相続放棄の手続きを自分でやる方法|弁護士費用0円で3ヶ月以内に完了させる手順

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遺産相続

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相続放棄の手続きは弁護士に依頼せず自分で行うことが可能です。この記事では、家庭裁判所への申請から必要書類の準備、手続きの流れまで詳しく解説します。弁護士費用10万円以上を節約し、収入印紙代800円程度の実費のみで3ヶ月以内に完了させる具体的な手順と注意点をご紹介。よくある失敗例も含めて網羅的に説明するため、初めての方でも安心して手続きを進められます。

1. 相続放棄とは何か

1.1 相続放棄の基本的な仕組み

相続放棄とは、被相続人の財産や債務をすべて引き継がない旨を家庭裁判所に申し出る法的手続きです。民法第938条に基づき、相続人が相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述することで、初めから相続人でなかったものとみなされます。

相続放棄は「全か無か」の制度であり、プラスの財産だけを相続してマイナスの財産(借金など)を放棄するという部分的な相続放棄はできません。一度相続放棄が受理されると、原則として撤回することはできないため、慎重な判断が必要です。

相続放棄をした人がいる場合、その人は最初から相続人でなかったものとして扱われるため、相続権は次の順位の相続人に移ります。例えば、配偶者と子が相続人の場合に子が相続放棄をすると、配偶者と被相続人の両親(直系尊属)が相続人となります。

1.2 相続放棄をすべき状況

相続放棄を検討すべき代表的な状況は以下の通りです:

状況詳細注意点
債務超過被相続人の借金や債務が財産を上回る場合債務の正確な把握が必要
保証債務被相続人が他人の借金の保証人になっている場合将来的な支払義務も考慮
事業承継リスク個人事業主の事業に潜在的なリスクがある場合事業の実態調査が重要
相続争いの回避他の相続人との関係悪化を避けたい場合慎重な判断が必要
相続手続きの煩雑さ複雑な相続手続きを避けたい場合他の解決方法も検討

特に被相続人が多額の借金を抱えていた場合や、連帯保証人になっていた場合は、相続放棄を真剣に検討する必要があります。また、被相続人が個人事業主で、事業に関連した潜在的な債務がある可能性も考慮すべきです。

1.3 相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄には以下のようなメリットとデメリットがあります:

1.3.1 相続放棄のメリット

  • 債務から完全に解放される:被相続人の借金や債務を一切引き継がずに済みます
  • 相続争いから離脱できる:他の相続人との遺産分割協議に参加する必要がなくなります
  • 相続手続きの負担がなくなる:複雑な相続手続きや相続税の申告義務がなくなります
  • 将来のリスクを回避できる:後から判明した債務についても責任を負わずに済みます

1.3.2 相続放棄のデメリット

  • プラスの財産も一切取得できない:現金、不動産、株式などの価値ある財産も放棄することになります
  • 撤回ができない:一度受理されると原則として取り消すことができません
  • 他の相続人への影響:相続権が次順位の相続人に移るため、親族関係に影響する可能性があります
  • 思い出の品も取得できない:形見分けや思い出の品も法的には取得することができません
  • 生命保険金等への影響:受取人指定がない生命保険金などは相続財産となり取得できません

相続放棄を検討する際は、財産と債務の正確な調査を行い、総合的に判断することが重要です。特に、被相続人の財産状況が不明確な場合は、3ヶ月の熟慮期間内に十分な調査を行う必要があります。

2. 相続放棄を自分で手続きする前に確認すべきこと

相続放棄の手続きを自分で行う前に、必ず確認しておくべき重要な事項があります。これらを見落とすと、手続きが無効になったり、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

2.1 相続放棄の期限である3ヶ月以内の計算方法

相続放棄には自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内という厳格な期限が設けられています。この期限の計算方法を正確に理解することが、相続放棄手続きの成功の鍵となります。

