遺産放棄と相続放棄の違いとは?法的効果やメリット・デメリット、手続き方法や期限を解説

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遺産相続

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遺産放棄と相続放棄の基本概念

ここでは、遺産放棄と相続放棄の基本概念について解説します。

遺産放棄と相続放棄の意味の違い

遺産放棄とは、相続人の地位で「財産」のみを放棄することをいいます。一方、相続放棄は、相続人としての「地位」そのものを放棄することです。一見似ているようですが、その意味は大きく異なります。

相続放棄と遺産放棄の大きな違いは、放棄後も「相続人であり続けるかどうか」にあります。

相続放棄をすると、相続人としての権利や立場を完全に放棄するため、相続財産に関する一切の手続きや遺産分割協議には関与しなくて済みます。これにより、相続財産の名義変更などの手続きにも関わる必要はなくなります。

一方、遺産放棄は、相続人として遺産分割協議には参加するものの、遺産を受け取らないと決めることを指します。つまり、相続人としての地位は維持されるため、相続手続きには引き続き関わる必要があるのです。

混同しやすい「放棄」の定義

「相続放棄」の「放棄」という言葉は、日常的に使われる意味とは少し異なります。

遺産分割協議で財産を受け取らないと決めることは「遺産放棄」であり、これは「相続放棄」とは違います。正確に言うと、「相続放棄」とは、家庭裁判所に対して申述を行う手続きを指します。

このように、遺産放棄と相続放棄は異なるものであるため、それぞれの違いを理解しておくことが非常に重要です。

遺産放棄と相続放棄の法的効果の比較

遺産放棄と相続放棄の法定効果の違いは、①相続人の地位に与える影響、②債務の扱い、③法的手続きの必要性とその内容の3つです。それぞれについて解説していきます。

相続人の地位に与える影響

遺産放棄では、相続人としての立場は変わりません。つまり、相続人としての地位に影響はありません。しかし、相続放棄の場合は注意が必要です。

相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったとみなされます。そのため、もし他に同じ順位の相続人がいなければ、相続権は次の順位の人に移ってしまいます。

たとえば、子供が1人しかいない場合、その子供が相続放棄をすると、相続権は次の順位である直系尊属(親や祖父母)に移ります。そして、もしその直系尊属が既に亡くなっていれば、さらにその次の順位である兄弟姉妹に相続権が移ります。

このように、相続権が予期せず疎遠な親族にまで広がる可能性があり、相続人の確定が難しくなります。

債務の扱い:どちらが借金を引き継ぐか

相続放棄と遺産放棄の大きな違いは、「借金(債務)を引き継ぐかどうか」という点です。

相続放棄をすると、相続人としての立場そのものを放棄するため、財産だけでなく、借金などの債務も引き継ぎません。つまり、すべての相続財産や負債を受け取らないことになります。

一方、遺産放棄では相続人としての地位は維持されるため、遺産分割協議で財産を放棄しても、借金(債務)は相続することになります。また、協議で特定の相続人に債務を引き継がせると決めたとしても、その決定は相続人同士の合意に過ぎず、債権者に対しては通用しません。

このように、借金に関しては相続放棄と遺産放棄では大きな違いがあり、慎重に考えないと予期せぬトラブルに発展するおそれがあります。

法的手続きの必要性とその違い

遺産放棄は、相続人全員で行う遺産分割協議で「財産を相続しない」と意思表示し、その内容を遺産分割協議書にまとめることで完了します。

一方、相続放棄は相続人としての地位を失うため、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。さらに、相続放棄には期限があり、被相続人の死亡を知った時から3か月以内に手続きをしないと放棄できません。

遺産放棄は意思表示だけで済むのに対し、相続放棄は裁判所での手続きが必要なため、時間や手間がかかります。

遺産放棄と相続放棄の手続き方法

遺産放棄と相続放棄の手続きは、大幅に違います。それぞれについて詳しく解説します。

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄は、以下の流れで行います。

  1. 家庭裁判所への申述手続きを行う
  2. 相続放棄照会書・回答書を受け取り、回答書に必要事項を記入して返送する
  3. 相続放棄申述受理通知書を受け取る

家庭裁判所への申述手続き

相続放棄をするには、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出しなければ、法律上の効力が発生しません。

たとえば、あなたの父親が借金を残して亡くなった場合、債権者があなたに借金の返済を求めてきたとき、「相続放棄をしたから債務も相続していません」と主張しても、裁判所に正式な書類を提出していなければ、その主張は通りません。債権者からの請求を避けるためには、必ず家庭裁判所で手続きを行うことが重要です。

また、相続放棄の申述書を提出する家庭裁判所は、亡くなった父親の最後の住所地を管轄する裁判所になります。父親の住民票を確認して、どの住所が最後だったかを調べるとよいでしょう。

さらに、どの家庭裁判所が管轄するかは、裁判所のウェブサイトで確認できます。「相続の放棄の申述」ページにある「管轄裁判所を調べたい方はこちら」というリンクをクリックすれば、提出先の裁判所を簡単に見つけることができます。

