相続税の延納とは?利用条件や手続き、担保の種類まで徹底解説

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遺産相続

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相続税の延納とは何か

相続税は、遺産を受け継いだ人が支払う税金です。この税金は、「相続が始まったことを知った日の翌日から10カ月以内」に申告し、現金で一括納付することが基本です。

しかし、相続税の金額が大きく、まとめて支払うのが難しい場合、「延納」という方法が認められることがあります。

延納と分納の違い

延納は、相続税を一度に払えないとき、支払いを分割することができる制度です。この場合、支払期間中に分けて納付する「分納」が可能になります。ただし、以下のような条件がある点に注意が必要です。

  • 不動産の割合:遺産の中で不動産が占める価額が一定割合以上であること。
  • 利子税:延納期間に応じて利息が加算される。

分納は、延納が認められた場合に、税金を分けて支払う方法です。たとえば、10年や20年といった期間にわたり、毎年一定額を納付します。ただし、利子税がかかるため、総支払額は一括払いより高くなることがあります。

延納が利用されるケース

延納制度は、主に以下のような状況で活用されています。

  • 不動産が財産の大半を占める場合
    相続財産の多くが不動産の場合、延納がよく利用されます。たとえば、大規模な土地を相続した場合、その評価額に基づく相続税が非常に高額になることがあります。しかし、不動産は現金化が難しいため、手元の現金だけでは税金を一括で納付できないことがあります。

このような場合、延納を利用すると、相続税を分割して支払うことが可能です。不動産が相続財産の一定割合以上を占めていれば、最長20年の分割納付が認められることもあります。ただし、延納期間中には利子税がかかるため、支払総額は増える点に注意が必要です。

  • 事業承継による相続税が発生した場合
    会社を経営していた親から事業を引き継ぐ際にも、延納制度は役立ちます。相続財産に会社の株式や事業用の不動産が含まれる場合、相続税の金額が大きくなることが一般的です。しかし、会社の資金を税金の支払いに充てると、事業運営に悪影響が出る可能性があります。

延納を利用すれば、株式や事業用資産を担保にすることで、税金を分割して支払うことができます。これにより、事業を継続しながら計画的に相続税を納付できるため、経営への影響を抑えることが可能です。

相続税延納の条件

相続税の延納は、次の条件にすべて合致している場合に認められます。

  • 相続税額が10万円を超えること
  • 金銭での一括納付が困難であること
  • 担保を提供すること
  • 必要書類を期限内に提出すること

それぞれについて詳しく解説します。

条件1:相続税額が10万円を超えること

延納を利用するためには、相続税額が10万円以上であることが必要です。この金額は、相続人それぞれの納税額で判定されます。

たとえば、相続人全員の相続税の合計が10万円を超えていても、個々の納税額が10万円以下であれば延納は利用できません。一方で、他の相続人の納税額が10万円以下でも、延納を希望する人の納税額が10万円を超えていれば、制度の利用が可能です。

この条件により、延納が適用されるのは、ある程度の税額負担がある相続人に限られることになります。

条件2:金銭での一括納付が困難であること

延納を利用するには、一括で相続税を現金で支払うのが難しい状況であることが条件です。この「困難さ」は、相続した財産と元々持っていた財産の両方を考慮して判断されます。

延納を申請する場合、分割して支払いたい金額は「支払いが難しい範囲内」でなければなりません。たとえば、すべての財産を納税に使ってしまうと、生活費や事業資金が足りなくなる人もいるでしょう。そこで、延納制度では、最低限の生活費や事業運転資金を手元に残しつつ、残りの財産で相続税を分割して支払うことが認められています。

条件3:担保を提供すること

延納を利用するには、相続税や利子税に見合う担保を用意する必要があります。ただし、延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以内の場合は担保が不要です。

延納は、納税予定のお金を国から一時的に「借りる」仕組みとも言えます。そのため、住宅ローンなどと同様に、国が返済の確実性を確認できる担保が求められます。

担保として認められる主な財産は以下のとおりです。

  • 土地
  • 国債や地方債
  • 税務署が確実と認めた社債やその他の有価証券
  • 建物、立木、登記された船舶(保険付き)
  • 鉄道財団や工場財団
  • 税務署長が確実と認めた保証人による保証

