認められます。
対象となる教育資金は次のとおりです。
- 学校の入学金・授業料・教材費など(幼稚園から大学、専門学校まで)
- 塾や習い事などの学校以外の教育関連支出(ただし500万円まで)
- 通学定期代、寮費などの補助的費用
また、以下の点に注意が必要です。
- 受贈者が30歳になるまでに使い切らなかった残額には、贈与税が課税されます(ただし30歳時点で在学中であれば一定の延長あり)。
- 資金の用途は教育に限られており、目的外での使用や証明書類の不備があれば課税対象となります。
- 贈与後も金融機関の管理が継続され、報告義務があります。
教育資金一括贈与は、孫や子の将来の教育を支援しつつ、資産を計画的に移転する手段として非常に有効ですが、制度のルールに厳密に従う必要があります。利用を検討する際は、事前に金融機関や税理士に相談し、手続きの流れや必要書類を確認しておきましょう。
結婚・子育て資金一括贈与(非課税枠:1,000万円)

結婚や出産、育児に関する費用を目的として、父母や祖父母などの直系尊属が18歳以上50歳未満の子や孫に一括で資金を贈与した場合に、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。このうち、結婚に関する費用は300万円が上限とされています。子育てに関する費用(不妊治療、出産費用、保育料など)は最大700万円までが非課税対象です。
この制度を利用するためには、教育資金一括贈与と同様、金融機関に専用の管理契約を結んだ口座を開設し、そこに贈与資金を預け入れます。受贈者は支出のたびに領収書を提出して実費払いを受ける方式となっており、領収書が確認できない支出には非課税措置が適用されません。
具体的に対象となる支出例は以下の通りです。
- 結婚費用(結納、結婚式場費用、新居の賃料・敷金礼金など)※300万円まで
- 不妊治療、妊婦健診、出産費用(分娩費・入院費など)
- 乳幼児の保育費、ベビーシッター費、認可外保育施設の利用料
なお、以下の点に注意が必要です。
- 受贈者が50歳になった時点で使い切っていない残額には贈与税が課税される。
- 結婚・子育ての実費支出に限られるため、使途制限が厳格である。
- 金融機関との契約内容や領収書の管理など、事務的な手間が多い。
この制度は、若年世代への生活支援と資産移転を両立できる貴重な手段ですが、申請と利用にあたって煩雑な手続きが伴うため、制度の詳細を事前に十分に確認することが大切です。
特定障害者への贈与に対する非課税措置
心身に障害を抱える家族の将来を見据えて資産を移転したいと考える方のために、「特定障害者扶養信託契約に基づく贈与」については、特定の条件を満たすことで最大6,000万円までが贈与税非課税となる制度が用意されています(相続税法第21条の4第2項)。
この制度は、特定障害者(以下のいずれかに該当する人)を受益者とし、一定の信託契約に基づいて信託銀行などの信託会社に財産を拠出した場合に適用されます。
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
- 身体障害者手帳1級または2級所持者
- 療育手帳A判定の人(重度知的障害)
- 特別児童扶養手当の対象者 など
非課税となるのは、上記の特定障害者を受益者とした「信託契約」によって拠出された金銭等で、上限額は6,000万円(一定の重度障害でない場合は3,000万円)です。拠出された財産は信託会社によって管理され、受益者の生活や福祉のために計画的に支出されます。
なお、この制度を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 国税庁長官の指定を受けた信託会社との信託契約であること
- 受益者が特定障害者に該当し、その状態を証明する書類を備えること
- 贈与者が拠出時に非課税の適用を申告し、所定の手続きを行うこと
また、贈与税は非課税となりますが、信託契約終了時(受益者の死亡など)に残った財産は、受益者の相続財産として相続税の対象となります。そのため、相続時の税負担も見据えた計画が必要です。
この非課税措置は、障害者の生活支援と親族の安心を両立させる制度ですが、適用条件がやや複雑なため、事前に信託会社や税理士に相談し、制度の適合性をしっかり確認することが重要です。
生前贈与の具体的な活用方法