必要書類と申述書類の提出

相続放棄の申述をするためには、必要書類と費用を「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に提出する必要があります。

主な必要書類は以下の通りです。

相続放棄の必要書類

配偶者が相続放棄する場合の必要書類

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

子またはその代襲者(孫、ひ孫等)が相続放棄する場合の必要書類

  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)が相続放棄する場合の必要書類

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)が相続放棄する場合の必要書類

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

相続放棄の費用

  • 収入印紙 800円
  • 連絡用の郵便切手 裁判所へ要問合せ

以上を揃えたら、家庭裁判所へ相続放棄の申述を行うことができます。資料集めや書類の書き方に不安がある場合には、社労士などの専門家に相談することをおすすめします。

照会書への対応とその重要性

相続放棄照会書は、申述人が本当に自分の意思で相続放棄を行っているかどうかを確認するために、家庭裁判所から送られる書類です。

相続放棄は、相続権を失う重大な決定です。そのため、照会書を使って、申述が本人の意思に基づいているか、また申述後に気持ちが変わっていないかを確認します。

家庭裁判所に相続放棄の申述を行うと、約10日後に「相続放棄照会書」と「相続放棄回答書」が自宅に送られてきます。家庭裁判所の職員名で送られてくる場合もあるので、郵便物を見逃さないよう注意しましょう。

相続放棄照会書は、決められた期限内に返送する必要があります。正確に回答を記入し、できるだけ早く家庭裁判所に返送してください。

もし、仕事の都合で長期出張などがあり、すぐに返送できない場合は、早めに家庭裁判所に連絡をしましょう。やむを得ない事情がある場合は、返送期限を過ぎても柔軟に対応してもらえることがありますので、相談してみてください。

遺産放棄の手続きの流れ

遺産放棄は、通常の相続手続きの中で進められます。基本的な流れは次のとおりです。

まず、亡くなった方(被相続人)が遺言書を残しているかどうかを確認します。次に、相続人や相続財産を調査し、その内容を把握します。その後、他の相続人と話し合い(遺産分割協議)を行い、最終的に遺産分割協議書を作成すれば手続きが完了します。

遺産分割協議書の作成と署名

相続人や相続財産の調査が終わったら、相続人全員で遺産分割協議を行います。

遺産放棄を希望する場合、この協議の場で「私は遺産を受け取りません」「私の取り分を○○さんに譲ります」といった意思を伝えます。

もし話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのが一般的です。遺産分割調停では、裁判官や調停委員が間に入り、話し合いの解決をサポートします。

それでも解決しない場合は、遺産分割審判に進み、裁判官が最終的な遺産分割の方法を決定します。

協議が難航する場合は、弁護士に相談してみるのも一つの方法です。弁護士に依頼すれば、交渉や手続きの代行をしてもらうこともできます。

遺産分割協議が終了したら、合意内容を記した「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員で署名、押印を行いましょう。

協議書の作成は義務ではありませんが、口約束だけでは後でトラブルになる可能性があるため、文書として残しておくことをおすすめします。

遺産放棄の際の留意点

遺産を放棄しても、相続放棄にはならないため、被相続人が抱えていた借金などを引き継ぐ可能性があります。もし被相続人に多額の借金がある場合は、遺産放棄ではなく、相続放棄を検討することをおすすめします。

さらに、遺産を放棄しても相続人としての地位は変わらないため、遺産分割が終わるまでは協議に参加する必要があります。

遺産放棄と相続放棄の期限と注意点

ここでは、遺産放棄と相続放棄のそれぞれの期限と注意点について解説します。

手続きの期限:いつまでに行うべきか

相続放棄の期限は、相続の開始を知ってから、つまり被相続人の死亡を知ってから3か月以内です。一方、遺産放棄には期限はありません。ただし、遺産分割協議後には遺産放棄ができなくなるので注意が必要です。

遺産放棄と相続放棄で期限が異なる理由

遺産放棄には期限がありません。遺産分割協議や相続分の譲渡には、基本的に決められた期限がないためです。

一方で、相続放棄には期限があり、自分が相続人であることを知ってから3か月以内に手続きを行う必要があります。相続放棄は相続人としての地位を失うため、家庭裁判所での手続きが必要です。このルールは民法第915条で定められています。