また、担保にできるのは相続人の持つ財産だけではありません。共同相続人や第三者が所有する財産を提供することも可能です。

条件4:必要書類を期限内に提出すること

延納を利用するためには、必要な書類をきちんと準備し、指定された期限までに提出しなければなりません。これらの書類には、担保に関する詳細な情報が含まれます。

書類提出の期限は、申告や通知の種類によって異なります。以下のいずれかが該当します。

  • 期限内申告の場合:相続税の申告期限(相続開始から10カ月以内)が提出期限となります。
  • 更正または決定通知が発せられた場合:通知が届いた日の翌日から1か月以内が提出期限です。
  • 期限後申告や修正申告の場合:申告書を提出した日が基準となり、その日が提出期限となります。

延納のメリットとデメリット

相続税の延納制度は、一時的な負担を軽減する効果的な手段ですが、利用には複雑な条件と手続きが伴います。不備があれば申請が却下される可能性もあるため、専門家に相談しながら進めるのが安心です。

【メリット】資金繰りの負担を軽減できる

延納の最大のメリットは、相続税を分割で支払える点です。これにより、一時的に多額の現金を用意する必要がなくなり、資金繰りの負担を大幅に軽減できます。特に、相続財産の多くが不動産や事業用資産など、すぐに現金化しにくい場合に、この制度は大きな助けとなります。

さらに、延納を利用することで、大切な資産を急いで売却する必要がなくなります。たとえば、家族の思い出が詰まった自宅や、長年受け継がれてきた事業をそのまま守りたい場合でも、売却せずに相続税を支払える可能性が高まります。このように、延納は相続人の希望を尊重しながら、納税を計画的に進められる大きなメリットを持っています。

また、延納期間中に相続資産の価値が上昇すれば、結果的に有利な条件で納税を終えられる場合もあります。不動産価格の上昇が見込まれる地域では、この点も延納の活用を検討する理由の一つになるでしょう。

【デメリット】利子税がかかる

延納を利用する際に注意したいのは、利子税が発生することです。延納期間中に支払う利子税は、相続税の分割払いに伴う追加費用となります。この利子税が積み重なると、最終的な納税額が増えてしまう点は見逃せません。

また、利子税の利率は場合によっては金融機関からの借入金利よりも高くなることがあります。そのため、延納を選ぶ前に、ほかの資金調達手段と比べて本当にお得かどうかをしっかり確認することが重要です。

【デメリット】担保にできない財産がある

延納を利用するには、担保を提供する必要があります。しかし、すべての財産が担保として認められるわけではありません。一部の財産は担保に適さないため、注意が必要です。

以下のような財産は担保に利用できません。

  • 法令で担保設定や処分が禁止されているもの
    例:保護区に指定されている土地や制限付きの財産。
  • 違法状態のある財産
    違法建築や不適切に利用されている土地などは担保として認められません。
  • 係争中の財産
    他の相続人と所有権を争っている場合など、法的なトラブルがあるものは不適格です。
  • 売却が難しいもの
    市場で売却できる見込みがない財産は、担保としての価値が低いと判断されます。
  • 共有財産の持分
    共有財産を担保にする場合、共有者全員が担保提供に同意しない限り利用できません。
  • 担保期間が延納期間より短いもの
    担保として設定される期間が延納期間より短い場合も認められません。
  • 同意が必要で同意が得られないもの
    第三者や法定代理人の同意が必要な財産で、その同意が得られない場合も不適格です。

これらの制約があるため、延納を申請する前に、自分の財産が担保として利用可能かどうかを確認することが重要です。不適格な財産しかない場合、延納の利用自体が難しくなる可能性があります。

【デメリット】条件が厳しい場合がある

延納を利用するためには、厳しい条件をクリアする必要があります。「相続財産に現金がない」や「納税資金が用意できない」といった理由だけでは認められません。税務署は、相続財産や相続人がもともと持っている預貯金などを総合的に審査します。そのため、簡単には利用できないことを理解しておきましょう。