2.1.1 期限の起算点の判定

3ヶ月の期限は、以下の時点から開始されます:

相続人の立場起算点具体例
第1順位相続人(子・孫)被相続人の死亡を知った日父親の死亡を知った日から3ヶ月
第2順位相続人(父母・祖父母)先順位者の相続放棄を知った日子が全員相続放棄したことを知った日から3ヶ月
第3順位相続人(兄弟姉妹・甥姪)先順位者の相続放棄を知った日父母が相続放棄したことを知った日から3ヶ月

2.1.2 期限の延長申請

調査に時間がかかる場合は、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てを家庭裁判所に行うことで、期限を延長することができます。この申立ては期限内に行う必要があり、通常1ヶ月から3ヶ月程度の延長が認められます。

2.2 相続財産と債務の調査方法

相続放棄を検討する際は、被相続人の財産と債務の全体像を把握することが不可欠です。債務が多い場合に相続放棄を選択するのが一般的ですが、正確な調査なしに判断するのは危険です。

2.2.1 プラスの財産の調査

以下の方法でプラスの財産を調査します:

  • 不動産:法務局で登記簿謄本を取得し、被相続人名義の不動産を確認
  • 預貯金:通帳や郵便物から金融機関を特定し、残高証明書を取得
  • 有価証券:証券会社からの郵便物や取引残高報告書を確認
  • 生命保険:保険証券や保険会社からの通知書を確認
  • その他の財産:貸金庫の中身、骨董品、宝石類などの動産を調査

2.2.2 マイナスの財産(債務)の調査

債務の調査では、以下の点を重点的に確認します:

債務の種類調査方法注意点
金融機関からの借入信用情報機関(CIC、JICC、KSC)への照会本人死亡後も一定期間情報が保持される
クレジットカード債務郵便物、明細書の確認リボ払いや分割払いの残債に注意
税金・社会保険料市町村役場、税務署への問い合わせ延滞税・加算税が発生している可能性
連帯保証債務契約書、公正証書の確認主債務者の状況によって債務額が変動

2.2.3 財産目録の作成

調査結果を基に詳細な財産目録を作成し、プラスの財産とマイナスの財産を金額で比較します。債務が財産を上回る場合や、財産があっても管理が困難な場合に相続放棄を検討することになります。

2.3 他の相続人への影響

相続放棄は個人の決定ですが、他の相続人に大きな影響を与えるため、事前の検討と場合によっては相談が必要です。

2.3.1 相続分の移転による影響

相続放棄をした人は最初から相続人ではなかったものとして扱われ、その相続分は他の相続人に移転します:

  • 同順位の相続人がいる場合:同順位の相続人の相続分が増加
  • 同順位の相続人がいない場合:次順位の相続人が新たに相続人となる
  • 全相続人が放棄した場合:相続財産は国庫に帰属

2.3.2 債務の承継による問題

特に問題となるのは、債務が多い相続において一部の相続人だけが放棄する場合です。残った相続人は債務をより多く負担することになるため、事前に他の相続人と情報共有し、全体的な方針を検討することが重要です。

2.3.3 遺産分割への影響

相続放棄により相続人の構成が変わると、既に進めていた遺産分割協議が無効になる可能性があります。また、相続放棄をした人は遺産分割協議に参加する権利を失うため、他の相続人のみで協議を行うことになります。

2.3.4 家族関係への配慮

相続放棄は法的手続きですが、家族間の感情的な問題も生じやすいものです。特に以下の点に注意が必要です:

  • 相続放棄の理由を他の相続人に説明し、理解を得る努力
  • 次順位の相続人に対する事前通知と相談
  • 債権者からの督促が他の相続人に向かう可能性の説明
  • 家族関係の維持を考慮した適切なコミュニケーション