生前贈与は、制度を理解して非課税枠を活用するだけでなく、「どのように贈与を行うか」によって節税効果や資産承継の円滑さが大きく変わります。ここでは、贈与のタイミングや方法、対象資産の選び方など、実際の活用に役立つ具体策をご紹介します。
贈与タイミングや対象を選ぶ
贈与は「いつ、誰に、何を贈るか」が重要です。
たとえば、価値が上昇する前の不動産や株式を早期に贈与することで、評価額が低い状態で資産を移転でき、将来の相続税評価額を抑えることができます。
また、受贈者の年齢やライフステージに応じて、住宅資金・教育資金など使い道が明確なタイミングで贈与を行うと、非課税特例の活用がしやすくなります。
生命保険やNISAを活用した間接的な贈与
現金を直接贈与するのではなく、生命保険や少額投資非課税制度(NISA)を通じて資産を移転する方法も有効です。たとえば、受贈者を契約者・保険金受取人として生命保険に加入し、贈与者が保険料を負担することで、将来の死亡保険金が非課税枠内で支給されます。また、子や孫の名義でNISA口座を開設し、毎年110万円以内で資金を移すことで、税負担を抑えつつ資産運用を後押しすることができます。
資産評価額が低い段階での贈与による節税
不動産や自社株などは、将来的に資産価値が上昇する可能性があるため、評価額がまだ低いうちに贈与を行うことで、贈与税・相続税の負担を軽減できます。特に、自社株の承継などでは、株価が高騰する前に後継者へ移転しておくことが事業承継税制との併用にもつながります。贈与時の評価額は相続税評価額に基づくため、早期贈与は節税効果が非常に高い戦略です。
価値が上がる財産は相続時精算課税で贈与
前述のとおり、相続時精算課税制度は、贈与時には2,500万円まで非課税で財産を移転でき、相続時にまとめて課税される制度です。将来的に大きく値上がりしそうな資産(例えば、不動産や未上場株式など)をこの制度で早めに贈与することで、評価額が低いうちに財産移転を行い、相続時の負担をコントロールすることができます。ただし、相続財産に合算されるリスクや、制度選択後の変更不可などには注意が必要です。
複数人へ分散して贈与する方法
1人あたりの非課税枠(110万円)を活かし、子どもや孫など複数人へ贈与を分散することで、より多くの財産を非課税で移転することが可能です。たとえば、3人の孫に毎年110万円ずつ贈与すれば、合計330万円を非課税で移転できます。ただし、形式的に名義だけを分けた贈与(名義預金)は否認されるリスクがあるため、贈与契約書の作成や資金移動の実態を明確にしておくことが重要です。
生前贈与が向いているケース
生前贈与はすべての人にとって常に最適な手段とは限りませんが、一定の状況にある方にとっては非常に有効な資産承継方法となります。ここでは、生前贈与の利用を検討する価値が高い典型的なケースを紹介します。
贈与したい相手が明確にいる場合
特定の子や孫、親族、または第三者など、遺産を渡したい相手がはっきりしている場合には、生前贈与によってその希望を生前に確実に実現できます。特に、法定相続人ではない人に財産を残したい場合には、生前贈与は非常に有効な手段です。遺言による分配は遺留分によって制限される場合もありますが、生前贈与であれば、契約と移転が完了すれば法的にも確定するため、意志の実現がより確実です。
早期に財産を渡す必要がある場合
受贈者が進学、結婚、住宅購入、起業など大きな支出を控えている場合には、生前贈与によって早期に資金を渡すことで経済的な支援が可能になります。非課税特例を活用することで、贈与税の負担を抑えながら実現できるため、受贈者のライフイベントに応じた柔軟な対応が可能となります。
贈与先が若年層の場合
若い世代に早めに資産を移すことで、その資産を有効活用してもらえる可能性が高くなります。教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与制度、NISAなどの投資制度を通じて、若年層が将来にわたって資産形成できるよう支援するという観点でも、生前贈与は適しています。
相続による家族間トラブルを避けたい場合
相続発生時には遺産分割を巡って争いが起こることがあります。特に、相続財産が不動産など分割しづらい資産に偏っている場合には、トラブルの原因となりがちです。生前贈与によりあらかじめ資産を分けておくことで、相続時のトラブルを回避する効果が期待できます。ただし、贈与が遺留分侵害となる可能性もあるため、その点には注意が必要です。
財産が少額で遺言だけでは不安な場合