延納を申請する際には、以下のような詳細な説明が求められます。

  • 財産状況の詳細な報告
    税務署に対し、相続で得た現金の金額や相続人が所有している預貯金を明確に示す必要があります。
  • 生活費や事業資金の計算
    生活費や事業の運転資金など、必要最低限の金額を差し引いた上で、「納税が難しい金額」を具体的に計算し、報告する必要があります。
  • 現金の利用優先
    相続人自身が持っている現金も、相続税の支払いに充てなければなりません。そのため、単に「現金が足りない」だけでは延納は認められません。

さらに、担保の提供や多くの審査項目をクリアする必要があるため、延納は「気軽に使える制度」ではありません。相続税の支払いを延期したいという単純な理由だけでは利用できないのが現実です。延納を検討する際には、条件を十分に確認し、準備を進めることが大切です。

【デメリット】借入の方が有利な場合もある

延納は相続税の納付を分割で行える便利な制度ですが、必ずしも最適な選択とは限りません。場合によっては、金融機関から借入れをして相続税を一括で納付した方が、負担を軽減できることがあります。特に、延納の手続きに時間がかかったり、利子税が高く設定されていたりする場合には、借入れを検討する価値があります。

金融機関の借入れには、いくつかのメリットがあります。たとえば、延納の利子税よりも金利が低い場合、総支払額を抑えられる可能性があります。また、借入れは延納よりも手続きが簡単で、担保や収入証明を用意すればスムーズに利用できることが多いです。さらに、返済期間や毎月の支払額が明確に決まるため、計画的な返済がしやすい点も利点です。

ただし、借入れを選ぶ際にはいくつか注意点があります。まず、金融機関ごとに金利や返済条件が異なるため、複数の選択肢を比較する必要があります。また、借入れが家計に与える影響をよく考え、無理のない範囲で返済できるかを確認することが重要です。さらに、家族とも十分に話し合い、生活費や将来の資金計画に支障が出ないかを検討することが欠かせません。

延納と借入れのどちらが良いかは、個々の財産状況や返済能力に大きく左右されます。それぞれのメリットとデメリットを理解し、自分や家族にとって最適な方法を選ぶことが大切です。事前に専門家に相談するのも有効な手段と言えるでしょう。

延納に必要な手続きと書類

相続税の延納制度を利用するには、定められた手続きを正確に進めることが重要です。さらに、必要書類を不備なく揃え、期限内に提出することが求められます。

延納手続きの流れ

まずは、延納手続きの流れを説明します。

1.延納申請書を用意する
まずは、延納申請書を用意します。この書類は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。「相続税延納申請書」という専用のページから取得してください。

2.必要事項を記入する
用意した申請書に必要事項を記入します。延納を希望する税額や、担保に関する情報など、記入内容に間違いがないよう確認しましょう。この記入が不十分だと申請が受理されない場合があります。

3.所轄の税務署に提出する
記入が終わったら、管轄の税務署に申請書を提出します。相続税の納付期限(相続が発生してから10カ月以内)までに必ず提出する必要があります。この期限を過ぎると申請は無効となるため、注意が必要です。

もし10カ月以内に申請が間に合わない場合でも、救済措置があります。「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出することで、提出期限を最大6カ月延長することが可能です。延長を希望する場合は、早めに税務署に相談してください。

必要書類一覧

ここでは、相続税の延納に必要な以下の書類について解説します。

  • 延納申請書
  • 金銭納付を困難とする理由書
  • 担保提供関係書類
  • その他の確約書類

延納申請書

相続税の延納を申請する際は、延納申請書に延納額やその内訳を正確に記載する必要があります。延納期間や利子率は、相続財産の中で不動産が占める割合によって決まります。この割合に応じて、延納条件が以下の3つに分かれます。

  • 不動産の割合が75%以上
  • 不動産の割合が50%以上75%未満
  • 不動産の割合が50%未満

区分が決まると、不動産に対応する延納額と動産に対応する延納額がそれぞれ算出されます。それに基づき、延納期間と利子率が設定されます。不動産に対応する延納期間は最大20年、動産の場合は最大10年です。