これらの確認事項をすべてクリアにした上で、相続放棄の手続きに進むことで、スムーズかつ確実な手続きが可能になります。

3. 相続放棄の手続きに必要な書類一覧

相続放棄を自分で手続きする際には、複数の書類を準備する必要があります。書類に不備があると手続きが遅れる可能性があるため、事前にしっかりと確認しておきましょう。

3.1 相続放棄申述書の書き方

相続放棄申述書は、家庭裁判所に相続放棄の意思を正式に伝えるための重要な書類です。記載内容に誤りがあると受理されない場合があるため、慎重に作成する必要があります。

3.1.1 相続放棄申述書の基本的な記載項目

記載項目記載内容注意点
申述人の情報氏名、住所、電話番号、本籍住民票記載事項証明書と一致させる
被相続人の情報氏名、最後の住所、本籍、死亡年月日死亡診断書・戸籍謄本と一致させる
相続を知った日被相続人の死亡を知った年月日3ヶ月の期限計算の起点となる
相続放棄の理由債務超過、相続財産が不明等具体的かつ簡潔に記載

3.1.2 申述書作成時の重要なポイント

相続放棄の理由は正直かつ具体的に記載することが重要です。「債務が多額で資産を上回る」「相続財産の詳細が不明で調査が困難」など、客観的な事実に基づいて記載します。

また、相続を知った日付は慎重に判断する必要があります。単に死亡の事実を知った日ではなく、自分が相続人であることを知った日、または相続財産や債務の存在を知った日が基準となる場合もあります。

3.2 戸籍謄本などの必要書類

相続放棄の手続きでは、申述人と被相続人の関係を証明するための戸籍関係書類が必要です。相続関係によって必要な書類が異なるため、事前に確認しておきましょう。

3.2.1 申述人が配偶者の場合

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 申述人(配偶者)の戸籍謄本

3.2.2 申述人が子・孫の場合

申述人必要書類備考
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 申述人の戸籍謄本親子関係が確認できる戸籍
孫(代襲相続)被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 本来の相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 申述人の戸籍謄本代襲相続の要件を満たすことを証明

3.2.3 申述人が父母・祖父母の場合

第二順位の相続人である場合、被相続人に子がいないことを証明する戸籍が必要です。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している者の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 申述人の戸籍謄本

3.2.4 申述人が兄弟姉妹・甥姪の場合

第三順位の相続人である場合、上位順位の相続人がいないことを証明する必要があります。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している者の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属で死亡している者の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 申述人の戸籍謄本

3.2.5 その他の必要書類

  • 申述人の住民票記載事項証明書(本籍記載のもの)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票

3.3 収入印紙と郵便切手の準備

相続放棄の申述には、所定の収入印紙と郵便切手が必要です。金額は法律で定められており、全国一律です。

3.3.1 必要な収入印紙と郵便切手

項目金額用途
収入印紙800円相続放棄申述の手数料
郵便切手約500円裁判所からの連絡用(裁判所により異なる場合あり)

収入印紙は相続放棄申述書に貼付します。郵便切手は申述書とは別に提出し、家庭裁判所から申述人への連絡に使用されます。

3.3.2 郵便切手の種類と枚数

多くの家庭裁判所では以下の組み合わせを指定していますが、管轄の家庭裁判所に事前に確認することをお勧めします。

  • 84円切手:4枚
  • 10円切手:10枚
  • 2円切手:5枚
  • 1円切手:5枚

3.3.3 費用を抑えるためのポイント

戸籍謄本などの取得費用は、本籍地が遠方の場合は郵送請求を活用することで交通費を節約できます。また、複数の相続人が同時に相続放棄する場合、戸籍謄本の一部は共通で使用できる場合があります。

ただし、郵送請求の場合は時間がかかるため、3ヶ月の期限に余裕を持って準備することが重要です。特に被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本は複数の市区町村にまたがる場合があり、取得に時間を要することがあります。