財産が少額であっても、誰に何を渡すかが明確になっていないと、相続人間の誤解や摩擦のもとになります。たとえば預金100万円を複数の子のうち1人に渡したいと考えている場合でも、生前に贈与しておけば、確実にその意志を反映できます。遺言だけでは不安が残る場合、生前贈与と併用することで、実現力のある資産承継が可能です。
生前贈与の注意点とリスク
生前贈与は相続税対策や意思表示の手段として有効ですが、その一方で、適切に行わないと税務上の不利益を受けたり、家族間のトラブルを招く可能性もあります。ここでは、生前贈与を行う際に注意すべき主なリスクを具体的に解説します。
受贈者以外への配慮と説明が重要
特定の子や孫にのみ生前贈与を行うと、他の相続人が不公平感を抱き、将来の遺産分割協議で争いになるおそれがあります。贈与の理由や目的を事前に家族全体に説明しておくことで、誤解や感情的対立を防ぐことができます。また、家族信託や遺言と併用して、全体の資産承継のバランスをとることも重要です。
遺留分への配慮が必要
相続人には、最低限保障された「遺留分」があり、これを侵害する生前贈与があった場合、他の相続人から「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があります。たとえば、全財産を生前に長男に贈与していた場合、次男から遺留分侵害を理由に返還請求されることがあります。民法改正(2019年施行)により、請求は金銭による精算方式となっていますが、予防的な配慮は必要です。
定期贈与と判断されると課税リスクあり
毎年同じ時期に同額を贈与していると、税務署から「定期贈与」とみなされ、複数年分を一括で贈与したものとして贈与税が課税されることがあります。これを防ぐには、贈与契約書を毎年作成し、金額や振込日を変える、都度の合意書を作成するなど、「都度の贈与」であることを明確にする必要があります。
死亡前7年以内の贈与は相続税の対象になる
2024年からの改正により、相続開始前3年以内の贈与はすべて相続財産に加算されます。また、2027年以降に相続が発生した場合は、3年を超え7年以内の贈与についても、年100万円を超える部分が加算対象となります。したがって、相続税対策としての贈与は、可能な限り早期に計画的に行うことが重要です。
特別受益として相続財産に加算される可能性
生前贈与を受けた相続人がいた場合、その贈与は「特別受益」として、他の相続人との相続分の算定時に考慮されることがあります。特別受益の主張がされると、実際の相続分に調整が入り、他の相続人との関係が悪化することもあるため注意が必要です。
名義預金と見なされると贈与が認められない
形式的に受贈者の名義で預金口座を作成しても、実質的に贈与が成立していない場合(たとえば、贈与者が管理し続けている場合など)は、「名義預金」として贈与とは認められず、相続時に相続財産とされてしまいます。確実に贈与が成立していることを示すためには、通帳や印鑑の管理を受贈者自身に移すことが必要です。
贈与によって老後資金が不足するリスク
節税や資産移転を優先するあまり、自身の老後資金が不足するような贈与を行ってしまうと、将来の生活に支障をきたす恐れがあります。特に、医療費や介護費用が予想以上にかかるケースも多いため、贈与を検討する際は、将来の生活資金を十分に見積もったうえで判断することが重要です。
贈与手続に関する費用負担も想定する
贈与契約書の作成、公証、登録免許税、不動産取得税など、贈与に伴って必要となる事務手続きや費用があります。特に不動産贈与では登録費用や名義変更費用が高額になる場合もあるため、あらかじめ費用の概算を把握し、計画的に進めることが求められます。
非課税制度の利用でも申告が必要なケースに注意
非課税制度を利用する場合でも、税務署への申告が必要なケースがあります。たとえば、住宅取得資金贈与や教育資金一括贈与、結婚・子育て資金の贈与などは、非課税適用を受けるために所定の申告書を提出する必要があります。申告を怠ると、本来非課税となる贈与であっても課税対象とされる可能性があるため、手続きの期限や必要書類を必ず確認してください。
生前贈与を成功させるポイント
生前贈与は節税や資産承継に大きなメリットがある一方で、手続きや制度理解を誤ると期待した効果が得られないばかりか、思わぬ課税や家族間のトラブルを招くこともあります。ここでは、制度を上手に活用し、生前贈与を成功させるために重要なポイントを解説します。
