借地権の相続放棄はできる?手順やメリット・デメリットをご紹介
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借地権って何?相続放棄は可能なのかチェック
借地権とは土地の持ち主(地主)から土地を借りる権利のことです。地主から借りた土地に建物を建てると、土地の権利は地主にあるものの、建物の権利は土地を借りた側にあります。
ただし、借りた側は建物を自由に売却したり建て替えたりすることができません。建物の売却や建物の建て替えには地主の許可や承諾が必要になります。
このようにやや制約はあるものの、他人の土地に建物を建てて所有できる権利を持つ借地権は経済的な価値が認められるため、相続の際は遺産として相続人が引き継ぐことになります。
ただし、借地権を有していた故人(被相続人)から必ずしも相続する必要はなく、他の金融資産や不動産資産と同様に「相続放棄」することが可能です。
そもそも借地権の相続放棄を考える理由とは?
相続人が借地権を相続放棄したい理由は、大きく分けて次の2つが挙げられます。
税金が発生したり加算されたりすることがあるため
借地権は遺産の一つとみなされるので相続税の課税対象となります。立地条件の良い借地ほど相続税評価額が上がります。
そのため、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の金額を超えてしまい、相続税が課される可能性が高くなります。
また、借地の場合は、土地の固定資産税・都市計画税は地主が負担するため掛かりませんが、建物の固定資産税・都市計画税はかかってきます。
そのまま相続してしまうと、これらの税金が負担となってしまうため注意が必要です。
建物を維持・管理するための費用等がかかるため
借地契約では契約時に権利金を支払い、地代は毎月支払う必要があります。更に建物の管理やメンテナンスなどの維持費がかかり、建物を解体する場合、その費用も借地権を有する人が負担しなければいけなくなります。
相続時、被相続人の建物・借地権を誰が相続するか話し合う際、地代や維持・管理費等の重い負担を理由に引き継ぐ者が決まらず、揉めてしまうおそれもあります。
借地権を相続放棄する手順や必要書類をご紹介!
相続放棄を行うには、故人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ申述する必要があります。これは相続開始を知ってから3カ月以内に行う必要があります。
相続放棄の流れは次の通りです。
1.家庭裁判所へ必要書類を提出
2.提出後、約2週間で家庭裁判所から照会書が届く
3.照会書の質問事項に回答し家庭裁判所へ返送
4.家庭裁判所が照会書等をもとに審理
5.家庭裁判所から手続き完了の通知である「相続放棄申述受理通知書」が届く
必要書類を提出してから相続放棄申述受理通知書が届くまで、1か月~2か月程度かかります。
相続放棄の手続きを行う際は次の書類を準備する必要があります。
・相続放棄申述書(800円):家庭裁判所の窓口等で取得
・被相続人の住民票の除票(市区町村役場で取得)または戸籍附票(本籍地の市区町村役場で取得)
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本(750円):配偶者が相続放棄する場合、被相続人の本籍地の市区町村役場で取得
・申述人の戸籍謄本(450円):申述人の本籍地の市区町村役場で取得
・収入印紙800円分:郵便局等で取得
必要に応じて、家庭裁判所から追加の書類を要求される場合があります。
借地権を相続放棄するメリット・デメリットを解説!
相続人が借地権を相続放棄した場合のメリットとデメリットは次の通りです。
相続放棄した場合のメリット
主に税金や費用の面で重い負担がかからなくなります。
相続人が借地権を相続放棄した場合、被相続人が地主に支払っていた地代や契約更新料はかかりません。
また、相続放棄により借地権・土地上の建物に対する権利を失うため、管理費・維持費はもちろん、更地にして地主へ返す必要がありません。そのため、建物の解体費用も不要です。
その他、相続放棄を行えば相続人ではなくなるので、相続税の支払い義務を免れることになります。
相続放棄した場合のデメリット
家庭裁判所から借地権の相続放棄が認められた場合、被相続人の金融資産(例:預金・現金等)、不動産資産(土地や建物)等のプラスになる財産も全て相続できません。
例えば相続放棄はするが、被相続人の金融資産だけ相続したいという希望は認められません。
また、自身が相続放棄した場合は次順位の親族が相続人となります。例えば、被相続人の配偶者が既に亡くなり、自身が被相続人の一人息子(または娘)だった場合、第1順位は被相続人の子である自分です。
しかし、自身が相続放棄し、被相続人の親が存命の場合は、被相続人の親が相続人となります。
次順位となる相続人に相談せず相続放棄すれば、相続の順位が繰り上がった相続人は予期せぬ事態に困惑し、相続放棄した本人と相続人との間で、トラブルに発展するリスクもあります。
借地権を相続放棄する前に!覚えておきたい注意点
借地権を相続放棄する場合には、事前に確認しておくべき点を把握し、慎重な対応が求められます。
相続放棄する前に注意すべき点
家庭裁判所から相続放棄が認められると、相続放棄した人は全ての相続権を失うことになります。相続放棄した人が他の遺産を受け取った場合、単純承認したとみなされ、相続放棄が無効となってしまいます。