4. 家庭裁判所での相続放棄手続きの流れ

相続放棄の手続きは、必ず家庭裁判所に対して行う必要があります。手続きの流れを理解しておくことで、スムーズに相続放棄を完了させることができます。

4.1 管轄する家庭裁判所の調べ方

相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。被相続人がどこに住んでいたかによって、手続きを行う裁判所が決まるため、まずは管轄裁判所を正確に調べることが重要です。

管轄する家庭裁判所は、以下の方法で調べることができます:

調査方法詳細注意点
裁判所ウェブサイト「裁判所の管轄区域」から住所を入力して検索最新情報を確認できる
電話での問い合わせ最寄りの家庭裁判所に直接電話で確認営業時間内(平日8:30-17:00)に限る
住民票の住所地被相続人の住民票上の住所を基準に判断実際の居住地と異なる場合があるため注意

被相続人が住民票を移さずに転居していた場合や、施設に入所していた場合などは、実際の住所と住民票上の住所が異なることがあります。このような場合は、実際に生活していた住所地を管轄する家庭裁判所が管轄となります。

4.2 申請書類の提出方法

必要書類が揃ったら、管轄の家庭裁判所に申請書類を提出します。提出方法には以下の3つの方法があります。

4.2.1 窓口での直接提出

家庭裁判所の窓口に直接書類を持参して提出する方法です。平日の午前8時30分から午後5時まで受け付けており、書類に不備があればその場で指摘を受けることができます。

窓口提出のメリット:

  • 書類の不備をその場で確認・修正できる
  • 手続きに関する質問を直接相談できる
  • 受領証を即座に受け取れる

4.2.2 郵送による提出

書類を郵送で提出することも可能です。簡易書留または特定記録郵便で送付することをお勧めします。郵送の場合は、書類が裁判所に到達した日が申立日となります。

郵送提出の際の注意点:

  • 封筒に「相続放棄申述書在中」と記載する
  • 返信用封筒に切手を貼付して同封する
  • 配達記録が残る方法で送付する
  • 期限ギリギリの場合は窓口提出を推奨

4.2.3 オンライン申請

一部の家庭裁判所では、オンラインでの申請も可能になっています。ただし、すべての裁判所でオンライン申請に対応しているわけではないため、事前に管轄裁判所に確認が必要です。

提出方法メリットデメリット
窓口提出即日確認・修正可能、相談できる平日の限られた時間のみ、交通費がかかる
郵送提出時間の制約なし、交通費不要書類不備の確認に時間がかかる
オンライン申請24時間提出可能、即座に送信対応していない裁判所が多い

4.3 家庭裁判所からの照会書への回答方法

相続放棄申述書を提出した後、通常1〜2週間程度で家庭裁判所から照会書(回答書)が郵送されてきます。これは、申述人の意思確認や申述内容の詳細を確認するためのものです。

4.3.1 照会書の内容

照会書には、以下のような質問が記載されています:

  • 相続放棄をする理由
  • 被相続人の死亡を知った日時
  • 相続財産の内容について知っていること
  • 被相続人から生前贈与を受けたことがあるか
  • 相続財産を処分したり使用したりしたことがあるか
  • 他の相続人の有無や連絡先

4.3.2 照会書への適切な回答方法

照会書は通常10日から2週間以内に回答する必要があります。回答する際は、以下の点に注意してください:

正直かつ具体的に記載する:

  • 虚偽の記載は絶対に避ける
  • 「知らない」「覚えていない」場合はそのまま記載する
  • 日付や金額など、具体的な情報は正確に記載する

相続放棄の理由を明確にする:

  • 「債務が多額のため」「債務の詳細が不明なため」など、具体的な理由を記載
  • 感情的な表現は避け、客観的事実を記載する

4.3.3 照会書回答時の注意点

照会書への回答は相続放棄が認められるかどうかの重要な判断材料となります。以下の点に特に注意してください:

注意事項理由対処法
期限内の回答期限を過ぎると申述が却下される可能性受領後すぐに回答準備を開始する
一貫性のある回答申述書と矛盾があると審査に影響申述書の控えを確認しながら回答する
相続財産への関与処分行為があると相続承認とみなされる些細なことでも正直に記載する