申請書には、これらの延納額を毎年どのように分割して支払うかも記載します。不動産の延納額は20年以内、動産の延納額は10年以内に収めるスケジュールを記載し、税務署へ提出します。正確な記入と分割計画が、申請の承認を得るために重要です。

金銭納付を困難とする理由書

相続税の延納や物納を申請するには、「金銭納付が困難である理由」を説明する書類の提出が必要です。この書類では、相続税を一括で支払うことが難しい状況を具体的に示します。記載内容は以下の項目に分かれています。

書類の最初に、自分が負担する相続税額を記入します。この金額(A欄)が、延納や物納を検討する際の基準となります。

続いて、納付期限までに準備できる現金の額(B欄)を計算します。この金額には、相続財産だけでなく、自身が所有する預金や換金しやすい資産も含める必要があります。ただし、生活費や葬儀費用など、最低限の出費は控除できます。これにより、支払い可能な現金額が具体的にわかります。

相続税総額(A欄)から用意できる現金額(B欄)を引いた金額が、延納可能な金額(C欄)として記載されます。この金額が、延納を利用する際の基準になります。

延納の支払い計画を立てる際は、自分の収入状況を考慮します(D欄)。たとえば、給与収入や不動産収入があれば、それをもとに税務署は「分割払いが可能」と判断することがあります。そのため、賃貸物件を相続した場合や安定した収入がある人は、延納を利用して分割で相続税を納付するのが一般的です。

担保提供関係書類

担保提供関係書類とは、相続税の延納に必要な担保財産に関連する書類のことです。担保とする財産の種類に応じて異なる書類を準備する必要があり、国税庁が提供する「担保提供関係書類チェックリスト」を参考にして確認することが大切です。

たとえば、土地を担保とする場合には、登録事項証明書(登記簿謄本)や固定資産税評価証明書が必要です。これらの書類は土地の所有者情報や評価額を示すもので、市区町村役場や法務局で取得できます。一方、建物を担保とする場合には建物の登録事項証明書、株式であれば保有を証明する書類などが必要になります。

その他の確約書類

そのほかにも、場合によっては不動産等の財産の明細書、担保目録などが必要になるので、不安な場合には国税庁に問い合わせてみるとよいでしょう。

延納可能な期間と利子税

ここでは、延納可能な期間と利子税について説明します。利子税の具体的な計算方法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

延納期間の上限

相続税を延納できる期間には上限があり、不動産の割合によってその長さが決まります。納税者が自由に期間を選ぶことはできず、法律で最短5年から最長20年と定められています。

不動産が相続財産の大部分を占める場合、延納期間は長くなります。たとえば、不動産の割合が75%以上の場合は最長20年まで延ばせますが、それ以下だと延納期間は短くなる仕組みです。このルールにより、現金を用意しづらい場合でも柔軟に対応できる一方で、不動産が少ない場合には期間が制限されます。

利子税の計算方法

利子税は、以下の表に従って計算します。

区分対象項目延納期間延納利子税割合(年割合)特例割合
不動産等の割合が75%以上(1)動産等にかかる延納相続税額10年5.4%0.6%
(2)不動産等にかかる延納相続税額((3)を除く)20年3.6%0.4%
(3)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額20年1.2%0.1%
不動産等の割合が50%以上75%未満(4)動産等にかかる延納相続税額10年5.4%0.6%
(5)不動産等にかかる延納相続税額((6)を除く)15年3.6%0.4%
(6)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額20年1.2%0.1%
不動産等の割合が50%未満(7)一般の延納相続税額((8)(9)(10)を除く)5年6.0%0.7%
(8)立木の割合が30%を超える場合の立木にかかる延納相続税額((10)を除く)5年4.8%0.5%
(9)特別緑地保全地区等内の土地にかかる延納相続税額5年4.2%0.5%
(10)森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木にかかる延納相続税額5年1.2%0.1%
※この表の「特例割合」は、令和5年1月1日時点の「延納特例基準割合」0.9%をもとに計算されています。そのため、「延納特例基準割合」に変更があると、「特例割合」も変わる可能性があります。延納を申請する際は、必ず所轄の税務署で最新の情報を確認してください。