基礎控除をわずかに超える金額で贈与する工夫
暦年課税制度では、毎年110万円までの贈与が非課税となります。この枠を少しだけ超えた金額(たとえば120万円など)を意図的に贈与し、あえて申告を行うことで「定期贈与」と見なされるリスクを軽減することができます。また、申告を行えば、贈与契約の存在を税務署に正式に伝えることにもなり、贈与の事実関係をより確実に証明する材料になります。
複数の非課税制度を組み合わせて活用する
生前贈与には暦年課税の基礎控除以外にも、住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金など、多様な非課税制度が存在します。制度ごとに対象や限度額が異なるため、目的に応じてこれらを組み合わせることで、より多くの財産を非課税で移転することが可能です。たとえば、子に暦年贈与で110万円、教育資金として1,500万円を信託経由で贈与することで、合計1,610万円の非課税贈与が可能となります。
制度改正を見越して早めに準備する
贈与税や相続税の制度は、相続格差や高齢化社会への対応を目的として、数年ごとに見直しが行われています。2024年には相続時精算課税制度の見直しや、贈与加算期間の7年への拡大など、抜本的な改正が実施されました。将来的にも制度変更がある可能性を考慮し、制度の有利な時期を逃さないよう、早めに贈与計画を立てることが重要です。
税理士等の専門家への相談を検討する
生前贈与に関する税務・法務は非常に複雑で、個別の事情によって最適な対応が大きく異なります。適用できる非課税制度の選択、贈与財産の評価方法、契約書の作成、申告の要否など、正確な判断を要する場面が多いため、税理士や弁護士といった専門家に相談しながら進めることを強くおすすめします。特に、高額な財産や不動産、自社株の贈与については、専門家の助言が重要です。
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生前贈与に関するよくある質問
生前贈与は制度や手続きが多岐にわたるため、利用を検討する際にさまざまな疑問が生じがちです。ここでは、特に頻度の高い質問とその回答をまとめました。
非課税で贈与できる金額の上限は?
非課税で贈与できる金額は、利用する制度によって異なります。最も基本的な「暦年課税制度」では、年間110万円までが非課税です。また、特例を活用する場合には以下のような上限があります。
- 相続時精算課税制度:2,500万円(+年110万円の基礎控除、2024年以降)
- 教育資金一括贈与:最大1,500万円(学校外支出は500万円まで)
- 住宅取得資金贈与:最大1,000万円(質の高い住宅の場合)
- 結婚・子育て資金一括贈与:最大1,000万円(うち結婚費用は300万円まで)
- 配偶者控除:2,000万円(居住用不動産または取得資金に限る)
複数の制度を併用することも可能ですが、それぞれ要件や申告義務が異なるため、制度ごとの確認が必要です。
暦年贈与で120万円贈与した場合の税額は?
年間110万円の基礎控除を超えて贈与すると、その超過分に対して贈与税がかかります。たとえば、120万円の贈与を受けた場合、課税対象は10万円です。
贈与税額は、課税価格と受贈者の関係(直系尊属か否か)に応じて異なります。直系尊属(親や祖父母など)から贈与を受けた18歳以上の人の場合、税率は次のとおりです。
- 200万円以下の場合:税率10%、控除額0円
したがって、10万円×10%=1万円が贈与税となります。なお、この場合は贈与税の申告も必要です。
現金を手渡しで贈与してもバレないのか?
たとえ現金を手渡しで贈与したとしても、贈与の事実はさまざまな情報から税務署に把握される可能性があります。税務調査では、相続開始後に被相続人の預金の出入りや受贈者の資産状況などが詳細に調査され、説明できない資金移動がある場合には、過去の贈与として贈与税や相続税が課されることがあります。
また、手渡しの場合は贈与の証拠(契約書、通帳記録、振込履歴など)が残りづらいため、税務上否認されるリスクが高まります。たとえ非課税枠内の贈与であっても、贈与契約書を作成し、銀行振込等により資金の移動記録を残すのが望ましいです。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
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