照会書への回答が完了すると、通常1〜2週間程度で家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付され、相続放棄の手続きが完了します。この通知書は重要な書類となるため、大切に保管しておく必要があります。

5. 相続放棄の手続きにかかる費用

相続放棄の手続きを自分で行う場合、弁護士費用は不要ですが、家庭裁判所への申請や必要書類の取得に最低限の費用がかかります。これらの費用は法律で定められており、全国どこの家庭裁判所でも同一です。

5.1 収入印紙代と郵便切手代の詳細

家庭裁判所に相続放棄の申述を行う際に必要となる基本的な費用です。

費用項目金額備考
収入印紙代800円申述人1人につき
郵便切手代500円程度家庭裁判所により異なる場合がある

収入印紙は800円分を相続放棄申述書に貼付します。これは申述手数料として家庭裁判所に納める費用です。複数人が相続放棄する場合は、申述人それぞれが800円ずつ必要となります。

郵便切手は家庭裁判所から申述人への通知書送付のために使用されます。必要な切手の種類と枚数は家庭裁判所によって異なるため、申請前に管轄の家庭裁判所に確認することをおすすめします。一般的には82円切手を6枚程度求められることが多いです。

5.2 戸籍謄本などの必要書類取得費用

相続放棄の申述には、被相続人と申述人の関係を証明する戸籍関係書類が必要です。これらの書類は市区町村役場で取得する必要があり、それぞれに手数料がかかります。

書類名手数料必要な場合
戸籍謄本450円被相続人の死亡記載のあるもの
除籍謄本750円被相続人の出生から死亡まで
改製原戸籍750円戸籍の改製があった場合
申述人の戸籍謄本450円被相続人との関係証明のため
住民票除票300円程度被相続人の最後の住所証明

申述人が子の場合は比較的少ない書類で済みますが、兄弟姉妹が申述人の場合は被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍が必要となるため、費用が高額になる傾向があります。

戸籍を遡って取得する場合、本籍地が異なる市区町村にまたがることがあり、それぞれから取得する必要があります。郵送で請求する場合は、定額小為替の購入手数料(1枚につき200円)と郵送料も追加でかかります。

5.3 弁護士に依頼した場合の費用との比較

自分で手続きを行う場合と弁護士に依頼する場合の費用を比較すると、大幅な違いがあります。

手続き方法費用総額の目安内訳
自分で手続き3,000円~10,000円収入印紙・切手代・戸籍取得費用のみ
弁護士に依頼100,000円~200,000円弁護士報酬+実費

自分で手続きを行う場合の総費用は1万円以内に収まることがほとんどです。申述人が被相続人の配偶者や子の場合は3,000円程度、兄弟姉妹の場合でも戸籍の取得費用を含めて7,000円程度が一般的です。

一方、弁護士に依頼する場合は、相続放棄の申述代理業務として10万円から20万円程度の報酬が設定されていることが多く、これに実費が加算されます。複数人が同時に相続放棄する場合は、2人目以降の報酬が減額される事務所もありますが、それでも自分で手続きする場合の10倍以上の費用がかかります。

ただし、相続関係が複雑で戸籍の収集が困難な場合や、相続放棄の期限が迫っている緊急時、法的な判断が必要な複雑な事案については、弁護士費用を支払ってでも専門家に依頼する価値があります。特に相続開始から3ヶ月の期限まで時間的余裕がない場合は、手続きの確実性を重視して弁護士への依頼を検討すべきでしょう。

6. 相続放棄手続きの注意点とよくある失敗

相続放棄の手続きを自分で行う際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを見落とすと、相続放棄が認められなかったり、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

6.1 期限を過ぎてしまった場合の対処法

相続放棄の最も重要な要件は、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述することです。この期限を過ぎてしまった場合でも、諦める必要はありません。

