遺言書は絶対?遺言書の種類や効力の範囲・無効となるケースも解説
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遺言書の内容は絶対?効力が認められる事項をご紹介!
遺言書の内容は絶対なのでしょうか。遺言書の内容で効力が認められる事項にはどのようなものがあるのかについて見てみましょう。
遺言書の内容で効力が認められる事項
遺言は、遺言者の一方的な意思表示のみで、その上亡くなった後に効力が発生します。しかし、その時点で遺言者の真意を確定することには、しばしば困難を伴います。
そこで、民法やその他の法律は、遺言の明確性を確保するとともに、後日の紛争を予防するため、遺言をすることができる事項を以下のように限定しています。
①身分関係に関する事項
❶認知(民法781条2項)
❷未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
②相続関係に関する事項
❶推定相続人の廃除や廃除の取消し(民法893条、894条)
❷祭祀に関する権利承継者の指定(民法897条1項)
❸相続分の指定や指定委託(民法902条)
❹特別受益の持戻しの免除(民法903条)
❺遺産分割方法の指定や指定委託、遺産分割の禁止(民法908条)
❻相続人相互間での担保責任の分担(民法914条)
❼一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
❽一般財団法人への財団の拠出(❼の法律164条2項)
❾遺言による信託の設定(遺言信託。信託法2条2項2号、3条2項、4条2項)
❿生命保険及び傷害疾病定額保険における、遺言による保険金受取人の変更(保険法44条、73条)
③遺産の処分に関する事項
❶相続財産の全部又は一部を処分すること(遺贈。民法964条)
❷配偶者居住権の遺贈と持戻し免除(民法1028条1項2号、同条3項)
④遺言の執行に関する事項
❶遺言執行者の指定や指定委託(民法1006条)
遺言書が無効?遺言書の種類別に無効となる例を解説!
遺言書が無効となることがあるのでしょうか。遺言書の種類別に無効となる例について解説します。
遺言書に書いても認められず無効になってしまう事例
遺言書に書いても認められず無効になってしまう事例として次のものがあります。
①保険契約者(被相続人)が自己を被保険者とし、相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合、指定された者は固有の権利として保険金請求権を取得し、保険金請求権は遺言者(被相続人)の遺産ではありません(最高裁判所判決昭和40.2.2民集19・1・1)。
そのため、保険金請求権は遺贈の対象とはなりませんので、保険金を受取人以外のものに遺贈するという遺言をしても、その遺言は無効になります。
②遺贈が不倫関係の維持継続を目的とする場合には、その遺言は公序良俗に違反し無効になります(最高裁判所判決昭和61.11.20民集40・7・1167)。
以上のように、遺言書の内容は絶対とはいえないのです。
ところで、被相続人が、相続人の最低限の相続権を侵害する事項を遺言書に記載した場合でも、遺言としては有効なのです。この場合には、確かに、法定相続分(民法900条)や遺留分(民法1042条)が侵害されることも起こり得ます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(遺留分権利者)について、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
しかし、法定相続分や遺留分を侵害された相続人は、上記遺言書の記載も遺言としては有効なため、遺留分侵害額請求権を有するにすぎないのです(民法1046条1項)。
遺言書の種類
遺言書の種類をご紹介します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き(自書)、押印して作成する方式の遺言です(民法968条1項)。ただし、自筆証書に添付する財産目録については自書することを要しません(民法968条2項前段)。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です(民法969条)。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成し、封印をした遺言証書の存在を公証人に明らかにする方式の遺言です(民法970条1項)。
遺言書の種類別に無効となる例
遺言書の種類別に無効となる例を見てみましょう。
遺言書全般の場合
遺言では、満15歳に達していない者がした遺言は無効になります(民法961条)。
また、遺言では遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力(意思能力)のない者がした遺言も、無効になります(民法3条の2、963条)。
成年被後見人も遺言能力(遺言行為能力)を有しますが(民法961条、962条)、この者が遺言をする際、事理弁識能力を一時的に回復していても、医師2人以上の立会いを欠く遺言は無効になります(民法973条1項)。
そして、成年被後見人や未成年後見に付されている未成年者が、後見の計算が終了する前に、後見人又はその配偶者もしくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効になります(民法966条1項)。ただし、後見人が被後見人の直系血族、配偶者又は兄弟姉妹であるときは、その遺言は無効にはなりません(同条2項)。
さらに、同一の遺言証書で二人以上の者によって作成された遺言は、無効になります(民法975条)。
自筆証書遺言及び秘密証書遺言の場合
遺言書(財産目録を含みます)に加除・訂正、その他の変更を行うときには、遺言者がその場所を指示し、これに変更した旨を付記・署名し、変更場所に押印しなければ、無効になります(自筆証書遺言につき民法968条3項、秘密証書遺言につき民法970条2項)。
遺言書の検認手続きは、公正証書遺言及び遺言書保管所(法務局)に保管されている自筆証書遺言以外の遺言書に要求されます(民法1004条1項・2項)。
そして、封印のある遺言書は、家庭裁判所での遺言書の開封が予定されています(民法970条1項2号)。遺言書の開封には、相続人又はその代理人の立会いが必要になります(民法1004条3項)。
しかし、遺言書の検認を受けたかどうか、また家庭裁判所で開封をしたかどうかは、遺言の効力とは関係がないと解されています。
ただし、遺言書の検認手続きを経ずに遺言を執行したり、家庭裁判所外で封印された遺言書を開封した者は、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。
公正証書遺言及び秘密証書遺言の場合
証人(公正証書遺言につき民法969条1号、秘密証書遺言につき民法970条1項3号、972条1項)が、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人の場合には、その遺言は無効になります(民法974条)。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言では、遺言書の全文、日付及び氏名の全てが自筆で書かれていない場合、また、押印(指印を含みます)がない場合には、方式不備で無効になります。
なお、法務局における遺言書の保管等に関する法律により遺言書保管所(法務局)において保管されている自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認は不要になります。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言では、遺言者が「公証人の質問に対し、言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないとき」(最高裁判所判決昭和51.1.16裁判集民117・1)や「遺言者はただうなづくのみであったとき」(最高裁判所判決昭和52.6.14家月30・1・69)は、民法969条2号の「口授」があったとはいえませんから、遺言は無効になります。
秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言では、遺言者が、①その証書に署名し、押印すること(民法970条1項1号。ただし、証書中に日付を記載する必要はありません)、②その証書を封じ、証書に用いた印章を用いて、これに封印をすること(同項2号)、③公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と、その筆者の氏名・住所を申述すること(同項3号)が要件とされています。
さらに、秘密証書遺言では、④公証人が、その証書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び公証人と共にこれに署名し、押印すること(民法970条1項4号)も要件とされています。この公証人が封紙に記載した日付が、秘密証書遺言の作成日付となります。
秘密証書遺言での①から④の要件のうち、ひとつでもその要件を充たさない場合には、方式違反として無効になります。しかし、その方式違反で無効であっても、それが民法968条の自筆証書遺言の方式要件を充たすときは、自筆証書遺言としての効力を与えられます(民法971条)。
遺言書を無効にしないためのポイントをご紹介!