特例基準割合と特例割合

相続税の延納において、利子税を計算するための基準となる「特例基準割合」と「特例割合」は、国が定める特殊な金利設定の仕組みです。これらの割合は、納税者の負担を公正にするために計算され、毎年変動します。

特例基準割合は、延納期間中に適用される基本的な利子率の元となる割合です。この割合は、銀行が新規に行う短期貸出の約定金利を基に計算されます。具体的には、延納期間が始まる年の2年前の10月から前年の9月までの間における月ごとの平均金利を合計し、12で割った値に年1%を加算したものです。

計算式は、以下のとおりです。
特例基準割合=平均金利(前年の10月から9月までの短期貸出金利の平均値)+1%

この割合は、毎年12月15日までに財務大臣が告示します。

特例割合は、実際に延納の利子税として適用される利率です。この割合は特例基準割合を元に設定されますが、国は特例基準割合が7.3%を下回る場合には以下の補正を行います。

補正の計算式は、以下のとおりです。
延納特例割合=納付すべき相続税額×(7.3%-特例基準割合)

この補正により、超低金利の影響を受けて特例基準割合が低くなりすぎる場合でも、一定の利率が確保される仕組みになっています。

特例基準割合と特例割合の違いをまとめると、以下のとおりです。

  • 特例基準割合:延納における基礎的な金利計算の元となる割合。
  • 特例割合:実際に延納税額に適用される補正後の利子税率。

具体例による利子税の計算

では、実際に具体例を用いて計算してみましょう。

相続人のAさんは、父親が遺した総額2億円の財産を相続しました。その内訳は、1億5,000万円の不動産(土地と建物)と5,000万円の現金・預貯金です。この相続により、Aさんには4,000万円の相続税が課されました。

しかし、Aさんは手元の現金では全額を一括で納付することが難しいため、延納制度を利用することにしました。不動産が財産の75%を占めているため、不動産部分については最長20年の延納が可能です。一方、現金に対応する税額については最長10年の延納期間が認められます。

  • 不動産部分の延納計算
    不動産にかかる相続税額は、全体の75%に当たる3,000万円です。この金額を20年間で分割して支払う場合、毎年の元本返済額は以下のとおりです。

毎年の元本返済額=3,000万円÷20年=150万円

さらに、初年度の利子額は、不動産部分の利子率3.6%を用いて計算されます。

利子額=3,000万円×3.6

したがって、初年度に支払う合計額は以下のとおりです:

初年度支払額=元本返済額+利子額=150万円+108万円=258万円

延納期間中の総利子額は、元本の減少に伴い少しずつ減りますが、概算として1,080万円(年間平均利子54万円×20年)と見積もられます。これにより、不動産部分の総支払額は以下のとおりです。

総支払額=元本+総利子額=3,000万円+1,080万円=4,080万円

  • 現金部分の延納計算
    現金にかかる相続税額は、全体の25%に当たる1,000万円です。この金額を10年間で分割して支払う場合、毎年の元本返済額は以下のとおりです。

毎年の元本返済額=1,000万円÷10年=100万円

初年度の利子額は、現金部分の利子率5.4%を用いて計算されます。

利子額=1,000万円×5.4

初年度に支払う合計額は以下のとおりです。

初年度支払額=元本返済額+利子額=100万円+54万円=154万円

現金部分の総利子額は、概算で270万円(年間平均利子27万円×10年)となります。これにより、現金部分の総支払額は以下のとおりです。

総支払額=元本+総利子額=1,000万円+270万円=1,270万円

以上から、総支払額は以下のとおりになります。

不動産部分:総支払額4,080万円(元本3,000万円+利子1,080万円)
現金部分:総支払額1,270万円(元本1,000万円+利子270万円)
合計:総支払額5,350万円

延納制度を利用することで、Aさんは相続した不動産を売却せずに相続税を計画的に支払うことができます。ただし、延納期間中に利子税が発生するため、最終的な支払額は元本よりも増える点に注意が必要です。このようなケースでは、延納と一括納付のどちらが有利かを慎重に検討することが大切です。