6.1.1 期限経過後の相続放棄が認められるケース

家庭裁判所は、以下のような特別な事情がある場合に限り、期限経過後の相続放棄を認めることがあります。

認められる可能性のある事情具体例
相続財産がないと信じていた場合被相続人が借金を隠していて、債権者からの請求で初めて債務の存在を知った
相続財産の調査に時間を要した場合遠方に住んでいて財産調査に時間がかかった、複雑な財産関係で調査が困難だった
家庭の事情による場合被相続人の介護や葬儀で手続きができなかった、相続人自身が病気だった

6.1.2 期限経過後の申述に必要な書類

期限を過ぎた場合の相続放棄申述では、通常の書類に加えて期限経過の理由を詳しく説明した上申書が必要になります。上申書には以下の内容を記載します。

  • 相続の開始を知った時期とその経緯
  • 期限内に申述できなかった具体的な理由
  • 相続財産の調査状況
  • 債務の存在を知った時期と経緯

6.2 相続財産に手をつけてしまった場合の問題

相続放棄を希望する場合は、相続財産について一切の処分行為を行ってはいけません。これらの行為を行うと「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。

6.2.1 単純承認とみなされる行為の例

行為の分類具体的な行為注意点
財産の処分不動産の売却、預金の引き出し、株式の売却少額でも処分すると単純承認とみなされる
債務の弁済借金の返済、クレジットカードの支払い善意でも弁済行為は単純承認となる
財産の使用被相続人の車の使用、賃貸物件の家賃収受一時的な使用でも問題となる場合がある

6.2.2 例外的に認められる行為

ただし、以下のような行為は相続財産の管理として必要最小限のものと認められ、単純承認とはみなされません。

  • 葬儀費用の支払い(社会通念上相当な範囲内)
  • 被相続人の債務のうち、税金や社会保険料などの公租公課の支払い
  • 相続財産の保存行為(家屋の修繕、腐敗しやすい食品の処分など)
  • 火災保険料や固定資産税などの維持費の支払い

6.3 申述書の記載ミスを防ぐポイント

相続放棄申述書の記載ミスは、手続きの遅延や申述の却下につながる可能性があります。正確な記載のために、以下のポイントを確認しましょう

6.3.1 よくある記載ミスと対策

記載項目よくあるミス正しい記載方法
被相続人の氏名通称名で記載、漢字の間違い戸籍謄本に記載されている正確な氏名を記載
相続開始を知った日死亡日と混同、推定で記載実際に死亡の事実を知った具体的な日付を記載
放棄の理由「債務超過のため」など簡潔すぎる記載具体的な財産状況と放棄する理由を詳しく記載
申述人の住所住民票と異なる住所住民票上の正確な住所を記載

6.3.2 記載前の確認事項

申述書を記載する前に、以下の書類を手元に準備して正確な情報を確認してください。

  • 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
  • 申述人の戸籍謄本
  • 申述人の住民票
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票

6.3.3 提出前のチェックリスト

申述書を提出する前に、必ず以下の項目をチェックしてください。

  • 氏名、住所、生年月日に誤りがないか
  • 印鑑(認印可)が押印されているか
  • 収入印紙800円が貼付されているか
  • 必要書類がすべて揃っているか
  • 返信用封筒に切手が貼付され、住所・氏名が記載されているか

これらの注意点を踏まえて慎重に手続きを進めることで、相続放棄の申述が円滑に受理される可能性が高くなります。不明な点がある場合は、家庭裁判所の窓口で相談することも可能です。

7. 相続放棄が認められた後の手続き

家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、正式に相続人ではなくなります。しかし、相続放棄が完了した後にも重要な手続きがいくつか残っています。これらの手続きを適切に行うことで、債権者からの請求を法的に拒否できる根拠を確保し、今後のトラブルを防ぐことができます。