単純承認したとみなされるケースは、借地権のある土地上の建物を売却する他、建物を解体し更地として地主へ返還する行為も該当します。
そのため、たとえ地主に迷惑がかかることを懸念し、建物を解体した場合でも相続放棄できなくなってしまうので注意が必要です。
ただし、建物をそのまま放置して良いわけではなく、他に相続人がいないならば「相続財産管理人」を選任するまで、相続放棄した人が遺産を管理しなければなりません。
相続財産管理人は財産を適切に管理・維持したりする作業等を行う人のことです。(※相続財産管理人の選任方法に関しては後述)
選任方法は、自身が家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立をするか、または地主から選任してもらうこともできます。
相続財産管理人の選任を申し立てた場合、高額な予納金(100万円程度)が必要となるケースもあります。選任の場合は地主とどちらが申立をするか、よく話し合った方が良いでしょう。
また、3カ月以内に相続放棄しなかった場合も単純承認したとみなされます。相続放棄の手続は、相続の事実を知った日から3カ月以内にするという期限があります(民法915条)。
もし手続きが期限以内に間に合わない場合は、期間の延長申し立てを行うことも可能です。
借地権を相続放棄する前に検討する活用法
相続を放棄する前に、自身で賃貸に転用したり、売買仲介で売却したりできないかを検討してみましょう。
借地権の譲渡
相続した借地権を他の人に譲渡することができます。これにより、借地権の所有権を他者に移転し、所有者としての権利と義務を放棄することができます。
ただし、借地契約書や借地権の所在地の地方自治体の条例など、特定の要件を満たす必要があります。
借地権の売却
相続した借地権を市場で販売することもできます。これにより、借地権を売却し、金銭的な利益を得ることができます。ただし、借地権の価値を正確に評価する必要があります。
借地権の賃貸
相続した借地権を賃貸することもできます。これにより、借地権を賃借人に貸し出し、定期的な収入を得ることができます。ただし、賃借契約の条件や借地権の管理などについて合意する必要があります。
いずれも地主の承諾は必要ですが、当該建物の立地によっては大きな収益を得られるケースもあります。
なお、借地権の売却等について地主の承諾を取り付けるとき、譲渡承諾料や建替え承諾料といったお金を地主に支払うケースが多いです。地主にこれら費用の料金体系を確認し相談しましょう。
また、地主に借地権を買い取ってもらう方法や、地主と協力して当該土地・建物を一緒に売却することも可能です。もちろん、これらの場合にも地主の同意は必須ですが、渡承諾料等の支払いは必要ありません。
借地を相続放棄された!地主のとるべき対処法とは
地主側からすれば、相続放棄されて相続人がいなくなれば、地代を請求する者がいなくなり、建物は無人のまま放置され、困惑する事態に陥ってしまうでしょう。ここでは、その場合の対処法を解説します。
地主でも相続財産管理人の選任が可能
被相続人の遺産を引き継ぐべき人たちが、亡くなったり相続放棄をしたりして、相続人が誰もいなくなる事態が想定されます。
これでは、借地権を設定して建てた建物は放置され、適切な管理等が滞る恐れもあります。
もしも相続放棄をした人が存命ならば「相続財産管理人」を選任するようお願いすることができます。
しかし、相続放棄をした人が、高額な予納金の支払いに抵抗を感じ、なかなか申立をしない場合は、地主から相続財産管理人の選任申立が可能です。
相続財産管理人の選任方法
相続財産管理人は、相続財産の調査・管理を行い、財産の換価等を担う人のことです。故人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立て、選任してもらいます。一般的に、その地域の弁護士が担当することになります。
選任の流れは次の通りです。
1.必要書類の準備
2.利害関係者(地主等)が家庭裁判所へ相続財産管理人の選任手続きを申し立てる
3.家庭裁判所の審判
4.相続財産管理人の選任
主な必要書類は次の通りです。
・相続財産管理人選任の申立書(800円分の収入印紙を貼付)
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本:ケースによっては被相続人の尊属(親等)、卑属(子・孫等)、兄弟姉妹等の書類も必要
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申立人と被相続人との利害関係を証明する資料:借地権の場合は借地権の事実が記載された土地の登記簿謄本等
・相続人全員の相続放棄申述受理証明書 等
相続放棄をした人と協力しながら書類を収集する必要があります。その他、相続財産管理人の報酬となる予納金も準備しなければなりません。金額の目安はケースバイケースですが、10万円~100万円程度かかりますので、越えなければいけないハードルはかなり高いと言えます。
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この記事を監修したのは…
株式会社プロサーチ 代表取締役
松尾 企晴(まつお きはる)
「不動産を持っていて相続に悩む方の問題解決」を専門とするプロサーチ株式会社代表取締役。家族信託、
アパートなどの不動産相続対策など幅広いジャンルに精通しこれまで5,000人以上の悩みや不安を解決。
『話をじっくり聴く』、『お客様のありたい姿を引き出す』という提案ありきではない姿勢に定評がある。