延納が認められない場合の対策

相続税の納付が延納では難しい、または延納自体が認められない場合には、別の方法を考える必要があります。以下は、主な解決策についての説明です。

物納への移行

延納ができない場合、物納制度を利用するのが一つの方法です。物納とは、相続税を現金ではなく、不動産や有価証券などの財産で納める制度です。この方法を利用するにはいくつかの条件があります。

  • 申請期限:相続税の申告期限から10年以内に申請する必要があります。
  • 対象となる税額:未払いの相続税に限り適用可能です。一方で、既に分納期限を過ぎた税額については物納に切り替えることはできません。

物納制度は、現金が不足している場合でも、相続した財産を売却せずに税金を納められる利点があります。ただし、提出する書類や手続きが複雑なため、事前の準備が重要です。

金融機関からの借り入れ

納税のための資金が足りない場合、金融機関からお金を借りるのも有効な方法です。特に、以下の点を検討しましょう。

  • 金利の比較
    借入を利用する場合、延納利息と比較して金利が低い場合があります。そのため、金融機関での借入を選ぶほうが負担が軽減されることもあります。
  • 納付期限の遵守
    納付期限を過ぎると延滞税が発生するため、借入を活用して期限内に支払うことで、追加負担を抑えられます。

借入を検討する際には、家族と相談したうえで無理のない返済計画を立てることが重要です。また、複数の金融機関の条件を比較して、最も有利な選択をしましょう。

専門家への相談の重要性

延納や物納、金融機関からの借入は、それぞれ条件や手続きが複雑です。そのため、税理士に相談することをおすすめします。専門家は、あなたの状況に合った最適な方法を提案してくれるだけでなく、必要な手続きもサポートしてくれます。

相続税の納付に行き詰まった場合でも、適切な対策を講じることで解決の糸口が見つかることが多いです。焦らず、専門家の助けを借りながら進めることが大切です。

延納における担保の取り扱い

相続税の延納を利用する際、適切な担保の提供が必要となります。担保として認められる財産には種類や条件があるため、事前に確認しておくことが重要です。

担保にできる財産の種類

延納の担保にできる財産は多岐にわたりますが、どの財産も一定の条件を満たしている必要があります。それぞれの財産について、具体的なポイントを見ていきましょう。

不動産

延納制度の担保で最も一般的な担保として利用されるのが不動産、特に土地です。

土地は評価額が高く、安定した資産とみなされるため、税務署から担保として認められやすい特徴があります。相続によって受け継いだ土地だけでなく、相続人がもともと所有していた土地も担保に提供することが可能です。

具体例としては、広い田畑や住宅用地、さらには市街地にある商業用地やビル用地などが挙げられます。ただし、担保として提供するにはいくつかの条件を満たす必要があります。たとえば、土地の所有権に問題がないことや、法的に売却可能な状態であることが求められます。

国債・地方債

延納制度を利用する際、担保として提供できる財産の一つが国債や地方債です。国債は国が発行し、地方債は地方公共団体が発行する債券で、これらをまとめて「公共債」と呼びます。公共債は安定した価値があり、税務署から担保として認められやすい特徴があります。

たとえば、相続人が所有している日本国債や地方公共団体が発行する地方債は、そのまま担保に利用できます。国や自治体が発行元であるため、信用度が高く、担保として適格と判断されやすいのです。

ただし、担保として提出する場合には、公共債の価値や証券の所有状況を証明する書類を揃える必要があります。公共債を担保として利用することで、不動産などの他の資産を担保にすることが難しい場合にも、延納制度を利用しやすくなる点がメリットです。

株式

延納制度の担保として、株式を提供することも可能です。ただし、担保として認められる株式にはいくつかの条件があります。たとえば、上場株式は市場での取引価格が明確であるため、担保として利用する際に問題がありません。

一方で、取引相場のない株式(非上場株式)を担保にする場合は、追加の条件を満たす必要があります。特に、相続財産の大部分が非上場株式であり、それ以外に適切な担保がない場合や、他の財産がすでに別の債務の担保に使われている場合に限られます。