7.1 相続放棄申述受理通知書の受取り

相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、通常申述から1〜2週間程度で相続放棄申述受理通知書が郵送で届きます。この通知書は相続放棄が正式に認められたことを証明する重要な書類です。

受理通知書には以下の内容が記載されています:

記載項目内容
事件番号家庭裁判所が付与した管理番号
申述人氏名相続放棄を申述した本人の氏名
被相続人氏名亡くなった方の氏名
受理年月日相続放棄が正式に受理された日付

この通知書は大切に保管し、紛失しないよう注意してください。万が一紛失した場合は、後述する相続放棄申述受理証明書を取得することで代用できますが、手数料がかかります。

7.2 債権者への対応方法

相続放棄が受理された後も、被相続人の債権者から支払いを求められる場合があります。これは債権者が相続放棄の事実を知らないためです。このような場合の対応方法を理解しておくことが重要です。

債権者からの請求に対しては、相続放棄をした旨を明確に伝え、受理通知書のコピーを送付することで対応します。口頭だけでなく、書面での回答を行うことをお勧めします。

債権者への回答書面には以下の内容を記載します:

  • 相続放棄を行った事実
  • 家庭裁判所での受理年月日
  • 受理通知書のコピー添付
  • 法的に支払い義務がないことの説明

ただし、相続放棄後であっても相続財産管理人の選任が必要な場合があります。これは、相続人全員が相続放棄をした場合や、相続財産に不動産などの管理が必要な財産がある場合です。この手続きは別途家庭裁判所への申立てが必要になります。

7.3 相続放棄申述受理証明書の取得方法

相続放棄申述受理通知書とは別に、相続放棄申述受理証明書という公的な証明書を取得することができます。この証明書は、金融機関や不動産業者など、より確実な証明が必要な場合に活用します。

受理証明書の取得手続きは以下の通りです:

項目詳細
申請先相続放棄を受理した家庭裁判所
必要書類相続放棄申述受理証明申請書
手数料1通につき150円(収入印紙)
申請者相続放棄をした本人または利害関係人

申請書には以下の情報を記載する必要があります:

  • 相続放棄をした本人の氏名・住所
  • 被相続人の氏名・本籍・死亡年月日
  • 事件番号(受理通知書に記載)
  • 受理年月日
  • 証明書の使用目的

申請は郵送でも可能ですが、その場合は返信用封筒と切手を同封する必要があります。証明書は通常、申請から数日で発行されます。

また、相続放棄申述受理証明書は第三者でも正当な理由があれば取得可能です。例えば、債権者が相続放棄の事実を確認したい場合などに利用されます。ただし、申請理由を明記する必要があります。

これらの手続きを適切に行うことで、相続放棄の効力を確実に主張でき、将来的なトラブルを防ぐことができます。特に多額の債務がある相続の場合は、これらの書類を確実に保管し、必要に応じて活用することが重要です。

8. 自分で相続放棄手続きをする場合と弁護士に依頼する場合の比較

相続放棄の手続きを進める際、自分で行うか弁護士に依頼するかは重要な判断です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身の状況に最適な選択をすることが大切です。

8.1 自分で手続きするメリットとデメリット

8.1.1 自分で手続きするメリット

費用を大幅に節約できることが最大のメリットです。弁護士に依頼すると10万円から30万円程度かかるところ、自分で行えば数千円程度で済みます。

項目自分で手続き弁護士依頼
手続き費用約3,000円~5,000円100,000円~300,000円
所要期間1~2ヶ月1~2ヶ月
専門知識自分で調べる必要あり専門家が対応

また、手続きの流れを詳細に把握できるため、今後同様の法的手続きが必要になった際の経験として活用できます。手続きを自分で行うことで、相続法や家庭裁判所の仕組みについても理解が深まります。

8.1.2 自分で手続きするデメリット

書類作成や法的手続きに時間と労力がかかることが主なデメリットです。戸籍謄本の取得から申述書の作成、家庭裁判所への提出まで、すべて自分で行う必要があります。

特に以下の点で困難が生じる可能性があります:

  • 相続放棄申述書の記載方法が分からない
  • 必要書類の漏れや不備のリスク
  • 家庭裁判所からの照会書への適切な回答
  • 法律用語の理解不足による誤解

また、期限管理を自分で行う必要があり、3ヶ月の期限を過ぎてしまうリスクも存在します。

8.2 弁護士に依頼すべきケース

以下のような状況では、弁護士への依頼を検討することを強く推奨します。

8.2.1 複雑な相続関係がある場合

相続人が多数いる場合や、相続財産が複雑な場合は専門家の判断が必要です。特に以下のケースでは弁護士の助けが重要になります:

  • 被相続人に多額の借金があり、債権者との交渉が予想される
  • 相続人間で意見が対立している
  • 海外に財産がある
  • 事業を営んでいた場合の事業承継問題

8.2.2 期限が切迫している場合

相続開始から既に2ヶ月以上経過している場合は、時間的余裕がないため弁護士に依頼することが安全です。期限の計算を誤ったり、書類不備で再提出となったりすると、期限を過ぎてしまう危険性があります。

8.2.3 法的トラブルが予想される場合

債権者から既に督促を受けている場合や、相続財産の管理に問題がある場合は、法的な対応が必要になる可能性が高いため、弁護士への依頼が適切です。

8.3 司法書士などの専門家の活用方法

弁護士以外の専門家も相続放棄手続きのサポートを行っています。それぞれの特徴を理解し、適切に活用しましょう。

8.3.1 司法書士への依頼

司法書士は相続放棄の書類作成と提出代行が可能です。弁護士よりも費用が安く、5万円から15万円程度で依頼できます。

専門家対応可能業務費用目安
司法書士書類作成・提出代行50,000円~150,000円
行政書士書類作成のみ30,000円~80,000円
弁護士全面的なサポート・代理100,000円~300,000円

ただし、司法書士は法律相談や債権者との交渉はできないため、単純な相続放棄手続きに適していると考えられます。

8.3.2 行政書士への相談

行政書士は相続放棄申述書の作成を支援できますが、家庭裁判所への提出代行はできません。書類作成のサポートのみを求める場合に適しています。

8.3.3 専門家選択の判断基準

専門家への依頼を検討する際は、以下の基準で判断することをお勧めします:

  • 単純な手続きのみ:司法書士または自分で手続き
  • 法的問題が複雑:弁護士への依頼
  • 費用を抑えたい:行政書士のサポート+自分で提出
  • 時間がない:弁護士または司法書士への全面依頼

最終的には、自身の状況と予算を総合的に判断して決定することが重要です。不安がある場合は、まず専門家に相談して見積もりを取得し、自分で手続きする場合との比較検討を行いましょう。

9. まとめ

相続放棄の手続きは弁護士に依頼しなくても自分で完了させることができます。必要な費用は収入印紙800円と郵便切手、戸籍謄本の取得費用のみで、弁護士費用と比較すると大幅に節約できます。ただし、相続開始を知った日から3ヶ月以内という厳格な期限があるため、早めの対応が重要です。複雑な相続関係や大きな債務がある場合は専門家への相談も検討しましょう。まずは管轄の家庭裁判所を調べ、必要書類を準備して手続きを開始することをお勧めします。

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この記事を監修したのは…

野崎 智裕

さくら共同法律事務所 弁護士・弁理士

野崎 智裕(のざき あきひろ)

京都大学文学部人文学科行動・環境文化学系社会学専修卒業後、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻を経て
平成30年9月 司法試験合格
ミツカン創業家裁判やカルテル巡る関西電力株主訴訟などを担当。顧客の本来利益を追求する姿勢が顧客からの信頼を得ている。

サイトURL:https://www.sakuralaw.gr.jp/profile/nozaki/index.htm

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