相続税の基礎控除の改正で何が変わった?背景や改正後の影響を解説!

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遺産相続

相続税の基礎控除とは?相続税の非課税枠のことです!

相続税の基礎控除とは、相続税を計算する場合に被相続人(亡くなられた人)の全財産のうち相続税の課税対象となる財産の評価額から差し引くことが出来る金額のことをいいます。


これらの評価額が基礎控除額以下の場合は相続税はかからず、基礎控除額を超えた場合には超えた金額に対して相続税が課税されることになります。

例1)課税相続財産5,000万円 < 基礎控除8,000万円
 →相続税は課税されません。

例2)相続財産5,000万円 > 基礎控除4,800万円
 →5,000万円ー4,800万円=200万円に対して相続税がかかります。

相続税の基礎控除はいつ改正された?その背景とは?

相続税の基礎控除は平成27年(2015年)1月1日から改正されています。

もともと基礎控除の額は昭和の後半から平成の初期までの地価の上昇に合わせて上がっていました。相続税の役割には富の集中を排除し、国民間の経済的格差を是正する「富の再分配機能」がありましたが、その後のバブル崩壊により地価が大きく下がったにも関わらず、不景気の影響もあり、基礎控除を下げることによる課税強化をすることが厳しい状況で基礎控除の見直しが出来なかったため、富の再分配機能の低下がかねてより指摘されていました。

そのような中で、バブル崩壊直後よりは経済が持ち直してきた平成25年には経済の復興のほか、今後の高齢化の進行に伴い必要となる社会保障財源の確保のために、富の再分配機能を持つ相続税の役割についての見直しが行われることになり、基礎控除額が約20年ぶりに改正されることになりました。

しかし、バブル崩壊直後よりは経済が持ち直したとはいっても、リーマンショックや東日本大震災などの影響もあり、法人や個人の事業の利益からの税収である法人税や所得税での税収の増加はそれほど期待できない状況でした。
相続税は富の再分配という役割のほかに、被相続人の生前における所得を相続時に清算的に課税する所得課税の補完という役割も担っており、これらの社会的、時代的状況を踏まえ制度の抜本的な見直しの必要性から、一定の富裕層からの税収を確保して富の再分配を実施するために相続税の基礎控除額が見直されたという背景があります。


平成27年の改正で相続税の基礎控除額が縮小されたことに伴い、課税対象となる人はそれまでの4%から2倍の約8%に増加しました。これにより相続税は富裕層のみに対する税金ではなく、より広く国民に負担を求める身近な税金になったと考えられます。

相続税の基礎控除は改正前と何が違う?変化をチェック!

改正前後の比較です。

(改正前)
5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円)

(改正後)
3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

改正前後で基礎控除額が40%も減少となっています。

実例として父、母、子供2人の4人家族で父が亡くなったケースでは、法定相続人は3人(母、子供2人)となり、以下のようになります。

(改正前)
5,000万円+(3人×1,000万円)=8,000万円

(改正後)
3,000万円+(3人×600万円)=4,800万円

改正により、基礎控除額が3,200万円も下がっています。


つまり、自宅が少し広い土地であったり、市街地などで評価額が3,000万円くらいとなっていて、人生100年時代と言われる中で老後の資金として2,000万円の預貯金を残していた場合では全財産の評価額が5,000万円となり、改正後では相続税の課税対象になります。

また、現在は一人当たりの出生者数が2人に満たない状況です。一人っ子の場合は基礎控除額が4,200万円(※1)となり、2次相続(続いて配偶者が亡くなった場合)は基礎控除額が3,600万円(※2)となり、課税される可能性がかなり高くなっているといえます。

(参考)
※1:法定相続人は2人(母、子供1人) 3,000万円+(2人×600万円)=4,200万円
※2:法定相続人は1人(子供1人)   3,000万円+(1人×600万円)=3,600万円

相続税の基礎控除の改正後どのような影響があった?

改正前の平成26年と改正後の平成27年で比較すると、相続税の課税対象となった死亡者の数が56,239人から103,043人と倍近くまで増加しています。死亡者総数に対する割合では4.4%から8.0%となっています。

また、相続税を納めた相続人の数も133,310人から233,555人と10万人ほど増え、納付税額も1兆3,908億円から1兆8,116億円と4,200億円ほど増えています。今後、団塊の世代が70代後半に差し掛かってくることを考えると、しばらくは相続税の課税対象の人は増え続けることが想定されます。

基礎控除の引き下げにより、上記で述べた改正の背景である富裕層に対する課税強化は達成されたといえ、上記の種々の財源確保の目的の観点からはまだ十分に成果が出ているとは言えません。
そのため、今後は以下で紹介する暦年贈与の非課税枠の見直しや財産の持ち戻し期間の見直しが予定されています。

基礎控除改正後の基本的な相続対策としては上記の改正がされた場合においても、これまで行われてきた暦年贈与(毎年の贈与)の非課税枠である110万円以内の贈与を毎年実施することは引き続き有効といえます。また非課税枠の110万円は贈与する側(贈与者)ごとではなく、贈与をされる側(受贈者)ごとの限度額となるので、親から子だけではなく、孫など出来るだけ多くの親族に財産を分配しておくことが有効な相続対策となります。

他には暦年贈与の金額以上の贈与が出来るものとして「住宅取得等資金の贈与」「教育資金の贈与」などがあります。住宅取得等資金は最大1,000万円、教育資金は最大1,500万円までという大きな金額の贈与を行うことが出来ます。
ただしこれらには期限があり、住宅取得等資金は令和5年12月31日まで、教育資金は令和5年3月31日までです。

この他の対策としては養子縁組により法定相続人の数を増やして基礎控除を増やすという方法もあります。ただし、何人でも増やせるわけではなく、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとなります。
 

2022年の相続税に関する税法改正は?見送られた理由を解説

2022年は大幅な改正はなく、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税枠のみが改正されています。内容としては省エネ住宅等の非課税枠が1,500万円から1,000万円に、省エネ等住宅以外の住宅が1,000万円から500万円に引き下げられました。

また、民法の改正により成年年齢が引き下げられたことに伴い、受贈者の年齢要件が20歳以上から18歳以上に引き下げられています。

また、上記でも述べた通り以前から噂をされていた暦年贈与の非課税枠110万円の見直しと相続開始前3年分の持ち戻し期間(相続開始前3年以内に贈与した財産を相続財産に加算すること)については、令和6年1月以降の贈与については7年分に変更されることになりました。

つまりこの改正により、令和6年以降の贈与については相続開始時期により最大7年分が生前贈与加算の対象となるために注意が必要です。ただし延長した4~7年の期間については、その期間に贈与した財産額から100万円を控除して持ち戻すなど生前贈与加算の制度自体が大きく変更される予定です。


その他相続時精算課税制度の改正など、生前贈与による財産の移転の方法が今後大きく変わることが予想されますので、これから贈与による財産の承継を検討される方は制度の動向には注意してください。

相続税に関するおすすめの相談をご紹介!

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この記事を監修したのは…

八城 孝夫

代表税理士

八城 孝夫(やしろ たかお)

認定経営革新等支援機関、M&A支援機関、一般社団法人融資コンサルタント協会 認定コンサルタント。 青山学院大学大学院法学研究科修了。 事業承継対策、遺言・民事信託を活用した相続対策をはじめとした相続対策の企画立案など、おもに法人・相続領域の税務・コンサルタント業務に約20年従事。

サイトURL:https://www.y-cpta.jp/

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