担保にできない財産

延納で担保として利用できる財産には厳しい条件があり、基準を満たさないものは認められません。以下では具体例を挙げて解説します。

法令上担保権の設定が禁止されているもの

延納の担保として認められない財産には、法律で担保権の設定や処分が禁止されているものが含まれます。具体的には以下のケースがあります。

1.抵当権を設定できない不動産
不動産を担保にする場合、抵当権を設定して登記する必要があります。この手続きにより、国はその不動産に対する権利を第三者に主張できます。しかし、法律上抵当権の設定が認められていない不動産や処分が制限されている財産は、担保として使うことができません。

また、抵当権のない不動産は、所有者が自由に売却できるため、いつ手放されるかわからず、国にとって担保としての安全性が低いと判断されます。このため、こうした不動産は担保に適さないとされます。

2.担保制限のある国債
国債は一般的に担保として信頼性が高い資産ですが、一部の国債には制限があります。たとえば、遺族国庫債券などの特定の国債は、法律で担保提供が禁止されています。これらは担保として使用できないため、事前に確認が必要です。

違法建築や違法利用の土地

違法建築物や不適切に利用されている土地は、延納の担保として認められません。

たとえば、建蔽率(敷地に対する建物の占有面積の割合)や容積率(建物の総床面積の割合)が法律で定められた基準を超えている場合、このような建物や土地は担保として使えません。また、建築基準法に違反して建てられた建物や、無許可で増築された物件も同様です。

さらに、土地が不法占拠されている、あるいは用途が法律に違反している場合も問題となります。たとえば、住宅地として指定された土地に商業施設が無許可で建てられている場合などが該当します。

所有権の争いがあるもの

相続財産の中には、共同相続人の間で所有権について意見が分かれる場合があります。このような場合、その財産は担保として認められません。理由は、所有権がはっきりしていない財産に担保としての価値を見出せないからです。

たとえば、兄弟姉妹で土地や建物の相続について話し合いがまとまらず、「この土地の権利は自分のものだ」と主張する人が複数いる場合、その土地は担保にはできません。同様に、誰が所有者なのか裁判で争われている場合も担保として使えません。

担保価値の低いもの

担保として提供する財産は、相続税の延納額を十分に保証できる価値が必要です。そのため、担保価値が低いものは認められません。具体的には、担保の評価額から掛け目(リスクを考慮した割合)を差し引いた後の金額が、延納額と利子税3年分の合計を上回る必要があります。

たとえば、延納額が100万円、利子税の3年分が10万円であれば、担保としての財産価値は少なくとも110万円以上必要です。さらに、掛け目が8割(0.8)と設定されている場合、担保として認められる財産の評価額は110万円÷0.8=137.5万円以上でなければいけません。この計算は、延滞税や換金処分費用を含めた将来的なリスクを見越して行われます。

担保提供の手順

担保を提供する際には、財産の種類ごとに異なる手続きが必要です。以下に主な手順を具体的に説明します。

不動産の場合

不動産や工場財団などは、法務局で抵当権の設定登記を行うことで担保として提供できます。この手続きが完了すれば、不動産が正式に担保として認められます。

また、建物や船舶を担保にする場合には、火災保険を必ず付ける必要があります。これは、火事などで担保が失われた際に火災保険金を回収できるようにするためです。そのため、保険請求権に対して質権(保険金を優先して受け取る権利)を設定します。さらに、保険が満期になった場合には手続きを更新しなければならない点にも注意が必要です。

国債・地方債の場合

国債を担保にする場合は、必要事項を記載した請求書を日本銀行に提出します。一方、地方債を担保にする際は、登録機関に同様の請求書を提出します。この手続きにより、それぞれに担保権の登録が行われます。

株式の場合

株式を担保にするには、供託所に供託書を提出する必要があります。さらに、必要に応じて日本銀行に有価証券を添えて提出することで手続きが完了します。

延納申請時の注意点

延納の申請の際は、いくつか注意するポイントがあります。

延納申請の期限を守る

相続税の延納を利用するには、決められた期限内に申請を行う必要があります。この期限を過ぎてしまうと、延納の手続きを進めることができなくなります。

延納申請の期限は通常、相続税の申告期限と同じです。具体的には、相続開始を知った日の翌日から10か月以内となります。ただし、相続税の修正申告や期限後申告を行う場合は、その申告書を提出した日が延納申請の期限になります。