遺産放棄と相続放棄のメリット・デメリット

遺産放棄にも、相続放棄にも、メリット・デメリットがあります。それぞれを理解して、自分にとって一番いい選択をしてください。

相続放棄のメリットとリスク

相続放棄の場合、以下のようなメリット・リスクがあります。

借金を避けるための有効な手段

被相続人が借金を残していた場合、相続放棄をすれば、借金の返済を債権者から請求されることはありません。

ただし、相続放棄をしなかった他の相続人には、その借金の返済が求められることになります。

相続放棄は、借金を避けるための有効な手段です。

相続権の放棄によるリスク

相続放棄を行うには、必要な書類を準備し、家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

もし書類に不備があったり、期限を過ぎて手続きを行ったりすると、申し立てが却下されることがあります。そのため、最低限の知識を持って進めることが重要です。

また、特別な事情がない限り、相続放棄を一度行うと撤回や取り消しはできません。

相続放棄をすると、被相続人の財産を一切受け取れなくなります。遺産放棄とは異なり、今後、相続人としての権利を主張することもできなくなるという点に注意が必要です。

遺産放棄のメリットとリスク

遺産放棄のメリットとリスクは、以下の通りです。

一部財産の受け取りを希望する場合の選択肢

遺産放棄とは、特定の遺産を受け取らないという意味であり、他の遺産については相続する権利が残ります。

また、遺産放棄をした後でも、新たな遺産が見つかった場合には、相続人としてその権利を主張することが可能です。

債務の引き継ぎに関する注意点

被相続人に借金などの負債がある場合、債権者は相続人に対して返済を求めてきます。被相続人の債務は相続人に引き継がれるためです。

遺産放棄をしても、相続人としての立場は変わらないため、債権者は遺産放棄をした人にも返済を請求することができます。たとえ「遺産は放棄した」と伝えても、請求が止まることはありません。

借金の請求を確実に止めるためには、相続放棄を行う必要があります。

ケース別の選択基準

相続放棄を選ぶべき状況、遺産放棄を選ぶべき状況の例をいくつかあげてみました。参考になれば幸いです。

相続放棄を選ぶべき状況

以下のような状況である場合は、相続放棄を選択することをおすすめします。

負債が財産を上回る場合

負債が財産を上回る場合には、相続放棄をおすすめします。

相続放棄をすると、被相続人の財産も借金も一切引き継がないことになります。

もし被相続人に多額の借金があった場合、相続放棄をすればその返済義務から免れることができます。

「財産や負債の正確な額がわからない」という場合には、相続放棄も一つの選択肢ですが、限定承認という手続きもおすすめです。限定承認とは、プラスの財産がある範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。

相続トラブルを避けたい場合

相続トラブルを避けたい場合には、相続放棄をおすすめします。

相続人同士の関係が悪い場合、遺産の分け方でトラブルになることがあります。誰も欲しくない遺産があると、相続人同士で押し付け合いが起こることも少なくありません。

しかし、相続放棄をすれば、こうした面倒なやり取りに参加する必要はなくなります。「相続争いに巻き込まれたくない」という方には、相続放棄が有効な選択肢です。

他の相続人に権利を譲りたい場合

他の相続人に権利を譲りたい場合には、相続放棄をおすすめします。

特定の相続人に遺産を集中させたい場合、他の相続人が相続放棄をすることで、正式に相続権が移り、権利に関するトラブルを防ぐことができます。

遺産放棄でも、自分の相続分を他の相続人に譲ることは可能ですが、相続放棄のように正式に相続権が移るわけではありません。そのため、後で考えが変わり、自分の取り分を主張しようとすると、トラブルの原因になることがあります。

遺産放棄を選ぶべき状況

以下のような状況である場合は、遺産放棄を選択することをおすすめします。

一部の財産のみを受け取りたい場合

一部の財産の身を受け取りたい場合には、遺産放棄をおすすめします。

遺産放棄では、どの遺産を放棄するか選ぶことができます。たとえば、「不動産は放棄するが、現金だけは相続する」といったように、一部の財産だけを受け取ることが可能です。

一方で、相続放棄の場合はすべての遺産を放棄しなければなりません。

もし、相続したい財産がある場合は、遺産放棄を選ぶことをおすすめします。

相続放棄の手続きを行いたくない場合

遺産を放棄する場合は、特に面倒な手続きは必要なく、他の相続人に「遺産を相続しない」と伝えるだけで済みます。被相続人に借金がなく、債権者からの請求の心配がない場合は、この方法が手軽でスムーズに進むでしょう。

一方、相続放棄を選ぶ場合は、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。状況によっては必要な書類や費用が異なるため、場合によっては弁護士に相談することが求められることもあります。

専門家への相談の必要性

困ったときは、弁護士に相談することも一つの手段です。

どちらの手続きを選ぶべきか迷った時

財産放棄か相続放棄のどちらを選ぶかは、それぞれの法的な意味やメリット・デメリットをよく理解した上で判断することが大切です。

どちらの手続きを選ぶべきか迷った場合には、相続のプロである弁護士に一度相談してみましょう。

弁護士や専門家に相談するタイミングとメリット

遺産放棄には特に期限はありませんが、相続放棄は相続が始まったことを知った日から3カ月以内に手続きを行う必要があります。どちらの方法を選ぶべきか迷ったり、わからない点がある場合は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談すれば、あなたにとって最適な手続きをアドバイスしてくれるだけでなく、裁判所での手続きや必要な書類の準備もサポートしてもらえます。

また、「円満相続ラボ」では、相続に関する基本知識やトラブル回避の方法などをわかりやすく紹介し、専門家によるサポートを行っています。

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この記事を書いたのは…

中澤 泉

弁護士・ライター

中澤 泉(なかざわ いずみ)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。
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