遺言書を無効にしないためのポイントをご紹介しましょう。
遺言書を無効にしないためのポイントは、遺言能力の欠如した者の遺言でないこと(民法961条、963条)、遺言は要式行為ですので、法律上の方式違反のない遺言であること(民法960条、967条~984条)、被後見人が遺言をする場合後見人側に利益となる遺言でないこと(民法966条1項)です。
遺言能力が欠如した者のした遺言、方式違反の遺言、後見人側に利益となる遺言が無効になることは、具体的な例を示して上述したとおりです。
つまり、遺言能力を備え、法律上の方式を遵守し、後見人側に利益とならない遺言をすることが、遺言書を無効にしないためのポイントといえるのです。
遺言書に従いたくない!遺産分割協議や遺留分制度を紹介!
遺言書に従いたくない場合、何か方法があるのでしょうか。その手段としての遺産分割協議や遺留分制度について見てみましょう。
遺産分割協議とは、被相続人が残した財産(遺産)について、相続人の間で協議して具体的に分ける手続きです。
遺言書は、被相続人の相続人に対する最終意思ですから、その意思は尊重されなければなりません。
他方で、遺言書があることによって、残された相続人間に不平等が生じ、争いが起こることは、被相続人も望まないでしょうから、そのような事態は避けなければなりません。
相続人間の争いをなくすため、相続人全員が遺言書に従いたくないということであれば、その総意もまた尊重されるべきことです。
ところで、相続人らにおいて、遺言書と異なる遺産分割の協議をした場合には、民法1013条の「相続財産の処分」に当たりますから「無効」になるのではないかということが問題となります。
しかし、相続人全員による遺産分割協議で合意が成立した場合には、①遺贈については遺贈を受けた相続人が遺贈を放棄したものとして、②特定財産承継遺言については相続人全員による遺産分割方法の変更をしたものとして、③相続分の指定については相続人全員による指定相続分と異なる遺産分割の合意をしたものとして、相続人による財産処分の無効も遺言執行者の職務違反も解消できると解すのが多数説とされています。
また、民法は、兄弟姉妹以外の相続人に対し、法定相続分の一部割合を遺留分として認めることで、遺産について一定割合での価値を保持することを保障しています(1042条)。
遺言書によって、相続人の遺留分が侵害されている場合には、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害している相続人を相手に遺留分侵害額請求権を行使して、金銭で解決を図ることが予定されています(民法1046条1項)。
遺産分割ができない場合とは?遺言書を無視したくてもできない?
遺産分割ができない場合はあるのでしょうか。遺言書を無視したくてもできない場合があるのかについても検討してみましょう。
遺産分割ができない場合としては、被相続人の遺産分割禁止の遺言がある場合が考えられます。つまり、被相続人は遺言によって、相続開始の時から5年を超えない期間であれば遺産の分割を禁ずることができます(民法908条1項)。
他方で、遺言書があっても、相続人全員による遺産分割協議で合意が成立した場合には、遺産分割が可能であると解されることは上述したとおりです。
では、遺言書で遺産分割の禁止がされている場合は、遺言書を無視して遺産分割はできないのでしょうか。
この点、遺産分割禁止の遺言があるにも関わらず、遺産分割協議がされた場合の効力については、学説が分かれています。
その学説としては、①分割自由の原則から、相続人全員の合意があれば、当該分割は有効であるとする見解、②遺言執行者を除外した場合であっても、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議を無効とするのは相当ではないとする見解、③分割禁止遺言をした被相続人の意思が無視されることになるから、分割は無効であるとする見解(ただし、第三者の保護は、民法94条2項(虚偽表示)・192条(即時取得)・478条(表見受領権者に対する弁済)ほか表見法理のもとで図られるべきである)があります。
理由付けはともかく、有効とするのが通説とされています。
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相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。
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この記事を監修したのは…
司法書士
猿田 稚篤(さるた のりあつ)
司法書士の手腕は、お客様に何が起こっているのか、お客様が何を欲しているのか汲み取り、把握することによって、お客様がとるべき法律の手続きを導き出すことにあると考えます。
①誠実な対応を尽くす②依頼者の話をとことん聴く③司法書士としての圧倒的な法律知識を持つ
開業以来この3つのスタイルを貫き通しています。
サイトURL:https://saruta-legal.jp/