また、特殊なケースとして、物納申請が却下された場合があります。この場合、却下通知を受け取った日から20日以内に延納申請を行わなければなりません。この手続きを怠ると延納が認められなくなります。

申請書の提出先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。期限を守り、正確な手続きが行えるよう、早めの準備を心がけましょう。

申請却下を避けるためのポイント

申請が却下されないためには、以下の点に注意して準備を進めることが重要です。必ずチェックしましょう。

書類に不備がないようにする

税務署に提出する書類に不備があると、申請が却下される可能性があります。延納申請書や担保提供関係書類など、必要な書類を漏れなく正確に記入し、揃えておきましょう。特に、金額や日付の記入ミスがないよう注意が必要です。

延納条件を確実に満たす

先述した延納条件を満たすことも重要です。特に、「金銭での一括納付が困難」であることを示す理由書の内容は重要です。預貯金や流動資産の状況、生活費の確保など、納付が難しい具体的な理由を明確に記載しましょう。

適切な担保を提供する

担保として提供する財産が要件を満たしていない場合、延納は認められません。

担保に適した財産であること、担保価値が十分であることなど、担保として提供する財産が要件を満たしていない場合、申請が却下されることがあります。

税務署に事前相談する

延納の手続きは複雑です。税務署に事前に相談して、申請書類の内容や担保提供の適否について確認するのがおすすめです。担当者から具体的な指摘を受けることで、申請却下のリスクを減らせます。

延納を検討する際は専門家に相談を

相続税の延納制度は、納税者の負担を軽減する有効な手段ですが、厳しい条件と手続きが必要です。不備があれば申請が却下されることもあるため、税理士や弁護士などの専門家に相談することが重要です。。

税理士に相談するメリット

相続税の延納を利用するには、複雑な手続きや条件をクリアする必要があります。この過程で、税理士に相談することは多くのメリットをもたらします。税理士は税法の専門家として、延納条件を満たすための書類作成や、税務署との交渉をスムーズに進めるサポートをしてくれます。

また、税理士は延納制度以外にも利用できる相続税の軽減措置や特例について提案してくれる場合があります。こうしたアドバイスを受けることで、延納だけに頼らず、最適な方法を選択できるようになります。

さらに、相続財産の評価や税額計算は専門的な知識を要するため、誤りがあると延納申請が却下されるリスクがあります。税理士の協力を得ることで、正確な計算と安心感を得られます。
また、本サイト「円満相続ラボ」では、相続に関する基本知識やトラブル回避の方法をわかりやすくお伝えし、専門家によるサポートを提供しています。円満な相続を実現するための最適なご提案をいたします。
また、相続に関する疑問がある方には、相続診断士による無料相談窓口もご利用いただけます。どうぞお気軽にご相談ください。

相談時に確認すべきポイント

税理士に相談する際は、以下のポイントを明確にしておくと、より効果的です:

1.相続財産の全体像を共有:相続財産の内容(不動産、預貯金、株式など)を詳しく伝えましょう。これにより、担保として提供できる財産や延納可能な金額の判断がスムーズになります。

2.延納条件の確認:延納が可能かどうかの判断基準となる条件を、税理士と一緒に確認しましょう。特に「金銭での一括納付が困難」である理由や、その証明方法をしっかり相談します。

3.利子税の計算:延納期間中に発生する利子税についての見積もりを聞き、将来的な負担を把握しておきます。延納と借入のどちらが有利かも検討材料に加えられるでしょう。

4.申請手続きの流れ:延納申請の具体的なスケジュールや、必要書類の一覧を確認しておきます。税理士が手続きを代行する場合、その費用や必要なタイミングも話し合いましょう。

5.その他の相続税対策:延納が難しい場合の代替案として、物納や金融機関からの借入など、他の方法についても質問しておくと安心です。

【無料相談】相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

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この記事を書いたのは…

中澤 泉

弁護士・ライター

中澤 泉(なかざわ いずみ)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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